よし! これからは心を入れ替えて真剣に生きるぞ!
ギガント族長の戦闘馬車に呼びつけられる。
馬車の周囲には一際マッチョなドワーフ達が護衛しており、緊張感がハンパない。
怖いので断じて乗りたくないのだが、俺に断るという選択肢はない。
仕方なく馬車に乗り込み、ギガント族長とサシで向かい合う。
相変わらず威圧感のある風貌なので胃が痛い。
「まず今回の礼を述べる。
ワイバーン問題に関しては俺も途方に暮れていた。
これで何とか形になったよ。
勿論、共和国に対してはニヴル族との共同名義で納品する。
今回の提供の返礼として、約束の金額に即納料金の30%を加えた額を支払う事を宣言する。
また、ニヴル族が申請していた材木ビジネスへの参加だが、俺が懇意にしているクラッスス議員を紹介する事を以て回答とする。
彼は若年ながらも林業族のドンだ。
コネを作っておいて決して損になる事はない。」
『あ、どもです。』
「さて本題。」
『あ、はい。』
「…もう小刻み移動はやめろよ。
どうせ悪用しとるんだろうが、せめて見られないようにしろ。」
『やっぱりヤバいっすか?』
「いや、オマエが一番分かってる筈なんだがな。」
『あ、はい。
知られてはいけない性質のスキルなんじゃないかなー、と。』
ギガント族長は腕を組んだままプルプル震えている。
多分俺がドワーフだったら有無を言わさずボコられてるんだろうなーって雰囲気。
「そんなにあの女が気に入ったか?」
『あ、いえ。
そこそこ好きではありますけど。』
「オイイイイイイイイイイイイイッ!!!!」
『うわっ、びっくりした。』
「オマエッ!!
そこは反対する俺を押し切って熱望する場面だろうが!!!」
『あ、そうっすね。
ゴメンナサイゴメンナサイ。』
「…ったく。
最近の若い奴は何でこんなに軽いかなぁ…
いいか、俺達が若い頃はなあ。
惚れた女と添い遂げる為にゃ命を懸けてたよ!!!
相手の父親や兄貴と決闘してでも、周り全てを敵に回しても!!!
それでも想いを貫いたんだ!!!
皆そうやって新しい世代を作って来たんだよ!!!
なのに今時の若造共からは、そういう気概が一切感じられねえ!!!
オメーらにゃ魂が無いんだよッ!!!!」
机を激しく叩きながらギガント族長が力説する。
怖い。
ちなみに、後で調べたらこの人は本当に舅さんや義兄さんを決闘で殺害していた。
言行一致とはまさにこの事である。
「ブラギ管理官の娘さん、エヴァとか言ったか…
どの辺に惹かれた?」
『あ、いえ。
セックスさせてくれるから…』
「え?」
『え?』
「…。 (拳プルプル)」
『あー! スミマセンスミマセン!!』
ギガント族長は俺を睨みつけたまま、ゆっくりと息を吐き出す。
「…オマエがドワーフだったらこの場で殴り殺していた所だ。」
『ですよねー。』
「トビタ、オマエは俺が見て来た中で最低の人間種だよ!」
『はい。』
「…まあ、男としては信用出来る。
あのガルドが入れ込む理由も何となく分かった。」
『…。』
「オマエ、もしも子供が生まれたらどうする訳?」
『あ、いやあ…
オヤトシテノセキニンっていうか、オットトシテノギムっていうか…』
「正直に言え!!」
『う、恨みを買わない様にカネをバラ撒こうかと!!!』
「本当に最低だなオマエッ!!!」
『だって正直に言えって言ったから!!!』
「まあ、取引相手としては100点満点だ。
合衆国の屑共なんかより、オマエの方がよっぽど信用出来る。」
『あ、ありがとうございます。』
「褒めてねえんだよ!!
文脈で分かれよ!!!」
『ひえっ。』
「…俺も帰国次第、監察官に報告書を提出しなければならない。
特に今回のような狩猟クエストの場合、討伐者の名を偽る事は絶対に許されない。
それは分かるな?」
『あ、はい。』
「どうして虚偽申告が許されないのか理由を言ってみろ。」
『お、汚職の原因になるからです。
カネで栄誉を買ったり売ったり。』
「うむ50点。
それに加えて、今回のように国外にミッションを外注したケースで虚偽申告をすれば国外勢力との関係悪化を招く恐れがある。
だから報告書に嘘は絶対に書いちゃならない。
そうだろ?」
『あ、はい!』
「ただ、瞬間移ど…
あの奇妙な動きはそのまま報告書に書かない方がオマエやニヴル氏族の為だろう。」
…アカン、完全にワープがバレとる。
「そこでだ!!
ブラギ管理官達とは既に口裏を合わせた!!」
『あ、はい。』
「まず!
ワイバーンは珍しく低空飛行をしていた!!
具体的には平屋の屋根位の高さ!!
勿論生物学的にそんな事はあり得ないが、たまたま低い場所を飛びたい気分だったのだろう!」
『な、なるほど。』
「ギガントもニヴルも、高所用のシフトを敷いていた事もあり低空に降りてきたワイバーンに咄嗟に反応出来なかった!!」
『ゴクリ。』
「そこで機転を利かせたのが狩りへの参加を許されていなかったトビタだ!
オマエはたまたま間近をすれ違ったワイバーンに夢中でワイヤーを投げた!
ワイヤーは…
ガルドに命令されて配達中だったことにするぞ!!」
このオッサン、粗雑な顔をしてる癖に結構配慮が細やかなんだよなあ。
俺も見習わなくては。
「突然ワイヤーが絡んでパニックになったワイバーンは狂ったように高速上昇!
空中で仲間と接触してしまい、そのまま2匹で墜落!!
トビタが報告した落下地点にニヴルの精鋭が駆け付けトドメを刺した!
これで行くから!!!」
『あれ?
トドメはギガント族の皆さんと一緒に刺した事にしないんですか?』
「しねえよ。
トビタを保護して来たのはニヴルだ。
花を持つ権利はそっちにある。」
『そっすか。』
「この線で行くから!!
これが事実だから!!
オマエも口裏合わせろ!!
余計な発言は絶対にするな!!」
『あ、はい。』
「周りの大人はオマエの為にヤバい橋を渡ってくれてるんだ。
その歳で感謝しろとは言わん。
だが理解しろ。
いいな!」
『あ、はい。』
「ブラギ管理官の娘さんの件は俺も出来得る限りのフォローをする。
幸いあの娘がオマエと一緒に納税した事が通商部の記録にある。
あの振舞いは良かった。
共和国的に心証が極めて良い。
そういう細部をかなり気にする国だからな。
…後はオマエ次第だ。」
『そっすね。』
「男の仕事に女が意見を述べるのは言語道断だが…
オマエに限ってはちゃんと耳を傾けろ。
そうすればブラギ管理官やガルドの野郎が破滅する確率が少し下がる。」
『はい。』
「…説教ばかりになって済まなかったな。
今度、嫁も連れて共和国に遊びに来い。
瞬間移ど…
スキルは無しだからな。」
『あ、はい。』
族長は大きく溜息を吐いて、俺と共に馬車から降りた。
*婦人用馬車に乗ったエヴァと目が合ったので軽く手を振り合う。
*これはオブラートに包んだ表現であり、実際は財産としての女を運搬する為の馬車。
ブラギとギガント族長はチラチラとこちらを見ながら30分程密談を行い、大きく頷き合ってから別れた。
去り際にギガント族長は馬車の窓から「祝福する」とだけ言った。
俺が何か気の利いた礼を述べようとした時には、既に馬車は沈む夕陽に溶け込み始めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『あれ?
ブラギさん。
エヴァさんを洞窟に戻していいんですか?』
「厳密には私に実家を追放されたのだがね。
そうしないと示しが付かんから。」
『結構厳しいですね。』
「私が甘い男だからエヴァはまだ死んでない。」
『な、なるほど。』
「じゃあ、後は全て君に任せるから。」
『え?』
「君とエヴァの婚姻が決定した。」
『え?
決まったんですか?』
「嘘でも喜ばんかッ!!!」
『ひ、ひえっ!
…わーい、エヴァさんと一緒だー (棒)』
「この婚姻はギガント族が正式に承認した。」
『え!?』
「最後にギガント族長が《祝福する》と言っただろうが!」
…何か軽くないか?
「逆ゥ!!
キミ、今《やけにあっさりしてるな》とか思っただろ!!」
『いやだなあハハハ。
お、思ってませんよぉ。』
「彼にとっても、かなり危ない橋だから。
思想裁判に掛けられて族長の座を追われ兼ねない判断だ。」
『そ、そうなんすかね。』
「…ハア(クソデカ溜息)。
じゃあ、私は長老会議への復命があるから、このまま帰るぞ。」
『あ、はい。
お疲れ様でした。』
「…トビタ君。」
『あ、はい。』
「…娘を頼むぞ。」
『はい!
娘さんは必ず幸せにします!!』
ブラギは馬車の脇でガルドと数秒だけ言葉を交わすと振り返らずに去っていった。
やれやれ、慌ただしい一日だった。
これで俺の社会的地位も確定してしまった訳だ。
まあ、根無し草よりかはマシかな。
よし! これからは心を入れ替えて真剣に生きるぞ!
決意も新たに熊本のソープで汗を流してから府中で寝た。
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