失敗と成功
北の大国と東の国。
その国境は長年、緊張の糸を張り詰めていたが、
北の大国がわずかの兵を残し西進したこにより、ついにそれが切れた。
領土問題が表向きの理由だったが、実際には、
互いの誇りと疲弊した国内事情が引き金となっていた。
主人公の国、海岸の一角に位置する新興大国は、
この報せを遠い観測所のように受け取った。
だが、その胸中は静かではない。
いまや彼らの国境線は私の国から見てやや北東の一角で接している。
それは東の国の大陸領とわずかに接しているが
あまり問題ではないだろう
「……動くのは、今しかない」
参謀の一人がそう呟いたとき、国王は小さく頷いた。
軍の出兵は行わない。
代わりに派遣されたのは“特殊兵”と呼ばれる少数の隠密部隊、
そして交易を装った商人団だった。
彼らは敵地と友軍の区別を曖昧に行き来し、
戦火の陰で情報と影響を売り買いした。
だが、この策は長くは保たなかった。
北東の国境付近で、主人公の国の使者団が
“不可解な支援行動”を行っていることが露見したのだ。
それを嗅ぎつけたのは、東の強国と南の強国。
彼らは即座に反応し、「介入」を名目に軍を動かした。
そして東の国方面の戦場で、商人団が捕らえられ、南方の海で輸送船が焼かれ
南方の沿岸都市が制圧された。
さらに、北方の国境では小競り合いが頻発し、周囲は一気に緊張を増した。
損失は大きかった。
──だが、結果だけを見れば、主人公の国は不思議な勝利を手にした。
混乱の末、
主人公の国も北の大国の大部分及び東の国が持っていた港を“偶然”得たのだ。
北の大国は北東の国に面する領土及び東の大陸領土を残し実質的な傀儡になった。
表向きには戦に関与していない。
しかしながら、彼らの存在は確実に拡大していた。
「この国は……静かに肥えていく」
南の強国の宰相は、地図を睨み、恨み言を言いながら呟いた。
「見えない戦争をしているのは、あそこだけだ」
そして、誰もが知らぬところで、次なる策が練られていた。静観する策が。