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覚醒したら元カレを締め上げるスキルでした

作者: 瀬嵐しるん


「……この町での仕事は、君のおかげでうまくいったよ。

俺は王都へ帰るけど、必ず連絡するから、それまで待っててくれるか?」


「うん、わかった。

わたし、いつでもあなたのところへ行く覚悟はできてるから」


「しっかり者の君のことだから一人になっても心配ないとは思うが、身の回りに気を付けるんだよ」


王城から調査員として、この田舎の町に派遣されていたグレンと暮らして半年。

仕事を終えた彼は、王都へと帰って行った。


宿屋の食堂で働いていたわたしは、客として来た彼と知り合い、意気投合して一週間後には同棲していた。


彼の一番好きなところは顔。

ものすごーくタイプな顔。


食事も洗濯も掃除も何一つ出来ない彼の面倒を見ることも、新しい服が必要だからと金を出すことも、まったく苦にならなかった。


だって、あの顔が毎日間近で見られるのだから、と。



「いや、無いって!

あんた、たかられまくっただけだって!

いい加減、目を覚ましなよ」


わたしの姉貴分ともいえる宿屋の女将さんは言う。


「でも、王都へ呼ぶから待っててくれって……」


「騙されてるだけだって。

あんた、よく働いてくれるいい子なのに、男を見る目が無いんだよね」


そういう女将さんの旦那さんは、ガタイが良く腕っぷしもいい冒険者みたいな男性だ。

普段は厨房で料理をしているが、たまに自分でも狩りに行く。


「女将さんとわたしで、好きなタイプが違うのは仕方ないことで……」


「タイプが違うとかじゃなくて、クズ男を判別する目を養えって言ってるの」


でも、まだクズと決まったわけでもないし……なんて思っていたが、それからあっという間に半年が過ぎても連絡は来なかった。


「女将さん、わたし、王都へ行ってみようと思います」


「奴の居所にあてはあるのかい?」


「ないけど、王城へ直接訪ねてみようかと」


「不審者に間違われないよう、注意しなよ。

痛い目を見て戻ってきても雇いなおしてやるけど、若い女一人で行くんだからくれぐれも注意するんだよ」


「はい、ありがとうございます」



それから乗合馬車に揺られること二週間。

わたしは王都に着くと、その足で王城の裏門を訪ねた。


「済みません。こちらで調査員として働いているグレンさんと会いたいのですが」


「お嬢さん、申し訳ないが調査員だけじゃ仕事場の判別が出来ないよ。

それにグレンという名前だけでは、誰なのかさっぱりわからないんだ」


「そうなんですか……」


ここは王城。

働く人も多く、同じ名前の人もたくさんいる。

今まで暮らしてきた田舎町のように、町中みんな顔見知り、という場所ではないのだ。


気落ちしているわたしの横を、綺麗な女の人が通りすぎ、門の外へ出ていく。


「お疲れさま!」


「オリーブさん、お疲れ様です。

あ、そうだ、オリーブさんの部下にもグレンさんがいましたね」


「ん? それがどうかしたの?」


「こちらのお嬢さんが、調査員のグレンという人を探しているんですが、それだけでは誰なのかわからなくて」


「ふーん? お嬢さん、どこから来たの?」


「ハークネット町から来ました」


「なるほど。遠くから人を探してきたんだ。

それじゃあ、くたびれてお腹もすいてるでしょう?

ここに立っててもしょうがないし、いっしょにご飯食べない?

話も聞くから」


「それがいいよ、お嬢さん。

オリーブさんは王城内に詳しい人だし、話を聞いてもらったら?

もしかすると、探し人も見つかるかもしれないよ」


「ありがたいんですけど、あまり持ち合わせがないので安い食堂で……」


「私が誘ったんだから奢るわよ。

でも、礼儀をわきまえた子ね。気に入ったわ」


そう言ったオリーブさんは、わたしより八歳年上だそうだ。

行きつけの安くて美味しいご飯どころに連れて行ってくれた。


「田舎のほうが食材が新鮮だから美味しいって、食堂の御主人は言ってたんですけど、ここの料理、どれも美味しいですね!」


「王都は競争が激しいからね。

不味い店はすぐ潰れてしまうのよ。

さて、腹ごしらえが出来たところで、そろそろ尋問……じゃなかった、話を聞かせてもらえる?」


「あ、はい。実は……」


オリーブさんはじっくり聞いてくれたが、わたしの話が進むにしたがって、眉間のしわが深くなっていく。


「……以上です」


「うーむ」


しまいには腕組みをしてしまったオリーブさんは目をつぶって唸っている。


「あの?」


「プラムさん、ごめん!」


いきなりそう言って、彼女は頭を下げた。


「はい?」


「そのグレンは、間違いなく私の部下のグレンだわ」


「そうなんですか? でもどうして上司のあなたが謝罪を?」


「うーん、実は部下のグレンは女癖が悪いの。

しかも、数日間女の子の家で過ごした挙句、金を借りて踏み倒すタイプだって噂が流れてきたので調べてみたのよね。

その結果、王都で何人もの女の子と遊んではお金を借りて返さないらしくて。

でも、少額だから、被害者の子たちは忘れるからいいって訴えないのよ」


被害者の女性たちは訴えなかったが、上司のオリーブさんが問い詰めたせいで、王都に居づらくなったグレン。

逃げるように出張仕事を引き受けて、プラムの住む町に来たのだという。



「わたしの場合は少額じゃないです」


「うん、半年も同棲してあれやこれや面倒見てたら、少額じゃあ済まないよね」


「わたし、訴えます」


「え? 本当に?」


「はい!」


「もしかして、家計簿ってつけてる?」


「もちろんです、町の食堂で働いて帳簿付けも習いましたから。

ちょこちょこ貸したお金についても、きちんと記録してあります」


「あら~、しっかり者ね! それならいけるかも。証拠になるわ」


「わたしを王都へ呼んでくれるという約束が叶えばチャラにできたけど、そうじゃないなら。

……でも、一度だけ彼の本心を確かめてもいいですか?」


「もちろんよ。あなたが納得できるように解決しなくちゃ意味がないもの」


「ありがとうございます」



その夜、寮の空き部屋を借りたわたしは翌日、王城の中の彼らの仕事場に連れて行ってもらった。


通されたのは密閉された地下室。

なんだか物々しい。


「ごめんね、プラムさん。こんな陰気な部屋で。

でも、ここなら話が漏れないから、なんでも言って大丈夫!」


「はい」


なんだか取調室みたいだな、と思っておかしくなった。

……ん? 取調室?



机を挟んでグレンと向かい合う。

わたしを見て、一瞬ぎょっとした彼だが……


「ちょっと、あんたの知り合いでしょ?

挨拶したらどう?」


壁際の椅子に座るオリーブさんが腕組みをしたまま、冷たく促す。


「知り合い? い、いやあ? き、君は誰かなあ~?」


しらばっくれるの下手か!

そんなんじゃ、ペーペーの取調官でも騙せないわ!


……取調官? ぺーぺー?


頭の中に知らない言葉が次々に浮かんで嵐のように荒れ狂い、猛烈な頭痛に襲われる。


「ちょっと、大丈夫?」


一瞬気を失ったらしい。

しかし、その間に前世の記憶がよみがえった。



「オリーブさん、この人、具合悪くて錯乱でもしたんじゃないですか?

病院へ連れて行ったほうがいいかと……」


クズ男グレンは、わずかなチャンスを狙って逃れようとあがく。


「心配していただかなくて大丈夫です。

ただ、あくまでも白を切る気なら、こっちにも覚悟がありますけど?」


「は? プラム、落ち着いてってば!」


わたしの名を呼んだな?

語るに落ちたり!


「プラム~ゥ? はあ~?

初めて会ったはずの相手を、いきなり呼び捨てですか?」


「し、しまった! けど君、どうしたの!?

人が変わってる!」


「おかげさまで、いろいろ思い出しましたから。

それはさておき、プラムを知ってるグレンさん、お別れしてから半年も経ちましたけど、なんでなしのつぶてなんですか?」


「……君のことは本当に大事に思っていたんだ。

でも、君はあの街にいたほうが幸せだと思って……」


「それなら金銭的にも清算して、すっぱり別れてから帰ればよかったでしょ。

()()()()()()()()()()()


グレンは黙りこくった。ところが……


『いやー、半年も放置したら、脈なしって気づくだろうにさー。

重たいってか、鈍い女~。

俺の顔が好みだからって、顔見せるだけでなんでもしてくれたのはありがたかったけど、お互いそれでよかったんだからチャラでいいだろうによ~』


それはグレンの心の声だった。

口は開いていないのに、確かに彼の声がはっきり聞こえたのだ。


「チャラなんてとんでもない!

お貸ししてただけなんで、返してもらいます」


「え? 俺、口に出してた?」


「ええ、腹の底で思ってること、そのまま言ったわよ。

私もはっきり聞いたわ」


オリーブさんが援護してくれる。


「き、聞き間違いじゃあないですか?」


「それなら今すぐ、貸したお金と滞在費用、全額払ってくれますか?」


「絶対無理だ」


「では、証拠もそろったところで訴えさせていただきます」


「ええ~!?」


「はい、証拠はもう預かってるから、今から担当者が取り調べます。

じゃあ、頑張って! 被疑者のグレン君」


すぐに筋肉質の男性が引き取りに来て、逆らえないことを悟った彼はとぼとぼ部屋を出ていった。



「ところで、プラムちゃん、あなた転生者?」


「なんか、そうみたいですね」



『落としの梅さん』それが、わたしの前世。

強面のお兄さんたち相手に、脅す泣かす、なんでもありで吐かせてきた百戦錬磨の日本の警察官。

恨まれたり感謝されたりいろいろあったが、無事定年を迎えて天寿を全うした男性だ。


「だからスキル持ちなんだ」


「スキル?」


「ちょっと検査しようか?」


しばらく待つと、何やら白衣を着た人が機械を持って現れ、頭と手に輪っかをはめられてデータを取られた。


「この方のスキルは、本音の暴露ですね」


「わお、怖いわねえ。

でも、ピッタリの仕事を紹介できるわ」


「仕事?」


「私の仕事場は、いろいろな秘密を探るところでね。

いざというとき、そのスキルで助けてくれたら助かるわ」


「公務員だった前世を思い出した以上、国のために働くのは本望です。

でも、田舎から出てきた小娘がいきなりここで働きだしたら、変に思われませんか?」


「そうねえ。

スキルを使ってもらうときは顔を隠すとして、普段は……」


「わたし、食堂の手伝いなら得意なんですけど」


「それいいわね! 王城の食堂は従業員募集中だし、寮にも入れる」


「それでお願いします!」



プラム、十九歳。

普段は元気な女給仕だが、時々、秘密情報部(!)でアルバイト。

田舎にいた時より稼げているが、悲しいかな他人の本音を吐かせられるスキルのせいで、もう恋はできないかも、である。


「プラムちゃん、そのスキルが無くても、秘密情報部に関係しちゃったら、普通の幸せは諦めるしかないのよ」


「え? オリーブさんも諦めてるんですか?

こんなに美人なのに?」


「褒められて嬉しいわ。でもどことなく虚しいわ~」


「あはは~。気楽な女同士、今度、温泉でも行きましょうよ」


「ああ~温泉いいわね~。

丁度、温泉方面に調査の仕事あるし、たまには出張アルバイト行ってみる?」


「おつきあいしま~す」


落としの梅さんも仕事では苦労したけれど、それなりに幸せと思える出来事もあった。

プラムの人生だってどこかで幸せが拾えるかもしれない。


恋人はいないが、信頼できる上司がいる。

悪いことばかりじゃないと、明日もたくましく生きるのだ!



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梅さん的には女性と温泉の方がご褒美なのでは? クズイケメンに騙されたなんて梅さん一生の不覚!w
宿屋の女将には手紙書いてやれよ……
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