罠師の特別なところ
[健康]の項目で、僕は自分自身の大きな問題点に気が付いて、どうでも良いや、というような投げやりな気分で見始めていた、今回の自分のことを見ることだが、そんな気分をあっさりと忘れて、もっと問題があるかも知れないと思って、真剣に見るようになった。
きちんと最初から見ていく。
[名前] ナルヒト
ここは変わらない、でもその解説は壊れていた。
自分で名乗った名前、この世界の親が付けた名前ではない、元の・・・・
元の辺りから読むこと(?)が出来ない。
頭の中の霧の中のことみたいに、霧に隠されてしまっている感じ。
[家名] クロキ
この世界の親の家名ではない、元の・・・・
こちらも同じ感じで、途中から霧に隠されている。
[種族] 人間
人間であることは確かだが・・・・
こちらも気になるけど途中で消えている。 何なんだ、僕は人間だけど何か違うというのか?
[年齢] 7
正真正銘の年齢だが、・・・・
何なんだよ、みんな付け足しがある感じになっている。
[性別] 男
良かった、これは何も変な解説が出てこなかった。
そして最後が[職業]だ。
これに関しては少し説明があって欲しい。
神父様からは「村人」って、言われたのだけど、僕が自分で見ているのは罠師になっている。
なんでそういう食い違いがあるのかを知りたいと思うんだ。
[職業] 罠師
ここは当然だけど変わっていない。
罠師の解説を知りたいと思って、そこに意識を集中する。
罠師
一般的には罠を仕掛けて獲物を狩る人、罠を仕掛ける人。
ただし、ここでは、本来の職業がこの世にはなかったので、便宜的に付けられた。
その為、普通の罠師とは違いがある。
罠師の特徴としては、罠によって獲物を捕まえると、その時点で経験値が、討伐した時の半分入る。
その後、討伐すれば、その経験値もちゃんと入る。
つまり罠師が罠によって獲物を狩ると、普通に討伐した場合の1.5倍の経験値が入る事になる。
そして、特殊なこととしては・・・・
また、単純な罠師が経験が入るのは、狩猟対象の動物とモンスターだが、・・・・
・・・・・・
「うわっ」
急に長文が頭の中に溢れたので、驚いてしまった。
少し落ち着いて集中してみると、そのほとんどがやはり霧の中で分からない。
それでも、分かったこともあった、と僕は思って興奮した。
[職業] 罠師
となっているけど、本当は何か違うもので、便宜的に罠師になっているのか。
もしかすると、そんな風だから、神父様は「村人」って言ってくれたのかも知れないな、と僕は思った。
きっと神父様は、そんな訳の分からないことが[職業]に書いてあると、本当のことを言うと僕がショックを受けるかも知れないと思って、それで善意で「村人」と言ってくれたのかも知れないと僕は思った。
この部分に関しては、僕は簡単に割り切ってしまうことが出来た。
だって、何だか分からないモノについて考えても、何か分かる訳がないのだから。
問題は次の部分だ。
というか、次の部分に僕は大興奮してしまった。
罠師って、自分で討伐しないでも、罠を作ってそれで捕まえたり討伐すれば、それで経験値が入ってくるのだ。
それなら罠を作って、自分は安全な場所で結果をのんびりと待っていれば良いだけだ。
スライムを27匹とか81匹って、27匹はともかくとして、81匹なんてもう無理と、諦めかけていた。
だってその次はその増え方が確かだとすると243匹だよ。
もう絶対無理っていう気分だった。
でも、だよ、自分が直接討伐しなくて良くて、罠でスライム討伐が出来たらだけど、それなら勝手に経験値が増える訳で、可能な気がするんだよな。
それに1.5倍だよ。 2匹討伐すれば、3匹分の経験値が入ってくるんだから、それだったら余計に出来そうな気がしてくる。
ということを考えてみると、僕は今度は弱いスライムだと27匹討伐しないと、レベルが上がらないらしいのだけど、罠によってスライムを討伐すれば18匹で済むということだ。
その上、実際に僕が戦って討伐しなくても、罠によってスライムが討伐されたら、勝手に経験値が入ってくるということだ。
もう僕は頭をフル回転させて、スライムを討伐するための罠を考え始めてしまった。
あまりに熱中して考えて、何だかまた熱を出してしまいそうな感じになって、これではいけない冷静になれ、と自分を叱った。
僕はもう少し、罠師の説明を考えてみた。
罠師の解説には、討伐の対象は獲物となっているだけで、何もモンスターに限ってはいないことに気がついた。
これはもしかしたら使えるのではないだろうか。
僕がそんなことを考えたというか、気づいたのは、さっき[健康]のところの解説に、栄養が足りていないという事柄を見たからだ。
孤児院の質素な食事を考えると、栄養が足りていないのは当然のことのように僕には思えた。
きっと一番足りていない栄養素はタンパク質だろうと思う。
孤児院の食事では、肉なんて滅多に出てくることはないからだ。
その事が頭にあったので、罠を仕掛けるということから、魚を獲る罠を仕掛けたらどうだろうかと頭に浮かんだのだ。
川は少し考えてしまう場所だ。
スライムだって、角ウサギだって、モンスターではあるけれど、きっと生き物であることには違いはないのだろう。
やはり水は必要らしくて、どちらも時々はというより、結構頻繁に川縁には多く見つけるというか、見かけることが多い。
僕は割って形を整えた石などを入れておく袋を腰に着けているけど、その袋を作る時に川に行った。
蔓の繊維を、蔓を石で叩いて潰してしなやかにして、長い繊維の部分だけにして、それを撚ったり編んだりして作ったのだけど、その過程で叩いた蔓を水で洗い流す必要があったからだ。
とはいえ、集まっているスライムに襲われるのは嫌だから、離れた場所から、スライムがいないで、自分が行ける場所がないか探した。
そうして観察しているうちに、僕はスライムが水辺に近づきはするけれど、水の中には決して入らないことに気がついた。
きっとスライムは、水はやっぱり必要だけど、大量の水は苦手にしているのではないかと、僕は考えた。
僕はスライムが居ない水辺の隙間を見つけると、そこから川の中にバシャバシャと入って行って、小さな中洲でゆっくり作業をした。
思った通り、スライムは川の中の小さな中洲に居る僕には近づいて来ることはなかったのだ。
そんな経験のあった僕は考えた。
「そうだ、最初からスライムを討伐しなくても、罠を仕掛けて獲物を獲れば良いのだったら、魚を捕ろう。
魚を獲って、それを焼いて食べれば、栄養不足もある程度解決するだろうから、一石二鳥だ」
僕はその自分の名案に満足して、気持ち良く眠りについた。
何故だか分からないけど、魚を獲る罠なんて、僕にはいくつもの罠が、簡単なのから何人もで作るような大掛かりな物まで、頭の中にすぐ浮かんで来て、作ることに何の問題も感じなかった。
それから、獲った魚を、火を起こして焼いて食べることも簡単に出来ると思った。
何も問題を感じないので、眠ろうと思った時にはあっさりと眠ってしまった。
次の日、僕はいつものように大急ぎで柴刈りを終えると、魚を獲るための罠の製作に掛かった。
1人で作って設置するのだからと思って、竹を伐って、それを細い棒状にして、ごく簡単な籠の様な物を作ることにした。
その形と、魚がそこに入ったら出れなくなる仕掛けは、何故か頭の中に浮かんできて、どうすれば良いか分かっている。
とはいっても、1日で簡単に作れる訳がない。
その日は竹を切って、ある程度細い棒状にするだけで終わってしまった。
2日目に、その竹の細い棒を編むための蔓を見つけることから始めたので、終わるかどうか心配だったのだけど、簡単に都合の良い蔓を見つける事が出来たので、魚を獲るための簡単な罠が完成した。
3日目、僕は罠を川の中に設置しようと思って、罠の中に入れておく、魚を呼び寄せるための餌のことを全く考えていなかったことに気がついた。
どうしようかと思ったのだけど、魚の餌といったら、地中のミミズとかだよなと考えた。
あと考えつくのは、河原石の裏にいる虫とかだけど、スライムが近くに居るかも知れない場所で、そんなのを探したくない。
僕は林の土の中にいるミミズを探そうと思って、どこにいるかなと考えながら地面に意識を向けた。
すると、都合の良い石を探し出せるように、土の中の虫も意識すればどこに居るかが認識できることに気がついた。
それも最初は自分の足が触れている部分から、ほんの少しの部分だけしか感じられなかったのだが、そしてそれは石探しの時に慣れていた距離なのだが、餌を探しているうちに感じられる距離がすぐにどんどん長くなっていって、手を目一杯広げた距離、つまり1mくらいは感じられるようになった。
そうなると餌の虫を捕るのなんて簡単だ。
僕はミミズの他に、甲虫の幼虫、セミの幼虫なんてのもすぐに捕まえた。
僕は捕まえた虫を竹で作った串に刺して、罠の中に入れた。
そうして魚獲り用の罠を、スライムの隙間から川に入って、設置して、ついでに川の中の石も少し動かして、罠が流されないように備えてもおいた。
初めて仕掛けた罠に獲物が入るだろうかと、ウキウキしながら孤児院に戻る途中で、さっき距離が伸びたのは虫だけなのかなと石を意識したら、やっぱり石も感じられる距離が伸びていた。
「もしかすると、これが空間認識の数字が上がった結果なのかな」
そんなことも少し考えたのだけど、すぐに頭の中は明日の罠の成果のことばかりになってしまった。
一方では、そんなに都合良く魚だって獲れないかも知れないぞ、と忠告してくる自分もいるのだけど、やはりそこはもう都合良く獲れてしまった時のことばかり考えてしまうのだ。
「ナリート、何をウキウキソワソワしているの?
最近のナリートは、暗くなったり、明るくなったり、今みたいにウキウキしたり、色々と忙しすぎる」
僕はルーミエに、そんな風に言われてしまった。
確かに最近の僕は、レベルが4に上がる前から、周りから見たら気分の浮き沈みが激しく見えるだろう。
それは僕にしてみれば、当然そうなる理由があるのだけど、それを周りは知らない訳だから何をしているのだと疑問に思ってしまうのかも知れない。
ちょっと気をつけないといけないな、と僕は反省した。
「それでね、ナリート。
ねえ、ナリート、ちゃんとあたしの言うこと聞いている?」
「うん、もちろん聞いているよ」
僕は軽く聞き流していたのをルーミエに見破られて、文句を言われた。
「ナリート、ちゃんと覚えている?
シスターに許してもらって、あたしがナリートと外に出るのって、明後日だよ」
「あ、そうだったっけか、もう明後日か」
「ほら、やっぱり忘れていた」
「そんなことないよ」
僕はルーミエと外に行く目的を思い出して、少しだけ予防線を張らないといけないと思った。
「ルーミエ、明後日外に行ったからといって、明後日すぐに袋が作れる訳じゃないからね。
ルーミエは材料を僕が準備しておくと言ったら、材料を作るところから自分でするって言ったんだからね。
僕は教えたり、少しは手伝うけど、ルーミエが自分でやるというのだから、それだと明後日1日では袋は出来上がらないからね」
「えっ、そうなの、それじゃあ困ったな。 出来ると思ったのに。
えーと、だとしたらやっぱり」
「今から材料を準備しといて、というのは無しだからね。
僕には明日はやることがあって、その準備をしている時間はないからね」
「駄目なの。
うん、でも、自分でちゃんと作りたいとも思ったんだから、仕方ないよね。
シスターに、もう1日、なるべく早くナリートと外に行かせてください、ってお願いしなくちゃ」
その翌日、僕は朝になってから、もし魚が獲れていたら、その魚を焼いて食べるには、もちろん食べる気満々だったのだけど、仕事としての他に、魚を焼くための柴刈りもしなければならないことに気がついた。
それから火起こしの道具も作らなければならない。
実は僕は火起こしの道具という物を見た事がない。
何故なら孤児院で食事を作ってくれるおばさんは、火起こしの道具なんて使わずに、魔法で火を着けてしまうからだ。
僕にも魔力があるのは分かっているから、教えてもらいたいと思ったのだけど、教えてもらう適当な理由を考えつかなくて、そのままになっている。
でも別に魔法が使えなくても、火を着けることが出来ることは、僕は知っている。
そんな訳で、僕はすぐにでも罠の成果を確かめたい気持ちを押し殺して、まずはいつもの倍の量の柴刈りをして、それから火起こしの道具を作った。
いつもの倍の量の落ち枝を拾ったりしなければならないのだから、僕はたぶん他の人よりもずっと速く、柴刈りが出来ていると思っているのだけど、それでも時間がたくさん掛かると思った。
だけど、流石にいつもと同じ時間という訳にはいかなかったけど、いつもの倍なんて時間は掛からずに、僕は柴刈りを終えることが出来てしまった。
いつもよりもずっと落ち枝がある場所を、林の中で探すときに感じることが出来たからだ。
30cmが1mになると、やっぱり全然違うな、と僕は思ったのだった。
同様に、火起こしの道具も簡単に作ることが出来た。
これもきっと木工の数字が2に上がった影響なのだろうと思う。
作っている最中にもどんどん自分が上手くなっているのが感じられるような調子だったからだ。
集めた柴と、火起こしの道具を持って、僕は川に行き、それらを適当なところに置いて、スライムの居る場所を避けて、一目散に川へと入って行った。
そして、昨日を設置しておいた罠を確かめる。
「やったーっ!! 魚が入っている」
僕は1人なのに叫んでしまった。
叫んでから、近くに人が居ないよな、と心配になって周りをキョロキョロと見回した。
幸運というか、当然というか、スライムと遭遇する可能性の高い川の周りには、僕以外の人の気配は全くなかった。
辺りに人がいないかを確認することによって、僕は少し冷静さを取り戻した。
とはいっても、もう頭の中は罠に入っていた2匹の魚を食べることにほとんどが占められている。
でも目立って他の人に見つかったら問題だということと、周りにはスライムがたくさんいるということを思い出したのだ。
「えーと、安全のために中洲で火を焚いて、そうして魚を焼いて食べるというのは、煙で誰かに気付かれてしまうかもしれないから駄目だな。
かといって、煙を誤魔化せるからといって、適当なところで獲った魚を捌いたりしたら、すぐにスライムが寄って来てしまって危険な気がする」
僕は考えた結果、まずは上に枝が被さっていて、出た煙を遮って、誤魔化してくれそうな場所で小さな火を、あまり苦労しないで作った。
少し燃やして熾火を作る。
熾火が出来れば、少しの時間離れても、火は消えない。
火を燃やしていると、スライムはその周りには寄って来ないようだ。
スライムも火は恐がるのだろうか。
そうしておいてから、僕は中洲で罠で捕まえた魚を捌いた。
魚の腹を、石を割って作ったナイフで割いて、内臓を取り除き、それは用意しておいた大きな葉の上にまとめておく。
ハラワタを取った魚に串を打って、火で焼く準備を完全にしておく。
ここからはタイミングが重要だ。
僕は取り除いて大きな葉に包んだ魚のハラワタを、火がある場所からは離れる方向に投げた。
落ちたハラワタの臭いに誘われたのだろうか、辺りのスライムが一斉にそちらに向かった。
僕は魚の串を持って、焚き火へと向かい、魚を熾火で焼いた。
焼けるのが待てないくらい、香ばしい匂いが漂って、僕のお腹は鳴ったけど、スライムたちは近づいて来なかった。
僕はそれに安心して、焼けた魚にかぶりついた。
美味かった。
そしてそれだけでなく、なんとなく体に不足していたモノが補われていくような気がした。
とても満足な気分になった。
しかし、そんなにゆっくりとはしていられないので、僕はその場を立ち去ろうとして、
難問があることに気がついた。
焚き火を完全に消しておかないと駄目だと思ったのだが、すぐ近くに水はあるけど、水を運ぶ道具が無かったのだ。
僕は仕方ないから、着ている物を脱いで、それに水を含ませて、川との間を何度か往復して、焚き火の火を完全に消した。
それからまた近くで土の中の虫を取って、魚獲りの罠を仕掛けておいた。
「今日は、2匹魚が獲れたけど、明日も2匹以上獲れるといいな。
1匹だとルーミエも来るから問題だよな、最低2匹だよ」
そう独り言を言ってから、僕は本当に大急ぎで走って孤児院に戻った。
絶対に時間に遅れている気がする。