今のは……危なかった
落下しながら大きくなっていくモンスターって、迫力が半端じゃない。
よくアクションゲームでデッカいモンスターと戦ってるやつがあるけど、それが現実になるとこんなにヤバいのか。
俺はそんなことを考えながら、大火の剣で奴を迎え討つ——つもりでいたけど、前方にダッシュしてまずは回避した。
すると、ずううん! という地鳴りがフロア内に響き渡る。
『ジャーマがバリアを展開しました』
「バリア? おお!」
ふと見ると、モンスターの少し前にあたる空間に、デッカい盾みたいな光が出現してる。
『闇竜のブレスが来ます』
ミリアのお知らせのとおり、奴は大きくのけぞった後、真っ黒な息を放出した。
:避けろおぉおお!
:あれ、当たったら即死なやつだ
:バリア貼りつつ、自分は普通に攻撃できるんだからずるいよね
:あれで死んだ人いっぱいいるらしい
:あ、危ない
:自分視点だから余計怖い!
:カゲ君、ちゃんとかわしてるな
:避けながら接近してない?
:ちょ、
:すげえ動き!
俺は奴のブレスを避けながら、懐に潜りこんで剣を振ろうとした。でも、先に張られていたバリアに阻まれてしまう。
俺がぶつかるとバリアも弾けたけど、またすぐに新しいバリアが現れた。しかもこれ、二重三重に張ってないか?
「これ、ちょっとめんどいな!」
『景虎様が攻撃してくる箇所に対して、重点的に守りを固めています。ここは撹乱したほうが良いでしょう』
ジャーマはそう言う合間にも、いきなり噛みつこうとしたり前足で引っ掻こうとしたり、突進してきたりする。
流石にこの巨体に突っ込んでこられたらひとたまりもないので、何度かジャンプしてかわしていた。
ちなみに奴は俺を攻撃しながらも、氷堂さん達にも何かしらちょっかいをかけてるので、みんながまとまる暇も作ってもらえない。
『マジックカードが有効です』
「え? このカードが? じゃあ使ってみるか」
ミリアのオススメにハズレはない。と言うわけで、早速マジックカードを使ってみることにした。
でもこのカード、はっきりとした絵が描いてないというか。なんか空みたいな絵なんだよな。
「一定時間飛行ができる魔法となります。バランス感覚に気をつけましょう』
「へ!? ひ、飛行って——」
『景虎様、もっとゆっくり、そして顔を前にしてください』
「ん? あ」
使い勝手が分かってなくて、ちょうど上を向いてしまった。すると頭に猛烈な衝撃を覚える。
「うお!?」
気がつけば、誰も居ないフロアに立っている。なんか見覚えがあるような。
『一つ上の階にいます。天井を突き抜けてしまったようです』
「え? あ、ホントだ」
なんかデッカい穴空いちゃってるじゃん。特に痛みはないけど、俺ってこんな石頭だったかなぁ。
『飛行の魔法は、心持ちのんびりと発動させるのがコツです』
「のんびりと……こうか?」
早く闇竜を倒しにいかないとだけど、だからこそここは焦らない。目を閉じて意識を集中しながら、マジックカードをもう一度使ってみる。
ふわふわっと風に流されるような感じがしつつ、少ししてから目を開けた。
「浮いてる……これならいけるな」
『素晴らしい上達ぶりです。では、そちらの穴から下の階に、』
「うおおおー!」
このままじゃみんなが危ない。俺はちょっと先にある穴ではなくて、地面にそのまま突っ込んだ。
すると、紙で出来てんじゃね? ってくらい床が柔らかいので、どんどん貫通して下の階に戻ってきた。
「ミリア! 俺がバリアに当たったら、ボックスから青い剣を送ってくれ!」
『承知しました』
飛び込んだ先には闇竜の背中が見える。ここでひたすらファイアボールを投げまくってみる。
火球は想定していたよりデカくてビビったが、モンスターもバカでかいから丁度いい感じで当たりまくってる。
ジャーマは苛立ちを見せながら振り返った。この間、俺はみんなの姿を探したけど、みんなどうにか持ち堪えてたっぽい。
『ジャーマの拡散ブレスがきます』
「拡散? おおおおお!」
こんなの聞いてねえ、と叫びたくなった。黒いブレスが途中で枝分かれして、広範囲にわたって攻めてくる。
でもここまで来たら負けてはいられない。俺はスレスレを通過しながら闇竜に迫る。もしかしたら飛行魔法が切れるかもしれないし、急がなきゃ。
するするーっとギリギリの避けながら直進し、ようやく奴の顔付近へ。心なしか驚いているみたいだ。
「たあ!」
そして剣を振り下ろそうとしたんだけど、さっき使ってたバリアを今度は顔の前に張ってくる。
しかも今度は四つも五つも重ねてきやがる。でもその分、効果は増すといえば増す。
ふと周囲に目をやると、ちょうどいいタイミングでメタルクリスタルソードが飛び込んでくる。
俺はわざとこの時、闇竜の周囲を旋回するように動いた。当然アイツもバリアの位置と、自分の位置を変えてくるわけで。
そうして闇竜の後頭部に、剣を突き刺すことに成功した。
瞬間、ジャーマが苦痛に顔を歪める。これで悶絶しないあたり、めちゃくちゃタフだ。
「ミリア! こっちだ!」
『はい』
クリスタルソードは引き抜かれ、また俺の元へと向かう。ここでファイアボールを奴の顔周りに撃ち、ちょっとした目眩しに使い、今度は腹の方へと飛び進む。
クリスタルソードを受け取る直前、今度は召喚カードを空に投げた。淡くてカラフルな光が飛び出した後、ハイピクシーがなぜかウインクしながら出現。
「ピクシー! 頼む!」
「はーい!」
元気よく返事をしたのを見届けた後、俺はクリスタルソードを手に取り、大火の剣とあわせて二刀流状態になる。
ここでピクシーの雷魔法と、俺の回転斬りでジャーマをボコボコにする……予定だったんだけど。
「え? ちょ、」
なぜかちっちゃい妖精は、俺めがけて雷を放ってきた。
ちょっと待った、待った! 感電するって!
「あ、あれ?」
感電しない? でも体を見ると、マジで危険な雷がバチバチいってるんだけど。
「……まあいいか」
考えても仕方ないので、とにかく俺は回転斬りをすることにした。飛行しているので、ちょっと斜めっているけど気にしない。
で、さらに驚いたことに、硬そうな鱗が切れる切れる。ハムか何かかっていうくらい。
さらには電流も凄いことになってて、こんな電気がいつも出せれば、夏の電力不足問題だって解決するんじゃね? なんて呑気な想像を膨らませてしまった。
「グゥアアアアア!」
ジャーマが絶叫したのでふと我に帰ったけど、これで倒せるかもっていうタイミングで、また不思議なことが起きた。
奴の体が液体みたいにドロりと変化して、不意に目に前から消えたんだ。
「あれ? どこ行った?」
『後ろです』
ミリアの声に導かれて振り向くと、ダンジョンの奥に続く通路の前に奴の姿が。なんか体溶けてる?
:やったか!?
:え、これもしかして、ソロで勝っちゃう?
:ゴリゴリ削ってたもんな
:ってかレイドボス的な奴だろ。一人はもちろん、チームでも無理って話じゃなかった?
:カゲっち、強すぎる……!
:ジャーマが追い詰められてるとこ初めて見た
:まさかの初討伐!? しかもソロ同然な状況で?
:ってか飛行の魔法って……
:歴史的瞬間かも
:しれっとすげえ魔法覚えてるじゃん
:いや、まだ闇竜は死なないと思う
:カゲトラ! 油断するな!
:むしろ禍々しさが増してるような気がするけど
:なんか見たことない動きしてる
:電撃纏って斬りまくったの、超効いてるじゃん
:勝てる! あと一歩だろ
:まだ半分くらいしか削ってないんじゃね?
:体力が異次元だっていうし、まだ余裕あるかな
:いや、もうすぐだ! いけ!
:ってかもう倒した?
:どうなってるか分からん、普通の変化じゃないよな
:結論、どっちも化け物
:多数のチームでかかっても平気な顔してたバケモンやぞ
:あ、ああ?
:なんか来る?
:ちょっとこれは
:まずくね!?
しかし、溶けているというよりも、実際はさらに膨張していた。奴は殺気に満ちた瞳を輝かせながら、体全体を大きく光らせる。
「……今のは……危なかった……」
……え。今闇竜のやつ、喋らなかった? 気のせい?