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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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18/194

18(カイル)

「急にどうしたんですか?」


「いいから、だまって聞いていろ。」


訓練中だったのに急に呼ばれて謁見室の天井裏に連れて行かれた。

何が起きたのかと天井から謁見をのぞくと、小さな女の子がいた。


ぶかぶかのドレスで、骨だけのような細さの腕、落ちくぼんだ目。

パサパサになった髪に生気のない顔色。

すぐにでも死んでしまいそうな小さな女の子がそこにいた。


「…あれは?」


「王女ソフィア様だ。これから常時監視体制に入る。

 交代が入るまで、まずカイルとクリスとダナがついていけ。」


「「「はっ。」」」



あれが…あれが王女?嘘だろう?

クリスを見たら、クリスも目を見開いて驚いている。


どこがわがままな姫に見えるんだ?好き勝手してる?

そんなわけない。今にも倒れそうじゃないか。


どこに行くんだろうと思って天井伝いに追っていくと、

西宮の端の部屋についた。

こんな場所に何の用がと思ったら、

小さな部屋に入り寝台の上に転がると寝てしまう。


は?何が起きている?

ここで王女が寝ている間にダナさんから謁見であったことを聞かされる。


がりがりに痩せた栄養失調の身体にたくさんの虐待されたあざ。

王女なのに西宮の部屋に押し込められ、食事も満足にとれていない。

ドレスは陛下に会う時だけの一枚だけ。

洗濯も掃除も水汲みさえも一人でやっている。

とても信じられない。


そう思ったら、「だから証拠を俺たちが確認するんだ。」

は?七歳の少女が考えることか?逆に怪しくないか?

思わずそう思ってしまったことをすぐに反省した。


使用人の男が寝ていたソフィア王女を蹴とばして起こしたのを見たからだ。

ありえない。王女にそんな真似するなんて死にたいのか?

しかも、ソフィア王女自体がそれを怒りもせずに受け入れている。

まさか慣れているというのか?こんな状況を?


それからは驚きの連続だった。

陛下との食事会だというのにすべてが腐った食材でできている食事。

それを食べるように強要する公爵一家。

追いかけてきてまで王女に乱暴し、水をかけたイライザ嬢。


嘘だろう?あれが本当に公爵令嬢なのか?

国民を愛する心優しい公爵令嬢という評判はどこから来たんだ。

醜くゆがんだ顔で王女を罵っているのを見て、もうその頃には何も疑わなかった。


公爵家が王女のあの悪評を作り上げたのだと。


怒ることも無く濡れたドレスを脱いで、

何も食べていないのに寝台に入った王女を見て心が痛んだ。

俺は…辺境でいないものとされていたけれど、

何も食べずに寝るようなことは無かった。


こんな小さな王女が、こんな小さな体で孤独に耐えている。


今まで嘘に騙され、ハズレ姫だと思っていた自分をこれ以上なく恥じた。

王女を知りもせず、専属護衛の話をめんどうなことになったと思っていた。


俺は…王女を虐げる側にいたんだ。

知らなかったから仕方ないとは思えない。



次の日、やっと届いた食事が腐っていたのを何も言わずに捨てているのを見て、

我慢できなかった。ただ見ているだけなんてできなかった。


小さな籠に焼き菓子とミルク瓶を入れて部屋に置いた。

許可なくやってしまったことを怒られるかもしれないとは思ったが、

考えるよりも先に身体が動いていた。

一緒に監視していたクリスとイルも何も言わなかった。


王女は籠を見つけ、中に食料が入っていることを知ると驚いた顔をした。

何を思ったのか天井を見上げ、キョロキョロしたと思ったら、


「誰かわからないけど、ありがとう。おいしそうだわ。」


お礼を言われた。

動揺したのもあったが無言でいることができず、天井裏を一度叩いた。コツン

その音が聞こえたのか、王女がにっこり笑った。

弱弱しい笑顔だったけれど、笑ってくれたのがうれしくて、

このことで怒られたとしても食料を渡すのを続けようと思った。


王女が焼き菓子をつまんで、おそるおそるカリっと噛んだ。

美味しかったのか、へにゃりと笑ったのを見て、

俺は護衛騎士としてちゃんと王女を守ろうと決めた。


この国は陛下のおかげで安定している。

平民でもお菓子を買って食べられるほどに生活は豊かだ。

その陛下の孫である王女が、初めてお菓子を食べたような反応だった。


それからの監視は我慢の連続だった。

洗濯に行けば水をかけられ、突き飛ばされ、濡れたままま戻る。

部屋着はボロボロで、こんな服は平民だって着ない。


「一日に二度も食事をするのは初めてかもしれない。」


昼に食べ残した焼き菓子を美味しそうに食べる王女が

小さい声でそうつぶやいたのが聞こえて、涙をこらえきれなかった。


俺だけじゃなく、一緒にいたクリスも目に手を当てていた。

気持ちは定まった。

もう二度とソフィア王女を傷つけさせない。

ソフィア王女をこんな目にあわせたものたちを許さない。



寂しそうに眠る小さな小さな王女を一人にさせたくない。

天井裏から魔術をかけ、あかぎれの手を癒しながら心に誓った。



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