真面目で何が悪い?
ミルフィー・カトレーゼはゲネラル王国の公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。
彼女に対する評価は『真面目』、『絵に描いたような理想の公爵令嬢』、『貴族令嬢の鑑』と好意的な意見と『面白みがない』、『無表情で何を考えているのかわからない』、『鉄仮面』と否定的な意見と半々である。
ただミルフィーからしてみればどう思われようが言われようがどこ吹く風だった。
貴族として常に自分を律し恥じる様な行為をしていない。
だから、いきなり公の場で王太子から言われた言葉は理解出来なかった。
「ミルフィー、君との婚約を破棄したい」
「……はい?」
「君は確かに完璧だ、だが面白みが全く無い。 一緒にいると窮屈なんだ」
王太子から出たのはミルフィーを否定する言葉だった。
でも、ミルフィーは気にはしなかった。
「そうですか、殿下がそう思うのでしたら私は殿下の婚約者として相応しくないのですね」
そう言ってスッと座っていた椅子から立ち上がった。
「殿下の意見はわかりました、ですがこの婚約は公爵家と王家で定められた物、私個人の意見ではどうにもなりません、ですので今後は家同士の話し合いを進めましょう」
ミルフィーは立ち去ろうとした。
「待ってくれ! 君自身はこの婚約についてどう思っていたんだ? 最後に聞きたい」
「私自身ですか……? そうですね……」
少し考え込んだ後、ミルフィーは言った。
「言葉を選ばずに言えば『どうでもよかった』ですね」
「ど、どうでもよかった……?」
「はい、家同士で決められた事で私の意見を挟む余地は無かったので……、それに殿下とは合わないと思っていました」
「合わない?」
「はい、王太子という立場上、政や世界情勢について殿下の意見を聞きたかったんですが全くそんな話が無くて自慢話やら恋とか愛とかの話ばかりでこの国をどうしたいのか全く見えませんでした。王太子として大丈夫なのかしら?と不安に思いました」
ミルフィーから発する言葉の刃に王太子は胸を抉られる様な気分だった。
「それに周囲の方々もくだらない噂話ばかりして誰一人国の事を考えていらっしゃらない様に思えて……、私には理解が出来ませんわ」
急に矛先を向けられた好奇心で2人を見ていた生徒達は俯くしかなかった。
「私達は国を担う知識や力をつける為に学院に通っているのです、そこをお忘れなき様に思います」
そう言ってミルフィーはその場を去っていった。
王太子や生徒達は痛いところを突かれたのかどんよりとした重い空気が漂っていた。
その後、公爵家と王家の間でどんな話し合いがされたかはわからないが婚約は白紙となった。
王太子は次の相手がすぐに決まる、と思われていたが王太子は固辞した。
ミルフィーに言われた事が相当効いたのか遅ればせながらも勉学に集中する事にした。
学院内の浮かれた空気はピシッとなり空気も良くなった。
「ミルフィー様がビシッと言ったおかげですよ」
「私は当たり前の事を言っただけなんだけど」
親しくしている男爵家の令嬢のルミナスとのお茶会でルミナスはミルフィーにお礼を言っていた。
「いえいえ、実は私王太子様とその取り巻きに口説かれて迷惑していたんです」
「あらまぁ、もしかして貴女と結ばれようとしていたのかしら?」
「そんな事ある訳無いじゃないですか? 小説じゃあるまいし」
「貴女の見た目とは違って現実的な性格、嫌いじゃないわよ」
そう言ってクスリと笑うミルフィー。
ミルフィーは心を許した者にだけは感情を出している。
「でも、周囲はミルフィー様の何処を見ているんですかね? 間違った事なんて1つも言ってないのに」
「人の感情はそれぞれですもの、合う方もいれば合わない方もいますわ、社会とはそういう物ですもの、ただ頭ごなしに否定するのはいただけませんわね」
ミルフィーは紅茶を一口飲んでこう言った。
「私の事を真面目過ぎる、と言う方がいらっしゃるけど聞いてみたいですわね『真面目で何が悪いのか?』と」