変態、効率の代償を痛感す。
俺は三人にアイテムが余りすぎたのと、空腹を何とかしようにも火を起こす手段が無いため困っていたこと、幾つか肉を渡すので火を起こしてほしい旨を伝えると、ありがたいことに快諾してくれた。
「ええと……【ファイアボール】!!」
「「「おお。」」」
リーナが魔法を唱えた瞬間、虚空から出現した火の玉が集めた木の枝にぶつかって焚き火となる。
恐らくこの三人組も始めたばかりの初心者なのだろう、俺も合わせて全員が宝石でも見るかのように焚き火を見つめる。
「あ、一括で焼けるのか……こういうとこゲーム的に便利だなぁ。」
「その……サンラク、さん?」
「サンラクでいいよ、同じシャンフロ初心者だろうし上も下もないだろう。」
「でも年上っぽいのでやっぱりさんはつけます。サンラクさんはその、なんでそんな格好なんですか……?」
ファイアボールを使った感触にしばらく感動していた様子のリーナだったが、俺が肉を一括で焼いていると恐る恐るといった様子で問いかけてきた。
「このゲーム、キャラメイクの時点で初期装備を売れるんだよ。」
「え、そうなんですか!?」
「それで、その頭装備と武器以外全部売り払ってこのザマなわけで。」
「え、でも街がスタート地点だからすぐに装備を買えたんじゃないの?」
盗賊の少女カッホがそう疑問を呈するが、出身「彷徨う者」は初期スポーンがランダムであることを告げるとうわぁ、と同情的な視線を頂いた。なぜか心が痛くなった。
「ていうかさっきの兎……なんだったっけ?」
「ヴォーパルバニー?」
「そうそう、そのヴォーパルバニーってそんなに強いのか?」
「そうだな……」
百聞は一見にしかずと言うが実物がいない以上、再現でいいか。
俺はヴォーパルバニーの攻撃を弾くときの速度で木の棒を問いを投げかけた少年、ソーマに突きつける。
「これくらいの速度で的確に首を狙ってくる、あと多分だけど攻撃が全部クリティカルになると思う。」
「は、速……」
「まぁ首しか狙わないから慣れれば簡単に対処できるモンスターだろうな。」
「え、サンラクってレベル幾つなんだよ?」
「12、そろそろ上がりづらくなってきたしもう少し狩ったら街を探そうかなと思ってたところだ。」
「あ、それでも狩るんだ……ていうかたけぇ!シャンフロ買って一日も経ってないのにもうそこまで上げられるのかー。」
少女二人と違い年齢など知ったことかとタメ口なソーマを好ましく思う。
俺はゲーム内での年功序列は基本的にプレイ時間であると思っている。流石に年齢の序列は無効、とは言わないが俺としては同時期に始めたプレイヤーは年齢関係なく同年代、と言う感覚なのだ。
「まぁ休憩挟んでも七時間くらい通しで森に籠ってたからな、お陰でインベントリがカツカツな上に空腹がそろそろ危険域でな……」
「ああ、だから火が必要だったんですね。」
「そういうこと。あ、全部焼けたみたいだ……はい、これお礼な。」
焼けた肉のうち、オーク肉はなんか汚そうなのでアルミラージ&ヴォーパルバニーの兎肉を三人に分配し、俺はオーク肉に齧り付く。
「んー……全体的に薄い?」
味はするが、リアルで同じもの(豚肉だが)を食べるのと比べてなんか味や食感が全体的に薄く感じる。
ゲーム内の食事で満足しないようにする配慮だろうか、確かにこればかり食べていたらそのうち耐え切れずにログアウトしてベーコンでも食べたくなるな……上手くできているものだ。
「あー、ログアウトして肉食べたい。」
「……?すればいいんじゃないですか?」
「いや、それ以上にこのゲームやりたいし。」
俺がそう言うと三人もあー、と納得したように頷く。
街というものに一度も行ってないので始めてから一度もログアウトしていないとはいえ、仮に戦闘エリア内でセーブ、ログアウトができたとしてもその果てにどうなるかは想像に難くない。こうも綿密に作られていると一周してクソゲー認定したくなるな……
「ああそうだ、厚かましいけどもう幾つか質問していいか?」
別に攻略サイト並の情報が欲しいわけではないので三人から最初の街の武器屋の品揃えやここら辺の地図を見せてもらい、俺はこれからの方針を決めるのだった。
薬草の採取クエストのために森に来たらしい三人と別れ、俺は彼らが来た方角とは逆の……二つ目の街「セカンディル」へと向かう事を決めるのだった。
この作品におけるフルダイブゲームは、「ある程度本人の素養でシステムの壁を超えられる」ものとしています。
仮に全く同じレベル、ステータス、スキル、装備のAさんBさんがいたとしても、「VRゲームでの」運動神経が良い方がより強いと言えます。
ある意味現実と大差ないですが言い換えれば「現実で劣っていても鬼レベリングとガチ装備でリアルでよりは簡単に強くなれる」ということでもあるので、ゲームが認められるようになった……という感じです。