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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京
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第63話 自信を持て

 女と同じ部屋で寝るなどという不慣れな事をして、結局一睡もできなかった俺は先に体を起こす。するとそれに気づいたミオが目覚めてしまった。


「ミオ、もう起きたのか? まだ寝ていて良いんだぞ」


「でもヒカルはどこかに行くんでしょ?」


「下の階だ」


「何をしに行くの?」


「十分体は休められたからな。俺は下の階に行ってバリケードを作りに行く」


「なら、私も行く」


 俺の体力ならいざ知らずミオに出来る事はないだろう。しかも疲れているのだから無理をすることはない。俺はミオに休むように言う。


「いや。重いものを大量に運ぶんだ。無理だろう」


「でも、何をどうするか見てみたいの」


 確かにそれを見る事は大事だ。拠点を構築していくうえで、彼女がその工程を覚える事は悪くないだろう。これから生きていくうえでも必要不可欠ではある。


「なら皆を起こさないようにそっと出るぞ」


「うん。ちょっとデニムパンツに変えるからまってて」


「わかった」


 ツバサを起こさないようにそっと動き始める。そしてミオが俺に廊下で待つように言った。俺が廊下で待っていると、ミオがズボンを履き替えて出て来る。


「それも部屋にあったのか?」


「どこの誰のかは分かんないけどね。動きやすいんだ」


「動きやすいか、いい心がけだ」


 俺がミオを連れて部屋の外に出ると、ミオは部屋に鍵をかけた。


「鍵。あったのか?」


「あったよ。多分合鍵だと思うけど」


「それはいい」


 そして俺達は部屋を後にした。階段に差し掛かった時、ミオが俺にペットボトルを渡してくる。


「コーヒーだよ」


「すまん」


 俺がペットボトルの蓋を開けて飲み始めると、ミオも同じものを飲み始めた。そしてミオがしみじみと言った。


「朝にコーヒーなんて、学校行ってた時は飲まなかったのに」


「目が覚めるんだろ?」


「思い込みかもしれないけどね」


「いや、確かに目が覚めるぞ」


 コーヒーに蓋をして俺達は階段を下りていく。俺がミオに言った。


「まずは十一階にバリケードを、そして居住空間のすぐ下の十九階にも作る」


「わかった」


 俺達が十一階に着くころ、暗闇から薄っすらと外が色づき始めたようだ。


「少しは寝れたのか?」


「うん。だけどほとんど寝てないかも。なんか寝ていられなくて」


「無理はするな」


「うん」


 そして俺が向かった先は、十一階にあるオフィスだった。そこにはゾンビが居なかった為、上がってくるときに足を踏み入れていない。扉の鍵を斬って中に入る。


 中を物色していると、外が薄っすらと紫色になって来た。


「ここ…」


 ミオが何かを見て言う。


「なんだ?」


「ここって、芸能事務所だったのかな?」


「芸能事務所というと踊り子や役者の会社か?」


「そう。タレントの写真がいっぱい飾ってあるから」


 そう言ってミオがきょろきょろと見渡した。


「やっぱり…すっごい綺麗な人」


 ミオが立ち止まって、壁に貼ってある女の写真を見ている。


「そいつは有名なのか?」


「いろんな映画に出てた女優さん。主役級って言うのかな? そう言う感じの人だよ」


 そう言われて俺はその写真を見た。


「まあ確かに綺麗な女だな」


「ヒカルから見てもそう思うんだ?」


「まあそうだな。俺の世界の綺麗な女とはまた違うようだが」


「そうか。綺麗な人、居たんだ?」


「そうだな」


 俺がエリスを思い浮かべていると、ミオが何かを思うように黙ってしまった。とにかく作業を始める為に声をかける。


「まずはこの部屋の物を運び出す」


「うん! そうだね。見てるだけだけど、運べるものがあったらやるね」


「まあ見ていてくれ」


 そして俺は下の階層に作った時と同じように、コピー機を運び出した。そして次に個室にあるデカい机、そして会合などに使われるであろう長い机を運び出す。


「どうやったら、そんな力を身につけられるの?」


 唐突にミオが聞いて来る。


「そうだな…、俺は物心ついたころから戦闘訓練や鍛錬を積み重ねていた。毎日毎日、あくる日もあくる日もな。晴れの日も雨の日も、雪の日も朝も昼も夜も関係なく戦闘訓練をしていた。そうしているうちに、俺に特別な力が芽生えたことを知ったんだ」


「特別な力?」


「英雄の力。勇者に備わると言われている力だ。魔力と気力と精神力をいくら極めても、その力だけは誰も身に着ける事が出来ない力らしい。世界で俺だけが身につけられる力だった」


「そんな力があるの?」


「そうだ。それが無ければ魔王を倒す事が出来ないという力だ。今となっては、その魔王とやらはその星そのものの核だったと知ったがな」


「…って事は、ヒカルには星を壊す力があったの?」


「そう言う事になるな。俺自身が何かの鍵だったのかもしれない、だから俺はこの世界に飛んで来てしまったんだろう」


「面白い考え方をするね。それが向こうの世界では一般的な考え方だったの?」


「いや…それも特殊だ。なぜか俺だけが分かってしまった力だな」


「何かの…鍵か…。でもその扉を開けてこっちの世界に来たんだよね」


「そういう事になるな」


 俺はミオと話しながらも、黙々と作業を続けていく。事務所内には大きな冷蔵庫もあったのでそれも持って行く。この事務所の中にはテレビもいっぱいあるようで、わざわざ電気屋から持ってこなくても良かったかもしれない。


「ふぅ」


「やはり疲れたろう。ミオは寝ていないのだ、そこに座っていろ」


「大丈夫。見ていたいの、ヒカルがする事」


「…そうか。良い心がけだ。俺もどんなに疲れてもどんなに打ちひしがれても、毎日戦闘訓練を続け実戦を続けていた。その積み重ねが今の俺だからな。ミオも何かを得ると良い」


「うん」


 そして俺は少しずつバリケードの構築をして行く。するとミオが言った。


「なんか、ブロックしてるみたい」


「ブロック?」


「そう言うおもちゃよ。テレビゲームでもそんなのはあるわ。無造作に置かないで考えて置いているのね?」


「それでなくては、簡単に乗り越えられてしまう。そして俺達が通る時は通りやすいように仕掛けをしているんだ」


「面白いね。そう言うのも学んだの?」


 なるほど。こう言う事はやったことがないのだろう。


「向こうの世界で、ダンジョンという地下洞窟や神々の塔があってな、そこにそういう罠や障害物がいっぱいあったんだよ。それらを攻略していくうちに覚えたんだ」


「なるほど。今度は仕掛ける側って訳か」


「まあ、ゾンビ相手にここまでするかとも思うが、念には念を入れておいた方が良い」


「わかった」


 そしてあらかた積み上げた頃には、外は明るくなっていた。俺達はさっきの事務所に戻りペットボトルのコーヒーを飲みながら外を眺める。今日も天気が良くなりそうで何よりだ。


 ミオが俺に聞いて来た。


「昨日さ。ゾンビ、いっぱいいたんだよね?」


「そうだな。千葉や茨木とは比べ物にならなかった」


「ヒカル。すっかり地域まで覚えちゃったんだね」


「そうだな。皆が話している事はほとんど覚えている」


「戦う強さだけじゃなく、頭も良いなんて凄いよ」


「頭を使わないとすぐ死ぬ冒険をしていたからな」


 するとミオが自分の事を語り始めた。俺は俺の事より、みんなの事が聞きたいと思っていた。二人きりになった今は、いい機会かもしれない。


「私ね留学したり、学校で数か国の言葉を学んだりしたんだよ」


「留学とは、他の国に行って学ぶ事だったか?」


「そう。それで見識を広めたつもりでいた。だけどこんな世界になったら、何一つ役に立たない事が分かったの」


 そうだろうか? ミオの能力のおかげで俺は助けられたような気がする。俺がこの世界に降りてきた時に、俺の会話を朧気に理解してくれていたのはミオだ。そのおかげで俺は、かなり速く皆に溶け込むことが出来た。


「無駄などと言う事はない。むしろ大いに役立ったと思うぞ」


「そんなことない」


「いち早く俺を理解してくれた。それで十分じゃないか? 今はこうして新しい道を探っている。ならばそれは役に立ったと言う事だ。あまり自分の能力を過小評価するものでは無いぞ」


「そうかな?」


「そうだ。既に十分に役に立っているのだと思えばいい」


 少し間を置いてミオが返事をした。


「…うん」


 どうやらミオはいろいろ自信を無くしているようだ。俺達が窓から目を逸らし、また室内を見るといろんな人の写真が壁に貼ってあった。それを見てミオが言う。


「ほら、すっごい綺麗な人ばかりでしょ?」


 そして俺が、その写真とミオを見比べてミオに言う。


「ほら、まただ」


「なにが?」


「自分を過小評価するのはよせ」


「どう言う事?」


「ミオはその写真の女達にもひけを取らないじゃないか?」


「えっ?」


「鏡をよく見ろ。ミオは綺麗だ」


 俺がそう言うと、ミオが顔を真っ赤にした。そんな反応は意外だった。俺がエリスにそんなことを言う時は、必ず茶化されたり馬鹿にされたりした。だがミオはただ恥ずかしがって下を向いている。


「すまん。そんな恥ずかしがらせるつもりは無かったんだが」


「ううん! 違うの! ちょっと恥ずかしいけど…」


「なんだ?」


「ありがとう。お世辞でもヒカルの言葉は嬉しい」


 やはりミオは自分が分かっていないようだ。俺がはっきりと告げる。


「ミオは美人だ。俺は忖度はしない、見たままを言う」


「う、うん。どうも…」


「だから自分を卑下するのはやめたほうがいい」


「わかった。気を付ける」


 そう言ってミオはまた外を見る。そしてミオが眼を凝らし始めた。


「あれ?」


「なんだ?」


「隣りのビルで何か動いている」


「ああ、ゾンビだ」


「そうなんだ…」


「あのビルはここより多い。だが俺達の居住区は高いからな、アイツらに見つかる事も無いだろう」


 俺とミオが見る先のビルでは、ゾンビがウロウロしているのが分かる。だが距離があるためか、俺達に気が付く事は無いようだった。


 俺はミオに言う。


「ここは安全だ」


「わかった」


 そして俺は壁の写真を見ながら言った。


「ミオも女優とやらになれたろう」


「えっ! 無理無理無理!」


 言ってるそばから卑下している。だがミオはこういう性格なのだ。俺は無理にそれを変える必要はないのかとも考える。ミオはとにかく凄いのだから自信を持ってもらいたいと思った。だがそれはもしかしたら、俺自身のエゴなのかもしれなかった。


 事務所の向こうの廊下から人の気配がした。その気配はゆっくりとこっちに近づいて来る。気配感知で俺には誰が来たのか分かっていた。


「あ! いたいた!」


 入って来たのはユリナとマナとミナミだった。昨日の夜は別の部屋でゆっくりと眠ったらしく、三人は大分回復したようだ。


 するとマナが言う。


「こんなところで、二人きりでなーにしてたのかな?」


 俺が答えた。


「第二バリケードを作っていた。既に完成したので、次は十九階だ」


 だがその答えに三人が顔を合わせて笑った。またマナが言う。


「なーんだ。二人でイチャイチャしてたのかと思ったよ」


 だがミオが慌てた様子で答えた。


「イチャイチャなんかしてないしてない! バリケードづくりを見させてもらってたのよ!」


「慌てちゃってぇ! 美桜可愛い!」


「もう!」


 ミオは三人の間を抜けて廊下に出て行った。そして俺も上に上がるために廊下に出て行こうとした時、マナが俺に言って来た。


「ミオ。本気だよ?」


 意味が良く分からないが、なんとなく言っている事はわかる。


「ああ、本気で生きようとしているな。だから俺の作業を見に来たんだ」


 俺の答えに三人は呆れたような顔をした。何故そんな顔をするのか分からないが、俺は十九階のバリケードを作りに行かなければならなかった。


「そう言う意味じゃないんだけどね…」


「今度は十九階に作るが、三人で見学するか?」


 すると三人は少し考えて、今度はユリナが答えた。


「そうね。勉強の為に見せてもらおうかな。あれって上から降りてくるときは越えやすいのね」


「そうだ。やり方を教えよう」


 そう言って俺は三人の間を抜けて廊下に出る。三人は俺の後を付いて来るのだった。

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