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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京
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第87話 罠

 俺達は夜に都内を進み、品川区の大井町という場所に来ていた。もちろん危険なので首都高は使用せず、細かい道を選びながらめぼしい高層ビルへとたどり着く。速やかに罠の設置をするために、全員が一台のトラックに乗り込んでやって来ていた。その高層ビルは海側からなら、どこからでも目に付く場所にあった。トラックを入り口に横づけして、罠に使う物資を全て運び込み、罠を設置し終えた俺達は最終確認をする事にしたのだった。


 ミオがアオイに話しかけている。


「見晴らしが良いね」


「真っ暗であまりわからないよ。でもこの方角が海なんだよね?」


「そうだね。盗賊がいなければここを拠点に出来たらいいのに」


 するとアオイが俯いた。盗賊に対しては並々ならぬ恨みを持っており、暗い目をしている。


「あ、ごめん。でもその盗賊を減らすための罠だからね。葵ちゃんの作った罠も絶対有効だよ!」


「うん」


 そしてヤマザキが皆に向かって言った。


「よし。発電機を回すぞ」


 だがそれを見てユリナが言う。


「音、大丈夫かな?」


 そしてタケルが答えた。


「大丈夫だろ。高層ビルだし窓は締め切ってんだ」


「本当に大丈夫だよね?」


 更にヤマザキが答える。


「問題ない。そもそもが機密性が高いビルだ。発電機の音が外に聞こえる事はないさ」


 そしてヤマザキは発電機についている紐を引いた。グルンと音がするが一回では点かなかった。もう一度引くと発電機が回り始める。


「とりあえず。電球関係のコンセントは全部抜けてるか?」


 ヤマザキが皆に聞くと、廊下からミオの返事が聞こえた。


「大丈夫。大もとのコンセントさしていいよ」


「了解だ」


 ヤマザキがコンセントを指すと、おもちゃ達が一斉に動き出す。そして廊下の向こうからも確認の声が聞こえた。


「こっちはオッケー」


「こっちも問題ない」


 そしてヤマザキがコンセントを抜いた。


「よし、じゃあ全てを窓に張り付けていくぞ」


 ヤマザキの指示の下、皆が窓にテープで粒粒の着いた紐を張り付けていく。


 皆が作業している間にツバサが俺に手招きをした。俺がツバサの所に行くと、ツバサは俺にひとつひとつおもちゃの説明をしていくのだった。


「えっと、このスイッチを入れてレールに乗せると走り出すからね」


「わかった」


「じゃあ次、これはスイッチを入れると音を立てて光るわ。動かしたらベランダに出して」


「ああ」


「そしてこれは、ライターでここに火をつけるの。そしたら空に向けてね、これはビルの外に投げて」


「ああ」


 ツバサから一通りおもちゃの説明を受けた俺は元の部屋に戻った。すると皆が俺を心配そうに見ている。そしてタケルが言う。


「本当に一人で大丈夫か?」


「いや、むしろ誰かがいた方が危険だ。一緒に居るやつが死ぬことになる」


「わかった。とにかく気をつけてな」


「問題ない」


 それから俺達はビルを出るのだった。トラックの荷台に皆が乗り込み、俺は運転するヤマザキの隣りに座って指示を出す。ライトを点けずに走るには俺が指示するしかない。


「一旦、渋谷の拠点に戻る」


 俺が言うとヤマザキが頷いた。渋谷の拠点は来る前に一度確認したが、俺達が出た時から全く変わった様子は無かった。食糧も置いてあり数日滞在するには問題ない。約ニ十分で渋谷拠点に到着する。拠点の内部にはゾンビがおらず、皆は新宿の拠点よりも安心だと言っていた。


 俺は日本刀二本を両肩から出るように背中に装備し、腰には一本の短刀を携えている。


 そしてタケルが俺に聞いて来る。


「本当に車で行くのか?」


「ああ、バイクは音がするからな」


「でも…ヒカル車の運転は下手だからな」


「だから、ぶつけても良いような車をタケルが選んでくれたんじゃないか」


「まあそうだけどよ。ダッジの S〇T デー〇ンってアメ車だ。ボディは強いし、加速もすげえぞ。だけど音はそんな静かじゃねえ」


「バイクよりはましだ」


「まあそうだな。とにかく気をつけてな」


「ああ」


 するとアオイが俺の側に来て言う。


「お兄ちゃん」


「なんだ?」


「敵をやっつけて来て!」


「もちろんだ。それが俺の仕事だ」


「うん」


 俺は皆に別れを告げて地下駐車場へと急ぐ。以前タケルと一緒に回収したスポーツカーの中から、黒くて分厚い車体の車に乗り込んでいく。鍵を回すと図太いエンジンが回り始めた。


「いい感じだ」


 俺はそのまま駐車場を出る。道を進んでいくとゾンビが居たので、速度を上げて弾き飛ばした。車体がゴツイのでびくともしないようだ。 やはり車ではゾンビや車を避けようがない。狭いところはぶつけて走るしかなかった。だがバイクより力があるように感じる。ぐいぐいと進み車は罠を仕掛けたビル付近に到着するのだった。


「よし」


 俺はビルから少し離れた場所に隠して下り、きちんと鍵をかけてビルまで走った。もちろんゾンビは始末しない。敵に無駄弾を消化させるためにも、極力残しておかなければならないからだ。


 ビルに侵入し鍵がかかった各部屋の扉を一階から順番に破壊していく。鍵がかかって出れなかったゾンビが、こちらに向かって歩いて来るのが分かる。それを一階から順番に、上階の二十九階までやっていくのだ。全ての部屋の入り口を壊して、三十階に到達したころには深夜になっていた。


「良い頃合いだな」


 俺は窓際に行って海沿いを見渡す。さっきと同じく何の気配もしない。恐らく盗賊は襲撃を恐れて身を潜めているのだろう。俺が幕張を襲撃する前だったなら灯りが見えた可能性があるが仕方がない。むしろ、それだけに今回の作戦が際立つはずだ。


 俺はまずツバサに教えられたおもちゃのスイッチを全て入れていく。するとレールに沿っておもちゃが動き始め、その上に乗っている懐中電灯が動き回る。置物の光がクルクルと上がり落ちて来る。目が色とりどりに光る人形をベランダの手摺に置いて行く。


「よし」


 そして俺は発電機の場所に行き、紐を引いて電気をいれた。すると全ての部屋の窓に張り付けた、イルミネーションが点滅し始める。更に電光掲示板が光って文字が流れ始め、パトライトがクルクルと点滅し始めた。


「よし」


 俺はすぐに屋上に行って、筒状の紙から出ているヒモにライターで火をつけた。すると天に向けて火の玉が放出されていく。それが終わったので爆竹に火をつけてホテルの外に放り投げた。パンパンと音を立てて周辺に鳴り響く。そして最後に、屋上の中央に置いた大きな缶に入った木に火をつけた。すると黙々と色のついた煙が上がっていく。


 そして俺はすぐさま、屋上から一階まで走り下りるのだった。外に出て近くのビルに侵入し、一気に屋上まで上って罠をしかけたビルを見ると、色とりどりに点滅しているのが見えるのだった。

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