表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/177

みんなで町の孤児院に

 フランソワちゃんが村の農業改革に励んでいた間、マーガレットはそれに触発されたのだろうか、町の孤児院を僕たちの村の孤児院と同じようにしたいと奮闘していた。

 とは言っても、[職業]がシスターだと判って優遇されているとはいっても、孤児の1人であるマーガレットがいくら頑張って変えようとしても、町の孤児院が変化する訳がない。

 変化なんて望んでいない町の孤児院のシスターたちを説得するため、マーガレットはシスターカトリーヌ、つまり僕らのシスターに町の孤児院のシスターを説得してもらう必要があった。


 変化を望まない町のシスターたちであっても、さすがに寄生虫の問題は認識出来ていたので、村でも農業の仕方、つまり農法の変革が起きていることも説明して、まずは孤児たちが行っている農作業から変えることになった。

 しかし、ここで問題が出た。


 「あのさ、ルーミエ、ナリート。

  堆肥を作るためには、少し穴を掘って、その周りを囲んで、それから屋根を付ける必要があるんだよね」


 「うん、そうだと思うよ。 村ではそうしている」


 「周りを囲んだり、屋根を付けたりするのは、堆肥を作っている時の温度を上げるためなんだ。

  特に屋根がないと雨が降ると作っている堆肥が雨で温度が下がって、なかなかちゃんと腐らなくなってしまうし、それより何より、温度がしっかりと上がらないと寄生虫の卵が死なないから、寄生虫撲滅の役に立たなくなっちゃう」


 「あ、そういうことなの。 私もそれはよく解ってなかった」


 ルーミエは軽くそう言ったけど、マーガレットは深刻な顔をして言った。


 「村の堆肥を作っているところって、周りを囲んだりもだけど、屋根なんかは竹で出来ているよね」


 「うん、僕らに取っては一番身近な材料だからね」


 「あのね、この辺りには竹がないのよ。 どうしたら良いかしら」


 これは僕にとっても考えていなかった問題だった。


 町は、この地方の領主様も住んでいる大きな町で、当然だけど村よりもずっと多くの人が住んでいる。

 当然のことながら、その人たちが食べる食料を作るために、ずっと広く畑が広がり、町の面積は広い。

 その一番外側は、魔物避けの壁があり、その周囲はスライムや一角兎が近付かない様に、除草されている。


 町に暮らす人数が多いということは、それだけ必要とする薪や柴の類いも大量ということで、町ではその周辺の林や森だけではその需要を賄いきれず、周辺の村から薪や柴を買っている。

 買っているのは薪や柴に限る訳ではなくて、様々な物を売買している訳で、町はこの地方の交易の中心となっている。

 そして町の領主の主な収入源は、その交易にかける税と、取引を他には禁じている塩の売買なのだ。


 そして町の周辺は、薪や柴としてはあまり優秀な物とは言えない竹は、周辺の森や林から駆逐されてしまっているのだ。


 竹が駆逐されてしまっているのは理由があることを、僕はマーガレットに町の近くに竹がないと聞いてから、図書館の記録から知った。

 一つには、竹が生えている場所には木が生えなくなってしまうのだが、竹は勝手にその生えている範囲を広げようとするスピードが速いこと。

 そしてもう一つは、竹は数十年に一度、一斉に枯れてしまうことがあるためだった。

 竹だって、伐ってしばらく乾燥させれば、立派に燃料になると思うのだが、一斉に枯れてそれを得られなくなる時期があるとなると、それを頼りにすることは出来ない。

 そこで有用な植物ではあるけれど、その有用なところくらいなら別の場所から取り寄せても良いと、近場の生えている場所は無くなってしまったらしいのだ。

 完全に無くそうと意図した訳ではなく、他の木などを優遇していたら、自然と減少に転じて、結果として町の近場にはほとんどないらしい。


 村の近くには普通に竹は生えている場所があって、僕たちにとってはとても馴染みの物なので、その調達に困るなんて考えてもみなかった。

 僕は冒険者がスライムをとても嫌がり、わざわざ討伐クエストが行われる理由を、何だか前よりもとっても理解した気がした。

 町の付近では、竹の槍を手に入れるのも面倒なことだから、余計にわざわざスライムは狩らないのだな、と。


 町の孤児院だって金銭的事情は村の孤児院と何ら変わることはなくて、柱や板などの木材を手に入れて堆肥作りのための場所を作るなんて、絶対に無理だ。

 それを思うと僕たちは竹がすぐに手に入るという、とても有利な条件があったことに気がついた。


 木材を買うことが出来ないならば、もう村から伐った竹を運んで来るしか方法はないと思ったのだけど、僕とルーミエそれにシスター、マーガレットが村に取りに取りに来たとしても、そんなに多くの量を運べる訳がない。

 これはダメだ自分たちだけでは無理だと考えて、町に行く人数を増やすことにした。

 町に行く途中には、一角兎やスライムが出て来る可能性もあるから、誰でもという訳にはいかない。

 狩りに行くことを許してもらっている、ジャン、ウォルフ、ウィリー、そしてエレナを仲間外れには出来ないので、4人に声をかけた。

 とはいっても、いくらレベルが普通よりは上がっていても、子どもが持ち運べる量なんて高が知れていて、何日かかけて、何往復かしないと最初の堆肥作りの場所を作ることさえ無理だなと思っていた。


 しかし、救世主が現れた。

 僕らが話していたのを聞いていたフランソワちゃんが、自分も町に堆肥作りの場所を作るのに参加すると言い出したのだ。

 学校の暇な時間のおしゃべりでも、僕たちはこの計画をどうするか話していたので、自分だけ仲間外れになるのは嫌だったらしい。

 そして、それならば自分が乗って、いやルーミエと僕も乗せてもらうのだけど、とにかく自分の移動に使っている馬車に載せて竹を運ぶという案を出してくれたのだ。


 フランソワちゃんは軽い調子で、すぐにでも実行出来るという感じで提案して来たのだけど、僕はそう簡単には行かないのではないかと思った。

 僕たちがフランソワちゃんと学校の行き帰りに乗せてもらっている馬車は、小さな人が乗ること専用の箱馬車なので、物を運ぶこと、それもある程度の長さがある物なんて運ぶようには出来ていないと思ったからだ。

 僕は御者さんに、フランソワちゃんの提案が実行可能かどうか聞いてみた。


 「そうだな、この馬車は物を運ぶようには作られていないから、本当なら荷馬車で運ぶ方が面倒なく簡単に運べるだろうが、少し工夫すれば何度かに分けてなら運べるんじゃないかな」


 「お願いできますか」


 「ああ、そのくらいことなら大丈夫だ」


 「えーと、どうしたら良いでしょうか。 僕が準備を手伝います」


 「その運ぶ竹を、屋敷まで持って来てくれれば、それでいいさ。

  何、大したことじゃない。 町の孤児院に持って行けば良いのだろ。

  話を通しておいてくれれば、儂がお嬢たちを学校に送った後で、届けておいて上げるよ。 そう何度もは、かからないだろうしな」


 こうして町の孤児院に堆肥作り場を作るための資材は、村の孤児院のみんなにも協力してもらって竹を用意すると、御者さんは何度かに分けて、馬車の屋根に竹を縛って載せて運んでくれた。


 準備が整ってすぐの休日に、僕たちは町の孤児院に行くことにした。

 その日はシスターが町の孤児院に行く予定の日ではなかったのだけど、マーガレットが早く始めたいと急いでいたから、行くことにしたのだ。


 「私が一緒じゃないからって、羽目を外しちゃ駄目よ」


 シスターにそう注意されたのは、町の孤児院に行くのが僕とルーミエだけではないのもあると思う。

 フランソワちゃんは一緒に行くことになっていたけど、それだけでは実際に作業をするのが、マーガレットをはじめとした町の孤児院の子たちに説明しながら手伝わせるにしても、人手が不足するのは確実なので、竹を運ぶという最初の仕事は無くなったけど、狩り仲間も一緒に行くことにしたからだ。

 その上、狩り仲間で話が少し盛り上がってしまい、町に行く途中で狩りをして、町の孤児院に一角兎を狩ってお土産として持って行こうということになった。

 そして狩りをしながら町に向かうなら、僕たちの狩りを見たいからと、フランソワちゃんも歩いて町に向かうことにしたからである。


 普段は安全を考えて馬車で町に行くことになっていて、僕とルーミエはそれに便乗させてもらっているのに、フランソワちゃんは村長さんに許してもらえるのかなと思ったのだけど、割と簡単に許しが出たようだ。

 まあ、学校がない日は孤児院に1人で来ている日が多くなって、その時にはルーミエたちと一緒に行動することが多く、村の外の林や川にまで出ていたので、今更なのかも知れない。

 その計画をシスターが聞いて、注意はしても止めないことから、安全に関しても問題がないのだろうと判断したのかも。



 町に行く時、僕たちは狩りに行く時そのままの重装備だ。

 手作りの盾、槍、弓をそれぞれに僕らは持っている。

 ルーミエまで槍を持っている僕たちの格好を見て、それだけでフランソワちゃんはワクワクしている。


 「ナリート、今日こそはフランソワちゃんも一緒なのだから、しっかり当てて、良いところを見せろよ」


 僕はウォルフに揶揄われて、ウィリーとジャンに笑われてしまった。 ルーミエとエレナは笑っては僕が可哀想だと思ったのか、我慢したみたいだ。


 僕は最近、狩りの時に弓に挑戦しているのだ。

 狩りの時に、[職業]が弓士のウォルフと、狩人のエレナは弓で一角兎を仕留めたり、挑発したりをしているのだけど、罠師も狩人の一種ということなので、女性のエレナもしっかりと使えているのだからと、弓の練習をしているのだ。


 弓に関して、僕はどうやら僕に固有の能力らしいレベルup時に自分で選んで加えられるポイントを使っていない。

 一つには最近になって弓を使い始めたので、最近はなかなかレベルupしないので、その機会が1回しかなかった事による。

 でも[全体レベル]が 9 に上がった時にも、僕は[弓術]の項目にポイントを加えなかった。

 ポイントを加えないで、他のみんなと同じようにそれぞれの項目のレベルが上げるとどんな風になるのだろうか、と考えて実験している。

 今までは少しでも必要だと思った項目には、機会があればすぐにポイントを加えてレベルを上げていたからね。


 ウォルフとエレナは[全体レベル]がまだ低い時から弓を使ったからだろうか、[全体レベル]が上がるのと同時にどんどん[弓術]のレベルも上がり弓が上手になったのだけど、僕の場合は[全体レベル]が上がってしまってから弓を使い始めたせいか、[弓術]のレベルが上がる機会さえまだ1回しかなくて、その時には始めたばかりで上がらなかった、レベル1のままだった。

 それもあるのだろうか、僕は弓はなかなか上手くならない。

 今回も、案の定僕だけ一角兎に命中しなかった。


 今回は4匹が固まっていた一角兎を狙ったのだけど、その内の2匹はウォルフとエレナの矢が命中して、残りの2匹が僕たちに向かって来た。

 僕は弓を下に置いて、ジャンに預けていた盾を構える。

 普段は弓を射り終えたウォルフと僕が盾を構えて、剣士のウィリーと槍士のジャンがとどめを刺す役なのだが、今回はルーミエとフランソワちゃんもいて人数が多いので、ウィリーも盾役に回っている。 さすがにエレナに盾役はさせない。

 残りの2匹の一角兎は、僕のところには来なくて、ウォルフとウィリーの盾に突っ込んできた。

 盾に刺さって動けなくなった兎に、ジャンとルーミエがとどめを刺した。

 ルーミエは普段は狩りには参加しないので、やる気を見せていたルーミエにエレナがその役を譲ったらしい。


 「やっぱり、ナリートは外したな」

 ウォルフがそう言って笑った。


 「ナリートは弓は始めたばかりだから、まだ仕方ないよ」

 エレナが今度は言葉にして庇ってくれた。

 ジャンとウィリーは、そんなことを話し始めたので、自ら矢で射殺した一角兎を回収に行ってくれた。


 「ナリートでも、他の人より上手くできないことってあるのね。

  私、何でもナリートが一番上手く出来るかと思っていたわ」


 フランソワちゃんが、びっくりするような僕に対しての過大評価を口にした。


 「そんな訳ないじゃん。

  今見たように、弓はウォルフとエレナの方がずっと上手だし、槍ももうジャンの方が上手いし、ウィリーは本当は剣士だから、僕よりずっと強いし。

  それにルーミエは僕が上手く使えないイクストラクトがしっかり使えるし、フランソワちゃんだって、僕よりこの地方の地理や歴史は詳しいし、村全体に堆肥作りを広げたりしたじゃん。 それも僕には出来なかったよ」


 「そっか、何でもナリートが一番という訳じゃないのね」


 ルーミエが、僕の言葉に少し焦ったというか驚いた顔をしてから、僕を睨んだので、僕は自分の失言に気がついた。

 ウィリーが本当は剣士だから、というのはフランソワちゃんの前で言って良い言葉ではなかったのだ。

 ウィリーも公式にはと言うか、神父様は農民と言ったのでそういうことになっているし、僕が[職業]まで見えることは言わないようにしている。

 町の孤児院に通い始めた時には、僕も寄生虫がいるかどうかを見ることをシスターに頼まれていたのだけど、段々とその役目は小さい子も見ることが出来るルーミエに一任されるようになって、僕も見えることは何となくあやふやになっていた。

 ましてや僕の方がルーミエよりも細かく色々なことが、小さい子以外は見えるということは、シスターとルーミエしかはっきりとは知らないから。


 フランソワちゃんは僕の失言には気が付かなかったようで、エレナが血抜きのために狩った一角兎の頸動脈を切ったりしているのを興味深く、いや物珍しそうに眺めたりに忙しかった。


 「索敵はナリートが一番上手いから、ナリートが先頭を歩け、右側にウィリー、左側はジャン、俺が最後を歩く」


 ウォルフの指示で僕らは隊列を作って町へと歩く。 盾は僕以外の男の子が持っている。

 どうやらウォルフもシスターに気をつけて町に向かうように言われたらしい。 もしもを考えた配置を考えて指示している。

 狩った4匹の一角兎は、エレナの槍に紐で吊るされて、その槍の両端をエレナとルーミエが持って横に並んで歩いた。 まだいくらか兎から血が垂れるからだ。


 町まで行く途中で、もう一回狩りをした。

 フランソワちゃんが「私も狩りに参加してみたい」と言い出したからだ。

 2度目はウィリーの提案で、5匹でいる集団を狙ったのだが、僕の矢は今度は当たりはしたのだけど軽く傷つけるだけで、3匹の一角兎が僕たちを攻撃してくることになってしまった。


 「ま、予定通りだったな」


 ウィリーにそう言われてしまったけど、盾に刺さった兎を今度は、1匹はもちろんジャンが、もう1匹はウィリーの極端に短い槍を借りてエレナが、そして最後の1匹はルーミエに手伝ってもらいながらフランソワちゃんがとどめを刺して、フランソワちゃんは大興奮だったが満足もしたようだ。

 今度の5匹の兎はルーミエの槍に吊るされて、兎が吊るされた槍の1本を僕とエレナで持って前を歩き、もう1本はルーミエとフランソワちゃんが持って安全な真ん中で歩いた。

 フランソワちゃんも物を持って歩くことになってしまったのだけど、持っている中の1匹は自分がとどめを刺した兎だからか、とても上機嫌で歩いていた。


 「予定以上に、たくさん兎を持っていくことになったけど、町の孤児院では喜んでくれるかな」


 「少ないよりは、多い方が良いに決まっているさ」


 後ろでジャンとウィリーがそんなことを話している。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の視点がブレない点 [一言] 長編になるかと思いますが、探しても得難い物語ですので無理のないペースで継続していただければ幸いです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ