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王族以外の者の入場が終わり、広間は私たちの入場を待っている。
扉の向こうから騒がしい声がもれて聞こえてきている。
扉の前に立ち、広間に入場を知らせる声が響くと、
静まり返っていくのがわかる。
大きな扉が両側から開かれ、お祖父様が前を歩き、その後ろを私がついていく。
私の両脇には控えるようにクリスとカイルが並び入場する。
王族席について、お祖父様が中央に、私がその隣に立つ。
クリスとカイルは私たちの少し後ろ、両側に立った。
二人は騎士服なため、私とお祖父様を護衛しているようにも見える。
ただ、白の生地に銀の肩章、青の差し色に驚きの声があがる。
その衣装を見る者が見れば、
それだけで二人が王族としてその場にいることを許されているのだとわかる。
「皆の者、待たせたな。
これだけのものがそろうのもめずらしいが、収穫の女神も喜んでおいでだろう。
さぁ、収穫祭を始めよう。」
お祖父様の開始の挨拶に、広間中の貴族たちが喜びの声をあげる。
それが重なって、うおおおおおとうねりのように響いた。
その興奮が静まるまで、お祖父様が少し待って再び話を始める。
「今日はそれだけではなく、大事な話がある。
皆も今日は特別な発表があると聞いてきているだろう。
ここにいる…」
「ユーギニス国国王、私から話してもいいでしょうか。」
国王陛下であるお祖父様の話をさえぎるという不敬に、
広間中の貴族たちが声を上げたものをにらみつけるような目で見る。
だが、にらみつけられている者は全くそんなことを感じないように、
王族席の前にゆっくりと登場した。
白い王族衣装に金の刺繍が施されているハイネス王子の隣には、
濃い水色のドレスを着たイライザが寄り添っている。
濃い水色…おそらくイライザは青いドレスを着たかったのだろうが、
この国で王族以外のものが青い生地を使うことは許されない。
仕立て屋で青色のドレスを注文して断られ、
仕方なく濃い水色で我慢しているといった感じだろう。
お祖父様の言葉をさえぎったハイネス王子は不敬だと思っていないのか、
周りからの冷たい視線をものともせずに堂々としている。
「そなたはココディアの第三王子か。
儂の話をさえぎってまで話さなければならないことがあると?」
今までお祖父様の話をさえぎるようなことは、
お父様たち王子三人であってもしなかったはずだ。
それが他国の王子にされたとあって不機嫌さを隠さないお祖父様に、
ハイネス王子はへらへらと笑って答える。
「それはもちろん。
誤解されることのないように、俺から話したほうがいいでしょう。」
「ほう。誤解とは何だ。」
「俺が選んだのは、ソフィア王女ではなくイライザです。
同じ王女ならイライザのほうがいい。
俺が国王になる時に隣に立つのはイライザだ!」
「うれしいですわ!」
あまりの宣言に、広間中の貴族が騒ぎ始める。
それは喜びではなく、不満の声しか聞こえない。
だが、そんな声は聞こえていないのか、
イライザは満面の笑みでハイネス王子に抱き着いた。
「…イライザ。」
いったい何をどう誤解したらそんなことになるのだろう。
おもわずイライザの名を呼んでしまったら、にっこりと笑いかけられる。
あぁ、この笑顔は私を虐げるのが楽しくて仕方ないという笑顔だ。
罰を受けてハンベル領に追放になっても、本質は変わっていないというのか。
「ごめんなさい。ソフィアよりも私のほうがいいんですって。
ハイネス王子と結婚して私が王妃になるわ。
ソフィアは仕方ないから王族の一員でいていいわ。
また西宮にでも住めばいいんじゃないかしら。」
「イライザ、君はなんて優しいんだ。
何の役にも立たない従姉妹を追い出しもせずに、
最後まで王族でいさせてあげるのか。」
「だって、かわいそうじゃない。
ハイネスに選ばれなかっただけでもかわいそうなのよ?
追いださないで王宮にいさせてあげて?」
「そうか。優しいイライザのお願いなら仕方ないな。」
えええ。私を追い出す?また西宮に住ませる?
どれだけ不用意な発言をするのかと唖然としてしまう。
結婚するだけの発言だったとしたら、
また穏便にすませてあげられたかもしれないのに。
「ハイネス王子、言いたいことはそれだけか?」