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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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自分の経験値とルーミエの経験値

 柴刈りと傷薬が作れる草の採取を素早く終えた僕たちは、川の中洲にすぐに向かった。

 いつものようにルーミエを負ぶって中洲に行ったのだけど、今回は別にルーミエを見てみる必要はなかったので、僕はルーミエのことを見なかった。

 なんとなく、勝手にルーミエのことを毎回見るのは、何だか気が引けてしまうからだけなのだけど。


 ルーミエは中洲に降りると、すぐに自分の魚の罠を見に行った。


 「ナリート、入ってる。 私の罠にも魚が2匹入っているよ」


 ルーミエはすごく嬉しそうな声で、今回の自分の罠の成果を僕に報告してきた。

 ルーミエに付き合う形で、僕も自分の魚の罠を確認したのだけど、ちょっと悔しいことに、僕の方の罠には1匹しか掛かっていなかった。

 ルーミエはそれを知ると、ちょっと優越感を感じさせる声で言った。


 「それじゃあ、今日はナリートが2匹食べて良いよ。 私は1匹でいいよ」


 「いや、ちゃんとルーミエは2匹食べろよ。

  僕は毎日来るからルーミエ優先て前にも言ったろ」


 「あ、昨日私の罠で獲れた魚もあるんだよね。 それを食べてもらえば良いんだ」


 そうだった、昨日の魚の存在を、ちょっと悔しく思って忘れていた。


 「そうだった、ルーミエが来ない時にルーミエの罠で獲れた魚を入れておく池が、作っている途中だから、今日仕上げようと思っていたのだった。

  それをするのに、昨日入れておいた魚は邪魔だから、ルーミエ、先にそっちの処理をお願いできるかな。

  ルーミエが魚の処理をしてくれたら、その間、僕は池を広げたり仕上げたりする」


 魚の内臓を取り除いたり、串を打ったりする時間なんて、そんなに大したことないけど、全部で4匹の魚を処理することになるので、ちょっとは時間がかかる。

 先に昨日の池の魚をと思ったのだが、意外に池の魚を手で捕まえるのに苦労してしまった。

 僕が池を広げていると、ルーミエは魚の処理が終わったと言ってきた。

 ルーミエは、昨日の魚と今日自分の罠に掛かっていた魚で4匹を処理したみたいだ。


 「ルーミエ、僕はもうちょっと、この池つくりを続けるから、その間に竹の皮を編んでザルを作ってよ、少し大きめのやつ。

  そういうのがあれば、池に放した魚を獲るのが簡単になると思うから」


 僕がそうお願いすると、ルーミエは魚の罠を作った経験からか、それ以上のことを僕に言わせずにすぐに作業に入った。

 魚を掬うためだけの目の荒い物を作るだけだから、それもそんなに時間が掛からないだろうから、僕は池作りに専念する。


 僕が一旦止めないで池作りを続けたのは、自分が最初考えていたよりも、池作りを短時間で終わらすことが出来そうだったからだ。

 柴刈りと草摘みの時に[空間認識]のレベルが上がったことを認識したのだけど、池作りを始めたら、それだけでなく[筋力]のレベルが上がったことも実感したのだ。

 レベルが上がって、数字が大きくなっても、実際の訓練というか、練習が足りていないと、その効果がちゃんと現れては来ないことは分かっているのだけど、どうやら[空間認識]と[筋力]はきちんと訓練や練習が足りていたらしくて、レベルが上がって数字が大きくなった効果が、即座にあらわれているみたいだ。

 つまり今までよりも力があるし、掘ったりする場所の石がどんな風に埋まっているかがしっかり分かるので、作業速度がずっと上がったのだ。


 僕はその日はそれだけしかする時間しかないだろうと思っていたのだけど、そのお陰でずっと短時間で、魚を焼いて食べる前に終わらせることが出来てしまう短時間で、池作りの作業を終わらせることができると感じたのだ。

 案の定、僕はルーミエが魚を掬うザルを作り終える前に、池を作り終えることが出来て、作業をするルーミエを置いて、岸のいつもの場所で魚を焼き始めたのだった。


 ルーミエは僕が魚を焼いている途中で、ザルを作り終えたみたいで、どうするのかなと思って見ていたら、いつもと違って、中洲から自分で岸の方に歩いてきた。

 えっ、危ないぞ、何をしているんだと思ったのだけど、よく見たら、僕がスライムの罠を良く観るために作った、灰を周りに撒いてスライムが近づかないように作った道を通って、スライムの罠を見に行ったみたいだった。

 今はスライムの罠に餌は仕掛けてないから、スライムの罠のところにスライムは集まっていないから、ルーミエをそのまま自由にさせておいても大丈夫だろうと僕は思った。

 ルーミエもその一応だけど安全地帯から出ようとはしていないみたいだし。


 魚が焼けたので僕はルーミエに声をかける。

 「ルーミエ、魚が焼けたから、中洲に戻って来いよ。 転ぶなよ」

 「転ばないよ!」


 ルーミエは美味しそうに魚を食べているのだけど、僕はもう少しどうにかならないかと考えていた。

 最初はとても美味しく感じていた焼いた魚なのだけど、ほぼ毎日食べていると、さすがにそうは思わなくなってきてしまったのだ。

 「せめて、塩があればなあ。 どこかで手に入れられないかな」

なんて僕が考えているとルーミエが話を切り出した。


 「ナリート、まだ時間あるよね。 次は何をするの?」


 「もちろんルーミエが林に来る主目的の、傷薬が作れる草を乾かす道具作りだよ。

  もっと前に作ろうと思っていたのだけど、延び延びになっちゃっているから」


 「乾かす道具って、やっぱり竹を編んで作るって言ってたよね」


 「うん、そうだよ」


 「私、今日はもう魚を掬うザル作りで、竹を編むのは飽きちゃって、他のことをしたい。

  私も、ナリートが作ったスライムの罠を作る」


 「スライムの罠を作るって、穴を掘るのは石を持ち上げて運んだり、力が必要で、ルーミエには無理だよ」


 「それじゃあ、穴はナリートが掘って。

  私は穴に植える槍とか、他の部分を作る。

  それを使っても構わないでしょ」


 中洲には、スライムの罠の植えてある槍などを補修するために、僕が切っておいた竹が積んであった。

 竹はスライムの酸に強いみたいだけど、やっぱり段々と傷んでしまうので、補修が必要になると思って、前もって切っておいた物だ。


 「もちろん、それは使っても構わないけど」


 僕はルーミエの説得を諦めた。

 竹を編むのに飽きたと言うけど、きっと本当のところは、僕と同じことがしたいのだろう。

 魚の罠で同じようにちゃんと魚が掛かったから、スライムの罠も同じようにやりたいということなのだろうと思う。

 魚の罠は魚を食べる為という明確な目的があるし、実際に得られるモノがあるけど、スライムの罠はルーミエには何も得られるモノはないんじゃないかな、と思ったのだけど、ルーミエは一度やりたいと言い出すと頑固なのは、ヒールを使いたいと言い出した時にしっかりと思い知っていたから、僕は好きにさせることにしたのだ。


 それにルーミエが作ると言っても穴を掘ったりとかは僕がやる訳で、半分は僕が作った罠となるだろう。

 そうすれば、スライム用の罠が1.5個ということになり、もしかしたら1.5倍の経験値が入るかもしれない、と僕は都合の良いことも考えてしまったのだ。


 僕がスライムの罠用の穴を掘っている間、ルーミエはせっせと穴に植える竹の槍を作っていた。

 そうして2人で槍を穴に植えて、上に突き出す竿も共同して作った。

 ちなみに今までの罠の竿の先につけた部分も補修した。

 竿の先に直角に取り付けて、餌をつけた棒は、細い上に竹の内側が出ている部分が多いので、1日でダメになってしまうのだ。

 というか、その棒が溶けて下に落ちるまでの間が、どうやらスライムが罠に掛かっている時間の気がする。


 僕が穴を掘るのが速くなって、2人で作っているからといって、罠を作るにはやはり時間がかかってしまい、僕たちは少しいつもより遅くなってしまった。

 僕は自分の魚の罠の魚を池に移し、大急ぎで魚の罠2つとスライムの罠2つに餌を仕掛けて、ルーミエと孤児院に戻った。

 またしても改造したスライムの罠に、どんな風にスライムが掛かっているのか観る時間がなかった。


 夜、寝る前に、習慣になっている僕は自分を見て驚いた。

 その日はルーミエを連れて森に行ったこと以外、何も特別なことはなくて、でも[次のレベルに必要な残り経験値]がどれだけ減っているかは、どうなっているかワクワクしていた。

 もし、都合良くいけば、ルーミエと作った罠の分もあるから、昨日の1.5倍だから20とちょっとくらいは減ると良いなぁ、と思っていた。

 実際に見てみた数字は

 [次のレベルに必要な残り経験値] 43

 なんと、28も数字が減っていたのだ。


 これならすぐにレベル6になるし、その次のレベル7も必要な経験値はたぶん243だから、そんなに掛からないで上がれるな、流石にその次のレベル8だと729だからすぐとは言えないけど、そこまでくらいは簡単に行きそうだ。

 えーと、その次は2187か、これはちょっと遠いな。

 僕はそんな風に、まだ実際のことにはなっていないけど、未来を予想してニマニマしながら眠りにつこうとしていて、ふと気がついた。

 そうだった、単にレベルなんかの数字が上がっただけでは意味がないことを急に思い出したのだ。

 ニマニマしていた気分がいっぺんで醒めてしまった。


 翌日、僕はやっと改造したスライムの罠に、どんな風にスライムが掛かるかを実際に観て確認した。

 スライムは餌を取り付けると、すぐにたくさん集まって来て、竿と竿を支える支柱にまず群がった。

 そこから登り出すのだが、最初に竿と支柱が重なるところで三方向から1箇所に集まる形になるので、そこで結構押し合いになって、下に落ちる。

 次に、そこを抜けても今度は竿がしなって揺れるので、先が細くなっていることもあってか、また振り落とされるスライムが続出している。

 結局、スライムは餌に辿り着くというより、餌を支えている細い棒のところを、何匹かが落ちる前に少しづつ溶かして、棒が折れて落ちるまで竿の上でと言うか、竿にしがみついて争っては落ちる形になっている。


 観ていると本当にかなりの数が落ちているのだけど、これなら28減ったのも納得できるという感じだった。

 きっと落ちたスライムの1/3も、穴に植えてある槍が核には刺さっていないだろう。 たぶん1/5くらい?


 1箇所の罠で、1日に10匹くらいのスライムを討伐しているとして、2箇所で20匹なのだけど、河原に集まっているスライムは、僕が見ている限り少しも減った気がしない。

 これなら当分の間、スライムの罠で僕は経験値を稼ぐことが出来ると思って、とても満足した気分になった。

 でもスライムって、数を減らすことって本当にできるのかな。

 増え過ぎて困って、冒険者さんたちに恩賞を出して退治することがあるということだけど、確かにたくさんいるのだなと僕はあらためて思った。


 「これなら、きっと明日にはまたレベルが上がるな」


 昨日の夜、単にレベルが上がっただけではダメなことを思い出して、気分が醒めたのだけど、それでもやっぱりレベルが上がると思うと、嬉しくなってしまうのは仕方ないと思う。

 僕はそんなウキウキ気分で、その日は前日、ルーミエと2人で戻るのが少し遅くなってしまったから、早めに孤児院に戻った。


 孤児院に戻って、いつものように小さい子が体を洗う手伝いをするために水場に行くと、当然だがルーミエもいるのだが、何だか様子がおかしい。


 「ルーミエ、どうしたの? 調子悪いの?」


 「うん、何でか分からないのだけど、急に熱っぽくなって、気分が悪くなった」


 僕はちょうど小さい子を連れてきたシスターに言って、ルーミエは休ませてもらうことにしようとした。

 シスターも心配して言った。


 「ルーミエちゃん、ここは良いから、自分の寝床に行って体を休めなさい。

  後で見に行くけど、本当に調子が悪くなったら、すぐに誰かに頼んで私を呼ぶのよ」


 ルーミエはレベル2になっているけど、体力がないし、健康状態もまだ少し何かあれば 死んでしまうような状態なのを僕は知っているから、ルーミエのことが凄く心配になった。

 熱っぽくなったというから、何か病気なのだろうか。

 病気だとしたら、死んでしまうのではないだろうか、と。


 心配だからといって、女子部屋のルーミエの寝床まで訪ねて行ってみる訳にもいかない。

 夜の食事の時にもルーミエは出て来なくて、僕は本当に心配で気が気でなかった。

 僕はどうしたら良いだろう、何か出来ることはないかと考えていたのだけど、何も思いつかないし、ルーミエが食事の時にいないだけでオロオロしているのを、周りの友達に

「何だか様子がおかしいよ。どうしたの?」

と言われても、説明することも出来ないので、「そんなことないよ」と誤魔化すしかない。


 そんな僕の様子にシスターは気がついたのだろう、夜寝床に入る前に僕はシスターにちょっと呼ばれて、小声で話しかけられた。


 「ナリートくん、ルーミエちゃんは大丈夫よ。

  まだ熱っぽいみたいだけど、私が持って行った食事もちゃんと食べれたから、そんなに心配するほどのことじゃないと思うわ。

  私は、ナリートくんがルーミエちゃんのことも見えて、ルーミエちゃんの健康状態が悪いから、ナリートくんが凄く心配しているのも解っている。

  それが解っている上で言うのだから、本当に大丈夫よ」


 それで僕はちょっと安心して、自分の寝床に行った。

 起きていると、それでも色々考えてしまいそうだったので、早く寝てしまおうと思ったのだけど、癖になっているから僕はチラッといつものように自分を見てみたら、[次のレベルに必要な残り経験値]は 16 になっていた。

 今日は27の経験値が入ったのか、と思ったけど、ルーミエのことの方が気になっていたからか、それについては何も考える気にならず、そのまますぐに寝てしまった。


 次の日の朝食の時間、ルーミエは何事もなかったかのように、違う、いつもよりも元気な調子で、みんなと朝の食事を食べていた。

 僕は安心したのだけど、何だか腹が立ってきた。

 僕はこんなに心配していたのに、その気持ちも知らないで、いつもより元気な調子を見せているなんて、とムカムカしてきた。


 そうしたら朝には珍しく、ルーミエが僕に近づいて来た。

 僕はてっきりルーミエが僕に心配をかけたことを謝りに来たのだと思ったのだが。


 「ナリート、あたし、何だかレベルが上がったような気がする。

  後で、あたしのこと、見てみてくれない」


 ルーミエは小さな声で僕にそう言うと、僕がびっくりして何も答えないうちに、あっさりと僕から離れて行ってしまった。


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