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「俺は…俺自身の色が許せなかった。
ずっと汚れた子どもなんだと…生きていてはいけない者なんだと思っていた。
陛下から真実を聞いて…今までの苦しみはなんだったんだろうと思ったよ。
それでも…この事実を公表することが怖くて、色を隠した。」
「…カイルはそんなにつらくても、
お父様のことが好きなのね?」
「…認めてもらいたかったんだ。
他の兄弟のように、さすが俺の息子だって言ってほしかった。
事実を公表したら、後悔して謝ってくれるかもしれない。
だけど、もう二度と…親子にはなれない気がした。
事実をつきつけたら、辺境伯領の者すべてを責めなきゃいけないような気がして。
そうなったら、もう二度と向こうには戻れない…そう思った。」
「カイルはどうしたい?」
「俺はずっと自分自身を認められなかった。
こんな情けないところを姫様に見せたくなかった。
…王配になるとしたら、いつまでも隠すわけにはいかない。
俺は…王配になる資格あるんだろうか。」
椅子に座ったままうなだれて、さっきから私を見ようとしない。
それがじれったくなって、カイルのひざの上によじ登るようにして座る。
「…姫様?」
「私の色は好きじゃない?」
「姫様の色?…いや、姫様の色はとても綺麗だと思う。」
「カイルと同じ色よ?」
「…色は確かに同じ色だけど…。」
「私のお父様は愛人の命乞いをして塔に幽閉されたわ。
お母様は愛人を埋葬するために離縁してココディアに帰ってしまったわ。
実の娘があんな目に遭っていたことに気がついても助けてくれなかった人達よ。
…ずっとハズレ姫だと言われ育った。
お祖父様を陛下と呼ぶようにと言われ、嫌われているんだと信じ切っていた。
…そんな私は王女でいる資格ない?」
私とカイルとクリスはとても似ていると思う。
無条件で抱きしめてくれるような親からの愛を渇望している。
手に入らなかったものが欲しくて、どうしても捨てられなくて、
努力することで自分をごまかし続けてきた。
あきらめたふりしているけど、自分がみじめで、
気を抜いたら自己嫌悪に陥ってしまいそうになる。
だから、カイルが情けないというのなら、私もそうだと伝えたかった。
「そんなわけないだろう!
姫様の努力はずっと見てきている。
王女としての才能だけじゃない、この国を大事に守ろうと頑張っている。
誰よりも王女として、女王としてふさわしい。
一番近くで見てきた俺やクリスがそう思っているんだ。間違いない!」
「ね、同じだわ。
カイルの父親がどんな人でも、母親がどんな亡くなり方をしたのだとしても、
私が知っているカイルは真面目で優しくて努力し続ける人だわ。
王家の血や色だから王配にしたいわけじゃない。
隠したいなら、そのままずっと隠し続けていてもいい。
辺境伯の息子だから選んでいるわけじゃない。
カイルがカイルだから、ずっとそばにいて欲しいって思う。」
誰でもない、カイルだから選んだんだと言えば、ハッとした顔になる。
私を私自身を見てくれるカイルだからこそ、
同じだと言えばわかってくれると思っていた。
自分では変えられない過去がある。
それはもう仕方ないことだから。
辺境伯の事情はわかった。
それを公表したら起きるかもしれない心配も。
だけど、それでもこのわがままを受け入れてほしいから。
「私は最後までカイルにそばにいてほしい。
この国を女王として守りたい。
ココディアのいいようにさせるわけにはいかないの。
来週からココディアの第三王子が学園に編入してくるそうよ。
無理やりにでも私に婚約を承諾させようとしている。
私はカイルとクリスがいてくれたらそれでいい。
だから、他国の王子を王配にすることはしない。」
「ココディアの第三王子が…。」
「私を守って…くれる?」
ずるい言い方なんだと思う。
優しいカイルがこう言われて頷かないわけがない。
ついさっきまで落ち込んでいたはずのカイルが、
第三王子のことが心配だという顔に変わっていく。
きっと頭の中では来週からの対応を考え始めている。
「カイル?」
私を膝に座らせたままのカイルが、ひょいと私を抱き上げて、
カイルが座っていた椅子に座らせる。
その状態で跪くと、私の両手を取って不敵な笑みを浮かべた。
「…俺の事情が気にならないのならそれでいい。
ちょっと難しく考えすぎていたようだ。
約束したもんな。
ずっと姫様のそばにいるよ。
それが王配という形になるのなら、それも受け入れる。
俺を姫様の隣にいさせてくれ。」
「ありがとう。カイル。
最後まで…一緒にいてね。」
少しだけ罪悪感を持ちながら、カイルに抱き着く。
いつか魔女だった前世を打ち明けられる日が来たなら、
その時は許されないかもしれない。
それでもカイルとクリスにそばにいて欲しかった。