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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第7章 仮面の下の素顔
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8. ティアラとアクアのお買い物

 仮面舞踏会が終わり落ち着いたころ、アクアスティードはティアラローズを甘やかしたいと考えていた。仮面舞踏会ではサンドローズの皇帝に変なちょっかいをかけられたので、きっと疲れてしまっただろう。


 とはいえ、ティアラローズは恥ずかしがり屋なのでそんなに甘えてきたりはしない。

 まあ、そこが可愛いのだけれど……と、アクアスティードは思う。

 加えて物欲もあまりなく、何かをねだられることもない。スイーツであれば別だけれど、それはアクアスティードが用意せずともティアラローズが自分でなんとかしてしまう。


「アクアスティード様、どうかされたんですか?」

「エリオットか……」


 執務室で何かいい案はないかと考えていたアクアスティードの下に、エリオットがやってきた。


「いや、ティアラを甘やかそうと思ったんだ」

「ティアラローズ様をですか? やだなぁ、いつも甘やかしているじゃありませんか」

「それは……」


 確かにそうなのだけれど。


「仮面舞踏会でいろいろあったから、ゆっくり出来ればとも思ったんだがな」

「ああ、なるほど」


 大変でしたもんねと、エリオットが苦笑する。

 同時に、フィリーネにきちんと求婚出来るようエリオットもより一層仕事に励んでいる最中だ。アクアスティードもそれをわかってるので、何か大きな仕事があればエリオットに頼もうと思っている。


 エリオットは考える仕草をしてから、ぽんと手を叩く。


「でしたら、一緒に買い物をしてみては?」

「買い物?」

「はい。この後、ティアラローズ様の下に商人が来るという話をフィリーネに聞きました。ドレスも何着か購入するそうなので、装飾品などをプレゼントするのもいいと思いますよ」

「買い物……か。そうだな、そうしてみよう」


 ティアラローズは普段、あまりものを買わないのでちょうどいいとアクアスティードは頷いた。

 そしてどうせ贈るのであれば、上から下まで揃えたいなと考える。ある意味アクアスティードへのご褒美のような流れになってしまいそうな予感もするけれど……それはそれ、これはこれだろう。




 ***



 ティアラローズの下には、商人やパティシエがよく訪れる。

 新しい商品やスイーツを見せてくれて、ティアラローズとフィリーネは一緒に買うものを検討して楽しい買い物の時間を過ごす。

 ドレスやアクセサリー類はフィリーネが決めることが多く、ティアラローズは「そんなにいる?」と横で首をかしげていることも多々ある。いつも、フィリーネが「足りないくらいです」と告げるのがお約束になっているのだ。


 今日はティアラローズの持つゲストルームで商人たちを迎え入れるのだが、始まる前にフィリーネがストップをかけた。


「どうしたの? フィリーネ」

「アクアスティード陛下もご一緒したいそうです」

「そうなの?」


 フィリーネの言葉を聞いて、ティアラローズはぱあっと表情を輝かせる。

 アクアスティードは執務で忙しいため、同席することはあまりないのだ。うきうきしながら、ティアラローズはやってきたアクアスティードを招き入れた。


「突然ごめんね、ティアラ」

「いえ。アクア様と一緒にお買い物出来るのはとても嬉しいです」

「そう?」


 ティアラローズが微笑みながら告げると、アクアスティードも柔らかく微笑んだ。

 フィリーネが場所のセッティングをしてくれたので、ティアラローズとアクアスティードは並んでソファへ座った。

 これからやってくる商人たちは、基本的に冬ものを取り扱っている。


 紅茶の用意が終わったフィリーネは、ティアラローズに必要なもののリストを取り出してから順番に商人を部屋へ呼んだ。

 すると、アクアスティードがフィリーネを呼んだ。


「フィリーネ、何を購入する予定?」

「はい。本日は、冬用のドレスと装飾品がメインですね。それから、春用のドレスのデザインを打ち合わせます」

「なるほど。ありがとう」


 もちろん、それ以外にパティシエたちがスイーツの売り込みにもやってきている。


「冬用のドレスはたくさんあるけれど、新しいものがまったくない……というのもよくないものね」


 ティアラローズはといえば、フィリーネの告げたものに対して苦笑をもらす。アクアスティードに贈ってもらったものもあり、ドレスは山のようにあるのだ。

 とはいえ、王妃であるティアラローズがドレスを着まわすわけにもいかない。大国マリンフォレストの王妃として、常に相応しいドレスをと民衆は求めるし、流行の最先端として令嬢たちの憧れの的にもなっている。


「では、最初にドレスと装飾品を見ましょう」


 そう言って、フィリーネは最初の商人を部屋へ入れた。


 品のいいスーツに身を包んだ、代表を務める初老の男性。それから、針子が数人だ。

 ティアラローズたちへ一礼し挨拶をしてからドレスを並べていく。


「わあ、どれも可愛らしい」

「ファーがついてるものもいいね。ティアラに似合いそうだ」

「そうですか?」


 もこもこのファーがついているものを指さして、アクアスティードは楽しそうだ。何種類かあるので、色違いも含めて何着かあるといいなと思う。

 その横では、フィリーネが真剣にデザインを見て目を光らせている。そして針子の一人に、ドレスに関することを聞いた。


「このデザインは、最新のものですか?」

「もちろんです。ティアラローズ様の美しさを際立たせるように仕立てておりますから」


 針子は微笑んで、「こちらのファーはティアラローズ様の髪色にもいいと思います」と告げた。

 ティアラローズとアクアスティードがまったりドレスを見ている横で、フィリーネが必要だと判断したものを何着も購入していく。それに加えて、ティアラローズが気に入ったものも購入していくスタイルだ。


 ――相変わらずフィリーネは頼りになるわね。

 自分では、こんなにぽんぽん買うものを決められないとティアラローズは苦笑する。


「では、ドレス五着と装飾品をお願いします」

「あ、待ってフィリーネ。このドレスとファーも一緒に買うから」

「かしこまりました」


 ドレスの購入を終ろうとしたところで、アクアスティードが待ったをかける。

 選んだのは、淡い水色とピンクのリボンが付いている可愛らしい外出用のドレスに、ヘッドドレス。それから、首に巻くタイプの動物のかたちをしたお洒落なファーだ。


「え、アクア様?」


 思ってもみなかった買い物に、ティアラローズはアクアスティードを見る。


「私からのプレゼント。これを着て、一緒にデートしよう?」

「デート……っ! どうしよう、すごく嬉しいです」


 アクアスティードの提案を聞いて、ティアラローズははにかむように笑う。


「では、アクア様の服はわたくしがコーディネートしますね。……いいですか?」

「もちろん。楽しみだ」

「はい」


 二人で目を見て微笑み、ティアラローズはアクアスティードに少し甘えるように寄りかかった。アクアスティードは、同時にデートを提案してよかったと頬を緩めた。


 ドレスを購入が終わり、次の商人を呼び――ティアラローズたちは目を瞬かせた。


「え……サラヴィア陛下?」

「やあ、子猫ちゃん。また会えたね」


 商人としてゲストルームへ入って来たのは、サンドローズの皇帝であるサラヴィアだった。

 仮面舞踏会でアクアスティードと勝負をして、その結果は引き分けとなっている。そのため互いにもう関わることはないだろうと思っていたのだけれど――どうやらその考えは甘かったようだ。


 アクアスティードはため息をつくも、姿勢を正してサラヴィアへ挨拶を行う。


「まさか、商人として王城へ来られるとは思いませんでした。何かあるなら、私に直接連絡いただいてもかまいませんが……?」

「いえいえ。今回の旅は、公務ではなくお忍びなんだ。アクアスティード陛下のお心遣い、お気持ちだけいただいておきます」

「そうでしたか」


 アクアスティードとサラヴィアがにこりと微笑んでいるけれど、二人の間には火花が見える。ティアラローズはどうしたものかと頭を悩ませるが、二人とも大国のトップだから大事になるようなことはしないだろう。


「まあ、そんなわけでして。今日は子猫ちゃんに似合いそうな宝石をもって来たってわけ。ああ、アクアスティード陛下もかしこまった喋りは不要だ」


 そう言いながら、サラヴィアが指を鳴らすと、後ろで控えていた銀髪の男性が宝石を取り出しティアラローズとアクアスティードへ差し出した。


「これはわが国サンドローズで取れる砂漠の宝石だ。ほら、綺麗な赤色で、子猫ちゃんによく似あう」

「サラヴィア陛下。私の妃を子猫ちゃんと呼ぶのはやめていただけるか?」

「まあまあ、可愛い子は子猫ちゃんでしょ」


 アクアスティードがサラヴィアを窘めるけれど、呼び方を訂正するつもりはないようだ。

 それに多少もやっとしながらも、アクアスティードはサラヴィアの持ってきた宝石を見て息をつく。確かに、それはひどく美しい宝石だった。

 大きさは、ビー玉くらいだろうか。深く、黒に近いような赤色。けれど宝石の中心からはぼんやりと光がさしている。どうやら魔力かなにかを帯びているようで、その価値はとても高いだろう。


「こんな綺麗な宝石、初めて見ました」

「ああ、そうだね。マリンフォレストでも、これほどの宝石はそうそう発掘できないだろう」


 ティアラローズが目を輝かせ、アクアスティードもそれに同意する。

 鉱石なども多いマリンフォレストだけれど、魔力がともるようなものは本当に極まれにしか見ることは出来ない。それに、サラヴィアが持ってきたものほど大きいものはそうそう見つかるものでもない。


「だろう~? サンドローズはいい国だろう? 子猫ちゃん、来たくなったんじゃない?」

「! なりません! なぜそんな言い方になるのですか!」


 褒められたのをいいことに、サラヴィアはにんまり笑って「俺の妃になれよ」とティアラローズに告げる。もちろん、そんなものは即お断りだ。


「嫌です。わたくしには、アクア様だけですから」

「つれないなぁ……。まあ、そんなところが可愛いんだけどさ」

「…………」


 ぱちんとウィンクしたサラヴィアを見て、ティアラローズはアクアスティードの袖口を掴んで無言で首を振る。


「まあ、長期戦は覚悟の上だ。じゃあ、今日はここらで帰ろうかな」

「えっ」

「ん? 寂しい?」

「違います! その宝石、かなり希少なものじゃないですか……」


 サラヴィアが席を立ったのはいいけれど、彼の持ってきた宝石があまりにも高価なものだったのでティアラローズは慌てる。

 さすがにぽんと受け取るわけにもいかない。けれど、サンドローズの皇帝からの贈り物となれば外交面を考えても受け取らないのはよろしくない。

 マリンフォレストがサンドローズを拒絶したと受け取られてしまうからだ。


 そんなティアラローズを見て、サラヴィアはふっと笑う。


「ああ、気にしないでくれ。これは、子猫ちゃんに持っていてほしいと思ったから俺が勝手に持ってきただけだからさ」

「……はい」


 サラヴィアの言葉に、ティアラローズは頷いて赤の宝石を受け取る。

 それを見て、アクアスティードはティアラローズを優しく抱き寄せて「綺麗だね」と感想を言い、サラヴィアへ視線を向ける。


「大国であるサンドローズから妃への贈り物、ありがとうございます。私からも、サラヴィア陛下と妃殿下へ贈り物をさせていただきます。ぜひ、楽しみにしていてください」

「……ああ。楽しみにしているよ、アクアスティード陛下」


 アクアスティードの言葉を聞き、ティアラローズはほっとする。

 プレゼントをもらってしまいどうしようかと思ったけれど、アクアスティードがお返しをしてくれるようだ。

 そしてどうせなら、サラヴィアの妃たちには美味しいスイーツを付けるのもいいかもしれないと思うティアラローズだった。

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