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悪役令息だけどキャラメイクでルックスYを選んでしまいました  作者: バッド
2章 アカデミーに悪役令息は通う

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48話 横領はテンプレイベントなんだ

 アカデミーは一ヶ月前の騒動がようやく終わり、落ち着きを取り戻し始めていた。


 調査したところ、プトレマイオスという組織が暗躍してアカデミー内にも多くの構成員を潜入させていた。しかも教員までいたところから、ただの犯罪組織ではないと思われて、『嘘感知センスライ』による調査が行なわれた。そうして、一斉検挙を行なったところ、プトレマイオスの構成員の反撃もあり、怪我人も続出。一時期はアカデミーはまったく運営することもできなくなったのであったが、市井で見つけた凄腕の治癒師の力も借りてなんとか回復していた。


「平和なのが一番なんだよねぇ。忙しい学園なんか誰も望んでないっつーの。なんでこんなことになったのやら」


 無精髭を生やし、フケだらけのボサボサ頭を掻きながらモヤシのように痩せている男、魔法科担任のハコブ・オライガは図書館の蔵書を整理しながら愚痴っていた。以前ならば、ゆっくりと蔵書を整理して、自分だけの研究に打ち込めていたのだが、今は捕まった教員や事務員の仕事が任せられて、かなり忙しい。この図書館の司書すらもプトレマイオスに関係していたと判明し捕まってしまったために、簡単な本の整理すら自分でやらなければならないのだ。噴飯ものだと、その口からは愚痴が止まらない。


「あ~、たっく、何冊あるんだよ、これ。学生に本を貸すのは禁止にした方がいいんじゃないかねぇ、あ、この本汚れてやがる」


 山と積まれている本は返却された物だ。本来は司書がやるべき仕事であったが、他にやる人がいないためハコブがやるはめになっていた。


 今は新学期が始まったばかりなので、使用する学生はおらず、一人きりでハコブは働いている。


「なら、学生たちに頼めばよいのでは?」


 突然女性の声が聞こえてきて、ハコブは僅かに息を呑み驚くが、すぐにめんどくさい顔へと変えると振り向く。


「これは教頭。お暇なんですかね? それなら少し手伝ってくれませんか? この返却された本の山を見てくださいよ」


 誰が入ってきたのか確認し、安堵しながらハコブはおどけて言う。相手はキツめに見える細眼鏡をかけた厳しそうな女性だった。服にしわ一つなく、ぴしりと着込み、背筋を伸ばして立つ姿からもどのような人間か分かるというものだ。


 名前はリューラ・リューラ。若くしてアカデミーの教頭まで上り詰めた才女であり、天才錬金術師だ。自身も錬金術用のアトリエを持っており、錬金アイテムを売り、かなりの資産を持っている。


 出世欲の塊のような女だから、からかわれたら怒って帰るかもしれない。そう考えていたハコブだが━━━。


「良いでしょう。こちらの本を片付ければよいでしょうか?」


 まさか手伝うと言うとは思わず慌ててしまう。


「ちょ、冗談ですって、教頭。教頭に雑用を任せたら俺が周りから白い目で見られてしまいますよ」


 本を手に取ろうとするリューラを押し留めると、断られるのを予想していたのだろう、リューラはあっさりと身を引き、壁に寄りかかる。


「それならばやめておきましょう。それよりも用があって訪ねてきたのです。少し気になることがありましたので」


「気になることですか?」


 愛想の欠片もない冷たい声音にハコブは多少怯る。この女史はよほどのことがない限り、呼び出すことはあっても、自身が赴くことなどしない人だからだ。


「えぇ。プトレマイオスについて各人に尋問した時の話です。なまじ私たちは『嘘発見センスライ』を使うことができるので真実を簡単に見抜けると勘違いしてしまいます。ですが、それが間違いだとはハコブ先生は知ってますよね?」


「そりゃあ、魔法科の担任ですからね。『嘘発見センスライ』で分かるのは、嘘を言っているかどうか。なので尋問時の返答は『ハイ』か『イイエ』だけにして、とぼけられないようにするんです。他の話を混ぜて嘘か判別できないようにするのを防ぐためです。今回もそうでしたよね?」

 

 そんなのは初歩の初歩だ。『嘘発見センスライ』を誤魔化すために、古来より数多くの詐欺が行われてきたため、今のような2択になったのである。


「ふふ、そうでしたよね。さすがは魔法科の担任です。ですが、今回のように敵対組織を見つける際に大勢に尋問する場合、気をつけなくてはならないことがあります。なにかわかりますか?」


「それは………なんですかね?」


 試すように目を細めて見つめてくるリューラに、息苦しさを覚えながらもハコブは答えるが、不敵なる笑みで返される。


「それはですね。相手の認識のありようによります。さて、今回の尋問は『プトレマイオスの一員か?』もしくは『プトレマイオスと関係しているか』でしたか?」


「………えぇ、そんなふうな質問でした。もちろん『イイエ』です。俺の無実は証明されましたよ」


「そうですか。でも、その質問、もう少し変えるべきだと私は思うのです。………そう、『魔導書を横流ししているか?』とか」


 リューラの見つめる瞳が不気味に感じられて息が詰まる錯覚をハコブは覚える。この質問の流れは極めてまずい予感がする。


「『相手が誰かは知らないが、この学園に手引きする人間を紹介したか』とか。どうです? 少し面白い質問と思いませんか?」


「………えぇ、そうですねっ!」


『エナジーボルト』


 手のひらをリューラに向けて、ハコブは階位5の魔法エナジーボルトを解き放つ。膨大な熱量を包括する光線が放たれて、リューラを一瞬で貫き、後ろの壁もあっさりと溶解させると、大穴を開けるのだった。エナジーボルトは耐久力のあるミノタウロスすら一撃で倒せる強力な魔法だ。錬金術師ごときに耐えられるはずもなかった。


 リューラの胴体に大きく穴が開き、身体をかしげると倒れ伏す。その様子を見ながら忌々しそうにハコブは舌打ちをする。


「ったく、余計なことを思いつきやがって。だが、一人で来たということは確証はなかったな? とすると……教頭がプトレマイオスの一員だったと言い訳をして誤魔化せるか?」


 不意打ちが成功し、殺すことには成功したが、後の処理が大変だと顔を顰めるハコブだが━━━。


「いやいや、確証はあったよ。希少な魔導書を売り払ってるだろう? 売り先はプトレマイオス。だが、お前はプトレマイオスだとわざわざ確認することなく売っていた。知っていれば面倒事になるのは分かっていたからだ」


「誰だっ! もう一人いやがったのか? どこに隠れている?」


 どこからか雛の鳴き声のような可愛らしい声が聞こえてきて、ハコブはすぐに身構えると怒鳴る。


「気を遣いすぎだよね。自白剤でもないんだから、しっかりと質問はしなきゃ。返却された本の山。片付けている間に魔導書が足りないことに気付かれたらまずいと思って、学生に声をかけなかった。共犯者の司書が死んで残念だったね?」


「そこかっ!」


『エナジーボルト』


 からかう声に、どこにいるかを察知するとハコブは再び手を向ける。狙うは本棚の上、なにかがいると、熱線にて貫く。が、燃える本棚と散らばる灰のみで、そこには誰もいない。


「これからお前はオリエンテーションで森林探索を生徒にさせる。弱い魔物しかいない森林だ。安全だと告げて、少しだけ強い魔物を解き放つ。そうして、その魔物が騒ぎを起こしている間に、平民の魔法使いの何人かを攫う。そうして魔物を倒した後に、この森林は安全ではなかったと、哀しむふりをするんだ。で、誘拐した人たちは魔法の深淵を探るためと解剖して殺す」


 告げてくる内容にギクリと身体を強張らせる。たしかにその通りの計画を練っていたからだ。


「………どうやって知ったかは知らないが、魔法の深淵は魔法使いの魂の間にあると議論されている。魂を覗けば深淵を見ることができるんだ」


探知ロケーション


 会話をしながら慎重に相手のいる場所を探る。探る対象は声の主。魔法から逃れる術はなく、確実に捉えることができる。


「ふふふ、魂を覗き込むために身体を解剖するとか、短略的愚かな考えだ。そんなだから来年に犯罪がバレて討伐されるんだよ、ハコブ」


「まるで見てきたようなことを言うんだな、君は!」


『エナジーボルト』


 今度こそ捉えたと確信し、エナジーボルトを撃つ。熱線は一瞬で本棚を貫いていき、探知にて見つけた場所を薙ぐのだが━━━。


「なにっ!? なぜいない? 確実に捉えたはずだ!」


 貫いた本棚に丸い大穴が開き、炎が本を燃やしているが、やはり誰もいないことにハコブは動揺する。


「ふふふ、はははは、無駄、無駄。階位7の幻分身は知らないのかな? 存在そのものをコピーする幻だ。デコイとして使う相手には要注意。倒した相手は本当にいたのかな? もしかして気の所為だったかもしれないよ?」


「階位7だとっ!? そんな魔法は見たことも聞いたこともない。デタラメを言うなっ!」


 ハコブも魔法使いとして一流だ。使えはしないが高位の魔法は知っている。その中で幻分身など聞いたこともない。しかし………倒したはずのリューラがどこにもいない。たしかに血を流して死んだはずなのに。


「ふむ………少し魔法について調べないといけないかも。まぁ、良いや。ハコブ、君には感謝している。悪人で良かったってね」


「馬鹿にしているのか? 後悔するぞ? この俺は魔法科の担任。このアカデミーで1、2を争う魔法使いなんだぞ?」


 激昂しながらも、ハコブは魔法を放たない。今度こそ視認したら撃とうと考えているのだ。この声の主は不気味だ。可愛らしい声だが、どこか無機質で、魂に怖気を感じさせる。


「考えたんだ。なんで主人公の行動に合わせないと行けないんだって。主人公は自由だ。その考えに悪役令息が介入はするべきではない。でもさ、それなら、舞台を整えればいいんじゃないかな? 舞台で役者が踊るなら、舞台を整える監督役をやれば良い。選択という自由を与えるふりをして、実のところ思い通りに行動する主人公をさ」


「なんのことだ!? 意味の分かるように言えっ!」


 理由のわからないことを長々と喋る相手に苛立ちを持って叫ぶと、本棚の間から、なにかが歩いてくる。


「簡単に言うとだ。魔法科に行かせたくないなら、魔法科自体消せばいい。魔法科ルートを消滅させれば、主人公は自由に決めるつもりで他の学科を選ぶだろう」


 姿を現したのは幼い少女だった。面白そうに微笑みながら歩いてくる。


「だからハコブ・オライガ。君はクビだ。この舞台からは降りてもらう。新しい仕事をあの世で探すんだね」


 そういう幼女の瞳は深淵のように深い闇を灯らせて、顔だけは無邪気な様子で微笑みかけるのであった。

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― 新着の感想 ―
ああどうしようせっかく幼女がかっこよく暗躍してるのに、貴重であろう本達が焼けていくのが気がきでならな!集中できない!
考えたんだ。なんで主人公の行動に合わせないと行けないんだって。主人公は自由だ。その考えに悪役令息が介入はするべきではない。でもさ、それなら、舞台を整えればいいんじゃないかな? 舞台で役者が踊るなら、舞…
にゃんで急に緊迫感のあるシリアスバトルものみたいな話になっているのかと思ったら、そういうことでしたかー。ハコブとシリアス揃って終了のお知らせ。
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