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蝶と鳥のワルツ  作者: 華ノ月
前編 やがて蝶は大空へ舞う

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21/36

21.&エピローグ


 メールを受信した音が響いて、揚羽が急いでメールボックスを開ける。


「……あれ?」


 メールを見て、揚羽が首を傾げる。


『私は、み――――』


 蝶々からのメールはそこで終わっていた。


(エラーかな??)


 揚羽が頭にはてなマークを浮かべながらそう心で呟く。


 そして、蝶々にもう一度メールを送る。


 しかし、「こちらのアドレスは存在しません」という表示が出て、蝶々にメールを送ることが出来なかった。


 そのままパソコンを閉じて、窓際に行く。


「……ありがとう、蝶々さん」


 小声で空に浮かんでいる月に向って、蝶々にお礼の言葉を呟く。


 そして、その日を境に蝶々とメールのやり取りは出来なくなってしまったが、揚羽が蝶々のお陰で自分を取り戻したことも確かだったので、会ったことのない蝶々に感謝しながら、毎日を頑張って過ごしていた。




***


「……わ~!可愛い~!!」

「お姉ちゃん、短いのも似合うね!」


 ある日の放課後、学校が開いている特別養護教室に来ている子供たちが揚羽の髪型を見て、口々にそう声を発していた。


 そして、時間が来て揚羽は学校を後にする。


「……あれ?」


 帰り道の途中にある公園の傍を通ると藤木の姿が見えた。


 揚羽が声を掛けようか悩むが、この前の返事もあるので、思い切って藤木に声を掛けることにした。


「こんにちは、藤木さん」


 揚羽が笑顔で藤木に声を掛ける。


 突然声を掛けられて、藤木は驚きの顔をしたが、揚羽の顔を見て、どこか安心したような表情になる。


 そして、揚羽は言葉に迷いながらこの前の返事をすることにした。


「その……この前友だちになって欲しいという話なんだけど、えっと……私で良ければ、その……よろしくお願いします」


 揚羽がそう言葉を綴りながらお辞儀をする。


「寺川さん……」


 揚羽の言葉に藤木の表情は驚きと嬉しさが交じり合っていた。


「ありがとう、寺川さん」


 藤木が微笑みながらそう言葉を綴る。


 そして、揚羽と藤木が握手をする。


 その後、並んでベンチに座り、藤木があの後の事をいろいろと話してくれた。


 河地と本村は通信制の高校に行くことになり、藤木は家を出て働き始め、親とも縁を切ったという事だった。仕事は大変だが、家にいるよりは良いみたいで、その仕事場が借りているワンルームのアパートで一人暮らしているという事だった。


 今回の出来事はとても大変で大事にもなった出来事だったが、その出来事がきっかけでいろいろな事が見えてきた。


 この今の社会で何を正さなくてはいけないのか?


 そして、社会を改善しなくてはいけない闇の部分を垣間見たような出来事……。


 その人がやった事だけを見て悪いと決めつけるのではなく、


大切な事は、


『なぜ、その出来事が起こったのか?』


と、いうこと……。


 そして、なぜその事が起きた原因、


『真実』


を、知ることが必要だということ……。



 揚羽は今回の自分の身に起こった出来事で、「真実」を知ることがとても大切だと感じた。


 出来事の内容によっては、それが事を起こした人の助けを求めるサインかもしれないということを、時には察しなくてはいけない……。



 そして、揚羽は一つの決意をする。



『この世の中を少しでも良くするために、自分が出来る事をしよう』




~エピローグ~


 ――――バチンッ!!!


「……あ」


 パソコンが大きな音を立てて画面が真っ暗になる。


 蝶々は再度電源を入れ直してパソコンを起動する。


 幸い、パソコンに大きな被害は無く、どの機能も無事であることが確認できると、もう一度、自分が誰であるかを揚羽に伝えるためにメールを送ろうと試みる。


 しかし、エラーが出てくるだけでメールを送る事は出来なかった。


「……やっぱり、ここで終わってしまうのね」


 蝶々が悲しそうにそう呟く。


「メール、やっぱり途絶えちゃったの?」


 蝶々の隣で立っている一人の男性が蝶々にそう声を掛ける。


「うん。やっぱり『私だよ』ってことは伝えられなかった……」


 蝶々が悲しそうにそう言葉を綴る。


「そっか……。残念だったね、()()()()


 傍にいる男性が蝶々こと、()()()()()()()()にそう声を掛ける。


 大人になった揚羽は今仕事で、心の傷を抱えている人たちのケアをする仕事をしている。そんなある日、揚羽の元に差出人が分からないメールが届いた。


 揚羽は「何だろう?」と思って、そのメールを開けると、そのメールがあの時の「過去の揚羽」からの助けを求めるメールだったことに驚きを隠せなかった。


 まさか、あの時に揚羽が適当なアドレスに送ったメールが時空を超えて大人になった揚羽の元に届いているとは想像がつかなかった。


 でも、考えてみれば、あの時の揚羽に届いたメールの内容は「揚羽自身」だったから書けた言葉だった。


 過去と未来がなぜ繋がってしまったかは、今も分からない。


 でも、その不思議な出来事が揚羽を前に向かせてくれて、揚羽が将来何になりたいのかも明確にしてくれた。


「……本当に、不思議な出来事ね……」


 もう、過去の自分とメールのやり取りが出来なくなることに寂しさを感じながら、揚羽はベランダに出て月を眺める。


 大人になった揚羽は、「(かおる)」という婚約者と一緒に暮らしながら仕事をしており、薫は揚羽にとって一番の理解者でもある。


 揚羽がまだ大学生の時に知り合って、そこから年数を重ねてお付き合いをしていた。そして、揚羽の仕事が順調に進んでいる頃、薫からプロポーズを受けた。



『揚羽さんの純粋で真っ白な心を守りたいです』


 そのプロポーズの言葉を聞いて、揚羽は嬉しくて涙を流したことを今でも覚えている。


 薫と一緒に暮らしているこの生活も、とても充実していて、毎日幸せな日々を過ごしていた。


「はい、揚羽さんの癒しの飲み物を持ってきたよ」


 薫がマグカップに入ったホットミルクを手にベランダにやって来る。


「ありがとう」


 揚羽がマグカップを受け取り、お礼を言う。


「もう少しで来るんだよね?」


 薫が腕時計を見ながら揚羽にそう声を掛ける。


「うん。仕事が終わったら寄るって言ってたよ。報告したいことがあるんだって」


 揚羽はそう返事をしながら、訪れる来客を楽しみに待っている。


 ベランダでホットミルクを飲みながら柔らかく吹く夜風に当たっていると、部屋にインターフォンの音が鳴り響く。


「あっ!来たよ!」


 揚羽が嬉しそうにそう声を出す。


「いらっしゃい!」


 揚羽がやって来た来客を部屋に招き入れる。


 その来客は優しく微笑むと部屋の中に入っていく。



 そんな穏やかな風景を月が優しく照らしていた……。




(前編 完)


前編はこのエピソードで終わりになります。

もし、良い作品だなと感じましたら、評価☆を頂けると嬉しいです(^^)

次は後編のお話です。

後編は前編で登場した「愛菜」の話になります。

なぜ、藤木に愛菜はあんな提案したのか?

愛菜に一体、何があったのか?

その「真実」が後編で明かされます。

そして、愛菜の本当の気持ち……。


是非、読んでみてください(^^)

よろしくお願い致しますm(_ _)m

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なろうで初めて感想を書かせて頂いているように思います。 校内での男女の掛け合い、放課後の家庭内での描写、他人との関わり合いの中で不安感に苛まれる情景など、誰しも通る道で自らの実体験と重ねながら楽しめる…
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