最期の舞踏会は身勝手で幸せに
王子として生まれたさだめは、呪いのように俺を付き纏った。
俺を王座に上げるため、知らないうちにたくさんの人が死んでいった。
母上は強欲だ。
俺が全てを手にし、自分が王太后になることをずっと夢見ている。
周りは皆、俺を『王座に一番近い王子』としてもてはやした。俺に顎で使われることを喜び、馬鹿みたいにヘラヘラと媚を売ってきた。
ただひとりを除いては。
腹違いの妹の婿であった“彼”だけが、俺にそんな態度を取らなかった。
あれは妹の婚礼の夜の舞踏会。
端正な顔つきとは裏腹に、この世を捨てたかのような目つきで奴は言った。
「殿下は悲しい時ほど笑うのですね」
なんだこいつ。
俺をより憐れな奴が、俺を憐れんでやがる。
この男は国内一の美男だったが故に、自由を奪われて無理やり妹の婿にされた。
妹は根暗で変わり者。おまけに器量も悪い。
見初められさえしなければ、綺麗な奥方を娶って自由で幸せな暮らしができただろうに。
本当に可哀想な奴だ。
だがな、そんなお前に何が分かる。
俺の何がわかんだよ?
王座に一番近くて、恵まれた俺様のよ。
お前と俺とじゃ可哀想な奴ってぐらいしか共通点なんてないだろうが。
……いや、もしかして……お前だから“分かる”のか?
その日から、俺はお前のことが頭から離れなくなった。
笑っちまうな。
あれから色んなことがあった。
妹は死んだ。
俺が殺したんじゃない。母上が……いや、もうこの話はよそう。
俺はついに王位を継ぎ、すべてを手に入れた。
権力も、富も、誰も逆らえぬ立場も。
そして、お前の視線すら手に入れられるのだと錯覚していた。
その夜、祝宴の舞踏会が催された。
久方ぶりの再会。
奴は喪服を着ていた。
目は虚ろで不幸のどん底のように見えて、胸が痛むと同時にときめいた。
やっぱり俺たちは可哀想な者同士だ。
「よお、未亡人。あ、男にはなんて言うんだっけな……」
そう言いかけた瞬間、腹を冷たい刃が貫いた。奴に手によって。
「あなたの悲劇も、この国の歪みも私が終わらせてやる!」
奴は柄にもなく、涙を流してそう叫んでいた。
「ずっと……この時を、待ってたよ」
母の呪縛からも、王という檻からも解き放たれる日を。
そして、好きな人が、今だけは世界で一番近くで俺を見つめてくれる。
奴の手は震えていた。綺麗な顔がぐしゃぐしゃに歪んでいる。
……悪かったな。
もし生まれ変わったら、もうお前にこんな辛い思いさせないから。
今世だけは、俺が幸せで死ぬことを許してくれよ。