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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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76.行動の揺らぎ


 匂いを辿ってたどり着いた場所は学校だった。

 

「……モモ、本当にここで間違いないのか?」


「わんっ」


 念のために確認するが、モモはまちがいない!と頷く。

 ありがとう、モモ。お疲れ様。労いに頭を撫でる。

 モモは嬉しそうに尻尾を振った。


 しかし、辿り着いた先がまさかの学校とはな。

 どうやら、俺たちが追っていた人物は、俺たちが想像してたよりも遥かに危険な人物だったらしい。


 突如、学校に現れたダーク・ウルフ。

 モモが公園で嗅ぎ取った複数のモンスターの匂い。

 それを纏った人間。

 ここまで材料が揃えば、予想はつく。

 

 モンスターを操っている人間がいる、と。


 まあ、そういうスキルを持ってる奴も居るだろうなとは思ってた。

 俺の選択肢にも『魔物使い』って職業があったし、スライムのアカが仲間になったっていう実例がある以上、モンスターを仲間にしたり、操ったり、従わせたりするスキルや職業があってもおかしくはない。


 だから、今回の学校襲撃は、その類いのスキルを手に入れた人間の仕業であると、俺たちは予想していた。


 目的は……まあ、手駒モンスターの強化か、レベル上げだろうな。

 人を殺せば殺す程、モンスターには経験値が入るだろうし、もしかしたら、操っている本人にも何割か経験値が入るのかもしれない。

 大量の経験値を得たいのなら、大量の人間がいる場所を襲わせるのは理にかなっている。

 とても効率的な手段だろう。……人を人とも思わないという部分を除けば。


 別に他人の命がどうなろうと知ったこっちゃないが、それでも人を殺してまでレベルを上げたいとは思わない。

 というか、普通そんな発想しないよ。

 それを平気で実行しているのなら、コイツは完全に頭がイカれてる。

 余りにも危険な人物だ。


 マズイな……。事態は思ったよりも深刻かもしれない。

 今回の襲撃の黒幕―――仮に魔物使いと呼称するが、そいつが学校に潜伏しているなら、再び行動を起こす可能性は極めて高い。

 自分のステータスが他人に見えない以上、スキルや職業なんて誤魔化すのは簡単だし、避難民に混じれば潜伏は可能だろう。もしかしたら学生かもしれないけど。


 モモは複数のモンスターの匂いがすると言っていた。

 あのダーク・ウルフ以外にも手駒がいるって事だ。

 そいつらを使って、再び一斉に襲撃を仕掛ければ、今度こそ学校側もただでは済まないだろう。

 

 というか、あれだけ強いダーク・ウルフをどうやって従わせたんだ?

 タイミング的に見て、たぶん俺たちと戦った後だよな?

 弱っていたところをテイムされたとか?

 いや……だとしても、スキルの性能が強力過ぎないか?

 なにか条件があるとか?もしくは厄介な制約みたいなものが……。

 いや、考えても仕方ないか。今は置いておこう。


「ど、どうしますか、クドウさん。このままじゃ、またここの人達が……リっちゃんが……」


 イチノセさんは既に気が気でない様子だ。

 学校と俺を交互に見ながら、落ち着きがない。

 そう、問題はそこなんだよなぁ……。


 ぶっちゃけ、俺自身はここの人達がどうなろうが、知ったこっちゃない。

 俺は自分の命が一番だし、わざわざ危険に飛び込みたくはない。

 学校側については、自分達で何とかしてくれと言うのが本音だ。 

 助かりたければ、自分で何とかするしかないのだから。

 少なくとも、今のこの世界では。

 でも……なぁ。


「……」


 ちらりと、隣にいるイチノセさんを見る。

 彼女は縋る様な瞳を俺に向けている。

 それ程、彼女にとっては大切な存在なのだろう。

 あの少女―――六花ちゃんが。

 彼女の友達が。


「……」


 どうしよう?正直、面倒くさい。

 でも六花ちゃんを見捨てたら、イチノセさんは俺の事を軽蔑するだろうなぁ……。

 パーティーを解消するって言うかもしれないな。


 それは……嫌だなぁ……。


 ああ、これなんだよ。

 モモと同じだ。

 ただの他人なら別にどうでもいいって思えてしまうのに。

 一度でも親しくなってしまえば、途端に情が移ってしまう。

 ソイツに嫌われたくないなって思ってしまう。

 なんとかしてあげたいなって思っちまう。

 切り捨てられなくなってしまう。


 西野君や六花ちゃんだってそうだ。

 知らない仲じゃないのだ。

 向こうは、俺の事なんて知らないだろうけど。

 出来れば死んで欲しくないって思っちまってる。

 

 ……そうじゃないだろと、俺は自分の頭をガリガリと掻く。

 大切なのは自分の命。

 他人は二の次だ。

 今までそうやって行動してきたじゃないか。

 そう思ってたからこそ、他人と距離をとって行動してたんじゃないか。

 

 ……………………………ああ、本当に面倒臭い。嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 面倒事に首突っ込みたくない。やりたくない。

 パーティーなんて組むんじゃなかった。

 自分の行動が変わっていく。行動方針がブレてしまう。

 だから、盛大に溜息をついた。


「……モモ、仮に校内に侵入すれば、匂いの人物を特定することは出来るか?」


「わんっ」


 モモは頷く。

 

「イチノセさん」


「……はい」


「先ずは、先程と同じように校内に侵入します。可能であれば、魔物使いを特定。そして俺たちが掴んだ情報を、西野君と六花ちゃんに『メール』でリークします」


「あ……」


「その後、出来れば人気の無い所で、彼らと落ち合いましょう。魔物使いがいつ行動を起こすか分かりません。手早く済ませ、ここを離脱します」


「ッ―――クドウさん!」


 イチノセさんの表情が明るくなる。

 ああ、それを見て、思わずほっとしてしまう自分がホントに嫌だ。

 自分がどうしようもなく中途半端な人間であると見せつけられているような気がして。

 

 まあ、あれだ。

 人間を積極的に狩ってる魔物使いなんて危険すぎるし、長い目で見れば、これから先、集団とのかかわりを持つ可能性だってゼロじゃない。

 今の内に貸しを作っておくのも悪くない。

 だからこれは、イチノセさんの為でもあるし、自分の為でもある。

 そういう風に理屈をつけて、自分を納得させた。

 じゃないとやってられない。


「わふっ」


 なんだよ。

 なにニヤニヤしてるんだよ、モモ。

 あーもう!さっさと行くぞ。こんちくしょう!

 こうして俺たちは再び校内へと侵入した。


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