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悪役令息だけどキャラメイクでルックスYを選んでしまいました  作者: バッド
2章 アカデミーに悪役令息は通う

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51話 悪役令息は仲良くなるふりをするのは基本

 次の日、魔法科が休止となったことから、選択肢は狭まった。とはいえ、現実のアカデミーには経営学科ルートとか政治学科ルートとか、要らないルートがたくさんあるので警戒していたが、どうやらゲームの強制力は働いたらしく、カストールは錬金術科ルートに入ることを決めた。


 アキは安堵でホッと胸を撫で下ろしたものだ。


 そして、スピカはもちろんのこと、魔法科に入る予定の者たちも錬金術科だ。少し心苦しいが、世界を救うためなので我慢してほしい。あたちはゲームのストーリーを楽しみたいんだ。後者はついでだよ? 本当だよ?

 

 とはいえ、錬金術科は全員合わせても20人もいなかった。元々の錬金術科希望は数人だったらしい。錬金術師を集めてもこの人数とは、どうやら魔法使いというのはかなり希少なようだ。これ、ゲームとの相違点かなぁ。ゲームだとデフォルメされていたから、数人しか教室にはいなかったので分からなかった。


 剣術科は100人近い。次が文官を目指すため、経営学と政治学などだ。一学年200人近く、騎士になって成り上がるのが一番手っ取り早いんだろうね。


 ま、とりま、主人公は錬金術科ルートを選んだのだ。他のルートは気にしなくて良いだろう。


 本当に気にしなくてもよいのか不明だが、楽観的にアキはそう考えるのであった。本当に気にしなくても良いのか不明だが。


          ◇


「私たち錬金術科かぁ。ウ~ン、光魔法を覚えたかったんだけどなぁ。回復魔法とかもあるから、将来楽になってたんだけどなぁ」


 錬金術科を選んだ学生たちが集まる教室。少ない人数ながらもざわつく教室にて、スピカが苦笑交じりに唇を尖らせる。そんな姿もヒロインは可愛らしいのでお得である。


「僕も雷魔法を活かせないから残念、だよ。雷魔法って、使い手を聞いたことないから、たぶん希少だと思った」


 嘆息しつつカストールも残念そうだ。でもな、カストールよ。雷魔法は魔法の中でもイッチバン上がりにくい魔法だから! 希少なだけだからな?


 このまま魔法科に行ったら、たぶん棍術の使い手とかになってるからね? 殴り魔法使いとか役立たずすぎて、一番パーティーから嫌われるやつだから。それで確実にストーリー詰まってたから! 感謝するよーに。


 内心でアキはむふんむふんと得意げになりながら、もうストーリーは楽勝だねとますます気楽になっていた。


 その理由は錬金術科ルートのストーリーの内容にある。『地上に輝く星座たち』のエンディングは全部で10個。剣術科、魔法科、錬金術科で各3つずつ。ハッピーエンドとノーマルエンド、そしてバッドエンドが一つずつだ。残り一つはすべてのルートをクリアしたものだけが到達できるトゥルーエンドだ。オプションで恋人がいるのと、ハーレムを作っているエンディングが加算されるが、それはあくまでもエンディングのおまけである。他にも国王になるとか、金持ちになるとか、最後の部分が違うところはあるが、基本エンディングは同じで差分CGはエンディング寸前のデータをロードして取得したものだ。


 そして、錬金術科ルートはとても楽だ。なぜならばその特性上、戦闘スキルを持たないから。即ち、戦闘スキルを持たなくてもクリアできる要素があるわけだ。錬金術科ルートは━━━。


 考え込むアキの顔の前にぴょんこと顔を出して覗き込んでくるヒロインスピカ。


「ね、ねね。アキは錬金術大丈夫? 結構魔法論とか覚えないと大変らしいよ。一緒に勉強する? 私は少しはわかるんだ」


 大丈夫? と聞きながらスピカは早くもコブターンが錬金術についていけないと思っている模様。優しいのだが、悔しい。俺だって、錬金術の一つや二つ使えるんだ。


「安心しろ。俺様はポーションくらい作れる。ふん、俺の腕前を見て驚くが良い」


 偉そうにふんぞり返るコブターン。錬金術など簡単だ。


「そうなんだ。薬草を等分にきれいに切ったり、水の量とかも正確に測らないといけないらしいよ?」


「それ、お菓子の作り方だろ? 俺様は錬金術を言ってるんだ。お菓子作りは苦手だ」


 正確な量って、なに? お菓子だろう? 錬金術は錬金釜に入れれば勝手にできるんだよ。………できるよね?


「いや、錬金術だよ。僕もスピカも料理ができるから、この錬金術科は貴族よりも有利だと思うんだけど、アキは料理作ったことある?」


「………た、たぶん? 肉なら焼いたことある」


 心配げな顔のカストールの言葉で、錬金術科の生徒が少なかった理由が判明。そりゃ料理をやったことのない、しかもお金に困ることのない貴族は錬金術科には来ないわ。納得した。そして絶望した。


 マイ錬金釜を使って……は駄目だろうなぁ。くっ、幼女ならマイ錬金釜を使っても許してくれたかもしれないのに!


 幼女ならと、幼女力本願をするアキだが、幼女だとカオスの錬金術科ルートになるだろう。おままごとルートに変わるかもしれない。


「だいじょーぶ! 一緒にやっていけばすぐに覚えられるよ! 皆ほとんどスタートは一緒だと思うし!」


 そして、やはり見栄を張ってたんだと、スピカがコブターンの肩を軽く叩くと笑顔で励ましてくる。く〜、マイ錬金釜を使えば錬金術が使えるのに!


「ぶふっ、見ろよ、あのブタ。平民に慰められてるぜ。貴族としての誇りはないのかね」


「そう言ってやるなよ。平民でなければ相手をしてくれないだろ」


「だいたいあいつはなんで錬金術科なんだ? 領主の跡取りは普通は経営学科か政治学科じゃないか?」


「自分の立ち位置を知ってるってことだろ。少しは頭があるんだろうよ」


 なんか陰口を言われているが、わかってないな。この子たちはこの世界の主人公とヒロインなんだぞ。この世界に貴族は腐る程いるが、主人公はここにしかいないんだ。仲良くなれるのは極めて幸運なんだぞ。でも、悪役令息だから、どこかでお別れして意地悪をして絡まないといけないけどな。


 ふふーんと、まったく気にしない悪役令息ルックスYである。それどころか楽しいので顔を緩めて笑みを浮かべる。だが、この笑みはなぜか強がっているようにカストールたちには見えた。たぶんソバカス太っちょコブターンの見かけのせいだろう。なので、カストールもスピカもコブターンに同情して陰口を叩く奴らを睨むが、それがまた優越感をもたらすようで、貴族の子弟たちはニヤニヤ笑いをやめなかった。


 ちなみに魔法使いも錬金術も教育された子供でなければなれない。即ち、この部屋はカストールとスピカだけが平民で、他の生徒は皆貴族であることも陰口を叩く者たちを強気にさせる理由であった。


「えっと、皆さんなにを笑っているのですか? そのような態度こそ、貴族として恥ずかしいことに気づきませんか?」


 と、そこで教室に入ってきた少女がピシリと言う。陰口を叩いていた学生たちが声の主を睨もうとして━━━すぐに顔色を変えると声の主に駆け寄る。


「こ、これはピスケス公爵令嬢。ご機嫌麗しゅう」


「陰口を聞いて機嫌が良くなるほど、私の性格は歪んでません」


 冷たい声音でゴマをすろうとする学生の横を通り過ぎるのはマノミ・ピスケスであった。そりゃ、魔法使いだから魔法科が駄目なら錬金術科に来るのは当たり前か。それにしても弱気な娘だったのに、見違えたよ。まだ少し弱気に見えるけど、充分公爵令嬢に相応しい態度だ。


 友だちなのだろう何人かの少女と一緒に前に来ると、コブターンをちらりと見て、なにか言いたそうな顔をしたが、すぐに目をそらすと椅子に座るのだった。マノミとしてはアスクレピオス侯爵家になにかあるんだろうよ。


 まぁ、錬金術科ルートだと絡むことはないから、これもまたゲームの強制力なのだろうと、アキは気にしないこととした。あ~ちゃんがお手々を振りたがっていたけど、我慢してもらいました。


 騒がしい教室だが、ガラリと扉を開けるとコツコツと硬質な足音を立てて、教壇に教師が立つ。


「あなたたち。もう休み時間は終わっています。いつまでお喋りをしているのですか? さっさと座って授業を受ける態度を見せるか、窓口に行き退学の手続きをしてきなさい」


 絶対零度の冷ややかな声音で立つのはリューラ・リューラ。このアカデミーの教頭だ。キツめの目つきに細眼鏡をかけており、まさに厳しい教師という感じだ。感じだけでなく、かなり厳しい人だとゲームで覚えている。たしかスキルは錬金術5、セージ5、古代語魔法3。いかにもアカデミーの教師レベルのスキルだ。レベル6からは特別な錬金術本が必要だからね。全てのスキルレベルは6から次元が変わるレベルで強くなるが、錬金術も同様なんだ。


 ちなみにリューラに変装すると、アカデミー内を自由に歩けることは確認済みだ。ゲームでリューラに変装するストーリーあったんだよ。


 リューラ・リューラを見て、皆は静かになり椅子に座る。リューラは貴族だから文句をつけるものはいない。伯爵家だったかな? ちなみに仲間にできるルートもある。あんまり人気なかったけど。錬金術科ルートだと主人公が錬金術師だから、もう一人錬金術師はいらないからな。


「私は錬金術担当のリューラ・リューラです。ビシビシと厳しく教えていきますので、しっかりとついてくるように。どのような身分でも贔屓はしないのでよく覚えていてください。理由は下手に贔屓をして、間違った錬金術を覚えると錬金術師当人が錬金の最中に事故死するからです」


 極めて現実的な理由を説明すると、細眼鏡をクイと動かして、リューラは説明を続ける。


「錬金術は極めて危険な学問です。なのできっちりと教えていきます。さて、ではさっそく授業を開始します。最初の授業は簡単です。まずは調合器具を集めなさい。それが第一歩となります。集める方法は自由です。店で買う、知人に貰う、自分で作る。以上です。さぁ、解散して集めに行きなさい。期限は来週の講義までです。無理な者は他の科に変えるように」


 ゲームのとおりに説明するリューラ。これは錬金術科の最初のクエストだ。悪逆非道クエストにはないみたいだけど。現実だと授業放棄に見えるが、ゲームの世界だからな。


「帰って寝ないと………盗賊団に続き、ハコブの事件も起こるなんて、今年は一体全体どうなっているのですか………。フワァ」


 たぶん授業放棄ではないと思う! よろよろと帰っていくリューラだけど、たぶん授業放棄ではないと信じたい。実質授業は5分で終わったけれども!


 だが、内心でくふふふとアキは笑う。ここで悪役令息の出番があるのだ! その内容はというと、ズバリ『錬金術道具の取得』だ! ここに絡むのである。


 ふんすふんすとコブターンの中でルックスYは大興奮だ。またまたやってきた悪役令息の出番。張り切らないほうがおかしいだろう。


 やってやるぜと気合を入れて、コブターンはカストールたちに笑みを見せる。


「おい、お前ら。意地悪をして、悪かったな。どうだ、仲直りしないか。その代わりに穴場の店を教えてやるぜ」


 ゲームの脚本とおりにしかセリフを口にできないアキだった。二人はぽかんとしている。それはそうだろう、意地悪などされたことがないのだ。というか、スピカに至ってはなぜかコブターンへ好感度も上がっている。


 アキもそのことにすぐに気づいた。セリフを口にする前に気づかなければならなかったが、今ごろ気づいた。さすがは知力1である幼女だ。


「え~と、仲良くなりたいって、私たちはもう仲良いよ、アキ」


「うん、僕たちはもう友だちだよ」


 そして、なぜか優しい目をしてくる二人にいたたまれない。だが、アキはそんな事でめげるつもりはない! せっかくの悪役令息の出番なのだ! 出番があるならなんでもやる人気のない芸人みたいな幼女である。


「とにかく、だ。穴場の店があるんだよ。そこで錬金術の調合アイテムを揃えると良い」


 本人的ににこやかな笑みを作って、他人からは怪しそうな笑みを見せて、内心でこのクエストを思い出していた。

 

 このクエストの内容はこうだ。カストールに殴られたことを根に持ったコブターンだが、そこで一計を案じる。それはボロい錬金術の道具を買わせる作戦だ。


 仲直りのふりをして、王都に来たばかりの不案内な二人に穴場と称し、裏通りのボロいお店を紹介する。そして、ボロい錬金術の道具を買わせて仕返しする作戦だ。その嫌がらせは成功し、高値で錬金術の道具を二人は買う。


 まぁ、そこからはゲームっぽい流れとなる。その錬金術の道具を直せると店の主人から言われて、お使いクエストで修復アイテムを集めて修復する。するとあら不思議、一流の錬金術の道具に変わるわけだ。そして、他の店で高値で買った錬金術の道具が偽物で、ゴミのようなボロボロの錬金術の道具だったコブターンはギャフンとザマァ展開になるわけ。


 まぁ、高値で買うところは省いていいだろう、お金もったいないし、家のボウルとか計量カップで代替えしよう。それでギャフンと叫べば良いよな。錬金釜以外の調合道具なんて飾りなんだよ、偉い人はそれがわからんのです。それに、クエストの基準はガバガバだから、たぶんそれでもオーケーのはずだろう。


 この先、その店は錬金術科ルートや共通ルートでも重要な立ち位置の店となる。それを教えることもできて、一石二鳥だ。


 天才、天才かもしれない。それかその結果がどうなるかを、まったく考えないゲーム脳かもしれない。


「さぁ、お前ら、俺についてこい。きっと良い錬金術の道具があるからな」


「うん、楽しみ!」


「頼りにしてるよ」


 さすがは善人ルートを選んだらしき主人公たちはあっさりと騙されてくれた。だが、ここで悪役令息とは袖を分かつのだと、クフフと笑ってアキは王都を案内するのだった。


         ◇


『景気の良いアスクレピオス領都に引っ越します』


 店の前に張り紙があり、穴場の店は引っ越していた。

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― 新着の感想 ―
ふーむ、カストールこれ双子の妹とかじゃない?スピカとの距離感的にも
毎話大笑いさせてもらってます。ありがたや〜ありがたや〜。
バタフライ幼女が強すぎてそろそろコブターンにちょうちょのはね生えそう 蝶の羽生えた小太りはちょっとキモいから無いかも
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