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515話:マーケット最終日5

 マーケットの最終日は、思いの外大がかりなことになった。

 主にテリーという第二皇子の視察があったから。

 それでもテリーに錬金術科の見世物をできたのは、僕として嬉しい状況だ。


「グラスハープならワーネルとフェルにもできるかな?」

「うん、それならたぶんライアもできるけど、グラスを割らないように気をつけないとね」


 屋敷の晩餐室で、僕はテリーと楽しく話し続ける。

 だいたいがマーケットの話だけど、僕もテリーから弟妹の話を聞いてた。

 ワーネルとフェルはすっかりチトセ先輩から錬金術を教わることが楽しくなったらしい。

 ヒノヒメ先輩は表向きのふりだけじゃなく、妃殿下に気に入られてるとか。

 ライアは僕がいないことには慣れたそうだけど、それはそれで悲しい。

 そしてテリーもたまにチトセ先輩から、錬金術を教わることがあるんだそうだ。


「そうだ、エメラルドの間で錬金炉を使うなら、チトセ先輩に見てもらうのもいいかも」

「もしかして、錬金術科の卒業生は使えるの?」

「うん、習うよ。それに僕の部屋にあるものは錬金術科のものだったからね」


 規格も同じだし、困ることはないはずだ。

 そんな話をしてると、ルキウサリアにいる内にって約束した、ゴーレム作りに話は移る。


「それじゃあ、ゴーレム作りってどれくらい時間かかるの? 調整が難しくて…………」

「だったら二日にわけるのもありだよ。錬金炉を起動させた後は待ち時間になるし」


 もちろん大きくて攻撃的なものは教えない。

 大きくても、テリーと同じくらいの身長にしようと思う。

 事故が起きた時には、宮中警護でも対処できることを考えるとそれくらいだ。

 それとただ歩くだけの小さなゴーレムも教えようかな。

 あれくらいから練習していけば、事故も防げるんじゃないかと思う。


「兄上」


 楽しく話していた会話が途切れると、テリーが雰囲気を変えて呼びかける。

 これはただ楽しいだけの話じゃないようだ。

 どうやら皇子として僕に話さなきゃいけないことがあるらしい。


「何、テリー?」

「やはり、窓口にできる者を置くべきだと思う」

「利用されるのがわかっていて?」


 どうやら今日までに、ソティリオスの訴えを考えたようだ。

 僕の周りに人が少なすぎる。

 そして取り次ぎを担える者がいない。


 けどそう訴えるソティリオスにも、僕を利用しようという思惑がある。

 簡単に乗ってはいけないとテリーには釘を刺した。


「こちらとしても、専門の者を置くことであちらの動きを見ることができる」

「そうだね、そういう駆け引きはある」

「それに、やはりここは他国だ。帝国の側として物事を判断する者が必要でしょう」

「うん、そういう考えもある」


 僕はテリーの訴えを聞いて応じる。


 テリーもルキウサリアが、あくまで別勢力ってことはわかってる。

 敵対はしない、けど味方もしないってスタンスは入学前から言われてたし、僕とは利害関係があるから便宜を図っている状況だ。

 それもどれくらい長引くかなって感じになってるけど、ルキウサリア側からすれば、あまり引っ掻き回してほしくないのが実情だろう。

 だから窓口ができて、僕の行動を制御できるならしたい。

 そこはソティリオスと同じ考えだ。


「たぶん、兄上に個人的に協力する方はいるんだと思う」


 おっと、誰だろうと考えて返事が遅れたら、テリーがやっぱりって顔してる。

 これは半分かまをかけてきたな。

 一番にテリーが思い浮かべるのはディオラだろうか。

 けどディオラも立場的に僕に肩入れはさせられない。

 何せルキウサリア側が止めてるし、王女として国を裏切るわけにはいかない。

 僕だって故郷を裏切らせたいわけじゃないから、そこは距離を取るつもりでいる。


 それで言うとソティリオスは、利害が一致する限りはユーラシオン公爵家の不利益も少しは見ないふりしてくれる。

 とは言えそれにも限度はある。

 家を出ると言っても、ユーラシオン公爵家の傘下にいることには変わりない。

 そこを捨てると貴族ではなくなるし、そうなると王女であるディオラに求婚する権利さえなくすんだ。


「個人の範囲によるとだけ言っておこうか」

「うん、それは、私も、そうだから」


 おっとテリーが、私人と公人をわけるようなことを言ってる。

 これは成長というにはちょっと寂しい。


 何せテリーの場合、兄である僕を蹴落とすような形でしか身を立てられない。

 長子相続の中で第二皇子が立つんだから、僕とは本来対立関係だ。

 個人でなら兄弟として、テリーは兄の僕を尊重する。

 けど皇子としては、僕を後ろに下げさせるように動かないといけない。

 それを蔑ろにされてるとは思わないけど、いつかしっかりそういうパフォーマンスをしないと、いつまでも立太子が叶わない状況だ。


「テリーが嫌だと言うなら考えるよ」

「それをするべきは、私のはずだ」

「頼ってくれるのも嬉しいんだけどな」

「それだけだと、いつまでも兄上の背中を見るばかりになる」


 ちょっと苦しいように訴えるテリーは、力不足を感じるらしい。

 僕としてはいくらでも利用してくれていいけど、テリーはそれが嫌だという。

 その上で、隣に立ちたいなんて、これは慕われてると思っていいんだろう。


 だからこそ、テリーは子供扱いのままじゃ嫌だと言うんだろう。


「あぁ、うーん…………」

「兄上?」

「今日は、楽しいままで帰ってほしかったんだよ」

「十分楽しかった。それともこんな話、迷惑?」

「そんなことはない。テリーが考えて話を聞かせてくれるんだもの。もちろん僕のためにもって考えてくれてるのもわかる」

「うん、兄上忙しいって聞いて、それは自分で対処してるせいもあるなら、兄上を助けられる人はいてほしいんだ」

「そうだね。正直各方面への対処に手を取られてる。それにソティリオスからも最低限の人もいないってことを突きつけられたし」


 人数の話とかね。

 あれは僕がわかりやすく異常な状態を突きつけて来た。


 その上でテリーの提案はきっと皇帝である父にも諮られる。

 そうなると僕は拒否する権利はない。

 そもそも留学で学生扱いなんだから、公人である皇帝から派遣される役人を拒否するなんて無理な話だ。

 できることと言えば、お互いに折り合いつける話し合いの場を設けることくらい。


「テリーがそうしたいなら僕は止めない。けど、僕の側の都合の上で調整をする」

「もちろん。兄上のために人を増やすんだ。邪魔にならないようにしてほしい」


 ちゃんと報告しろだとか、言わないなぁ。

 そこはソティリオスとは違う。

 ソティリオスは自分がやれることはやるタイプだから、やってない相手には厳しいんだよね。


「実際問題、三年目が近づいてる。卒業も視野に入ってる。そんな状態で留学期間が終わったからと離れられない状況なのも事実だ」

「私が知ってる限りでも、兄上をこの国に留めたいという雰囲気は感じたよ」


 王城で何聞いたの?

 もしかして就活生について話したとか?


 なんにしてもテリーも、今の僕の状況を理解して、よりよくしようと考えてくれた。

 他人の思惑が、どうやってもまとわりつくことこそが問題なんだ。

 だったら準備の今から、テリーにも考えて選んでもらうのもいいかもしれない。


「テリー、君が僕に窓口を開けるほうがいいという提案を、僕は拒否できない」

「提案だから、兄上がいいならっていう話だよ」

「僕個人の話じゃないんだ。皇帝陛下の指示を受けて判断したテリーの提案を拒否できる理由が僕にはない。表向きはね?」


 まだテリーは皇帝の代理なんて名乗れない。

 それでも僕たちには皇子としての序列が存在する。

 それで言えば、弟たちは僕の上に位置するんだ。

 公人として発言をするなら、僕は口を挟める立場にない。

 そういう教育は、こうして見る限りテリーもされてないらしい。

 父が差別しないことと、僕が理解してること、そして妃殿下の優しさの結果だろう。


「だから、その件はテリーが考えて、いいようにしてくれて大丈夫だ。その時になったら僕は僕でいいように対処させてもらう」

「…………そう、だね。兄上なら、そうするんだろうね」

「うん、その上で僕からもテリーに提案がある。もちろん断っていいし、必要ないと言うなら僕は手を引く。だからまずは、自分でよく、考えて」


 前置きをした僕に、テリーは神妙な顔で頷く。

 だから僕は、テリーに東の派兵について、シャーイーが絡んでいることを伝えた。

 さらには勝てるように細工をした上で、情報も流す人員を用意できること。

 そして勝ちを拾って帝都へ帰ることで、立太子への弾みにできる算段があることを話す。


「…………それは、兄上が派兵の時にしたようなこと?」

「いや、あの時は本当にその場しのぎだったんだ。今回は事前に情報と人員が揃う。だからできるかなっていう、僕からの提案だよ」


 正直テリーの顔には疑問ばかりが浮かんでる。

 まぁ、どう聞いてもなんでそんなこと知ってるのって話だ。

 テリー自身に言うつもりはなかったし、交渉するなら息子を愛する父ではなく、立太子を狙うルカイオス公爵のつもりだった。


 僕からの提案を怪しんで断るには、入学前に立太子できるかどうかの状況だし、学生になれば三年は動けなくなる。

 その後にまた動くにしても、皇子として功績は欲しいはずだ。

 少しずつ公式の場に出ていても遅すぎるくらいだし、弾みがほしいのはルカイオス公爵も同じで、すでに僕が家族のための行動を惜しまないことは知ってる。

 そんな諸々の考えを飲み込んで、当人を蚊帳の外にするつもりでいたんだけどね。

 僕はただ、黙り込むテリーを静かに見守った。


定期更新

次回:変える頃合い1

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― 新着の感想 ―
そもそも窓口が誠実に働くかどうかすら疑問が上がる。予定を漏らす、情報を漏らすだけならともかく、嘘の報告をして陥れようとする人間の方が多いだろう。そして事件が起こった後の後始末って、たいていは事件起こす…
おそらくですが、窓口になり得る官は、今だとユーラシオン公爵家派閥やルカイオス公爵家派閥のものになる可能性が高くそこから情報が漏れる可能性が高くなること。そうなると事前に止められるってことも多くなるので…
窓口すら居ないから人入れようって話した直後に 派兵の裏工作しよう人員こっちから出すよって言われるの テリーからするとホントに意味不明過ぎて好き
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