6話
朝、目を開けると
地図の北部には再び村があり、その総人口はきっちり「767」。
帳簿の端には、あの忌まわしい“人口:不明”の文字もない。
つまり——巻き戻しは完了したのだ。
世界は修復され、秩序は回復した。
ゲーム的には「成功」だ。
「おはようございます、陛下。」
書記官が微笑む。
その笑みは昨日と同じ。いや、数値的には昨日以前のものだ。
「北部の状況は?」
「問題ございません。すべて正常値です。」
正常値。
その響きに、どこか冷たい金属音を感じた。
だが、その時だった。
ひとりの侍女が、お盆を落とした。
皿が割れ、彼女は青ざめて言った。
「す、すみません……! あの……“アイ”が、好きだった皿で……」
部屋が凍りついたように感じた。
誰も、その名を知らないはずだった。
カイ、それは、僕が名簿に最初に記した、北部の少年の名だ。
僕はゆっくりと問うた。
「その名を、どこで聞いた?」
侍女は震える唇で答えた。
「わかりません……。でも、ふと浮かんだんです。
誰かが呼んでいる気がして。」
僕は笑いかけた。
「そうか。じゃあ、それでいい。」
帳簿を開くと、北部の欄に小さく書かれていた。
“記録完了”。
その横に、ほんの微かなノイズ。
「C…a…i」という長い文字列が、あった。
世界は元に戻った。
けど、“戻りきっていない”部分がある。
——つまり、世界のバグは修正されなかった。
ではなく、“乱数すぎて修正できなかった”のだ。
僕はペンを取り、帳簿の隅にもう一度書いた。
“名を持つ者、再び現れんことを。”