15-17 ギゴショク共和国 リュービ様は強か
リュービさんに連れられてカンチューの城で休む事一日。
サラクリムに会うのに何日掛かるんだろうか? と、思っていたのだが準備は出来ていると伝えると今日中にお会いすることが出来るらしい。
意外と暇なのか……? と、思っていたのだがサラクリムが王となった後も細かな政はリュービさん達三人の代表が取り仕切っているかららしい。
ただ、最終確認は必ずサラクリムを通さねばならないらしく、どれだけ時間をかけて事細かに練られた案であっても駄目と言われたら駄目だそうで……。
おそらくアインズヘイルとの同盟もサラクリムの一声によって破棄されたという事なのだろう。
そんなサラクリムが普段何をしているかといえば、午前中は腕自慢達がサラクリムに挑んでいるそうだ。
その腕自慢達がサラクリムを倒せばサラクリムは王の座から降りると約束をしているようで、リュービさん達の部下で腕に覚えのある者達は皆挑んでいるらしい。
ただ、大概はサラクリムの強さを前に二度目の挑戦は行わなくなるそうなのだが、カンウさんなどの武を誇りに思う者達が毎日のように挑んでいるとの事。
そして午後から俺の出番があるらしい。
クッキングバトルはギ・ゴ・ショクの三か所で行われており、それぞれの優勝者がカンチューへやってくると準備が出来た日の昼食として提供しているそうなのだが……誰一人として未だに満足させたことはないそうだ。
で、なんで俺がそんなことまで知っているのかと言うと……。
「それでですね。アインズヘイルとの同盟は我らがギゴショクにとってもありがたいものでして、特に物流に関しては感謝するばかりで……よいしょ。ふう」
目の前にいらっしゃるのはリュービさん。
無意識なのかどうかは分からないが、机の上におっぱいをのせて休憩をしだしたので話が全く入ってこない。
よいしょっ、でおっぱいを自ら持ち上げて机の上に乗せられたら見るよね?
服のデザイン的にブラジャーはつけていらっしゃられないせいか、机の上でおっぱいが力を抜いたかのようにふにょんってなってたらそりゃあ見るよね?
ふう、で楽になったのか俺の視線に気が付くと柔らかな笑顔を向けてくれたのだが、柔らかな笑顔で良いんですかね?
見たわね? と、睨まれてもおかしくないのに『どうぞどうぞ』と、肩を揺らさなくても良いんですよ!?
うーわー! ぷるぷるぷるんってしてる!
ぽよっぽよでほわほわですわ!
音は聞こえないはずなのに聞こえる気がするのはもしかしてそれこそが福音というやつだからですかね!?
しかもなんとカンウさんがこの場にいないんです!
サラクリムに挑んでいてこの場にはいないんですよ!
更にウェンディとシロはご飯を作りに&つまみ食いに行っていてアイナ達は昨日の夜カンウさんと鍛錬をしていたせいかまだ寝てるんです!
つまり! 俺を咎める存在がいないんですけどいいんですか!?
相変わらず桃のような濃い甘い香りを放っているのだが、その香りはもしかして谷間から? とか思って見つめていてもご本人も含めて誰も咎めないんですよ!
「わあ……お館様の目線も表情もやばぁいですね。まあそんなお館様でも愛してますけどね。勿論私はお館様の幸せを願っていますので告げ口なんてしませんよ」
そして俺に付いてくれているのは物分かりの良いシオン。
「まあ? これだけ役に立ちお館様のご意向を組める優秀な私には特別報酬を頂けると信じていますからね。具体的にはあのスープをお腹いっぱいになるまで飲ませてくれるとか? あ、お館様に一日中分からされるってのも……」
……流石はシオン。
物分かりが良く現金で自分に素直で大変よろしい。
ただ、ミゼラの為にも帰ってからスープは作るつもりだが、多分シロに匂いを嗅ぎつけられてお腹いっぱいになる前に飲まれそうな気がするぞ。
「うふふふ。使者殿は大変慕われていらっしゃるようですね」
「いやいや、リュービ様程では……。ショクでもリュービ様の帰還を心待ちしている方が大勢いらっしゃいましたよ」
「そうですか……。私も皆さんに早くお会いしたいですが、サラクリム王をどうにかしないといけませんからね……」
そうなんだよなあ……。
俺が上手くいったとしても同盟をどうにかしてもらうくらいしか出来ないだろうし、全て解決させるのであればサラクリムを倒す……って事しかないんだろうけど、非情な事を言うようだがそこまでこちらが危険を犯す義理はないからな。
俺は正義の味方や英雄と言う訳ではなく、ただの一般ピーポーでしかないからな。
隼人だったらサラクリムを倒してこの国を救うなんて事もあるんだろうけど、残念ながら国一つよりも俺はシロ達の方が大事なもんで。
数多くの武人が挑み、そして再戦する気も起きないような相手に挑むのはちょっと……。
まあ話を聞くとサラクリムは相手を軽く手玉に取るような感じらしく本気をだしていないらしいが、本気を出したらどうなるかは分からないからなあ。
「そういえば使者殿がお話していたスパイスなのですけど、恐らくはギのものかと思います。お肉に合うスパイスでそれでいて一般流通はしていないとなると、恐らくはアレで間違いないかと」
「あ、昨日軽くお話しただけなのに調べていただけたんですか? ありがとうございます」
昨日客室に案内していただいた際にさりげなく聞いてみたのだが、昨日の今日で教えていただけるとは助かるな。
「いえいえ。心当たりがあっただけですので。よろしければ私の方からソーソーさんにお伝えしておきます」
「いえ、よろしければ取り次いでいただければ自分で言いますが……」
そこまでお願いする訳にはいかないだろうし、取り次いでいただければそれだけで十分です。
「うーん……恐らく、使者殿では難しいかと……。ソーソーさんは今サラクリムに挑んでいますからね。多分、この後しばらくは機嫌が悪いかと思いますので……」
「おお……なるほど……」
ソーソーさん……武闘派なのね。
なんとなく統率者のようなカリスマ性があって周りの武人や知恵者が支えているようなイメージだったんだけど、武の人だったのね。
「あ、でもそれならリュービさんも厳しいんじゃ……」
「大丈夫です。仲良しですからね。それに私に怒鳴ったり冷たくしたら……」
「したら……?」
もしかして怒ると超怖いとか?
普段はおっとりぽよぽよで、おっぱいを見られても何も思わないけれど積もりに積もると爆発しちゃうタイプとかだったりします?
「泣いちゃいます」
「うわあ」
わあ……泣いちゃうんだ。
ある意味一番困る奴……。
そしてシオン、うわあとか聞こえてるだろうから思っても声に出さないでね?
「ずーーーーーーっと泣き続けます。謝ってくれるまでずーーーーーーっと傍で泣き続けます。寝所まで押しかけて泣き続けます。だからソーソーさんもソンケンさんも私にはとっても優しいんです」
「やばい人だぁ……」
わあ……すっごい迷惑……。
ある意味一番強い奴……。
しかもだからと言っているということは分かってやってるってことなのでは?
なるほど……人徳だけではなくトップである理由がちゃんとあるんだなあ。
そしてシオン? そんなやばい人を泣かせるような事を言わないでくれるかな?
この場合俺の傍で泣く訳じゃないよね?
シオンの傍でなら……いや、同室に迷惑がかかるな。
ところでその時カンウさんなんかはどうしているんだろう?
多分おそらくメイビー泣き続けるリュービさんの後ろで鬼の形相でいるんだろうなあ……。
「あはは……じゃ、じゃあお願いしてしまいましょうかね……」
「はい! 使者殿のご友人の牛串屋さんがまた美味しい牛串を出せるように頑張りますね!」
わあ……めっちゃいい子なんだけど、泣き続けるんだもんなあ。
気をつけよ……。一挙手一投足気をつけよ……。
「はあ……やはり、ですか」
「あら? カンウさんお帰りなさい。今日はどうでしたか?」
背後から声がしてびくっとなり、振り返ると見事なまでにボロボロなカンウさんの姿が。
なんというかその……あられもないというか、所々服がちぎれていて素肌が見えているというか手で隠してはいるのだが隠しきれていない所なども少々。
そんなカンウさんが横を通り抜けてリュービ様の方へと近づいていくのだが、後ろも……あ、はい見ません見てませんので一瞥ですくませないでください。
一応シオンが警戒態勢に入るので、無用な争いは止めましょう。
「……相変わらずですよ。遊ばれました。舐めた奴です。まあ、あの実力ならば分からなくもないですが……。ところでリュービ様? 私言いましたよね? 私がサラクリムと戦いに行く前にしっかりと何度も念を押すように」
「はい? なんでしたっけ?」
「この男に会う際は私も同席の時に、と。言いましたよね?」
……ま、まあお偉いさんだし、護衛もつけずに他国の男の部屋にやってくるのは、ね。
うん。俺も危ないと思う。
多分きっと俺だからとかじゃないと思うから、シオンは当然ですねと頷かないように。
すぐ誑すからとか言わないように。
「はい。言ってましたね」
「……では、なぜこの男の部屋にいらっしゃるんですか?」
「その理由が分からなかったからです。どうしてカンウさんがいる時でないといけないんですか? 私は使者殿とお話がしたかったんです」
「……少しくらい待てなかったんですか?」
「待てませんでした」
わあ……目尻の方がぴくぴくしていらっしゃいます。
カンウさんがイラっとしたのが手に取るようにわかるなあ。
「……次からは気を付けてくださいね?」
おっと、耐えた。
耐えましたよカンウさん。
そうですよね。泣かれたら困りますもんね。
「嫌です。使者殿とお話するのは楽しいので、次もまたカンウさんがいなくても訪れます」
……これは流石に怒られるやつでは?
そして俺が口を出す事も出来ないパターンでは?
「……っ!」
やっぱりそうだ!
キッと俺を睨まれましても……。
「カンウさんが終わったという事は、もうサラクリム王にお会いできるという事ですか?」
「いえ、今日はソーソー殿とソンケン殿も戦っていますのでまだかかるでしょう。一先ず私は着替えてきますが……」
「はい。私は使者殿とお話しています。いってらっしゃい」
「……」
にっこり笑って手をふりふりしていらっしゃるリュービさん。
……ここはカンウさんと一緒に部屋を出て戻るところでは?
「はあ……仕方ありませんね」
そういうと俺の横を通り過ぎて出て行く……のかと思ったら、何故か後ろからなにやら音がする。
……えっと、布がしゅるりと落ちるような音が聞こえて来たんですけど……。
「……こっちを向いたら切り伏せますよ」
あ、はい。
後ろで着替え始めたんですね。
流石に使者を切り伏せはしないとは思うが、ぶっ飛ばされそうではあるので大丈夫です。俺は馬鹿じゃないので見ません!
「ご主人様ー! 朝ご飯が出来ましたー!」
「あ、ウェンディ。分かっ――あ」
……前言撤回。
俺は馬鹿だったようだ。
あとシオン。爆笑しながらも守ってくれてありがとうな。
流石に平手打ちではあったものの武闘派じゃない俺には致命傷になりかねないので、ちゃんとスープはシオンの為に作るから安心してくれ。