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第70話 あくまでサポートですよ、サポート

「〈そよ風〉!」


 ゴオオオオオオオオオオオッ!!


 巻き起こった突風がナイトホークの群れを直撃し、まとめて吹き飛ばした。

 そのまま〈注意報〉の反応が消失したので、逃げたのか、あるいは墜落してしまったのだろう。


「ちょっ、今、何をしたんですの!?」

「生活魔法の〈そよ風〉を使いました」

「あれのどこがそよ風なのだ!? まるで竜巻のようだったのだ!」

「魔力を多めに込めましたので」

「魔力を多めにって……完全に緑魔法の威力だったわよね?」

「あはは、さすがにそこまでじゃないですよ。あくまで生活魔法としては強力っていう程度です」

「……認識が……おかしい……」


 その後も凶悪な魔物が僕たちの前に立ちはだかった。


「オオオオオオンッ!!」

「シャドウウルフっ! 闇に潜る特殊能力を持っている魔物ですわっ!」


 全長五メートルほどの狼で、どこまでも闇が広がるこの大穴はその力を最大限に発揮できる環境だ。

 闇から闇へと移動し、神出鬼没に躍りかかってくるのだ。


「〈明かり〉!」

「~~~~ッ!?」

「からの〈加熱〉!」


 だけど生活魔法の〈明かり〉で闇を払ってしまえば、シャドウウルフはびっくりしてその場で硬直した。

 そこへ〈加熱〉をお見舞いすれば、身体の内部まで高熱と化してそのまま絶命する。


「……今度は何をしましたの?」

「えっと、まずは〈明かり〉で闇を消し去って、それから〈加熱〉を使いました」

「熱っ!? シャドウウルフがめちゃくちゃ熱くなってるのだ!?」

「あの一瞬でこんなに熱することができるなんて」

「……もはや……怖い……」


 さらに現れたのは斜面の岩肌に上手く擬態し、獲物の接近を待ち構えている植物系の魔物だ。

 探知系の魔法を無効化する魔法をも使えるようで、〈注意報〉でも正確な位置を見抜くことができず、


「なっ!? た、食べられたのだあああああああっ!?」


 袋状の捕食器官に、アルテアさんが呑み込まれてしまう。


「クラッグマウですわ! くっ……これでは攻撃が……いえ、多少のダメージは我慢していただくしかありませんわね」

「吾輩ごと攻撃する気なのだああああっ!? ちょっと待つのだ! 何とか内側からっ……って、弾力性が高くてぜんぜん斬れないのだああああっ!」

「〈草刈り〉!」


 幸い〈草刈り〉は、植物だけを刈る生活魔法だ。

 中にいるアルテアさんにダメージを与えることなく、この食人植物を攻撃することができた。


 袋状の捕食器官が両断され、中からアルテアさんが転がり出てくる。


「ぷはぁっ……た、助かったのだ?」

「ライルくん、今のは?」

「〈草刈り〉っていう生活魔法です。植物系の魔物にも効果があるんですよ」


 ジャキンジャキンジャキン!


「次はデスクラブですの! あの巨大な鋏に気を付けるのですわ! 鋼鉄の塊すらも軽々と切断すると言われていますの! 加えて甲羅の硬さは鋼鉄並みと言われていますわ!」


 続いて遭遇したのは全長六メートルほどのカニの魔物だ。

 しかも割と俊敏な動きで、鋏を振り回しながら襲いかかってくる。


「これはあれが使えそう! 〈食材切り〉!」


 デスクラブの鋏や脚が切断され、地面を転がった。

 うん、やっぱり食材らしい相手であればあるほど、威力が上がるみたいだ。


 ――〈日曜大工〉を習得しました。


「……今度は何をしましたの?」

「〈食材切り〉っていう生活魔法を使いました。さすがに強い魔物には効果が薄いんですけど、食材っぽい魔物であればかなり有効みたいです」

「さっきからどう考えても生活魔法っていう次元ではないのだ! パーティ内で一番活躍してるのだ!」

「あはは、あくまでサポートですよ、サポート」

「完全にサポートの定義がおかしいと思うわ」

「……同意……せざるを得ない……」


 うーん、たまたま生活魔法を活かせる相手が続いただけなんだけどなぁ。


「だ、だけど、さすがにこれだけ魔法を連発していたら、魔力も厳しいのではないのだ……?」

「いえ、まだまだ余裕がありますよ。十分の一も減ってないです」

「十分の一!? どうなってんのよ!?」

「生活魔法なので、元々魔力の消費量が低いんですよ」

「……それであの威力……もっとおかしい……」


 何にしても、ここまではパーティを上手くサポートできているみたいでよかった。

 いきなりBランク冒険者のパーティに加わり、魔境の探索をすることになったので、どうなることかとずっと不安だったけど……。


 ギアの街を出発して、そろそろ五時間は経つだろうかという頃。

 深さ三メートルほどのちょうどいい窪みを発見したので、そこで少し休憩を取ることになった。


 仮に魔物が現れたとしても、入り口が一か所しかないため対処しやすいだろう。


「よかったら仮眠でも取りますか? 短い時間で十分な睡眠が取れる生活魔法があるんですよ」

「生活魔法……便利過ぎなのだ……」


 窪みの奥でテントを張り、順番に休むことになった。

 まずはアルテアさんとタティさんで、二人に〈快眠〉を使う。


「興奮してるせいか、正直ぜんぜん眠くないのだ」

「あたしもよ。ダンジョンでもそうだけど、疲れていてもいざ仮眠を取ろうとしたらなかなか寝れないのよね」

「じゃあ使いますね。〈快眠〉」

「「すやぁ……」」

「い、一瞬で寝ましたわ……」

「……効き過ぎて……怖い……」


 五分ほど経ったところで、テントの中から声が聞こえてきた。


「っ!? ね、寝過ぎたのだ!?」

「ちょっと、何で起こしてくれなかったのよ!? あたしたち、どれくらい寝てた!?」


 飛び起きてきた二人に、ローザさんが驚きながら、


「まだ五分くらいしか経ってませんわ?」

「え!? そ、そんなはずはないのだ!? 朝までぐっすり寝たときのすっきり具合なのだ!」

「どう考えても体感で八時間は寝てるわよ!?」


 どうやら〈快眠〉の効果があったみたいだね。


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【全体的な感想です】 テンポよく話が進むので、ちょっとした暇を潰すのには「◎」、ただし、終わり方が中途半端なので、「★★★★」としました。
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