67話 パワーアップイベントは勝利の方程式
ガチャへとちっこい手を伸ばしアキは押下する。聞き慣れたBGMが耳に聞こえてきて、光の柱が降りてくる。でも、メランはゆっくりと近づいてきている。幼女の命が風船の灯だ。ぱちんと弾けちゃうよ。
(早く早く早く、ハリーハリー! レオの星座、もしくはライブラ、ゼータクは言いません、黄道十二星座ならどれでもいいです。できれば攻撃系統!)
贅沢は言わないけど、最高ランクか欲しいと、ガチャに対する謙虚な心をどんなときでも忘れない幼女は天に祈りつつも、早くエフェクトが虹色で終了するように願う。スキップ? まさか、そんなことをするのはもったいないでしょ。
パアッと光が変わっていき、虹色を超えて、なぜか漆黒の色となった。
『AR:アスクレピオス:星座スキル:星座スロット付き』
『自身の眷属を操ることができ、眷属のステータスを2倍にし、眷属全てのステータス値の半分を合算して術者に宿らせる。また倒した敵の星座スキルを捕食し、スキルを奪える』
なんか見たことのないレアが出た。空に浮いているあ~ちゃんを見ると、むふふと口元を緩ませて幼女眠りをして、アキをチラチラと見ていた。たぶん『あ~ちゃんレア』とか言うのだろう、ツッコんではいけない模様。
わかってたよ、わかってました! スキルはたぶんこれだと思ってたよ! 絶対に操作してるよね。だが、チートなスキルには違いない。
『オーケーだ! 星座スキルアスクレピオスをセット!』
ステータス画面にてアスクレピオスがセットされたことを確認!
『悪逆非道が発動しました』
「新しい力を手に入れたら、反撃の狼煙を上げるとき!」
『アスクレピオス発動』
初めて使う星座スキル。悪役令息にはなかった能力が、今悪役令息ルックスYの手で発動した。使用した瞬間、体内に激しい濁流のようなエネルギーが駆け巡り始めたのを感じ始める。まるでマグマが体内に生まれたかのようにふつふつと力が噴き出し、幼女の身体が変貌していくのを理解した。
「んん~? なにかをしようとしたようだが、既に遅い、遅すぎるわっ!」
見た目には変わらなかったが、メランは人外となった感覚でアキの様子が変わったことを感じ取り、爪を振り上げて突進してくる。数歩で目の前に来て、剛腕を唸らせて叩きつけてきた。
地面が陥没し爆発したかのように砂煙が辺りを覆う。ケルベロスの豪腕により、クレーターとなった地面だが、アキの身体は消えていた。
「勘がいいな、だが、それならもう少し慎重にしなよ!」
『幻歩』
アキは数メートル離れた場所に霧と共に現れて、鋼の剣を構える。メランの目つきが鋭くなり、犬の頭で唸り声をあげ、すぐに体をひねると裏拳を繰り出す。
が、アキは冷静にケルベロスの爪に鋼の剣の先端を合わせて、発する衝撃を使い体を回転させて躱す。続く連撃をブレるようにステップを踏み見切っていき、後ろへと間合いをとって押し下がった。
「今のをかわすとは!? その動き、先程までとは比べ物にならん! 身体能力を強化させるスキルか?」
さっきまでは反応もできなかった速さにアキがついてきたことに、メランは驚きを隠せない。
「そうでしょ。さっきまでのあたちとお前のステータス差は百倍以上離れてたんだ。今は数倍まで迫っているからね」
トトンと軽やかにリズムよくステップを踏みながら、アキは嗤う。その瞳は爛々と光っており、真っ赤なルビーのように変わっており、幼女の可愛らしさに、どこか恐れを感じさせる力も交じっていた。
なにしろステータスオール1だったからな! 今は100を超えていると思うんだ。幼女は綿あめのように柔らかく、飴細工のように壊れやすい存在なんだよ!
「その赤い瞳はいったい? だが、それでも歴然とした俺とのステータス差があると自らで認めているかぁぁっ!」
アキの瞳を見て、本能が畏れを抱くが、気の所為だと振り払い、メランは再びアキに襲いかかってくる。あまりの踏み込みの強さに地面が抉れ、猛牛のように迫るメラン。
「たしかに数倍の差はまだあると思うよ。でも、たった数倍だ!」
対してアキも迎え撃つべく走り出す。お互いの距離が一瞬でゼロとなり、白兵戦の領域となる。
「ハッタリを! 力に差がありすぎて、技では覆せぬわ! 圧倒的な力は技など無慈悲に押し潰すのだよ」
『冥府絶影爪』
「圧倒的な力の差はさっきまでだろ!」
『ソードパリィ』
メランが必殺技を使い、影すら断つ速度で爪を繰り出す。常人には感知すらできない速さの爪は幼女を紙切れのように切り裂く威力を持っており、アキも先ほどまでは躱すどころか、攻撃されたことにも気づけなかった。
だが今はわかる。自身のステータスは負けていても、数倍程度のステータス差であれば視認は可能で、高速で迫る鋭い爪へと鋼の剣を突き出す。
キン
まるで鈴のような涼やかな音色を奏でて、アキはメランの爪を絶妙なタイミングで打ち払った。続く左からの爪撃も体を反らして切り戻した剣で横腹を叩きつけ軌道を逸らす。次いで無理やり体勢を立て直したメランが右左と爪撃を繰り返すが、速度と受け流し性能の上がったアキはソードパリィにて全てを弾き飛ばすのであった。
「………!? まぐれでも、ギリギリの受け流しでもない。完全に見切られているというのか?」
体術の達人はアキの剣捌きが偶然ではないことを見抜き、驚きで瞠目する。なぜならば、自身の攻撃を繰り出した時には、アキは攻撃軌道上に剣を向けて攻撃を読んでいるからだ。
「だから言っただろ、メラン! 数倍程度のステータス差じゃあたちを殺すことはできないと!」
アキはにやりと子猫のように獰猛な笑みを見せて鋼の剣を振るい続ける。他人から見れば、2人の姿はブレており、あまりの速さに音だけを感じることとなっていただろう。まるで木琴を激しく叩くかのような音色が戦場に響き、2人の戦闘は続くがもはやメランの攻撃を完全にアキは見切っており余裕すらあった。
その理由は、アキの使用した星座スキル『アスクレピオス』にある。アキは今ヒャッハーたち12人の視線を共有しており、自身を俯瞰して見れていた。それだけだといつもとたいして変わらないのだが━━━。
(予測できる。敵の動きがわかる。呼吸音、筋肉の力の入れ方、目線、そして今までの攻撃パターンから、メランの攻撃が予測できる!)
今のアキはヒャッハーたちの脳が繋がっており、その思考速度は人を超えていた。複数のパソコンを繋いで、処理速度を上げるように、アキの演算能力はスーパーコンピューター並みへと上がっていた。
(0.3秒後に首)
首へと迫る爪を予測し、振られる前に剣先を突き刺す。予測通りに爪は剣先により弾かれてアキの横を虚しく薙ぐ。
(1.2秒後に左脇腹、顔への突き、ローキックからのショルダーアタック)
クンと後ろに身体をずらし首をかたむけて、跳ね上げるように下から掬い上げるように蹴りを放ち、完全に体勢が崩れたメランへと反対に体当たりをして、地面へと押し倒す。
数万通りのシュミレーションが脳内で行われて、最善の攻撃をアキは繰り出したのだ。その予測精度は未来予知に近く、メランとのステータス差が数倍程度ならば余裕で対応できていた。
━━━そして、アキの能力が上がっただけではない。
「へい、待ってたぜ」
「お一人様ご案内だな!」
「ツインシンクロ重力剣」
アキがメノンを地面に押し倒す前から爛々と赤い目を光らせ、タイチたちは剣を振り上げて武技を発動しており、ちょうどメランが地面に転がった時に、その肉体に超重力の武技が振り下ろされた。
「ぐふっ、な、なぜ武技を発動していた!?」
腹に食い込む超重力の激痛に呻きながら、それでもメランは片手を地面につけると、無理やり飛び上がり、体勢を戻そうとする。
『ツインシンクロエアリアルシュート』
だが地面に足をつけたタイミングで、足の甲に矢が突き刺さり、メランを縫い留めてしまう。
「ギャァァァ、こ、この練度は、あり得ない、なぜだぁっ!」
遂に苦痛から苦悶の叫びを上げるメラン。実際に信じられない連携であり、傍から見たら自分が敵の放った攻撃に自ら当たりに行っているようにも見えたのだ。
「往生せいやー!」
「ヒャッハー、たまいただくけん!」
「これでおしまいじゃー」
『チャージ』
ドスのように腰溜めに剣を持つと、鉄砲玉のような叫びを上げてセンイチたち4人が突撃する。その攻撃を受けたらさすがに危険だとメランは考えると、無理やり矢で縫いつけられた足を引き抜き、水平に腕を伸ばすとコマのように回転する。
『回転爪』
爪撃によりセンイチたちが弾かれて、その体に傷が刻まれる。足から血を流し、回転により息を荒らげながらメランは嗤う。
「お、面白いぞ、だが、お前たちの攻撃では俺に致命傷を与えることは不可能。そして、俺の身体は自然治癒もある。長引けば俺のか」
「隙だらけで言う言葉じゃないね、メラン!」
『ファントムダンシング』
両手を広げたままの隙だらけのメランへと、アキは分身と共に肉薄する。鋼の剣がその手足を切り裂き、傷を負わせて通り過ぎる。それでも致命的なダメージを負わせることはできなく、表皮に数センチの深い傷を与えるに留まり、メランはにやりと嗤う。
「グッ、だ、だが、ガハハハ、なかなかやるがそこまでだ。幼女よ、お前らでは致命的な攻撃は不可能で、再生する俺を倒す火力はな」
ズン
最後までセリフを口にすることはできなかった。メランの身体に刻まれた傷を正確に狙い、地面から金剛の牙が貫いたのだ。メランはまるで昆虫標本のように牙に貫かれて動けない。
「こ、これは!? まさか傷を狙った!? そんなことができるのか?」
「『金剛瓦礫牙』まきゅー」
ぼろぼろになったマモが手のひらを地面につけて、魔法を発動させたのだ。傷の合間にねじ込めなければ、防がれたはずの一撃だったが、マモはアキとの意識共有でその指示通りに動けていた。
「ふー、終わりだよ、メラン。ステータス差が数倍程度ではその槍を引き抜くことはできないでしょ」
アキは鋼の剣に魔力を流し込む。演算能力を最大に使い、精緻にして限界まで圧縮された魔力を。100を超えた魔力が注ぎ込まれた鋼の剣は真っ赤に熱せられて、その膨大なエネルギーにより刃の端から溶け始める。
この一撃でメランを倒せる。予測演算された最適な手段だ。鋼の剣の輝きに、メランは青褪めて、なんとか金剛の牙を引き抜こうとするが、その行為は少しずつしか引き抜くことはできずに、殺されることを悟る。
「ま、待て! わかった! 分かった! こ、国王派に鞍替えしよう。な? お前らは貴族派の幹部を暗殺しに来たんだろ? この俺が国王派に入れば、資金面でも国王派の勝利は間違いない! 貴様の功績も、いや、貴方様の功績は大きい!」
先ほどまでの余裕はどこへやら、命乞いを始めるメランに嘆息してしまう。スゥッと目を細めて告げてやる。
「強敵と戦えて楽しかったと遺言を残せよ、メラン。勝てる時だけ武人のフリをするのは………なしってもんだ」
『生死斬り』
「ま、まて、までぇっ、星の光を手に入れる方法を教えて」
さしものケルベロスの第二形態の肉体も、鋼の剣が溶けるほどのエネルギーが内包する会心の一撃を前にしては耐えることは不可能だった。メランの身体がアキの振り下ろした一撃で縦に切り裂かれ鮮血が舞い、鋼の剣がドロリと溶けて消えていった。
「星座の力を奪うなんて可哀想だろ。冥土カフェに1名追加だ」
死したメランへとアキは冷たい視線を向けて、肩を竦めるのであった。
『クエスト:冒険者ギルド崩壊の始まり。経験点一万取得』
『クエスト:剣術ルートを潰しました。経験点二万取得』
『クエスト:王都疫病発生。経験点5000取得』
『鋼の剣を失った』
そうして、クエストクリアのログが表示されて、アキはメランとの激闘を終えるのだった。負けるかと思ったよ。かなりやばかった!
「つ、疲れたぁ。でも、チートスキルはまだ続いているから、お楽しみにスキル収奪!」
ちっこいお手々を死体に向けてスキルを発動させる。
『捕食』
スキルを奪うなんて最高の能力だ。もはやガチャをする必要もないかも。幼女のお手々に死体からにじみ出てきた星の光のような粒子が吸い込まれていく。
ワクワクドキドキタイムだ。ゾンビを作り出すスキルとか欲しいかもと、アキはキラキラとした瞳で見守り━━━。
『固有スキル:冥府の番犬を%Erあor……固有スキル:かすてらのちゃいろいところをつくるを手に入れた!』
「………えーと、あ~ちゃんや?」
ジト目となって、宙に浮くあ~ちゃんを見ると、お手々で顔を覆ってプルプル震えて丸まっていた。
『ワンちゃんのスキルだから! さいきょーのひおーだから!』
サーベラスの秘奥義はカステラの茶色いところをつくる。なるほど、恐るべき対幼女用兵器だね。
『…………』
『もぉ~! こんかい、あ~ちゃんがんばったの。ごほーび! ごほうびがほしいの! つぎはほっとみるくをつくるてきとたたかおうね!』
駄々っ子のように叫ぶあ~ちゃん。………ふむ? 前言撤回、やっぱりガチャが一番だよ。
捕食能力は使えないと判明しました。たぶんあ~ちゃん専用なんだろうね。