15.
見つけた人物は藤木だった。
なぜ、見覚えがあるような感じがしたが藤木だという確信が無かったのは、藤木の自慢のパーマが跡形も無くて、丸坊主のようになっていたからである。
揚羽が藤木を遠目で呆然と見ながらその場に立ち尽くす。
その視線に気づいたのか、藤木が揚羽の方向に顔を向ける。
二人の目が合い、気まずい雰囲気が流れる。
藤木は揚羽を見ると力の無い笑みを見せたので、それが気になり、揚羽は藤木の近くまで足を運んだ。
「あ……あの……」
揚羽が藤木になんて声を掛けていいか分からなくて、言葉が詰まる。
「これでしょ?」
藤木が頭を手で撫でながらそう声を発する。
その仕草に揚羽が気まずい様子で頷く。
「親父にバリカンで剃られたのよ……。『同じようにしてやる!』って、言われてね……」
藤木の言葉に揚羽は何と言っていいか分からない。
藤木にどう声を掛ければよいか分からずに、沈黙が続く。
「……あのさ」
藤木がその沈黙の空気を破って声を発する。
「その……酷いことしてごめん……。私、寺川さんが憎かったの……。いかにも『親に愛されて育ちました』っていう、寺川さんが憎くて仕方なかった……。山中君もそんな寺川さんに優しかったしね……」
藤木の言葉に揚羽は蝶々の話を思い出す。
『世の中には愛されて育った人を憎む人もいる』
蝶々の言葉は本当なんだと感じて、苦しい気持ちが揚羽の中で膨れ上がる。
藤木が更に言葉を綴る。
「沢山の友達に囲まれて、苦労や辛さを知らなくて、幸せにのうのうと生きている寺川さんを壊したくてあんなことしたんだ……。でも、その後でそれがどれほど酷い事かが分かったの。ごめん……本当にごめんなさい……」
藤木が話しながら涙を流す。
自分も同じような事をされて、揚羽にした行為がどれほど酷いことだったかを実感したようだった。
藤木は、何も理由がなく揚羽をいじめたわけではない……。
幸せに育っている揚羽が気に入らない……。
それが、いじめの原因だった。
「そ……それと……」
藤木が何かを言い掛けて、口を閉じる。
その表情に言っていいものかどうかを悩んでいるような雰囲気が漂っている。
「……どうしたの?」
揚羽がその様子を見て何処か不安そうにそう声を発する。
「その……寺川さんと仲良くなれれば、私も寺川さんみたいになれるのかなって思ったこともあるんだ……。でも、いつだったか山中君が友達と寺川さんの事を話していて、その時、何となくだけど、山中君が優しく笑っているように見えたんだよね。だから、その時に仲良くなりたいと思う反面、嫉妬の方が勝っちゃって、あんな事をするようになったんだ……。でも、こんな嫉妬でいじめをするような性格で、人に好かれるわけないよね……」
藤木が最後はどこか自虐的な顔をしながらそう言葉を綴る。
その言葉に揚羽はなんて言えばいいかが分からない。
例え、揚羽が藤木にそこで慰めの言葉を掛けても、藤木には嫌味に聞こえる可能性がある。
それを考えると、藤木に声を掛けることが出来ない。
沈黙が流れる……。
その時だった。
「揚羽!ここにいたのね!!」
公園内に声が響く。
揚羽が声の方に顔を向けると、そこにはいつものようにポニーテールを揺らしながら揚羽に走り寄っている愛理の姿が目に入った。
「揚羽の家に行ったら、美容室に行くって言って出掛けたって聞いたから、ちょっと心配になって探していたのよ!大丈夫?!」
愛理が心配そうに早口でそう言葉を綴る。
「ごめんね、愛理ちゃん。もう大丈夫だよ」
揚羽が愛理にそう微笑む。
「良かった~。回復したんだね!で、そちらの方は??」
「あ……その……この人は……」
揚羽が愛理に藤木の事をどう説明するべきか悩む。
「あ……あんた……」