焦土
帝国軍が森を越えたのは春の終わりだった。
花の咲く季節に、火薬の匂いが混ざった。
森の国は小国ながら地形を活かした防衛線を築き、
一時は侵攻軍を押し返す勢いを見せた。
だが、帝国は兵の数を惜しまなかった。
主都陥落まで三週間――それが抵抗の限界だった。
森の陥落は大陸全体に衝撃を与えた。
主人公の国は「国際秩序の破壊」として非難声明を発し、
西の勢力は“共同防衛条約”の名目で軍を動かした。
主人公の国もまた、表向きは傍観を装いつつ、
背後では難民を受け入れ、情報を整理していた。
「中立は崩れた」と、王国議会の誰もが口にした。
戦争は広がる。
森の周囲は焦土と化し、またたくまに二方向からの軍勢が入り乱れた。
そして主人公の国の軍勢も調停のために進軍した。
しかし、どの勢力も決定打を放てず、戦線はやがて膠着する。
疲弊が極まり、停戦協定が結ばれたのは約2年後のことだった。
森の国は名目上の「緩衝地帯」とされたが、実際には三国の軍が交錯する監視線上に置かれた。
その混乱の最中、数多の中小国が「保護」「友好」「通商支援」の名の下に
三大勢力のどれかへと吸収されていった。
そして大陸は、静かに――確実に、三国均衡の構造へと収束していった。
王国連合、東の帝国、そして南西に拡張した二重帝国。
人々はそれを「平和」と呼んだ。
だが、それは血と灰で築かれた静寂にすぎなかった。