36
「この授業では魔術を基本から教え、演習していくことになるが、
ダグラス・テイラー。ソフィア・ユーギニス。ルリ・クレメント。
この三名は次回からは授業に出席しなくてかまわない。
個人演習場があるから、そちらを使って自習してくれ。」
「え?」
「悪いが、その三名は他の者とできることが違いすぎる。
基本から教えていく必要がある者と一緒にはできない。
自分の魔術を磨く時間に使ってくれ。」
「…わかりました。」
「問題ありません。」
「私もですか?わ、わかりました。」
カイルとクリスの師匠だというライン先生に教えてもらいたかったから、
期待していた分がっかりした気持ちになる。
ダグラスは顔色変えずに返事をしていたが、
ルリは自分も免除になると思っていなかったようで驚いている。
仕方ないから、カイルとクリスから教えてもらう時間にしようかな。
そう思って移動しようとし始めた時だった。
「んん?なんだぁ?お前たち不満そうだなぁ。
何か思うのなら言ってみていいぞ?」
ライン先生が話しかけた相手は、私の文句を言っていた令息たちだった。
「…いや、だって…ソフィア王女は魔力なしだって…。」
「魔力が無いから授業が受けられないなら、最初からそう言えばいいのにって…。」
「本当は魔術が使えないからなのに、そういう風にごまかすのは良くないと…。」
「ダグラスはわかるけど、他の二人は免除するのずるいと思って…。」
どうやら魔術の演習が受けられないから免除にしてもらったと思っているようだ。
ハズレ姫のソフィア王女は魔力なしという噂を信じているのであれば、
そう思ったとしても不思議ではない。
どう言ったら誤解だと伝わるかと思っていたら、ライン先生が私を見てにやりと笑った。
「そうかぁ。ソフィア王女は自分たちよりも劣っている。
そう思っているから、演習の免除は許せない、そう言いたいんだな。
どうしようか~これをわからせるには~そうだな~。
よし、一回模擬戦してみよう!」
「はい?」
「ソフィア王女、模擬戦は慣れているだろう?
こいつらも一回戦ってみたら、それで納得するだろうし。」
「それはそうかもしれませんが…わかりました。」
誤解を解くためにはそれが早いかと思い了承すると、
ライン先生は令息たちに向かってとんでもないことを言い出した。
「よし、じゃあ、ソフィア王女対君たち全員ね。」
「「「「はぁ??」」」」
「さぁ、準備して~十秒後に始めるよ~。」
え?もう始めるの?しかも全員と?
カイルがライン先生のことを厳しいと言っていた意味が分かる気がする。
一人ずつなら丁寧に相手もできるけど、四人一緒にとなるとそうもいかない。
仕方ないなと思い、令息たちと向かいあった。
「始め!」
「あ?」「ええ!?」「うわっ!」「嘘だろう!」
令息たちから驚いた声があがる。
いちいち相手していられないから、全員を円柱型の結界に閉じ込めてみた。
中から攻撃魔術を使えば自分に跳ね返ってくる。
一人目は雷で攻撃する前に消えてしまったようで、結界の中で呆然としている。
片手をあげて雷を放出させようとしていたようだが、
そのままでは精度が低すぎて近くにいた味方にぶつけていた可能性が高い。
二人目は水流で私を押しのけようとしていたようで、
結界の中に水があふれ胸の辺りまでつかっていた。
それだけの量を一度に出せるのはさすがA教室とも言えるが、
もし成功していたらかなりの衝撃なのだけど、わかっているのだろうか。
三人目は炎で攻撃しようとしていたために髪が焼けて大変なことになっている。
模擬戦とはいえ、炎が当たっていたとしたら、軽いやけどではすまない。
これは模擬戦の範囲をこえている。
四人目は光の矢を打ったのか、
跳ね返って来た矢を避けようとして避けきれずに腕をかすったようだ。
光を矢の形に打てるのは何度も練習してきたからなのだろうが、
もし私に刺さったとしたらどれだけ被害があるか想像できているんだろうか。
令息たちを結界で囲むか、自分の周りを結界で防御するか迷ったが、
これで正解だったようだ。
さすがA教室の者と思われる高度な魔術ばかりだったが、
不安定で暴発しかねないものだった。
結界で囲んでなかったら他の者に被害が出たかもしれない。
どうやら基本をおろそかにして気に入った魔術ばかり練習してきたように思える。
ライン先生が基本から教えていく必要があると言ったのはそういうことだろう。
「あーもう。手加減されてこれでは相手にならないな。
もう少し楽しめると思ったんだが、まぁ仕方ない。
お前たちもこれでわかっただろう?
差がありすぎるから同じ授業は受けられないって。
ソフィア王女、結界を解いてくれるか?」
「わかりました。」
四人の結界を解くと、全員がその場に崩れ落ちるように座り込む。
さすがに矢で腕を怪我した令息はそのままにできず、治癒をかけてあげる。
完全にはふさがれないが、痛みは無くなるはずだ。
「…あ。……ありがとうございます…。」
治されたことがわかったのか、令息は恥ずかしそうにうつむく。
それを面白そうに見ていたライン先生の目が、
四人を前にして鋭いものに変わる。
「お前ら…魔力なしだと思っていたソフィア王女にそれをむけて、
本当に魔力なしだったとしたらどうなったと思っているんだ?
相手は魔力なしだと思っていたのに、
自分が使える術の中で殺傷能力の高いものを選んだな?」
「「「「……。」」」」
「魔力なしの令嬢にそれを向けたらどうなるか。
わかっていて魔術を使ったんだとしたら最低だな。」
「「「「…。」」」」
「この三年間、まずは魔術を使うということがどういうことか、
きっちりわからせるからな。
間違った使い方をするような奴は俺が矯正してやる。全員わかったな?」
四人の令息たち以外にもライン先生の怖さが伝わったのか、
A教室の全員が黙ってうなずいている。
あーこれは。他の子たちを勉強させるために使われたかな。
そう思っていると、ライン先生が私に目くばせをしてくる。
「お前らはもう行っていいぞ~。」
「はーい。」
使われたことがわかっても、なんとなく憎めない。
不思議な魅力の先生だなぁと思いながら個人演習場に向かう。
「…授業が免除だと言われたり急な模擬戦で驚いたけど、
これでもうA教室のものはソフィア様がハズレ姫だなんて思わないだろう。
もしかしたら、あの先生これを狙ったのか?」
ダグラスがそうつぶやいていたけれど、
それを聞いたカイルは苦笑いで何も答えなかった。