第26話 二人の捜索パーティー
俺達が道に出てタケルが大まかに方向を決めた。進む先に人が住んでいた町があるそうだ。俺とタケルは打ち合わせをしながら先へと進んでいた。
「ヒカル。この物流センターを抜ければ雑木林があるはずだ。そこを抜けて行こう、道路沿いはゾンビに遭遇する可能性が高いからな」
「いやタケル。邪魔なゾンビは俺が全て始末する。だから進み易い街道を通って行くといい」
「そんな事言って、また大量にいたら逃げられなくなるんじゃねえか?」
「大群に遭遇する前に、俺が分かるから問題ない」
「まあ、ヒカルが言うならそうなのかもしれないけどよ」
「何よりも急ぐんだ。トベはもう手遅れかも知れないが、ツバサやミナミまで失う事になる」
「わかった! じゃあ急ごう! ゾンビは俺が撃つから任せろ」
「いや、それも俺が何とかする。タケルは自分の保身の為だけにそれを使え」
「わかったよ、しかしヒカルは言葉覚えるの早いよな」
「まだ半々だがな」
「すげえよ」
時おり大きな敷地内にゆらりとゾンビがいるのが見えるが、気づかれないように足早に通り過ぎれば、気が付かれる事も無くそのまま進む事が出来た。しばらくして大きな建物の区画を抜け、雑木林の間を通る道に入る。
「しばらく進んで行けば、街が見下ろせるはずだぜ」
「空港との位置関係はどうなっている?」
「こっち側は正反対だよ」
もしかするとあの空港に居た盗賊に遭遇する可能性もある。それはそれで警戒の仕方が変わってくるのだ。あと歩いてみて分かったのは、タケルもかなり消耗しているという事だった。
「タケル…少しふらついているが、大丈夫なのか?」
「東京から帰って来る間に、水とクラッカーを補給しただけだからな。あの帰りの車の中で仮眠をとったけど、ほとんど寝てねえし正直限界っちゃ限界だよ」
「と言うか…俺はお前を誤解していた。お前は凄い奴だ」
「馬鹿いえ。仲間が参ってるんだ、これくらいやらなきゃ生き残れねえっての」
「無理はするな。どこかでお前の飲み水を優先的に補給しよう」
「俺に気を使うなってば」
「いや、お前はあの集団では頼りになる。腕が無くなってしまったのは厳しいが、それでもそこまで皆を思って動くのであれば強いさ。お前が参ってしまってはどうしようもない」
コイツは自分も歩くのがやっとだというのに、俺について来てくれたのだ。正直俺だけならば、むやみにうろつく事くらいしかできなかっただろうが、タケルがいる事でどっちに行けばいいのかが分かる。助かったのは俺の方かもしれない。
「なあ、ヒカルよ。車を拾った方がよくねえか?」
確かにそうかもしれない。俺は一人で動き回る事を想定していたが、タケルがついて来た以上はその方がいいだろう。しかもタケルがフラフラな状態であることを考えてみても、もし車が拾えるならばその方が良い。
「わかった」
そしてしばらく街道を下った先に一軒の建物が見えた。
「ありゃあ、ラーメン屋か。何か食いもんねえかな」
「とりあえず探ってみるか」
「だな」
そして俺とタケルが最初に見えた建物へと近づいて行く。気配感知で探ればゾンビがいる事が分かった。
「タケル、中に四体ゾンビがいる」
「マジか」
「マジカ? なんだそれは?」
「本当かよって意味だよ」
「本当だ。俺が先行するから、お前は後をついてこい」
「あいよ」
そして俺がその建物の入り口の扉を開こうとする。だが鍵がかかっているようで開かなかった。
「どいてくれ」
俺が横にどけると、タケルがガラスの中を覗いて言った。
「割ったらゾンビが来るかもしれないよな」
「そしたら俺が始末する」
「わかった。じゃあ割るぞ」
「ああ」
タケルが一本の腕で器用にジュウを掲げると、それをガラスに打ち付けて割った。そこから手を入れて中から鍵をあける。
「開いたぞ」
「よし!」
俺が先に入り気配探知で探るが、どうやらもっと奥の方にいるらしく、ゆっくりとこっちに向かって来るところだった。だがそこに扉があるので、それ以上は進んでは来ないだろう。
「くせぇ」
入った途端に異臭がした。これは恐らく肉か何かが腐った臭いだろう。
「ここはなんだ?」
「食いもん屋だよ」
「何かあるか?」
「どうかね。どう考えても腐ってるよな」
奥に入ると厨房のような所がある。タケルと俺はそこに入って探し始める。
「もう電気来てねえからな」
そう言ってタケルが銀の扉を開くと、より一層異臭が強くなる。
「ダメだ! 腐ってる」
「水はどうだ?」
「これは開けたやつだからダメだ。てかその辺に水が置いてねえかな?」
そして俺とタケルが内部を探すが、水の容器はどこにも無かった。
「やっぱそんな簡単じゃねえな」
「この奥に行って見るか?」
俺が奥の扉を指さす。その扉の向こうには既にゾンビが来ているらしく、ドン!ドン! と扉が揺れていた。
「ゾンビがいるんだろ?」
「問題ない始末する」
俺はジュウの細い部分を持って構え、ドアの取っ手を回して手前に引いた。するとそれに惹かれるように、二体のゾンビが入って来る。
「うお!」
タケルが焦っているが、俺は冷静に二体のゾンビの頭を潰した。
「行くぞ」
「しかしすげえよな」
「子供の頃から鍛錬しているからだ」
「鍛錬で…そんな風になるのかよ」
「なる」
そして俺が先行し中に入っていく。そこから先は通路になっていて、違う建屋に繋がっているようだった。通路のすぐわきの所に引き戸がある。
「そこが倉庫じゃねえかな」
タケルが言い、俺がその引き戸を開ける。
「荒らされてるぞ」
「誰かが持って行ったんだろうな」
「ならば、ここは用済みだな。これ以上探っても仕方ないだろう」
「だな」
そして俺達は元の食堂に戻って外に出た。必要以上に戦闘をする必要は無いので、俺はその建物を離れて再び街道を下っていくのだった。
「ヒカルも腹減ってんじゃねえのか? てかお前…そもそも腹は減るのか?」
「もちろん減るさ。俺も人の子だからな」
「そうなのか? 親とかいたんだ?」
「この世界じゃ子は親から生まれないのか?」
「いや、そういう事じゃなくて、なんつーか機械から生まれたとかじゃないんだ」
「キカイ? 良く分からんが俺は普通に母親から生まれたぞ」
「そうなんだな…、なんか俺は勘違いしていたかもしれねえ」
「そうか。だがそれは俺も同じだ。この世界の事を勘違いしているようだ」
「なるほどな。じゃあお互い様って事だ!」
「ああ」
更に雑木林の間の街道を話ながら進んでいく。こうしている間にも気配探知をし警戒は怠っていない。特にタケルはもう走る事も出来ないだろうし、ゆっくりと歩きながら先を見る。
「わずかだが建物がある」
俺が言うとタケルもそっちの方を見た。
「集落があるみたいだな」
「あそこに行って見るか?」
「よし」
俺とタケルは集落の方へと歩いて行く。
「この周囲にはちらほらとゾンビがいるようだが、問題になるほどじゃないな」
「マジかよ! こんな田舎にもゾンビがいるんだな」
「この世界は一体どうしたんだ? なんで生きている人間がおらずにゾンビがはびこってる?」
「ああ。ある日を境に一気に広がったんだよ。そしてあちこちゾンビだらけになっちまった。昨日まで家族だと思っていた者が、いきなり化物になったんだ」
ネクロマンサーの仕業にしては大規模過ぎる。これほど広範囲にゾンビの被害が出るなんて。
「何も対策はうたなかったのか?」
「ワクチンやらなにやらの話があったけどな、むしろそれに頼り過ぎて拡大したのかもしれねえ。いずれ誰かが何とかするだろうと、誰しもが思ってたからな」
そう言う事か。ここには聖女もマジックキャスターもパラディンも居ないのだろう。何もしなければそれは広がるに決まっている。
「車があるな」
「民家の軒先に置いてある車だから、鍵とかすぐ手に入るかもしれねえ」
「じゃあ端から見ていこう」
「おう」
そして俺達は最初の住居から侵入し、ゾンビが居れば駆除して中を物色していった。恐らくこのあたりの人間は最後まで籠っていたのだろう。そのせいで食糧などは尽き果ててしまっているようだ。
「とにかく丁寧に見ていくしかない」
「ああ」
そして次々に民家に侵入して、俺達は食料と車を探し続けた。すると角を曲がったところで、タケルが言った。
「RV車がある。あれはかなりいいぞ」
「車か。ならそこの民家に侵入するか」
「そうだな」
そして俺達が民家に侵入すると入り口は開いたままだった。俺達が入り口に到達すると、早速数体のゾンビが出て来た。恐らくはここの住人だったのだろうが、虚ろな目でこちらに来るゾンビを排除する。大人だけではなく子供もゾンビになってしまっている。
「いたたまれねえな…」
タケルがポツリといって俺が頷く。一体この国の王族や貴族は何をしていたのだろう? こんな平和そうな場所までゾンビだらけにするなんて、無能以外の何者でもない。
「鍵を探そう」
俺が言うと、タケルが頭を潰したゾンビのポケットを探っていく。俺もそれに見習って他のゾンビのポケットを探った。
「ないな」
「二階に行って見るか?」
「そうだな」
そして二階に上がり部屋の扉を開けると、ゾンビが一体こちらに向かって来る。俺がそのゾンビの頭を吹き飛ばし、部屋の中に入るとタケルが言った。
「あった! 多分これだ」
「よし! じゃあ行こう」
「ああ、その前に台所を見ていかねえか」
「わかった」
台所に行って辺りを探り始め、タケルが床に置いてある箱を見る。
「水だ! 未開封だぞ!」
「本当か!」
「ああ!」
どうやら水を見つけたようだ。そしてタケルが一本の蓋を開けて俺に渡してくる。
「お前が飲め」
「いやヒカルも飲んだ方が良い。俺を守ってもらう必要があるからな」
そう言ってタケルがにやりと笑った。
「そうか、そうだな」
そして俺とタケルはそこで水を飲み干すのだった。ずっと保存していたとは思えないほど新鮮な水に俺は驚く。
「他には無さそうだな。食料は腐ってるし」
「次の家をみるか」
「そうしよう」
そして俺達が外に出て車の側に行き、タケルが鍵を使って車の扉を開ける。
「よし! ドンピシャだ!」
「凄いな」
「まあ、メーカーで分かるんだよ」
「何か分からんがいい感じだ」
そしてタケルが何かを操作すると、車に火が入りブルブルと震えて動き出す。
「よし! 動く! 乗れ」
「わかった」
俺達は移動手段を変えて、更に先へと進むのだった。