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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京
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第91話 遊園地

 皆が温泉を堪能した後、館内にあった自動販売機を壊して飲み物を飲んでいた。この自動販売機という物はとても便利だ。都市のあちこちにあり、破壊されていなければほとんどの物に中身が入っている。


 そして俺の側にはアオイが座っており、ジュースを飲みながら足をぶらぶらさせている。だいぶ俺達の暮らしに順応して来たらしく、俺が拠点にいる間は俺にまとわりついていた。

 

「美味いか?」


「うん」


「まだあるから好きなだけ飲め」


「いいの?」


「もちろんだ」


 するとユリナがそれを見て言う。


「でもね。甘い物ばかり摂取するのは体に良くないわよ」


 だが俺はユリナに言った。


「しばらくは良いだろう。アオイはやせ細っているから、何でも食べるといい」


「うん」


「まったく、ヒカルは葵ちゃんに甘いわね」


「頑張って来たご褒美だ」


「まあ、そうね。でも体調管理はさせてもらうわよ」


「ああ」


 そして俺は寛ぐ皆を見渡して言う。


「温泉というものは、いいな」


 するとユリナが言う。


「あら? 味をしめちゃった?」


「皆がこんなに喜ぶなら定期的に来ても良いだろう」


 するとその話にミオが入って来た。


「いいねー。そんなに遠くないし、定期的に来ちゃおうよ!」


 ヤマザキがそれを聞いて言う。


「そうだな。温泉を吸い上げるパイプが詰まらなければ、温泉は出続けるだろうからな」


「えっ? 詰まるとかあるの?」


「定期的にメンテナンスしてやらなければな」


「そうなんだ…」


 と言う事は、その汲み上げの施設を管理する必要があると言う事か。そこで俺はヤマザキに聞いてみる。


「ヤマザキ。手入れの方法が乗っている本や、DVDはないのか?」


「わからん。あったとしても、レンタルビデオ屋にあるとは思えん」


「なるほどな。だが回収の時はそれを念頭に入れて動くとしよう」


 するとヤマザキが笑って言う。


「ヒカルはよっぽど温泉が気に入ったようだな!」


「皆が喜ぶからな」


 するとユリナが意地悪そうな表情を浮かべて言う。


「もしかして、皆の入浴シーンが見れたのが嬉しかったとか?」


「な、何を言っているんだ! そんな事はない! そう言う気持ちで言ったんじゃない」


「冗談よ! 冗談! そんな目くじら立てなくても」


「あ、すまん」


 するとミオとユリナがクスクスと笑った。そしてミオが俺のほっぺを掴んで、こっそり耳元でささやく。


「ヒカル。顔が赤くなってる…」


「そ、そうか?」


「恥ずかしくないよ。というか恥ずかしかったのは私達だし、ユリナは照れ隠しで言ったのよ」


「そうか…なるほど」


 ミオに言われ気持ちが落ち着いた。そんな話をしている所にマナとユミがやって来て言う。


「ねえ! 見ていくんでしょ? 遊園地!」


 ユミの言葉にアオイが目をキラキラさせている。期待しているようだ。


「もちろんだ。それに、俺も見てみたい」


「そろそろ行きましょ!」


「ああ」


 俺達は温泉を保全する為に、屋上から外に出る事にした。全てのドアと窓に鍵をかけて、屋上に集まり俺が一人一人下に下ろした。


「こっち!」


 ツバサが手招きをする。俺は気配感知範囲を三百メートル四方に拡大した。そして皆に告げる。


「念のため、俺から三十メートル以上離れるな。ゾンビはちらほらいる」


 寛いで緩んでいた皆の表情に緊張が走った。


「ヤマザキ、タケル、ミナミ、いざという時はそれを使え」


「わかった」

「あいよ」

「おっけー」


 三人には銃を持たせている。女では唯一ミナミが銃に対しての抵抗が少なく、ゾンビを撃つ事にも全くためらいは無かった。日本刀が好きというよりも、武器の類が好きなようだった。


「俺がほとんどを処理する。仲間に弾が当たるといけないからな、撃たなければならない時は俺が合図をする」


「「「了解」」」


 俺達が進んでいくと、草木が生えた中に何かの機械のようなものが見えて来た。それは龍の背のようにうねり骨組みのようになっていた。それをみたアオイが言う。


「あ! ジェットコースター!」


 それにミオが答えた。


「そうだね! まだあるんだね。電気が通れば動くのかなあ?」


 ヤマザキが顎に手を当てて言う。


「どうかなあ? ところどころさびているし、崩れたりせんだろうか?」


 マナが楽しそうに言った。


「ねえ! あのレールの上歩いて見たくない?」


 するとアオイが答える。


「歩きたい!」


 それを聞いた俺が、その骨組みを眺めて言った。


「歩こう。俺が先に歩いて安全を確認する」


「「「「やった!」」」」


 アオイ、マナ、ミオ、ツバサが喜んでいる。皆が喜ぶなら俺はそれで良かった。ミオの記憶をたどりながら、そのレールに乗れる場所をさがす。


「少ないけど、少しゾンビがいるね」


 ユミが言うとタケルが答えた。


「多分どっかから迷い込んだみてえだな」


「怖い!」


 アオイが言うので、俺はアオイをひょいっと持ち上げて肩にのせる。するとミオとツバサとミナミがそれを見て言った。


「いいなー」

「うらやましいわ」

「私もしてほしい」


 それにタケルが笑って言った。


「おまえら、いい大人だろ! な、葵ちゃん。葵ちゃんの特等席だよな?」


「あ、あの」


「いいのいいの! 子供の特権!」


「うん!」


 そして俺達はレールの上を歩いて行く。レールの上には人が歩くような部分があり、安全に歩く事が出来た。レールの高いところに上がって皆がとまる。皆が嬉しそうに遊園地内を見渡している。


 そしてツバサが言った。


「うわぁ…なんていうか、青春って感じだよね!」


 マナが頷いている。


「分かるわぁ…、なんか学生時代って感じ」


「男女三人ずつで来たっけなあ」


「私は女友達と」


「楽しかったなあ…」


「うん」


 二人の話を聞いて俺は羨ましかった。俺の青春と言えば、ほとんどがダンジョン。その大半は魔王ダンジョンで過ごして来た。ダンジョンはこんな開放的な場所ではない。


「羨ましいな」


「えっ? ヒカルの世界にはこういう場所なかったの?」


「無かったと思う。物心ついた時から戦いに明け暮れていたからな」


「そっか…そうだったね」


「電気が通ればここは動くのだろうか?」


 俺が言うとヤマザキが答えた。


「たぶん動くのもあるだろうな。ほとんどがさび付いていそうだけどな」


「あれはなんだ?」


 俺が指さすとツバサが答える。


「観覧車よ。あそこに乗って上に登っていくの」


「楽しそうだ。あれはなんだ?」


「あれは、フライングパイレーツ! 大きなゆりかごみたいなの」


「なるほど」


 ミオが俺の顔を見て笑う。


「なんか子供みたい」


「お、俺がか?」


「目をキラキラさせちゃって」


「どんなものか見て見たかったな」


 その言葉を聞いてタケルが言った。


「じゃあよ! いつか電気を回復させてよ! 遊園地動かそうぜ! そこで皆で青春だな!」


 マナとツバサが答えた。


「「いいねー!」」


「そんな事、出来るのか分からんけどな。目標の一つに加えようぜ」


 タケルの言葉に俺は大きく頷いた。新たな目標が出来ると人間は更に生きる気力が増す。実現が難しそうな目標程いい。諦めることなく進めば、いつか必ず叶えられるだろう。


「あいつらを一掃しないとな」


 俺が、レールの下の方で歩いているゾンビを指さして言った。


「なんか、ヒカルが言うとよ。マジで実現できそうな気がしてくるぜ」


「必ず叶えよう」


 すると皆が拳を上げて言った。


「「「「「「「「おー!」」」」」」」」


 遊園地に来た事が正解だと思った。ここには世界が平和だった事を思い出させるらしい。


「でもさ」


 ユミが話し出す。


「もしかしたら、あの夢のテーマパークに盗賊が巣くってるかもしれないんだよね?」


「湾岸だからな」


「私達の夢の場所をさ、許せないよね」


「そう言う場所があるのか?」


「そう、千葉に有名な場所があるの」


「わかった。いずれ取り戻す」


 俺にはもう一つの目標が出来た。その夢のテーマパークとやらを奪還する事だ。


「じゃ、いこうか」


 ユリナの言葉に皆が頷き、俺達はそのレールを下っていくのだった。俺が皆の思い出を一つずつ取り返していく事で、俺の新しい思い出が刻まれていくだろう。この遊園地とやらも、いずれはゾンビが入れないように全てを塞いで動かす。アオイを見上げ俺はひとり誓うのだった。

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