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8.真相と黒幕(5)

 ・・・



 明かりがほとんどない夜の庭園に、ランタンを持った男がひとり。辺りは鬱蒼とした木々に囲まれている。その男に近づいてきたのは長身の男だ。ふたりとも、頭から黒いフードの付いたケープを被っている。


『誰にも見られていないか?』

『大丈夫だ』

『よし』


 長身の男は周囲を警戒するように見回し、ランタンを持った男に黒い布で包まれた長細い何かを手渡す。


『これがあれば本当に全部大丈夫なのか?』

『ああ、間違いない』


 ランタンを持った男の問いかけに、長身の男が頷く。

 生憎、ケープのせいで顔はしっかりと見えなかった。


『では、健闘を祈る』


 ふたりの男はお互いに頷くと、何事もなかったように別々に立ち去っていった。


 

 ・・・



(えっ? 今のって……)


 シャルロットはびっくりしてルルを見つめる。ルルは頭を撫でられて気持ちよさそうに喉を鳴らしていた。


「シャルロット。どうかしたのか?」


 シャルロットの様子がおかしいことに気付いたエディロンが、心配そうに顔を覗き込んでくる。


「いえ、なんでもないです」


 シャルロットは慌ててその場を取り繕う。けれど、内心はとても混乱していた。


(もしかして認知共有? なんで!?)


 魔力が高い魔法使いは使い魔と意識を共有することができる。

 例えば、使い魔が見聞きしたことを自分が体験したことのように記憶として取り入れたり、遠くにいる使い魔が見ている景色を一緒に見て会話をすることも可能だ。

 それを一般的に、『認知共有』と言った。


 しかし、それができるのはごく一部の魔力が強い人間に限られる。魔法が得意ではないシャルロットは当然、できない。

 けれど、今のは間違いなく認知共有に思えた。ルルが見たという景色が鮮やかに脳内に映り込んだのだから。


(え? どういうこと?)


 そう言えば、一度目の人生でも不思議なことがあった。

 解錠の魔法が上手く使えないはずのシャルロットが、いとも簡単に寝室とエディロンの私室の鍵を開けられたのだ。

 この寝室の鍵は特に厳重で特殊な構造になっている。普通の鍵すら上手く開けられないシャルロットに開けられるはずがないのだ。


(もしかして、わたくしの魔力が強くなっているの?)


 理由はわからないけれど、そんな気がした。試しにハールを探そうと意識を集中させると、すぐに見覚えのある廊下が見えた。


(ここは、王宮の廊下ね)


 天井に美しい絵画が描かれシャンデリアがぶら下がり、円柱状の柱が等間隔に並ぶこの廊下は本宮の内部にある国王のプライベートスペースへと繋がる廊下だ。そこを、黒いケープを被った男がいそいそと小走りで進んでいる。明らかに怪しいのに、周囲の警備を行う騎士達は気付いている様子がない。


「これ、明らかにおかしいわ……」

「シャルロット。何がおかしい? 一体どうしたんだ?」


 様子がおかしいシャルロットに困惑したエディロンがまた問いかけてきた。

 そのとき、エディロンの私室側のドアからカシャンと僅かな音がした。


 ハッとしたシャルロットはまだ閉っているその扉を見つめる。エディロンもその物音に気付いたようで、ベッドの脇に置いてある剣を握る。


 ──カタッ。


 小さな物音と共に、鍵がかかっていたはずの扉が開け放たれる。


「この部屋の鍵をいとも簡単に開けるとはな」


 エディロンが舌打ちする。

 それとほぼ同時に、剣を持った男が乱入してきた。


「エディロン様っ!」


 シャルロットは咄嗟に叫ぶ。


「大丈夫だ」


 エディロンはその剣を自分の剣で受け止める。すぐにふたりは剣の打ち合いになった。


(この人、強いわ!)


 エディロンと互角に打ち合えるなんて、相当の剣の腕だ。


「誰か!」


 シャルロットは助けを呼ぼうと大きな声で叫ぶ。けれど、廊下にいるはずの護衛の騎士達は一向にやってこない。そもそも部屋の前にも護衛の騎士がいるはずなのに、ここに入ってこられた時点でおかしいのだ。


(なんとかしないとっ!)


 シャルロットは部屋の中を見回し、唯一武器になりそうな大きな花瓶を手に取る。


「シャルロット、下がっていろ!」


 シャルロットの動きに気付いたエディロンが叫ぶのとほぼ同時に、シャルロットはその花瓶を男に向かって投げつけていた。


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