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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第一章 違う世界
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第27話 食料調達

 俺は車の横座席に乗って、すぐに近くの民家へと向かう。そしてその家の前に車を停めて、また家探しをするのだった。あらかたその集落を回るが、めぼしい食料を見つける事は出来なかった。


「違う場所へ行って見よう」


「わかった」


 そしてつづら折りになっている雑木林の道を過ぎると、すぐに集落が見えて来る。その先に道の上になにか橋らしきものが架かっているのが見えた。


「タケル、あれはなんだ?」


「ありゃ、恐らく線路だな」


「あの側に留めてくれ」


「わかった」


 俺は車を降りて斜面を登り、その道の上にかかった橋の上に立つ。そしてさらに鉄塔があったのでその上によじ登った。そこから周りを見ると建物が密集している場所が見えた。すぐに降りて行って、車に乗り込みタケルにその事を告げる。


「密集してる方が効率がいいな」


「ああ」


 そして俺達は住居が密集する場所へと向かう。


「この辺で探そう」


「わかった」


 集落に到着し再び一軒一軒しらみつぶしに探していくのだった。だがなかなか食べられるものは見つからない。とにかくその辺をふらついているゾンビを倒しつつ、車を先に進めた時にタケルが叫んだ。


「うお! 手つかずの自動販売機があるぞ!」


 そう言って指さした先には、赤くて四角い大きな箱が置いてあった。


「ジドーハンバイキ?」


「恐らく飲みもんが入ってる!」


「そんな便利な物があるのか!」


 そして二人で車を降りてジドーハンバイキの側へと立った。だがタケルが残念そうに叫ぶ。


「クソ! バールとかねえし!」


「バール?」


「ああ、これを壊すのに必要だ」


 俺が周りを見渡すと、鳥を入れる囲いのような物が置いてあるのを見つけた。


「このジドーハンバイキを壊せばいいんだな?」


「そりゃそうだけど…車でもぶつけるか?」


「まて、あそこにあるあれはなんだ?」


「ありゃ、ゴミ捨ての時のカラスよけの金網ボックスだな」


「ゴミを捨てる? ならあれを使おう」


「使う?」


 俺はその金網の箱に近寄って指をかける。そこと赤い箱の射線上にタケルが居たので、手をかざしてタケルに言った。


「そこをどけ」


「あ、ああ」


 金網をグイっと持ってみるとそこそこの重みがある。どうやら鉄で出来ているようで、これならあれを壊せるんじゃないかと思う。


「推撃!」


 ズドン! 次の瞬間、金網の箱が赤い箱にぶつかり赤い箱がひしゃげて大破した。


「うお!」


 タケルがおもいきりのけぞるが、俺は赤い箱のもとに行ってそれに手をかける。


「剛力」


 バゴン! と蓋が外れて中身が露わになった。


「は、はあ。ヒカルよ…やっぱお前はスーパーマンだわ」


「スーパーマン?」


「まあこっちの話だ。とにかくこれで中身を取り出せるぞ!」


「全部持って行こう」


「よし」


 そして俺達は、その赤い箱の中身を全て車に詰め込んでいくのだった。これで水は確保できたとタケルが喜んでいる。後は食糧を見つけるのみとなったが、ここまでろくなものが無かっただけに、もっと違う場所に行く事を考えねばなるまい。するとタケルが小さな瓶の飲み物の蓋を開けて俺によこす。


「それで少しは力出るんじゃねえか?」


 それに口をつけた俺はびっくりした。何かシュワシュワするし、凄く甘くて体に力が入りそうな飲み物だった。


「はは、コーラだよ。初めて飲んだのか?」


「コーラ…おもしろいな」


 そして俺達は再び車に乗り込み、コーラとやらを飲みながら先へと進むのだった。しばらく進んでいくとゾンビの数も増えて来た。タケルが少し緊張しているようだが、俺はタケルを落ち着かせるように言った。


「数は昨日の空港ほどじゃないが、いちいち相手すれば時間がかかるだろうし、俺を建物の前で降ろして車を走らせ続けろ」


「ヒカルはどうすんだよ?」


「なんとなくこの世界の食料の感じがわかった。俺が潜入して見つけてくるから、タケルはこのあたりを適当に走ってるんだ。ゾンビに群がられる事の無いようにな」


「一人で大丈夫なのか?」


「…一人の方が大丈夫だ」


「は…ちげえねえ。とにかく気をつけろ、見つけたらどうやって合図する?」


「俺の方から車に行くから問題ない」


「ま、良く分からねえけど、ゾンビに会わないようにしていればいいんだな?」


「そうだ」


 そしてタケルは俺に言われたとおりに、少し大きめの建物の前に車を停めた。


「一応ここは雑貨屋みたいな場所だ。もしかしたら何かあるかもしれねえ」


 俺が車を降りてタケルに言う。


「行け!」


「わかった」


 俺を降ろしタケルが車を走らせていった。俺はとりあえず、その建物のガラスの部分に向けてジュウの底を叩きつける。バリーンと言う音と共にガラスが割れるが、それを聞きつけたゾンビ達がこっちに寄って来た。もちろんいちいち対応すれば遅くなるので、俺はそれを無視してすぐ建物に侵入した。


「なるほど」


 衣類や何か分からない物がいろいろ置いてあるようだ。だがここまで見て来た雰囲気からすると食料品はここじゃない。物品の間を縫うように走っていく。


「中にもいたか」


 俺はすれ違いざまに、ゾンビの頭を吹き飛ばし更に奥へと進んだ。だが物が多すぎて良く分からない。とにかく縫うように走り込んでいくが、ここはだいぶ荒らされているようだった。するとある一角の棚がきれいさっぱりない場所を見つける。


「無いか…ここは既に先客がいたようだ」


 俺はすぐさま来た道を戻り外に出る。タケルの車はいないが問題はない。俺はすぐに屋根の上に飛んで辺りを見渡した。


「いた」


 全く動いていない街で動いているのはタケルの車だけだ。俺は自分に身体強化を施して足の筋力を大幅に向上させる。思いっきり跳躍して前の建物の屋根へと飛び移り、更に次の建物に飛び移る。タケルの車まで一直線に進み、タケルの進行方向の前へと降り立った。


 キキィィィィ! と音を立ててタケルが停まる。


「あぶねえよ! 轢くところだ!」


「すまん。そいつは簡単に止まらないようだな」


「そうだ。でどうだった? あそこに食料はあったか?」


「残念ながら食料が置いてあるところだけきっちり無くなっていた。全体的に荒らされていたとは思うが、間違いなく食料は無くなっていそうだ」


「やっぱりそうか。だから俺達は都心部に取りに行ったんだからな、この先にあるでっかいショッピングモールはもう空っぽなんだよ」


「そうか」


 同じ要領でこのあたりの建物を見て回るが、このあたりには食糧がありそうにない。そして俺はふと疑問に思った事をタケルに尋ねる。


「そういえば、この世界で食糧ってどうやって作られるんだ?」


「まあ、ほとんどが輸入だよ。だけど…そうか…、畑に何か生えてねえかな?」


「ハタケと言うのは、食糧を作る所か?」


「そうだ。店にはないかもしれんが、自生している野菜とかがあるかもしれねえ」


「そこに向かえるか?」


「ああ、だだっ広いから動いてるとゾンビに見つかりやすいけどな」


「その時は俺が何とかする」


「まったく、ヒカルは心強いよ」


「タケルが車を動かしてくれるから物が運べる。だからゾンビは俺に任せろ」


「よし! いくか!」


 そしてタケルは建物が密集している場所から、車を違う場所へと走らせるのだった。雑木林の間を抜ける街道を進んでいくと、だたっぴろい土地へと出た。そしてタケルが言う。


「この辺は田んぼだな。米を作る畑だ」


「食料を作る所か? ハタケと言うのだな? 何も生えていないようだが」


「刈り取られてしまった後の冬に、こんなゾンビの世界になったからな」


 なるほど。どうやら畑の食料は収穫された跡らしい。何処まで行ってもそんな風景が続いていた。


「お、畑だ!」


 タケルが言うので俺は車を止めるように言い、気配感知を発動してみるが付近にゾンビはいない。


「ゾンビはいないぞ」


「よし」


 タケルも車から降りて来て、畑に足を踏み入れて辺りを探してみる。


「ダメか…畑にならと思ったんだがな」


「まだ諦めるのは早いだろう、次の場所を探してみよう」


「そうだな! わかった! 行こう」


 そしてタケルと俺が車に乗り込み畑を探して進んでいくのだった。だがそれから数か所の畑を回ってみるも、ほとんど生えておらずあっても腐っているものがほとんどだった。


「くそ! どこにもねえ!」


「ハタケは無理があったか…。そろそろ陽が暮れてきたようだな」


「夜んなったら見えなくなるぞ…」


「やはり建物の内部を探すしかないか」


「そうかもしれねぇ…、あれ? まて! まってくれ! あれを見てくれ!」


 タケルが指さす方向を見ると、ぽつりと大きな建物が建っているのが分かる。


「あれがどうかしたのか?」


「あれはこの国の農業の機関の建物なんだよ」


「…なるほど。ノーギョーと言うのは作物を作る事だな?」


「そうそう! あそこになら何かあるかも知れねえ!」


「そうか! 良し! 入ってみよう」


「おう」


 そしてタケルはその敷地内へと車を進めていく。辺りにはタケルが言う田んぼしかなくゾンビの姿も見当たらない。


「けっこうトラックが停めてあるな、あれは全部仕事用のやつだ」


「トラック」


「そうトラックだ。で、ヒカル。ゾンビはどうだ?」


「この建物にはいない」


「よし! 行こう!」


「ああ」


 そして俺達がその建物の中に入っていく。しかしその扉は堅く閉ざされており簡単には開かないようだ。


「シャッターが上がらないな…」


 タケルが扉の下を押さえて上にあげようとしているが、びくともしないようで尻餅をついて息を吐く。そろそろ体力的に限界が来ているのだろう。


「はあはあ。無理だ…」


「俺がやる」


 そのまま身体強化と剛力を自分に施し、その下に指をしのばせて思いっきり持ち上げた。グキュィー! という変な音と共に、俺が持ち上げた部分だけひしゃげて人が通れるようになった。


「入ろう」


「すげえな…、シャッターとかヒカルにかかったら意味ねえ」


 そう言いながら中に入るとタケルが驚いたように言う。


「おいおい…あれ米じゃねえか…」


「コメ?」


「食料だよ…」


「本当か?」


「ちっと待て」


 俺達の目の前には山高く積まれた袋が所狭しと積み上げられていた。そしてタケルがそれに近づいて、低いところに置いてある袋の封を開ける。するとサラサラとそこから小さな粒が流れだして来た。


「すげえぞ! 脱穀してないけど米だ! 脱穀すれば食えるはずだ」


 ようやく食い物を見つけたようだった。


「よし、これを持って行こう」


「ヒカル。トラックを盗んでこうぜ」


「なるほど、荷物を積み上げられそうだな」


「鍵を探すぞ」


「わかった」


 そして俺達は再び構内をさまよう。すると机や椅子が大量にある部屋へとたどり着いた。


 するとタケルが言った。


「きっとこの辺だ」


 なるほどそういう事なら俺はだいたいの場所が分かりそうだ。昨日トレーラーを奪取した時にも、似たような場所を探したからだ。そしてすぐに壁に設置された鉄の箱を見つけた。


「タケル! 恐らくこれだ」


「鍵がかかってんのか…」


「任せろ」


 俺はジュウの底で思いっきりその鉄の箱にたたきつける。


「開いたぞ」


「お、すげえ! 鍵を探す能力もあんのか?」


「これは昨日体験したからな」


「はは…昨日…ね。とにかく全部持っていって合うヤツを探すぞ」


 そして俺達は外に行くと、タケルが言った。


「ナンバープレートの文字が書いてあるからすぐにわかりそうだ」


 ヤマザキと同じことを言っている。そしてタケルがトラックに乗り込むと、すぐにトラックが振動しだした。どうやら鍵は合っていたようだ。


「動く! コイツが一番燃料が多そうだ!」


 タケルはそれを倉庫に近づけていき、後ろの荷台の部分を壊した入口へと付ける。全くこの世界の人間は皆、車の操作が上手いもんだ。


「タケルは腕が一本だ。俺が運んでくるから待っていろ」


「す、すまねえな」


 そして俺は中に入り、茶色の袋に入った食料を十袋ほど持ち上げて入り口に運ぶ。そしてひしゃげた入り口の穴から一つずつ外に出した。


「随分軽そうに持つな」


「実際軽いぞ」


「ははは…軽いって…、これ一袋三十キロあるんだぞ…」


 それから三往復程して米をトラックに積み込んだ。外はすっかり陽が落ちて暗くなり始めていた。早く戻って皆に食料を食べさせないといけない。


「あとさっき入手した飲み物をつもうぜ」


「わかった」


 さっき入手した飲み物を、小さい車からトラックに全て積み込んだ俺達は出発する。とにかくギリギリ間に合ってくれることを祈って、俺達のトラックは闇の中をひた走るのだった。

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