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ダンジョン配信者の中で、なぜか俺だけサブスク(?)に入ってるんだが  作者: コータ


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ど、ど、どこの配信だ! 言ってみろオラ!

「な、何を言ってるんだお前は」


 道宗は動揺した。あまりにも唐突にブッ込まれた真実に、堂々とした返しをすることができず狼狽えるばかり。


 そう、景虎を会社に引き戻そうとした時、彼は完全に恐怖に負けた。とんでもないプレッシャーを前にして後ろに倒れた時、一人静かに漏らしていたのだ。


(誰だ! チクった奴は)


 道宗があまりにも分かりやすく反応するので、ノエル有栖川は笑ってしまう。アイはいやらしい顔でニヤニヤしている。


「知ってるんですよぉ、社長ー。あのくっだらない荷物持ちに、ちょい睨まれたくらいで脱糞しちゃうなんて、はずーーーい!」

「脱糞はしてねえよ!」


 ここにすかさず有栖川がつけ込む。


「脱糞はしてない? ということは、漏らしはしたということですか。はあ……なんて恥ずかしい醜態を。悲しくなっちゃうね」

「て、てめえ……!」


 これからチームを組もうというのに、三人はまさに歪みあってばかりだ。他のメンバー達は、すでにこの場にいることすら苦痛になっていた。


「いい加減にしろや。あれには深いわけがあった。だがそれは、まだ語ることはできねえよ。ところで、ここから先はアイと有栖川だけにしたい。お前達は、もう帰っていいぞ」


 チームメンバー達は、ようやく解放されたとばかりにため息を漏らしながら退店していく。


 お漏らしネタで道宗を追い詰めたアイは、満足げにワインを飲み干していた。


「お前ら、次にこの道宗の恥を晒したら承知しねえぞ。とにかく、ここから先は内密な話だ。お前ら、次のダンフェスで参加するメンバーは調べてるか?」

「もちろんっす。葵ちゃんが出ます」


 即座に答えたのは有栖川だが、アイはこの返答に露骨に機嫌を悪くする。


「はあー。何が葵ちゃんだよ。有栖川、お前ロリコン? マジキモいんだけど」

「やめろアイ! 葵も確かに出るが、今回は氷堂が出る。それから最近話題になりまくってる景虎だ。だがな、俺は確かな情報を掴んでる。今回のダンフェスでは、あいつらくらいしか、有力な奴らが出場しないんだよ」


 ピキピキ、とアイの額付近に青筋が浮かぶ。


「葵みたいなガキンチョの、何が有力なの? 頭大丈夫ですか?」

「アイ、嫉妬はよせ。彼女は女子高生ライバー希望の星だよ」

「あ? んだとロリコン川」


 ノエル有栖川は、なんとも罪深い川の名前に変えられてしまった。


「いいから俺の話を聞け! とにかく、奴らさえ出場ができなくなれば、もう俺たちに敵はいない。そういう話なんだよこれは」


 この一言に、アイと有栖川は急に静かになった。そして二人はまさかという驚きをこめて、社長の顔を見つめた。


「トップランカー達はみんな、同日に他の探索や仕事が入ってる。海外に行ってるやつも多いぞ。つまり今回は、氷堂や葵、そして景虎とかいうアホをどうにかできれば、もう楽勝なんだ。だから……やらないか?」


 ゴクリ、と二人の唾が飲み込まれる音がした。やらないか、と言われてすぐに察するあたり、アイも有栖川も汚い道を歩み慣れている。


「あいつらを事前に潰す、っていうことですよね?」

「さっすがアイ。よく分かってるじゃないか」

「待ってくれ。流石にまずい。具体的にどうするつもりです? もしダンフェス前の妨害行為がバレてしまおうものなら……俺たちは本当に終わってしまう」


 ハハハ! と道宗は高らかに笑う。そんな心配はくだらないと言わんばかりだ。


「ダンフェス前? いやいやいや。何を言っているのかね。俺はダンフェスの最中の話をしてるんだ。そう……偶然起きた悲しい事故の話をさ」

「「……!」」


 この後、道宗は自分が計画した作戦を二人に伝えた。アイもノエル有栖川も、話を聞くほど乗り気になっていく。


 三人は自分達が勝つためなら、どんな手も使うつもりだ。バレなければなかったも同じ。正々堂々と競う気概など、もう微塵も残っていない。


 ◇


 ひととおり話を終えた三人は、二日後チーム袋小路の専用スタジオに集まっていた。


 今日行われるのは、アイがいよいよダンフェスに正式参戦するという発表配信である。


 しかもここで、社長である道宗がサプライズ登場し、今回の探索に参加するという……探索界隈が震撼しないニュースまでお届けする予定である。


 観葉植物と白レンガの壁、用意された一人用高級ソファ三つ。オシャレなオフィスビルにありがちな空気が醸し出されたスタジオに、サングラスをかけたアイがやってきた。


「アイさん、入りまーす」


 元気なスタッフの声を耳に、彼女は当然のように真ん中の椅子を陣取った。続いて現れたノエル有栖川は、露骨に顔をしかめる。


「アイ、そこは俺の席だ。代わってくれ」

「は? 主役が真ん中って決まってるでしょ。脇役はそこ、OK?」

「二人とも、朝からそんなことで争うのはよせ」


 最後にやってきたのは、赤い高級スーツに身を包んだ社長であった。


 成金ここにあり、と言わんばかりのゴージャス仕様である。


「おっと! 俺はまだ登場してはいけなかったな。とにかくアイ、有栖川! 上手くやってくれよ。じゃあ声がかかるまで待ってる」

「はいはーい」

「うす」


 一旦道宗と有栖川はカメラの外に出ていき、約一分後に生配信がスタートした。先ほどまでの険悪な空気はどこへやら、アイはにこやかな笑みと共に、配信画面に手を振っている。


「はぁーい! みんなー、集まってくれてありがとう。今日はみんなに、もうビッグビッグビーーーッグニュースをお伝えしちゃお! っとその前にー。今日の素敵なゲスト、ノエル有栖川ーーー! カモン!」


 はっちゃけたアイの声に応えるように、爽やかな笑みを浮かべながらカメラの前に有栖川は現れた。


 そしてイケメンスマイルを振り撒きながら、優雅にソファに腰を下ろして足を組む。絵になる男である。


「みんな久しぶり! 最近はトレーニングに真剣になっちゃって、配信なかなかできなくてごめんね。でも俺、」

「あ! なになになにー!? ちょっと待って。すっごい人がいるんだけどぉ?」


 まだ有栖川のトークが終わらないうちに、アイはわざとらしく立ち上がる。「チッ」という男の舌打ちが微かに聞こえた。


 すると、その視線の先から赤い絨毯を着込んだような男が出現し、スタジオは歓声に包まれる。


「やあ諸君! 俺はアイと有栖川が所属しているチーム袋小路の社長、道宗だ! よろしく頼むぜ」

「きゃー! 社長が来ちゃったよ! どうしちゃったんですか? そんな派手な格好して」

「はは! 俺はいつもこんな感じだろ。社長っていうのはいつだって、輝いてないとな」


 カメラにはなかなか個性的な絵が映し出されていた。事務所の社長と所属ライバー二人が、にこやかな笑顔をキープさせながら雑談を続ける。


 そうして数分経った頃、ようやくアイが本題を切り出した。


「さて……じゃあいよいよ。発表しちゃいますか! 実は……あたしと仲間達が、ダンジョンフェスに参加することが正式に決まっちゃいましたー!」

「やっと正式に言えたね」

(あれ? 俺の参加を紹介するのはいつ言うんだ?)


 この時、アイは道宗が参戦することも同時に伝えることが台本に書かれていた。しかし、彼女はそれをすっ飛ばし、自らの宣伝を始める。


 コラボしている化粧品、サブチャンネル、次の雑談スケジュールなど、彼女だけの宣伝が続いた。


「ってことで最後に一つ! あたしのコラボTシャツが発売されちゃいますー」


 は? と言う顔になる有栖川。しかし、彼の反応などお構いなし。


「はーい! じゃあ今日はここまで。みんなー、アイを応援してね!」


 そうして配信は終了した。この身勝手な振る舞いを、道宗が許すはずがない。


 スーツよりも顔を真っ赤にして立ち上がると、アイに詰め寄った。


「おい! お前台本と全然違うじゃねえか!」

「えー? あたしのアドリブ入ったほうがウケるっしょ」

「何を……ん? どうしたお前ら」


 しかしこの時、中心にいた三人は異変に気づいていなかった。


 スタジオにいたスタッフ達が、青い顔になっていたのだ。


「そ、それが……さっきの配信、同接が……」

「軽く百万超えした感じ?」


 まるで青春ドラマの学生のような、爽やかな笑みを浮かべる有栖川だったが、彼をしても予想だにできない発言がこの後飛び出した。


「実は……同接が……千人届いてなかったんです」

「……は? アンタ、何言ってんの? あたしの配信だよ」

「はい。その……多分他の配信が、ヤバいくらい伸びてるんです。多分その影響です」


 その時、道宗はもう我慢ができなかった。あまりの悲惨な結果にワナワナと震えながら、スタッフの胸ぐらを掴む。


「ど、ど、どこの配信だ! 言ってみろオラ!」

「か、カゲチャンネルです。今やってます」

「何だと!?」


 すぐに道宗は、その配信を映すように指示する。


 するとそこには、彼らとはまるで正反対の、大盛り上がりな雑談が映されていた。

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