93.五日目の始まり
激闘の一夜が明けて、翌日。
五日目の朝。
廃墟と化した校舎の中で俺は目を覚ました。
「もう朝か……」
ぼりぼりと頭を掻きながら、身を起こす。
周囲に異常は……ないな。
『索敵』にも、モンスターの気配も人の気配もない。良かった。
横を見れば、イチノセさんと六花ちゃんがまだ寝ていた。
こうして寝ている姿だけ見れば、年相応の少女にしか見えないのだが……。
「……銃抱いて寝るなよ……」
すやすやと眠るイチノセさんの片腕には、狙撃銃がしっかりと抱きかかえられていた。
銃を抱きしめながら寝る元女子高生ってどうなの?
暴発は……大丈夫か。弾は入って無さそうだし。
確か、弾丸もスキルで作ってたんだっけか?MP消費で。
よく見れば、六花ちゃんの方も鉈を手放していない。
美少女二人が手を握り合いながら寝てるってちょっと百合っぽい光景なのに、二人とも持ってる物が物騒すぎる……。
ちなみに、二人が手を繋いで寝ているのは、『認識阻害』のスキルを伝播させるためだ。
後から分かったが、このスキル、オフにしない限りは睡眠時にも効果があるようだ。
今の弱体化した状態のアカじゃ、俺たち全員を覆い尽くす程の擬態は出来ないからな。
睡眠時の安全の為にも、こうしてくっ付いて寝るのが一番って訳だ。
え、おれ?普通にイチノセさんの服の裾掴んで寝てましたけど、なにか?
『衣服』も体の一部に認識されるみたいだからね。問題ない。
別にやましい気持ちも無い。
六花ちゃんはともかく、イチノセさんは壁だ。問題ない。
「まだ起こさなくてもいいか……」
昨日あれだけの事があって、疲れてるだろう。
というか、疲労度合いで言えば、俺が一番疲れてる筈なんだけど……?
イチノセさんから貰った回復薬のおかげだろうか?
すこぶる調子がいい。
「わんっ」
俺が起きたのに気付いたのか、モモが影から出てきた。
「おはよう、モモ」
「くぅーん」
物騒な寝姿のJK二人とは違い、相変わらずモモは愛くるしさ満点だった。
ペロペロと顔を舐めて来るので、俺も頭や体を撫でながらスキンシップを取る。
おや、気のせいか、昨日よりも毛並みが良くなっている気がする。
なにこれ、最高じゃないか。
「アカも見張りありがとうな」
「……(ふるふる)」
次に、俺はイチノセさんの足元で震える赤いスライム―――アカに目をやる。
アカは『きにしないでー』と言うように震える。
スライムは睡眠を必要としない。
擬態は出来なくても、何らかの異変が起きた時の為に、寝ずの番を買って出てくれた。
ホントに、良い子だよな、コイツも。
小さくなったアカを抱き上げると、ひんやりとして気持ちが良かった。
うーん、最初の頃はアレだったが、慣れてくるとこの感触もモフモフに負けていないかもしれない。
あ、そうだ。
二人が起きる前に、ポイントの割り振りを済ませておくか。
昨日の戦いでレベルが一つ上がって、現在はLV18。
SPは20ポイント、JPは10ポイント。
どうするか……。
少し悩んだが、まずJPは『忍者』をLV6にする。
そして、忍者の職業LVが6になったことにより、『忍術』、『投擲』、『五感強化』、『無臭』、『無音動作』、『隠蔽』のレベルも一つずつ上がる。
のこり4ポイントは温存だ。
さて、SPの振りは……どうするかな。
よし、『肉体活性』をLV5に、『忍術』をLV8に、『予測』をLV3に上げる。
SPの方は、20ポイント全部を使いきった。
ステータスはこんな感じか。
クドウ カズト
レベル18
HP :190/190
MP :45/45
力 :142
耐久 :138
敏捷 :318
器用 :288
魔力 :25
対魔力:25
SP :0
JP :4
職業
忍者LV6
狩人LV6
影法師LV5
固有スキル
早熟
職業強化
スキル
忍術LV8、投擲LV5、五感強化LV5、無臭LV6、無音動作LV6、隠蔽LV5、暗視LV4、急所突きLV5、気配遮断LV7、鑑定妨害LV4、索敵LV7、望遠LV3、敏捷強化LV7、器用強化LV4、観察LV10、聞き耳LV4、操影LV5、肉体強化LV10、肉体活性LV5、剣術LV5、ストレス耐性LV9、恐怖耐性LV9、毒耐性LV1、麻痺耐性LV2、ウイルス耐性LV1、熱耐性LV1、あおり耐性LV1、HP自動回復LV1、敵意感知LV6、危機感知LV9、騎乗LV2、交渉術LV1、逃走LV4、防衛本能LV1、アイテムボックスLV10、メールLV2、集中LV3、予測LV3
パーティーメンバー
モモ
暗殺犬 Lv5
アカ
フェイク・スライムLV2
イチノセ ナツ
LV23
『忍術』がLV8になったことにより新たな忍術を2つ習得した。
頭の中に使い方が浮かんだ。
へぇ……面白い能力だな。
今までの忍術の殆どは逃走メインの能力だったけど、これはこれで使い道がありそうだ。
アカの能力と組み合わせれば、潜入とかに使えそうだな。
そう言えば、昨日の戦いで全員レベルアップしたんだな。
というか、相変わらずイチノセさんのレベルたっけぇ……。
LV23って……。俺よりまだ5つも上じゃん。
『早熟』があるのに、なんで差が埋まらないんだ?
いや、まあ、それよりも、スキルの確認の方が先か。
昨日、あのダーク・ウルフとの戦いの最中に習得した固有スキル『職業強化』。
おそらくだが、その効果は職業獲得の際に習得したスキルの強化。
これをもっと詳しく知る必要がある。
ポイントや経験値ボーナスが得られる『早熟』同様、このスキルもかなり強力なのは間違いないのだから。
それに、あの魔物使いの少女が、言っていた発言も気になる。
―――俺なら、そのスキルをもっと強化できるぜ?
そう言っていた。
あの発言がブラフでないのなら、このスキルはパーティーメンバーにも有効かもしれないのだ。
もしそうならこの世界を生き抜くための有力な手段になる筈だ。
イチノセさんが起きたら、確かめてみよう。
「というか、起きたらまず、六花ちゃんの処遇も決めなきゃいけないよな……」
昨日散々悩んだが、結局答えは出なかった。
どうすればいいんだろう?
元の場所、西野君の下へ帰りたいと彼女が望むつもりならそうするつもりだが、もしイチノセさんと一緒に居たいと言った場合、パーティーに加えるかどうか。
正直な話、イチノセさんにとっては親友かもしれないが、俺にとってはそこまで大事な子じゃないんだよな。
そりゃ、死んで欲しくはないけど、だからといって、背中を預けられるって程でもない。
結局のところ、こうやって悩むって事は、俺がまだ六花ちゃんを信じきれていないって事の証明でもある。
こんな世界だ。
どんな選択が正しいか、間違っているのかなんて、誰にもわからない。
昨日も間違えたり、迷ったりしたばっかりだしな。
「……モモはどうしたい?」
「わふ?」
膝の上で寝そべるモモに、俺は訊ねる。
六花ちゃんをどうするべきか。
「……わんっ」
モモは少し悩んだ後、「まかせるよー」という感じの声を出した。
「……アカはどうだ?」
「…………(ふるるん)」
アカも「まかせるよー」という感じで震えた。
そっかー、二匹とも俺に委ねちゃうかー。どうしたもんか。
「ふ……みゅ……あれ、カズトしゃん?」
後ろからイチノセさんの声がした。
どうやら、目を覚ましたようだ。
「おはようございます、よく眠れましたか?」
「………………はひ。ふぁー……んにゅ……」
うん、めっちゃ寝ぼけてるな。
それでも銃を手放していないあたり、妙な凄味がある。
「……ん?あれ、私……?」
それにつられて、六花ちゃんも目を覚ましたようだ。
状況がよく呑み込めていないのか、キョロキョロと周囲を見回している。
そして、隣でぼやーっとしているイチノセさんを見て、大きく目を見開く。
「ナッつん……?え、嘘……夢じゃなかったの……?ていうか、私生きて……?」
信じられない、と六花ちゃんは小さくつぶやく。
そうか、昨日のあの状況じゃそう思ってもおかしくはないか。
あれだけ傷付いてたんだし、あの後すぐに気を失っちゃたしな。
「あ、リッちゃん、おは―――
「ナッつん……ナッつーーーーーーーーーんッッ!!!!」
「むぎゅっ!?」
六花ちゃんは思いっきりイチノセさんを抱きしめた。
おお、イチノセさんの顔が胸に埋まってる!
「良かった、良かったよぉぉ……夢じゃなかったんだ……本当にナッつんだったんだ……ふぇーん」
「~~~~~~!!」バンバン!
あのー、感動の再会(二度目)の最中に申し訳ないんだけど、もう少しハグ弱めてくれない?
イチノセさんが死にかけてるから。
その子、ステータス一桁だからね。元引き籠りだからね。
まあ、いいか。
二人とも起きたみたいだし、飯でも食いながら、今後について話すとしよう。
スキル補足 『忍術』
LVがあがる毎に一つ、忍術を習得できる。
現在使用可能な忍術は8つ。
分身の術 自分の分身を生み出せる。数は、忍術LV×1
煙遁の術 自分の周囲に白い煙を発生させる。効果範囲は 忍術LV×3メートル
土遁の術 土の中を移動できる。ただし直線、短距離のみ
残り五つの内三つは逃走メインの力であり、かつ使用出来る環境が限定的であるらしい。