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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京
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第69話 殺害現場に戻る

俺達が拠点に帰ったのはまだ暗い朝方だった。日の出まではまだ時間があり、皆が寝静まっていると思っていた。だが俺がミナミを背負って部屋に到着すると、すぐにヤマザキとタケルが起きて来る。


「すまんな起こしたか?」


 ヤマザキが答える。


「いや大丈夫だ。ヒカルもミナミも無事か?」


「いや、ミナミがかなり消耗している」


 俺はミナミをソファーに連れて座らせた。


「横になれ」


「うん」


 タケルが心配そうな表情をして聞いて来る。


「何かあったのか? 」


「そうだ」


「ゾンビの大群がいたとか?」


「それはいたが問題にはならなかった。ゾンビじゃなく人間と遭遇したんだ」


 ヤマザキとタケルがハッとした表情を浮かべ俺を見た。


「なんだと!」


 ヤマザキが俺の方に身を乗り出してくる。俺がミナミをチラリと見ると、ミナミが力なく頷いた。もう話す気力もないようで、ボーっとした眼差しで俺を見つめている。


「パトカーと護送車がいたんだ」


「なに? 警察が居たのか?」


「それも、今となっては分からない」


 俺の言葉にヤマザキとタケルが目を合わせる。そして今度はタケルが聞いて来た。


「分からねぇ? てか、その人間に聞きゃいいだろ? 何処にいるんだよ?」


「殺した」


「「!!」」


 ヤマザキとタケルが絶句した。やはり国の機関の人間を殺したとなれば、重罪なのかもしれない。だがあの場合どうしようも無かったし、あれらが国の為に働いているとは思えない。


「六人いたが、全て殺したんだ」


 タケルが食い入るように聞いて来る。


「わからねえ。なんで警察を殺す必要があったんだ?」


「ミナミを殺そうとしたからだ」


 するとヤマザキがミナミに向かって聞く。


「そうなのか?」


「うん。銃を撃って来たの」


「どこか怪我をしたのか?」


「ううん。ヒカルが守ってくれたから、弾は全部ヒカルにあたったと思う」


 ヤマザキとタケルが俺の体をジロジロと見る。


「なにもなっていないようだが?」


「能力で防いだ。相手が躊躇なく撃って来たからな。一歩遅れていればミナミが怪我をしていただろう」


「そうなのか…。しかしなんで警官が撃って来たんだ?」


「わからん。ミナミを渡さなかったからだろう」


「警官を殺したか…」


 ヤマザキが難しい顔をして腕を組む。


「まずかったか?」


「平和な世界だったら大問題だな。恐らく全国ニュースにでもなるだろう、いや世界的なニュースになるかな。でも、どうだろう? 今のこの世界でそれがどうなるのかは、全く分からない。法律なんて機能していないし、そもそもが警官から発砲してくるなんてな」


「普通は発砲しないのか?」


「まあ、そうだな。よっぽどの凶悪犯罪ならあり得るだろうがな」


「そうか…」


 俺達が話していると、横になっていたミナミが起き上がって言う。


「あれが警察かどうかはわからないよ。もちろん違うとも言えないけど、制服を着ているだけで警察官だと判断するのは違うかも」


 それにヤマザキが答えた。


「そうだな。制服を着てパトカーに乗っていたら、警官だという概念は平和な世界だったからだ。銃を発砲してくる奴らが何者かは分からんな」


「うん。そしてヒカルは絶対に悪くない。正当防衛だし、ちゃんと相手に警告したもん」


 それを聞いてタケルが言った。


「うんうん! そうだろうよ! ヒカルが無差別に人を殺すわけがねえ!」


 俺はもう一つ気がかりなことを伝える。


「そして奴らはゾンビを運んでいた」


「「なに!」」


「尋問して聞きだしたのだが、そのゾンビを使って生き残った人間の拠点を襲わせるらしい」


「「‥‥‥」」


 ミナミが付け加えて言う。


「なんか、空港を襲った奴らの仲間らしいの。別動隊のような感じだったけど、空港を襲った事は知っていた」


「やっぱな! ヒカルはそれでやったんだな?」


「まあ、そうだ。ゾンビを運んでいる時点でおおよその察しはついた。俺はドウジマの仇を討っただけだ」


「ありがとうよ! ドウジマさんが生きてたら、やれって言ったさ!」


「ああ」


 外が少しずつ明るくなってきた。安心したのかミナミがウトウトし始める。


「ミナミ。今日は俺のベッドで寝ろ、今、皆を起こす事はない」


「いいの?」


「問題ない」


 俺がソファーに行ってミナミを抱き上げ、隣りの部屋まで歩いて行く。俺のベッドのわきに座らせて、俺の毛布をめくりそこに寝かせてやる。


「うわぁ…なんて寝やすいベッドなの?」


「今度、他の部屋の分も回収してくるさ」


「うん」


 そして俺は毛布を掛けてやり、ポンポンとミナミの体を叩く。


「もう大丈夫だ」


「うん」


 俺はそのまま部屋を出て、ヤマザキとタケルに告げた。


「寝室はミナミに貸してやれ。二人はこっちで寝ると良い」


「もう寝ねぇよ、一応睡眠はとってる」


「わかった」


 ヤマザキが窓の外をきょろきょろと見ていた。窓の外は朝日で薄紫に色づいて来ている。


「やつらが東京に来ていたか…」


「ああ」


「まさか、俺達の拠点を襲った方法がそんな方法だったとはな」


「ゾンビを回収して集めているような口ぶりだった。そしてそれを兵隊として拠点を襲わせるらしい」


 タケルがドン! と机を強く叩いた。


「くそ! そんなんで仲間を殺されたのかよ!」


「恐らくは組織で動いているようだ」


「指示している奴がいるって事か?」


「そう言っていた」


「一体誰なんだよ! ひでえ事しやがって!」


 だがヤマザキがタケルに感情を抑えるように言う。


「まて、タケル。ヒカルの言うように、もし組織的だったとしたら戻らない仲間の事を探しに来ないだろうか?」


「あ…」


 タケルが黙る。そして俺が言う。


「ああ、その可能性は十分にある。半分は焼いたが、遺体はまだ転がっている」


「まあ、すぐにやってくる事はないだろうがな。東京にゾンビ狩りに来たと言う事は全滅する可能性だってあるわけだからな。手こずればすぐには戻れない、しばらくは不思議には思わんだろう」


「なるほどな。ならよ、ヒカルはまだ体力残ってるよな?」


「もちろんだ」


「一緒に死体を片付けに行こうぜ」


「わかった」


 俺達の判断に対しヤマザキが言う。


「まてまて、もしその部隊だけじゃなかったらどうする? 他にも別動隊がいるかもしれんぞ?」


「ヤマザキ。それは問題ない、もし居たとしてもそいつらが辿る運命は同じだ」


「だけど、東京に人間がいる事が本隊にバレるんじゃないか?」


「「‥‥‥」」


 俺とタケルが黙る。ヤマザキの言うとおりだ。一部隊の失踪ならば敵はそれほど怪しまないかもしれない、だが複数の部隊が帰ってこないとなるとすぐに動き出すだろう。


「確かにな」


「ああ。ヒカルと武が一緒に片付けに行って、また他の部隊をやったら状況は酷くなるかもしれん」


 ヤマザキの言うとおりだった。


 もし今後、大部隊を引き連れてきた場合は皆の安全が保証できない。とにかく、あの銃という武器が厄介で、広範囲から撃たれた場合は誰か負傷者が出るのは確実だ。


「だけどよ。まず確認は、しに行った方が良いだろ?」


「確かにな」


 そして俺はヤマザキに言った。


「なら、まずは遠方から確認しよう。その首都高沿いにはビルが建っていた。そこに上れば高速の上を確認できる」


「そうしたほうが良い」


 するとタケルが言った。


「よっしゃ! そうと決まればすぐに行こうぜ!」


「わかった」


 俺は自分が持って来た剣が入っているリュックから、短刀を取り出してタケルに渡す。


「それをくれてやる」


「なんだこれ?」


「開けてみろ」


 タケルが袋を開けて短刀を取り出す。


「うわ! ドスじゃねえか!」


 そういうとヤマザキが言う。


「馬鹿、違うだろ。そりゃ日本刀の短刀だ」


「すっげえ斬れそう」


 それに俺が答えた。


「斬れる」


「分かった。とりあえずなんかあったらこれで戦うぜ」


「ああ」


 そして俺は一本の剣が入った袋を肩にかけ短刀を懐に忍ばせた。準備が出来た俺とタケルが部屋を出ると、階段の方からミオとツバサがやって来た。


「帰って来てたんだね!」

「無事でよかった!」


「ああ」


 だが俺の隣りでタケルが言う。


「せっかく帰って来たところだけどよ。また俺と二人で出かけるんだ」


「「えっ?」」


「すまんが、事情はヤマザキに聞いてくれ」


「…わかった。南はどうなの?」


「疲れて俺のベッドで寝ている」


「よかった。とにかく気を付けてね!」


「むろんだ」


 するとタケルが言う。


「あと単車にガス詰めねえとな。そろそろ切れる頃だと思うからな」


 ミオがタケルに言った。


「ヒカルはずっと働いてるから、タケルが良く見ててあげてね」


「わーってるって。とにかく今は緊急だ。また後でな」


「わかった」


 俺とタケルがビルを出たのはその三分後だった。外に出るとまだゾンビがウロウロしていたので、タケルを二階の出入り口で待たせる。


「ちょっとまて」


「ああ、ゾンビか?」


「十体は居る」


「わかった」


 すぐに地上に降りた。


 シュピ!


 そしてすぐさま二階にジャンプする。


「ん? どうした?」


「片付けた」


「はええな! おい!」


「これのおかげだ」


「ぽん刀か、武器一つでそこまで違うのか?」


「ああ、まったくな」


「グレードアップしたんだな」


「ああ、グレードアップした」


「笑える」


「笑って言え」


 俺はタケルを掴んで地上に降りた。すぐさまバイクの所に行ってキーを差し込み、タケルを乗せて一路、警官の殺害現場へと向かうのだった。

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