#194 一段落
い、一時間くらい遅れてもバレへんバレへん……(´゜ω゜`)(ゆるして
「白刃戦、白兵戦、航宙戦、全ての試合において優勝の座を勝ち取った其方の武勇、見事である。褒めて使わす」
「……有り難き幸せ」
ここは謁見の間だ。グラッカン帝国の皇帝陛下が公的に下々の者と会い、言葉を交わすための場所であるらしい。
キャプテン・バンクスとの戦いを終えた俺達はそのまま近衛所属の船に導かれて帝城に降下させられ、船から降りるなり丁重に連行――案内されておめかしさせられ、こうして皇帝陛下の前に連れ出されたのだ。ここはメディアの立ち入りもOKな場所であるらしく、俺とミミ、エルマが皇帝陛下と謁見し、武勇を称えられているこの状況は帝国全土にライブ中継されているとのことだ。もっとも、情報の伝達に時間のかかる辺境ではライブ中継と言っても数日から一週間遅れで映像が届くらしいが。
「まず、其方と其方の船のクルーには褒美として一等帝国民としての身分を与える。その他、キャプテン・ヒロの船に帝国内に存在するゲートウェイの通行権を与えるものとする。傭兵としての務めに役立てるが良い」
「有り難く拝領いたします」
一等帝国民としての身分もだが、ゲートウェイの通行権は素直にありがたい。ゲートウェイを自由に使えるようになれば行動範囲が格段に広くなる。
「また、その他に褒賞金として5000万エネルを与える。これは全ての御前試合で実力を示した其方に対する余からの個人的な褒美である。受け取るが良い」
「謹んで拝領致します」
俺はそう言って頭を垂れた。”個人的な”というのはつまりは自分の都合で俺達を振り回したことに対する詫び金のようなものなのだろう。俺はそう受け取った。もっとも、皇帝陛下はミミが変な連中に狙われないように手を尽くしたのだろうから、そこまで恨みには思って――いや、こいつは絶対に個人的な楽しみもバッチリ優先してたわ。でも金くれたから全部水に流すわ。俺は大人だからな。
銀河帝国の皇帝ともなれば頭を下げて謝罪することなどそうそうできない。というか、されても困る。すごく困る。きっと皇帝陛下の権威に傷をつけたと大騒ぎになること間違いなしだからな。
そこで皇帝陛下は金という実にわかりやすいもので誠意を示したというわけだ。金ほど誠意を可視化できるものはそうそうない。それも5000万エネルとくれば大金だ。まぁ、大伯父としてミミのことを頼む、という思いも多分に込められているのだろうと思うが。
「うむ、今後も励むが良い」
そう言って皇帝陛下は満足そうに頷き、謁見の間から退出していった。この儀式を終えてやっと俺達は自由の身となったわけだ。
☆★☆
「やれやれ、これでやっと帝城からおさらばできるな」
「ヒロ様は大変でしたね、本当に色々と」
「私達は最後の航宙戦の時以外はのんびりしてただけだったけどね……まぁ、貴重な経験ではあったわ」
「皇女殿下とお友達になれましたからね!」
クリシュナの発進準備を進めているミミがそう言って笑顔を浮かべる。
御前試合終了の式典が終わった後、俺達は早々に帝城を去ることにした。元々御前試合に参加するために帝城への逗留を許されていたので、御前試合が終わった以上は早々に御暇するのが良いだろうと考えたからだ。
下手に長逗留して何か帝室絡みの面倒に巻き込まれないかという心配もあった。そんなことはそうそう起こらないと思うが、何せ俺達だからな……!
そういうわけで俺達は諸々の手続きを速攻で済ませて今まさに帝城から飛び立つところである。まずは一度グラキウスセカンダスコロニーに戻り、整備士姉妹を拾ってこようと思っている。急に決まった御前試合のせいで半ば軟禁状態になったからな。二人はこの九日間絶賛放置プレイ状態だったのだ。まぁ、メッセージアプリでちょくちょく連絡は取っていたし、二人も見た目はともかく子供ではないからそれほど心配はしていないのだが。
「とりあえず、船に戻ったら再度帝都への降下手続きを進めつつのんびりしたいな」
「そうですね、クリスちゃんのお屋敷にも行かなきゃならないですから」
「手続きの間に戦闘ボットの手配を進めると良いと思うわ。セレナ中佐に連絡を取らないとね」
「そうだな、セレナ中佐に約束を果たしてもらわにゃならん」
「恐らくメディアからの接触もあるので、その対応もしなければならないでしょう」
「それもあったか……なんとかバックレらんねぇかなぁ」
ティーナとウィスカの立場もあるし、そういうわけにも行かないか。面倒くさいな、全く。
「やることは盛りだくさんね。せめて何事もなく万事スムーズに事が運ぶことを祈りましょうか」
「無理じゃないかなぁ……」
「無理そうですよね……」
「最初から諦めるのはやめなさいよ……」
三者三様に溜息を吐く。
「何かあったとしてもご主人様達なら乗り越えられるでしょう。今までのように」
「だと良いけどな」
降り掛かってくるトラブルが毎回毎回俺達の手に負えるとは限らないからなぁ。
「ヒロ様、離陸許可が下りました!」
「よぉし、じゃあ行くか。準備は良いな?」
「はいっ!」
「ええ」
「いつでも」
「じゃあ、発進だ。目標、グラキウスセカンダスコロニー」
「はい、コース設定します」
「ジェネレーター出力、巡航モードに移行。進路クリア」
「ドッキング解除。クリシュナ、発進する」
クリシュナが姿勢制御スラスターの推力でふわりと浮き上がり、メインスラスターの噴射によって加速を始める。艦首を空に向けたクリシュナはぐんぐんと加速して高度を上げていくが、慣性制御装置の働きもあってコックピット内の人員に掛かる負担は驚くほど少ない。地球に居た頃に乗ったジェットコースターより遥かにマシなレベルだ。
やがてクリシュナは帝都の大気圏を脱出し、宇宙空間に到達した。
「重力圏外に出たほうが安心するようになるとはなぁ……」
「あはは、私も正直帝都にいるよりも宇宙に出ていたほうがホッとしますね」
「私もよ。揃いも揃って傭兵生活にどっぷり頭まで浸かってるってわけね。メイはどう?」
エルマに話を振られたメイは一度目をパチクリとさせてから首を傾げ、少し考えてから口を開いた。
「私にはよくわかりません。しかし、皆様方と一緒に過ごすのは……そう、心が安らぎます」
「心が安らぐね、まったくもって同感だ」
「ですね。綺麗なドレスを着て皇女殿下とお茶を飲むのも楽しかったですけど、やっぱり私の居る場所はここなんだなって思います」
メイの言葉に俺だけでなくミミも同意する。
「それじゃあ帰りましょうか。私達の我が家ってやつに」
「そうだな。よし、飛ばすぞ!」
俺はそう言ってアフターバーナーを噴かし、クリシュナに光の尾を引かせるのだった。