18、織田兄弟
松平次郎三郎清康が息を潜めると同時に織田信秀の活動は活発になる。高田城の村瀬氏を降した信秀は佐久間左衛門尉に兵を与え、周りの城に睨みを利かせた。
自身は勝幡城で総指揮を執る。信秀の権勢は日に日に高まり、尾張の猛虎と呼び、恐れる者もいた。
新田開発により、米の収穫高は上がっており、秋の収穫は織田家の貴重な収入源となる。また貿易も充分に行い、堺や京の品も勝幡に入ってきていた。
信秀の大胆な改革には人材起用にも示されており、佐久間家の三男である佐久間左衛門尉を家老に起用するなど、若い者たちを積極的に登用した。また、寺社再興も進めており、寺社の修理にも乗り出している。
信秀の膨大な資金の余裕を見せ付けられる事業の数々。人々は信秀を名君と称えるようになっていく。
そんな信秀の裏に千代丸がいることはあまり知られていない。千代丸は確かに神童だが、織田家の内政全般に関わっているとは見なされていなかった。
しかし、それでも千代丸の神童は目を瞠るものがある。それに気づいたのは実の兄である虎松丸も同じであった。
「酒を造っているのか」
「御意。平九郎らに職人を集めさせました。百姓、町人の三男四男、暇な若者を集めておりまする」
兄・虎松丸は感心したように何度も頷いた。富を生み出し、アイディアマンの三歳の弟。有能な虎松丸はこの弟を高く買っていた。
「千代丸よ、そなたよくこのようなことをできるものだ。俺にはできぬわ。よく書を読むだけでなく、国を大きくすることを考えているのだな。まったく、お前という大器は底が知れぬ」
虎松丸は酒造所を見て溜め息を漏らす。弟がいくつもの事業を立ち上げていると聞いていた。もはや商人だ。家臣団の中では兄と違って有能な弟だと千代丸を褒める者もいる。虎松丸は弟と争う気はない。むしろこの弟の発想を面白いと感じていた。
虎松丸は決して愚鈍な男ではない。場合によっては弟に譲っても良いと考えていた。これ程の才を当主の弟としておくことは勿体ない。
「千代丸よ、我ら兄弟力を合わせ、御家を栄えさせようぞ。困ったことがあれば、この兄に申せ」
「はっ」
兄弟は笑い合う。織田家は繁栄の時を謳歌していた。