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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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67(クリス)

姫さんの私室から出て行こうとするレンキン医師に声をかけ、

護衛待機室へと連れてきた。

幼少期に栄養状態が悪く成長が遅れていた姫さんは、

今でも定期的にレンキン医師の診察を受けている。


生まれつき人並外れた魔力を持っている姫さんは、

多少問題があっても魔力で何とかしてしまうところがある。

そうしないためにも定期的な検診は今後も必要になる。


「ソフィア様に問題は無かったが、何か気になるところでも?」


「いや、姫さんに何かあったと思っているわけではないが…。

 ハンベル公爵夫人が亡くなったって?」


「ああ。はやり病というわけではないのだが、

 発熱したと思ったら三日後には意識が無くなってしまったそうだ。

 季節の変わり目で身体が弱っていたのかもしれないね。」


イライザがココディアに送られ、そのことを知った公爵夫人はひどく嘆いたという。

そのことを聞いて半月過ぎた今日、公爵夫人が亡くなったという知らせが届いた。


そのうちハンベル公爵が亡くなった知らせも来ると思うが、

目の前の老人はしれっといつも通りの表情のままなのだろう。


「レンキン医師に頼みがあるんだ。」


「ほう。この老いぼれに王配になるクリス様が頼み事ですか。」


「毒の知識と医術を教えて欲しい。」


俺の頼みが意外だったのか、めずらしくレンキン医師は驚いた顔になる。

だが、それも一瞬で、真面目な顔になったかと思うと、

ひやりとした殺気を感じた。


「理由を聞いても?」


「姫さんが出産するのは早くても数年後…。

 その時にレンキン医師が近くにいるとは限らない。

 レンキン医師はあくまでも陛下に仕えている。

 陛下に何かあったとしたら、姫さんよりも陛下を取るだろう。」


「まぁ、それは否定しないな。

 私はあくまで陛下の医師だ。

 ソフィア様のことは大事に思っているが、陛下を優先するだろう。

 それに、ソフィア様が出産のとき、私が生きているかわからない。

 それもあるのだろう?」


口が悪いと自認していてもさすがにレンキン医師が高齢で、

その時に生きているかわからないという理由は言わなかったのに、

レンキン医師は自分でその理由を口にした。


「そういうこともある。

 …姫さんはある程度強いし、自分のことは自分で守れる。

 だけど、妊娠中はそうもいかない。

 妊娠中は魔力が乱れて使えるかわからないのだろう?」


「そうだな。魔力が強ければ強いほど、

 産まれてくる子の魔力が強くなる可能性が高い。

 クリス様との間もそうだが、カイル様との間の子であれば、

 間違いなく魔力が強い子が産まれてくる。

 そうなれば魔力は乱れて普段通りに使えるかはわからない。

 …ソフィア様が妊娠中無防備になるのは間違いないな。

 医術を教えて欲しいというのはそういうことか。」


「そうだ。レンキン医師に任せられるのなら問題ないが、

 もし万が一他の医師に任せることになれば、

 姫さんが一番無防備な状況で他人を近づけさせなければいけなくなる。

 それをさけるためにも、妊娠中から出産まで俺が診れるようになりたい。」


他人を警戒する姫さんは、今までレンキン医師以外に診察を受けたことは無い。

王宮に医師は他にもいるが、おそらく今後も他の医師に診せることは無いだろう。

それならば俺が医術を覚えればいいと考えたのだ。


「…医術の件はわかった。だが、毒の知識とは…。」


「姫さんが女王になった時、表から支えるのはカイルになる。

 俺は裏から支えることに決めた。

 陛下を裏から支えているのはレンキン医師だろう?」


王政を守り続けるのは簡単なことでは無い。

貴族たちの権利を守りつつ、力を制御していかなければいけない。

それは国王以外の王族もそうだ。

適正な管理をして、王族の数を維持していかなければいけない。


ダニエル王太子に子を作れなくする薬を処方していたのも、

ハンベル公爵の男性機能を無くす処置をしたのも、

公爵夫人を風邪に見せかけて殺したのも、すべてレンキン医師の仕事だ。


おそらく、姫さんが王太子になれば、ダニエル王太子も病死することになる。


カイルのように恋人として、王配として生きる道を俺は選ぶことができない。

なら、俺は裏側を支えて生きていこうと決めた。


「クリス様はソフィア様を裏から支える覚悟が?」


「ある。」


「ソフィア様はそれをご存じなのか?」


「いや、いつか気が付かれるかもしれないが、自分から言うつもりはない。」


「なぜ、そんな覚悟を。

 クリス様がしなければいけないことではない。

 普通の王配として支えていればいいだろうに。」


俺が普通の王配として姫さんを支えることはできない。

だが、レンキン医師にそれを伝えることはしない。


「俺は、姫さんとカイルが手を取り合って生きるのを、

 後ろから支えていくことが幸せだと思っている。

 だから、レンキン医師が陛下を支えるために学んだことを、

 俺に教えてもらえないだろうか。」


俺には男として姫さんを幸せにしてやることはできない。

それはカイルの仕事だと思っているし、俺がそうしたいとも思っていない。


それでも、この国を守ろうとしている姫さんを、

姫さんを幸せにしようとしているカイルを、大事に思っている。

二人を守るためなら人を殺すくらいためらわずにするだろう。


覚悟をわかってくれたのか、レンキン医師はため息をつきながら了承してくれた。


「週に一度か二度なら時間を作ろう。」


「ありがとう。よろしく頼む。」





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