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自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。~極振りパーティ異世界放浪記~  作者: くろぬか
3章

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第71話 無情の、魔人?


「俺、コロシアムでの対決見ました! 聖女様、凄かったです! 警備だったんで、本当にチラッとしか見られなかったのが悔やまれる……」


「あ、あはは……どうも」


「イズさん、魔法剣士って事ですけど、普段はどんな魔法を?」


「基本的には、炎を。とはいえ、多分想像している魔法剣士とは、少々違うかと思われます。我々は……ちょっと特殊なので」


「おぅちびっ子、干し肉喰うか? コイツは酒のツマミ用に作られたヤツだからなぁ、旨いぞぉ?」


「喰う!」


 とても、平和だった。

 何かもう国境まで送って行ってもらっているだけかな? とか勘違いしてしまう程に、平和。

 警戒しながら進んでいるのは確かなのだが、手の空いた者達がひたすら俺達に声を掛けて来る状態。

 みんなフレンドリーだし、変に絡んで来る事も無く、非常に紳士的。

 わぁ、スゴイネー。

 兵士ってもっと堅苦しいか、また別のベクトルで過ごし辛くなるのかもと思っていたけど。


「どうした? クウリ、疲れた顔して。少し休もうか? それなら隊を止めるぞ?」


「あ、いえ。お構いなく……何か妙に皆仲良さそうなので、ちょっと毒気を抜かれたと言いますか」


「ハハッ、そりゃ背中を預ける仲間達だからな。仲は良いさ。それから……あれからちょっと気になって調べたんだが。お前さん……もしかして“魔女と聖女”か? ホラ、コロシアムの入り口に飾られてる……」


「ぶふっ!」


 マトンさん自身は戦闘を見ていない様だが、あの写真だけは目撃されてしまったらしい。

 思わず吹き出し、ゴホゴホとむせ込んでしまったが。


「当たりか? だとするとあの装備は……角とか」


「全部魔道具です、生えてる訳じゃないです。外す所見せましょうか?」


「おぉ、是非」


 そんな訳でインベントリから角を引っ張り出し、目の前で外してみせれば。

 目の前のマトンさんは「おぉ~」みたいな反応だったのだが、背後から「うおぉぉぉ!」と喝采が上がった。

 驚いて振り返ると、今までダイラの周りに集まっていた方々が。


「魔女だ! 写真通りだ!」


「魔女と聖女! 是非この場で再現を!」


 なんか、別方向で盛り上がってしまったらしい。

 あぁ、これは……。


「絶対やりませんからね」


「俺も、ちょっとあの雰囲気は勘弁かなぁ……」


 二人して拒否してみれば、皆様妙に落胆した御様子で。

 もぉぉぉ、なんだこの隊!

 真面目ではあるみたいだけど、変な人多すぎるだろ!

 などと思いつつ、思わず溜息を溢した瞬間。


「せってぇぇき!」


 前方の斥候部隊から、そんな大声が響き渡った。

 その瞬間全員の表情が真剣なモノとなり、俺達とマトンさん含む主力メンバーが正面に駆け出してみれば。

 そこには。


「え……」


 腕を失い、大量の血液を流しながら蠢いている兵士が数名。

 そしてその先には、黒いローブを羽織った赤いドレスの女が立っていたのだ。

 その手に、長すぎる両手剣を掴んで。


「アイツ……」


「間違いない、例の辻斬りだ! 全員戦闘準備! 大当たりを引いたぞ!」


 マトンさんが叫ぶと同時に、残った兵士達も陣形を整えていく。

 まさに完全包囲間近、そう言える状況だった訳だが。


「た、たすけ……」


 彼女の足元に居る兵士が、涙を流しながら此方を見つめていた。

 そんな彼に対し、冷たい視線を向けながら足を乗っけるドレスの女。

 その光景を見た瞬間に、ブチッと……どこかで音が聞こえた気がした。


「その足を退けろクソッたれガァァ! “プラズマレイ”!」


 光線を放ったが、彼女は何でもない雰囲気で攻撃を回避。

 そして真っ赤な瞳が俺を捉えてから……笑った。


「ダイラ! その人たちの治療! イズ、トトンは“本気装備”に変えてから俺に続け! 一旦集団から引き剥がすぞ!」


 更に魔法を連射しながら、此方は装備を変え。

 それが完了した瞬間“飛んだ”。

 翼を使いながら低空で、真正面に。


「クウリ!? 待て! 単騎では危険だ!」


「ちょ、ちょっと待って! すぐ装備変えるから!」


 前衛二人の声を聞きながらも、止まらなかった。

 だってコイツ、コイツの今の瞳。

 間違い無く、踏みつけた兵士なんぞゴミクズ以下って思ってた。

 そしてコチラを見た瞬間、「見つけた」って顔をしたのだ。


「お前が用があるのは俺だろうが! 何のつもりだ!? オラァ! “シューティングスター”!」


 幾多の閃光が走り、彼女を追尾していくが。

 相手は小さく微笑みながら俺の攻撃を長剣で切り裂いて行くではないか。

 間違い無くこれまで見た中で、最強の相手。

 黒いローブで姿を隠している為、外見的な特徴は未だ掴めないが。

 それでも剣の腕に関しては、かなり卓越している様に見える。

 更には、あの剣もやはり普通じゃない。

 俺の魔法を何発も斬り裂いているのに、折れるどころか刃こぼれした様子もない。

 間違い無く、魔剣とかそういう類だ。

 ゲーム的に言うと、高ランクのレイド装備にも近い何かな気がする。


「エージング!」


「老化魔法……? 無駄よ、私には効かないから」


「試してみようじゃねぇか!」


 “老化”の呪いに包まれた相手の元へ飛び込み、杖を構えた。

 完全に剣士の間合い。

 こんな距離まで接近する馬鹿な術師は普通居ない。

 だとしても、前衛が到着するまで時間を稼げ!


「シャドウバインド! ドレイン! ポイズンミスト!」


「……凄い魔力量、それに魔法の発動までが速い。流石に、それは効く」


 相手を拘束して、魔力を吸い上げ。

 更には毒の霧を発生させた状態で、相手の胴体に杖の切っ先を叩き込み。


「プラズマレイ!」


「うそ……そんなに連射出来るの?」


 間違い無く、相手の胴体を光線が貫いた。

 ドレスの女は吹っ飛び、土煙を上げながら地面を転がっていった訳だが。

 はたして。


「クウリ! 無理をするな!」


「お待たせ! 無事!?」


 遅れてイズとトトンが到着し、本気装備のまま敵を睨んだ。

 その先で、ゆっくりと身体を起こす赤いドレスの女。

 美しい銀髪は土で汚れ、派手なドレスや暗い色のローブも汚れている様だが。

 貫通した筈の腹の傷は、既に回復していた。


「流石は魔王を名乗った存在……だね?」


「あぁ? なんでお前がそんな事知ってる」


 ギリッと奥歯を噛みつつ、再び杖を向けてみる訳だが。

 彼女はフッと微笑を深め、実に楽しそう……というか妖艶とも言える表情を浮かべながら、真っすぐ俺の事を見つめて来た。


「私の配下……というか使役しただけだけど、ソレを低級魔法で殺した女の子。手加減しつつも余裕で勝利を掴んだ、私と同じ銀髪の少女。ちょっと特殊な魔法を掛けておいたの。アレの記憶は、断片的に私にも共有される。だから私は、貴女を知っている。魔王を名乗る攻撃術師、クウリ。角と翼を持つ、人族」


「……」


 以前戦った、“ゴート”の事か。

 アイツの飼い主がコイツだったって事らしいが……記憶の共有?

 マジかよ、そんなの有りか?

 そのせいで、俺の情報がコイツ自身に渡ってしまったらしい。


「つまりなんだ? 飼っているヤギだが羊だか分からねぇ奴を、俺に殺されたから仕返しに来たと。そういう事で良いのか? だったら何故他の人間を巻き込んだ、俺だけを狙えば良いだろうが」


「……何を怒っているのか、良くわからないけど。断片的って言った筈、だから正確には分からなかった。だから、捜した。私の手で、直接。興味があったから。でも今の人族は無知、しかも不快。私に牙を剥いて来た相手を斬って、何が悪いの?」


 おぉっと、これはまたビックリ発言だ。

 つまりコイツは、プレイヤー云々では無くマジで魔人か。

 更には羊頭の復讐とかそういうのじゃなくて、単純に此方に興味が湧いたから。

 もっと言うなら、コイツにとって人間は不快で叩き潰しても何とも思わない生物だと来たもんだ。

 なるほどね、はいはい。

 俺達から見れば、絶対悪みたいな存在が出て来た訳だ。


「お前は何を求めている?」


「貴女が本当に魔王なのか、確かめたい」


「あぁそうかい、単純思考で生きられて羨ましい限りだよ」


 大きなため息を溢しつつ、改めて杖を構えた。

 現地の者に、というか人間の形をした生物に攻撃した事はこれまで無かった。

 しかし先程は、そんな事気にせず攻撃が仕掛けられた。

 つまりアバターの影響で、俺は人間相手でも普通に攻撃出来るって訳だ。

 なら、いけるはずだ。

 対人戦でも、本気が出せる。

 そしてコイツは多分、生かしておいたら不味い相手だ。


「イズ、トトン、戦闘準備。ダイラはまだ来ないだろうから、俺達だけで凌ぐぞ」


「了解した」


「問題無っし!」


 二人の声に頷いて返してから、改めて相手を睨む。

 すると。


「魔王なのに、手下に頼るの?」


「魔王だから、“仲間”に頼るんだよ。そんな事も分からないのか? 無知なんだな。それから、お前の行動は非常に不快だ。つまりお前が人間に対して行った行動と、同じ事をする言い訳が俺にはある訳だ……覚悟は良いか? 魔人。俺等の本気は、さっきみたいに腹に風穴が空く程度じゃ済まねぇぞ」


 ニィィッと憎しみの籠った瞳を向けてみれば、彼女は困った様な表情で首を傾げてから。


「まぁ、良いけど。戦ってみれば、分かるし」


 それだけ言って、両手剣を構えて突っ込んで来た。

 さてさてそれでは、戦闘開始だ。


「トトン! イズ!」


「お任せっ!」


「分かっている!」


 彼女の長剣をトトンが弾き、盛大に火花が上がった事により。

 戦闘の狼煙が上げられた。

 コイツだけは……絶対に叩きのめしてやる。


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