初日は水場と小屋だけど
自分たちの居場所とする場所は、僕はかなり以前からここにしようと決めていた場所がある。
それは周りより少しだけ高くなった丘が平原に伸びている、その先端部分のような所だ。
その先端部分が、ちょっとだけ他の部分と離れたというか、少しだけ切れたようになっている。
その先端部分全体を僕は自分たちの場所にしようと考えたのだ。
丘の先端部分といっても、全体の形としてはお椀を伏せたような形になっている訳ではなく、歪なテーブルといった感じで、丘の上部は割と平だ。
でもその平な上部に登る斜面はかなり急勾配になっている。 ただし、丘の本体と繋がる部分は少し窪んでいるだけという感じで、それほどの高低差はない。
その丘の周りの平原は草地か背の低い灌木だけど、丘は木々に覆われている。
丘の本体と繋がる部分以外から目的の丘の上面に行くには、木を掴んで登らなければならないような感じだけど、繋がる部分はそんな大きな斜度ではなく、普通に歩いて登ることが出来る。
「何であの場所が良いんだ?」
ウォルフの疑問に僕は答えた。
「あの丘は、上が割と平坦だから、木を切って開墾すれば上に畑を作ることが出来る。
平原から丘に登る斜面をちゃんと整備出来たら、その斜面が村を囲う石垣の役目をして、上で暮らす僕たちはとても安全に暮らせると思うんだ」
「なるほどなぁ」
ウィリーは簡単に感心してくれたけど、ジャンが心配事を口にした。
「そうなればモンスターの心配はないだろうけど、丘の上となると水がないんじゃない。
まあ僕たちは魔法で飲み水くらいは出すことは出来るけど、生活全体を賄う量の水を出すとなると、全員それだけで毎日魔力が尽きちゃうんじゃないかな。
何もないところで水を出すには魔力がたくさん必要だから」
「うん、その点は小さな水場というか、水が湧いている場所があるから大丈夫だと思っていたのだけど、それは6人ならという感じだから、将来的にはというか、14人ということだと、すぐに水を引くことを考えないといけないかもしれない。
丘の本体の方には、ちゃんとした泉があって、そっちはたくさんの量の水が出ているから、そこから水を引こうとは思っていたんだ」
「ちょっと待って。
だとしたら今現在は、目的の場所は木々に囲まれた中に小さな水場があるということよね。
そんな所って、絶対にスライムがいるじゃん」
エレナが最初の問題に気がついた。
「うん、そうだね。
だから一番最初はスライムの討伐からだな。
その水場のスライムを掃討しないと、僕らは安心して水場も使えない」
「そのくらい別に問題じゃないだろ。
スライムくらい、別に罠で狩らなくても、どんどん討伐しちゃえば良いのだから」
ウィリーがエレナに、どうでも良さそうに言った。
「スライムは一番弱いモンスターだけど、私は嫌いなのよ。
スライムを狩るより兎や狼の方がずっと良いわ」
エレナはスライムは嫌いなようだ。
まあエレナは弓使いで、そういえば竹槍でスライムと戦ったことはあったかな、あったよね。
ウォルフ、ウィリー、ジャンはスライムと戦うのをもう恐れてはいないみたいだ。 それに3人は僕ほどではないけど[酸攻撃耐性]も持っているし。
ルーミエは、あれっ、スライムと戦うと聞いたらワクワクしているようだ。
ルーミエは最初の頃にスライムとレベルupのために戦わせたけど、[酸攻撃耐性]は持っていたかな。
僕はちょっと心配になって、ルーミエを見てみた。 持ってないよ。 [酸攻撃耐性]を持ってないのに、スライムとの戦いにワクワクしてちゃダメだろ。
ついでにエレナは、エレナもやっぱり持ってない。
まあ今では、スライムの酸攻撃を受けてしまっても、ルーミエならヒールで即座に治癒できるから大丈夫だろうけどね。
「しかしまあ、ナリート、ちゃんと場所とか前から考えていたんだな」
ウォルフが僕のことを感心したと褒めてくれた。
「うん、どこにしようか、色々考えて休みの日に探し回ったから」
「私もナリートと一緒に歩き回ったんだよ」
ルーミエが自分も褒めてもらいたそうに言った。
僕は1人の方が気楽に探したり調べたりできるので、1人で歩き回りたかったのだけどルーミエが付いてきたんだよね。
ウォルフは僕の顔を見て、事情を察したのか一瞬苦笑する顔を見せたけど、結局ルーミエの圧に負けて言った。
「そうか、それだからルーミエは知っていて、ナリートの説明に何の疑問も無かったのか。
ルーミエもご苦労さん」
ルーミエは満足そうだ。
僕たちの城作りは、ウォルフ、ウィリー、ジャン、そして僕の4人は小さな水場の周りのスライム狩りから始まった。
ちょっとルーミエがゴネたけど、ルーミエとエレナは他の8人の護衛として残した。
僕たち4人以外は、僕たちの城となる部分と丘の本体と繋がる部分から、城に登る道作りだ。
繋がる部分や、そこから城の上に登るのは、歩く分には困難ではないのだけど、荷物を載せた台車や将来馬車で登るのには困難だ。
だから、シャベルや鍬を買い揃えたのだから、それらを使って道を作ることにしたのだ。
とはいっても、今は簡単な道作りで、後でもっとちゃんとした道にするつもりだ。
それに単純に道を作っただけでは、そこから簡単に攻められてしまう。
そんなのは僕は許せない。
僕たちの居場所作りを、みんなは「俺たち(私たち)の村作り」と呼んでいたようだけど、僕が強行に「僕たちの城作り」と呼び続けたので、今ではみんな「城作り」と呼ぶようになった。
ルーミエは最初から僕に倣って「城作り」と呼んでいたこともあり、ジャンもそれに倣った。
「まあ、年下3人組が揃って『城作り』っていうのだから、俺たちの城作りということにしよう」
ウィリーがそう言って「城作り」ということになった。
ちなみにウォルフとウィリーの代は、あと男2人に女1人、エレナの代は男2人に女3人だ。
僕らの代は人数が少なくて、元々僕たち3人しかいない。
とにかく僕らは水場の周りのスライムを4人で大急ぎで狩り尽くした。 少なくとも、とりあえず近くにはもうスライムなどのモンスターは居ない。
「おい、ナリート。 まさかこの水を俺たちは飲むのか?」
ウォルフが凄く嫌そうな顔をして、僕に聞いて来た。
この小さな水場は、どこかに川となって流れ出すだけの水量はなくて、近くに溜まっているのだけど、池というよりは沼という感じの場所となっている。 とても飲むのに適した感じではない。
「後で、どこから水が湧いているかをちゃんと確認して、そうしたらその周りの汚い泥とかはどかして、その後で綺麗な水が貯まるように水槽を作りたいと思っているのだけど」
「それじゃあ、すぐにでもそれを始めよう。
スコップは俺たちは持って来なかったから、クレイの魔法で泥を移動させるか」
ウィリーもウォルフと同じように思ったようで、すぐにその作業を始めようとしている。 ジャンも同調しているみたいだ。
「クレイを使うのは良いのだけど、今は泥を退ける為に使うんじゃなくて、目一杯レンガを作るのに使ってよ。
少なくともある程度の高さになるように寝る為の小屋の壁を作らないと、僕たちはみんな、今晩寝ている最中に何時スライムに襲われるか分からないということになっちゃう。
まあ、しばらくの間は野宿の時のように、何人かは交代で見張りをすることになるとは思うけど。
飲水は甕を作って、それをウォーターの魔法で満たせば、汚い水は飲まずに済むから大丈夫だろ」
「ああ、その手があったか。
それじゃあナリート、お前一番最初に甕を作れ。
レンガ作りに魔力を使い切ってしまって、甕を作れなかったり、水を出せなかったら馬鹿だからな」
僕がウィリーに言われたとおり甕を作ると、ウィリーが自分で甕に水を満たした。
「良し、これで最低限の飲水は確保しといたぞ」
僕たちはその後は、ひたすらレンガを作り続けた。
途中で、道作りを終えたみんなが、やって来て、近くの草地の草を刈り、その周りに四角くレンガを積み始めた。
今晩の寝床確保のためだ。
道作りは、今のところは単純に台車が通れるように草を刈ったり、少し整地したり、邪魔な木の枝や石をどかすだけだから、そんなに時間が掛かった訳じゃない。
それだからレンガを作り始めてすぐにやって来たので、僕たちがレンガを作ると即座に持っていかれてしまう状態だ。
「私たちもレンガ作りをしようか?」
レンガ作りが運ぶのに間に合わないような状態だったので、エレナがそう提案してきた。
「いや、エレナとルーミエは積んだレンガが崩れないように、ハーデンを掛けてやってくれ」
レンガを積むのに、接着剤としてもクレイで泥を使っている。
僕たち6人以外は全体レベルがそんなに高くはないので、使える魔力も僕たちに比べると少なく、また練習量もずっと少ない。
それだから積んだレンガをしっかりと固定するために、ハーデンまで掛けているとすぐに魔力が枯渇してしまいそうなのだ。
寮で僕とルーミエとジャンの卒院を待っていた新しい仲間8人は、僕たち4人が作ったレンガをせっせと運び、それを積み上げて行く。
積み上げられた所を、ルーミエとエレナがハーデンを掛けて崩れないように固めていく。
新しい仲間の魔力が枯渇しないように配慮していたのだが、それでもレンガを作る僕たちや、固定しているルーミエたちよりも先に魔力が枯渇していってしまった。
魔力が枯渇した者から、少し休ませて、その後は柴刈りをしてもらう。
8人全員が枯渇した時点で、僕たちもとりあえず作業を終わりにする。
「ちょっと想像していたよりも壁の高さが低くて終わっちゃったな」
「まあ仕方ないさ。
あいつらはスライムに襲われた時の怖さが忘れられず、俺たちみたいにモンスターを狩ることは嫌がって避けてきたから、あまりレベルが上がってないからな」
「まあ、野宿する時みたいに、周りに灰を撒けば大丈夫だろう」
僕たちは自分たちの村からは遠い位置にある村に行く時や、頼まれた灰色狼の駆除で村や町に戻らずに野宿して過ごした経験がある。
そんな時には、焚き火をして炊事をするだけでなく、その灰を自分たちがいる場所の周りに撒いて、スライムなどのモンスター避けにしていた。 灰をスライム以外が嫌うかどうかは知らないけど。
「大丈夫よ。 私がバリアを張るから」
ルーミエがちょっと威張った感じで言った。
ルーミエは結界魔法の上達も早くて、クリーンだけではなく、バリアの魔法も使えるようになっていた。
僕たちは野宿の時には、そのルーミエのバリアの魔法の恩恵をとても受けていた。
ルーミエがバリアを張ると、野宿の時の天敵、虫が寄って来ないのだ。
「ルーミエのバリアは、刺したりする虫が寄ってこないから助かるけど、それだから大丈夫という訳じゃないだろ。
スライムには関係ないじゃん」
「そんなことないよ、ジャン。
私のバリアは、レベルが上がった気がするから、きっと虫以外も防いでくれると思う」
「ま、今はやれることをやろうぜ。
エレナとルーミエは飯の準備をしてくれ。
ナリートは竈を作れ。
ジャンは干しておいた草を壁の中に敷け。
ウィリーと俺で、壁の上に布を張る」
ウォルフの采配で、僕たちはそれぞれに大急ぎで動き出す。
もう日暮れが近くなってきたからだ。
柴刈りに出ていた仲間も、そろそろ戻って来るだろう。
「しまったなぁ。 途中で兎でも狩ってくれば良かった」
「そんな余裕はなかっただろ。
荷物が多かったから、ここまで荷車を引いたり押したりだけで精一杯だったろ」
「でも、今晩は何もないから、持ってきた穀物を煮た物しか食えないぜ」
ウィリーの厳しい指摘に、僕もがっかりしてしまった。