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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第2章 悪意の真意は懇意の中に。少女の黎明と父の冷血と。

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第2章もできる限り朝夕の2回更新の予定です。

 ——ナメられているのは最初からわかっていた。


「今日いちばんの下役をお見せしろということでお出ししましたが、なにか気に障りましたかな?」


 気に障ったか障っていないかで言えば、最初から障りっぱなしだった。

 内臓でも病んでいるのか肌に黄疸が出ているこのデブ野郎は、侮蔑の色を隠そうともせずに「最低ランク」の商品を「最高級の品」だと言い放った。

 芋虫のような手指には多くの指輪を嵌めて、首に巻いたスカーフには金糸で刺繍が施されてあった。どこまでも悪趣味。

 いるんだよね、こういう手合いは、どこの世界にも。「人は見た目が9割」だなんていうけれどこれでも僕の着ている服は最上級のシルクを使ったものだし、植物油でなでつけられた青灰色の髪につけた髪飾りも最上級の品だ。パリッとしたダークスーツ姿の僕は——この世界にスーツがあったことが驚きなんだけど——侮られる隙なんてない。

 ……年齢以外は。

 いやさ、この4年で身長も一気に伸びて今じゃ160センチだよ。まるで今まで小さかった分を取り戻そうとでもするかのように伸びた。連れ合いの猫系獣人ゼリィには「なんだか竹みたいっすねー。ナハハハ」とか笑われたほどには伸びた。そしていまだ平均身長とは言わないけど明らかに小さいということはないと思う。

 だけど問題があるとするならやっぱり顔なんだよね。

 顔が年齢相当、14歳の顔なんだ。こういう手合いは「見た目」で——そこには「見た目年齢」も含まれるワケで——判断してくる。


 ——なんだガキかよ。金持ってそうだし、ちょっくら引っかけてやるか。


 ってね。


「わたくしの目には、病人とケガ人しかいないように見えますわ」


 立っている僕の前で、ふかふかのイスに座っているお嬢様が——ナメられるなら僕よりもお嬢様のほうだと思う、なんせ彼女はまだ12歳だ——扇子をぺしぺしと自分の手のひらに叩きながら言う。

 お嬢様が着ているドレスは彼女の瞳と同じ緋色で、スカートにつけられた見事なひだ(・・)はトップクラスの職人によるものだ。流れるような明るい金髪にまぶされたラメは黄金の川に沈む宝石のようでもあった。このラメ、なんと使い捨てである。これだけでこのお嬢様が信じられないくらいのお金を持っていることがわかるし、しかもこんなデブ野郎に会いに来ている時点で、退屈な日常にちょっとしたスパイスを求めていることだってわかる。

 誰だってわかる。

 そう、だからナメられる——世間知らずのお嬢様を騙すくらい簡単だ、と。

 右から左に流れる前髪の下、こぼれそうなほどに大きいお嬢様の緋色の瞳は、今、わずかに怒りに染まっている。僕はなるたけその瞳を見ないようにしている。彼女の目は、魔性の目だ。見た者を虜にするほどに美しい。


「そうですかな? ではこのあといっしょに食事でもしながら下役の話をしましょうかな?」


 ほら。デブ野郎がやに下がっている。最初はバカにし、次に騙そうとし、今はこの少女を——ロリど真ん中のお嬢様を——どうにかしてやろうと思っているのだから救えない。

 だけれど、このデブ野郎がどうしようもないバカ者なのかと言えばそういうことでもない。これはふつうの反応だ。むしろデブ野郎はがんばったほうかもしれない。

 僕とお嬢様がいるここは、クルヴァーン聖王国の聖都クルヴァーニュにある「人材斡旋所」のうちのひとつだ。

 人材斡旋、である。ふつうに考えると「働き手の足りないお店に、人を派遣してくれる」ような場所だ。

 だけどここの所長は見ての通りデブ野郎でしかもコイツは相当な金持ちだ。室内の装飾もワインレッドの絨毯に巨大なシャンデリアがぶら下がっていて——好きかどうかや趣味の善し悪しは別として——お金が掛かっている。


 人材斡旋でそこまで儲けられるのか?


 その答えは——この部屋の壁際にあるスペース、一段高い小上がりのような場所、そこに並んでいる男女だ。

 手錠を嵌められ、足にも鎖が巻かれてある。上下ともに服は着ておらずスッポンポン。お嬢様の言ったとおり、腕がなかったり、明らかに病気だったり、身体がただれていたりと——五体満足の健康体じゃなかった。こんなところに素っ裸で立たせるよりも病院に入れたほうがいい。もちろん、そんなことしてくれないくらいにはこの世界での命は軽くて安いんだけどね。


「この人たちが『下役』だとおっしゃる……?」


 お嬢様はひっそりと眉根を寄せる。そうしているぶんには、憂いを帯びた、とんでもない美少女だ。

「下役」——ふつうの意味ならば「部下」とか「配下」という意味の言葉。

 だけれど、素っ裸で並べられている時点で「部下」や「配下」のはずがない。

 詰まるところ「奴隷」の隠語だった。

 ここ、クルヴァーン聖王国では「奴隷」の取引や所有が違法であるため「下役」なんていう言葉で売り買いされ、契約魔術で縛り上げる。それが「奴隷」となにが違うのか。


「ま、大商会のお嬢さんには少々刺激が強かったようですな。言うなればコイツらは奴隷(・・)ですわ」


 デブ野郎はパチンと指を鳴らした。

 部屋の扉が開くと、ぞろぞろと屈強な男たちが現れた。よかった、さすがに今度は洋服どころか鎧を身につけている。これで全裸集団フルチン・オン・パレードだったらさすがにお嬢様のお目汚しで彼女のパパから大目玉を食らうところだ。


「ふむ。この人たちも——」


 ヒト種族、獣人、魚人、ドワーフ……種族はバラバラだが、誰しもが「腕に自信あり」という顔をしていた。

 そして左手に、腕輪のように入れ墨の痕——。

 僕は思わず自分の左手をさすった。


「無論、奴隷ですな」

「これはあなたの所有?」

「当然でしょう。さあ、今から『気が変わって帰る』はナシですぞ」


 デブ野郎は舌なめずりしてお嬢様をつま先から頭のてっぺんまで舐め回すように見る。

 これだけの男を用意してお嬢様を半ば脅迫している……手籠めにしようというのだろう。

 まあ、確かに、お嬢様は「公平調和商会」なんていうありもしない商会の所属を名乗ったのだし、聞き知らぬ名前だとなればこの聖都にはない商会——ちょっとばかし消息が途絶えたとしてもどうにかこうにかもみ消せると思ったのだろう。僕以外のお供もいないしね。

 それにこの美貌だ。ロリということをのぞけばデブ野郎の気持ちもちょっとだけわかる。ほんのちょっとだよ。

 でもせめてあと5年は待った方がいいとは思うけどね。


「ええ……気が変わるなんてあり得ないわ」


 お嬢様は、冬の夜のように底冷えするような声を発した。


「こいつは真っ黒なのだわ。クルヴァーン聖王法典第17条『聖王国民の権利』侵害に該当します」

「……は?」


 デブ野郎はきょとんとし、それから不意に顔を赤くする。


「お前……ただの箱入り娘かと思ったら、最近ウワサになっていた『奴隷商潰し』か!?」


 おお。

 いつの間にか「奴隷商潰し」なんていうそのものずばり直球過ぎる二つ名みたいなのがついていたなんて。


「はん! 拍子抜けだな! ウワサの『奴隷商潰し』がこんなガキで、しかもお供がこれまたガキ」


 ガキガキ言うな。それで傷つく14歳もいるんですよ。

 ちなみに僕の前にいる12歳は内心ブチ切れているはずだ。子ども扱いをなにより嫌う、難しいお年頃なので。


「お前らは大方とんでもない天賦持ちなんだろうけどな、あいにくこの部屋は天賦が使えない魔術を掛けている空間だ。そっちがその気ならこっちだって手加減しねえ。——おい! お前ら、このお嬢ちゃんを捕らえな!」


 デブ野郎が言うと、「へい」と奴隷たちは一斉に返事をした。


「……レイジ」

「はい」

「わたくしを、守るのだわ」


 その瞬間——取り囲む男たちの身体は僕らを中心に放射状に吹っ飛んだ。その巨体は壁に激突し、あるいは棚をへし折って並んでいた蒸留酒の瓶を破壊する。さらには入口の重厚なドアをぶち破って外へと飛んでいった。


「……え?」


 デブ野郎は今目の前で起きたことに思考がついていかないようだった。

 魔法の制御があまく、僕の前髪が乱れたのでそれを直しながら僕は口を開いた。


「これまでつぶしてきた奴隷商は大小合わせて5つ」


 指を広げてデブ野郎に突き出した。


「その全部が、応接室には天賦禁止の魔術を施していたよ。なんで自分のところだけ特別だと思っちゃうんだろうね?」

「いや、そんな、えっ……?」

「天賦がなくったって魔法は使えるんだ。みんな、天賦に頼りすぎなんだよ……おやすみ」


 僕はデブ野郎に近づくと手をかざした。脂ぎった顔を触りたくはなかったけれども、触らないと発動できないので仕方なく触る。

 僕が放った【闇魔法】によってデブ野郎は落ちるように眠りに落ちた。


「終わった?」

「終わりましたよ」

「それじゃ、衛兵を呼ぶのだわ!」

「はいはい」


 僕は開かれた窓から手を出して手のひらを天に向けた。そこに現れた炎の鳥は、夕闇の聖都上空を飛んでいく。あと数分もすれば衛兵の宿舎にたどりつき、これまでどおり衛兵隊長がこの商館へ突入してくれることだろう。

 目を覚ましたデブ野郎はなんと抗弁するだろうか? むしろ被害者ヅラをして——これまでの奴隷商と同じ反応だ——自分は少女と少年に襲われたと言うのかもしれない。

 だけど彼はそこで初めて知るのだ。その少女が何者なのかを。


「行きましょう、エヴァお嬢様。お父様が——伯爵閣下がお待ちですよ」


 僕はスィリーズ伯爵令嬢であるお嬢様とともに商館を出た。

 建物の陰でこちらの様子をうかがっていた、フードの獣人、ゼリィに小さくうなずくと彼女は手をひらひらとさせて闇に溶けるように姿を消す。


(そう言えば)


 なんで——こんなことやることになっちゃったんだっけな。

 ああ、そうそう。

 ちょうど1年前、僕が伯爵の命を助けたのがすべてのきっかけだったっけ。


前話のキャラクター紹介にてクリスタが抜けていましたのでこちらに書いておきます。

まあたいした情報ではないです(言い切った)。


★クリスタ=ラ=クリスタ

 金髪赤目|?歳|ハーフエルフ|男

 天銀級冒険者で、「紅蓮の竜殺し」と呼ばれる。

 単身で行動しているが、彼の操る魔法は一軍に匹敵するほど。「アッヘンバッハ公爵領領都竜討伐戦」にて戦死。

【火魔法4・魔力量増大2】(残2枠は呪いのために使えない)

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新連載『メイドなら当然です。 〜 地味仕事をすべて引き受けていた万能メイドさん、濡れ衣を着せられたので旅に出ることにしました。』
→https://ncode.syosetu.com/n6251hf/

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→コミカライズ掲載【コミックウォーカー】

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― 新着の感想 ―
[一言] えええ、クリスタのこと書いてましたよね?修正済みだったの?
[気になる点] 160センチは元から見たら伸びてるだろうけど男としては普通にチビなんだよなぁ
[一言] まじ!?4年!? 中身が気になる!
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