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そして俺達の戦争が始まる。

この数日で劇的に情勢が変わった。

恐らくは合衆国軍内で行われた粛清が関連しているのだろう。

俺達にとっては、事態は好転した。


合衆国軍及びカンサス州庁舎で、明らかに不自然な人事異動が突如始まったのだ。

あくまで憶測だが、前回のキャラバンに対して妨害工作を行ったグループが対象になっていると思われる。



「その論拠がオマエに贈られた勲章か?」



『ええ。

明らかに持ち上げ過ぎですもの。

1種のシグナルでしょう。』



合衆国からの書状では、脚を失ってまで伝令を救援した俺の行動が大袈裟に褒められていた。

これは彼らからのシグナル。

明らかに関係改善を望んでいる。

少なくとも貿易用馬車なら台数制限付きとは言え妨害されずにノースタウンに辿り着けるようになった。

また、交易ルート上にある計4カ所の停車場の使用許可も降りた。



「これで何とか食いつなげる。」



『合衆国側の行商人も急に訪れるようになりましたものね。

どうせスパイなんでしょうけど。』



「だな。

流石にアレは俺でも分かったわ。」



ガルドと2人で山羊を解体しながら今後の身の振り方を考える。

と言っても、もう峠は越えた。

魔界への山脈貫通トンネルも順調だし、キノコ栽培場も完成した。

鉢伏鉱山周辺のモンスターもガルドによってあらかた駆逐された。



『だから、後はヒロヒコ個人の立ち回りなんだよ。』



「俺っすか…」



脚を失ったとは言え、カネも家も女も確保してしまったからな。

後は産まれてくる子供の為に下らないルーチンワークに勤しむだけである。

親父もこんな想いで俺を食わせていたのだろうか…



「良かったな。

もう問題は殆ど残っていないぞ。」



『ええ、後は惰性です。』



精々残った問題は、このバリバリ峡谷を巡って王国と合衆国が是正勧告を出し合ったくらいである。

(半月前のニュースだが氏族はつい先日知った。)

要は双方が領有権を強硬に主張し始めたということ。

地球でもそうなのだが、どちらが折れない限り年内には戦端が開かれる。



『ねぇ、親方。

俺達はどうするんですか?』



「いや、別に…

自分達が住めるのなら、どちらの言い分が通ろうが…」



『どっちが勝つと思います?』



「あ、ゴメン。

人間種同士の戦力ってよく分からない。」



王都で鍛冶屋をやっていた頃のガルドは王国軍を通じて人間種の情報を多少は仕入れていた。

だが、今は何も分からない。

王都時代に得た知見も早速忘れかけている。


これはガルドの落ち度ではなく、ドワーフ全般の通弊。

人間種に対してそこまで興味がない。

(もっとも、人間種にしたってドワーフ氏族の区別すらあまり付いていない。)

だから他人事であるし、その当事者意識の乏しさが人間種を苛立たせる原因なのだろう。

精々、《帝国皇帝は大金持ちだから贈答品を贈って気に入って貰おう》とか、その程度の即物的な感性しか持ち合わせていない。

長老会議は流石にガルドより敏感だが、両国の感情に対しては鈍感である。



「そういう訳でヒロヒコ君。

君が判断しなさい。」



『え?

お義父さん、それはどういう?』



「いや、言葉の通りだよ。

王国と合衆国は近く戦端を開くだろう。

高い確率でこのバルバリ峡谷周辺が戦場になる。」



『なるでしょうねぇ。』



「立ち回り次第では氏族が大打撃を受けるだろう。」



『受けるでしょうねぇ。』



「そうならない方策を考えてくれ。

ニヴルはヒロヒコ君の発案通りに動く。」



『いやいやいや。

そういう大事な事って長老会議で決まるんでしょ?』



「?

いや、君は会議メンバーである私の婿なのだから…

何か問題でも?」



これはドワーフと人間の種族間ギャップというより、政治形態のギャップだな。

今の俺は部族政治を通例とするコミュニティに属している。

婿が舅を手伝うのは当然だし、まさしく婚姻とはその為に行われる。

義父ブラギは長老衆の1人として一族のリソースを活用しているだけなのだ。

なので、氏族にとって俺の知見が有用と感じた瞬間に荷馬車を訪れ丸投げに応じることを命じた。

当然対価など存在しない。

何故なら一族の惣領はブラギなのだから。



『そうですね。

では、一晩考えて。』



「いや、今晩が会議なんだ。

今、方策を提示してくれ。

諸先輩方も君の意見に期待している。」



『え?

今?』



「本当は呼び出したかったんだが…

君の脚がコレだから…

みんな気が引けてるんだよ。」



まあな。

俺だって脚に障碍持ってる奴を呼びつけるのは躊躇うわ。



「じゃあ、今判断してくれ。」



『えっと、じゃあ中立。

双方にニコニコしながら、この土地には意地でも居座る方向で。』



「攻撃して来たらどうする?」



『えっと…

じゃあ…

《不幸にして攻撃を受けた場合

その反対側陣営に加勢して1年間の直接戦闘を敢行する》

と宣言しましょう。』



「ああ、それはいいな。

時限をこちらから区切っているのが素晴らしい。」



『スミマセン、無難なアイデアしか出なくて。』



「いや、何事も無難に越した事はないよ。」



短いやり取りを済ませるとブラギは弟子を率いて再び首都に戻って行った。

とうやらニヴルの全体方針はこの立ち話で決まってしまったらしい。

武装中立不干渉。

まぁ、他に落とし所も思いつかないしな。



『親方…

こんなモンで良かったんですか?』



「まあ仕方ないんじゃね?

氏族で人間種はオマエだけなんだし。

意見には説得力があるよ。


あ、でも人間種同士が戦争する時は、この鉢伏鉱山が戦場になるぞ。」



『え!?

何で?』



「いや、だって大軍同士が騎兵を展開するとすれば他にないし。

平野で視界を確保するには、鉢伏山を先に占領するしかないから…」



ガルドが示した地図。

うーん、確かに両国の前線基地の丁度真ん中あたりにも見える。

そして俺達の鉱山がある鉢伏山。

文字通り、だだっ広い平野にポツンとある小山だ。

軍事知識の無い俺ですら、この小山を獲った側が勝つと容易に理解出来る。

要は山崎合戦における天王山なのだ。

参ったなー。

ここ、俺達の家なんだけどなー。


試しにワープで登ってみる。

あ、ヤバい。

凄く見晴らしがいい。

平野の向こうまで見通せてしまう。


…ヤバいなー。

軍人さんは是が非でもここを抑えたがるだろうなあ…



「なあヒロヒコ。

カネ、何処に隠す?」



『え?

もうその段階っすか?』



「いや、誰がどう見ても戦争は起こるよ。

起こったとしたら、絶対にここが最激戦区になる。」



『なるでしょうねー。』



「そういう事だ。

俺も首都に招集されると思うし、ここは守れないぞ?」



そりゃあ、そうだ。

氏族の一大事となれば、ガルドもブラギもこんな外れの私有鉱山に構っていられないだろう。

取り敢えず、大して嵩張らない希少品なら地球に隠せる。

モノはいいとして、問題は俺達の身柄だな。

戦争が始まったら首都に戻るしかないのだが、ブラギのゲルは息苦しい。

ブラギの家族やお弟子さんが固まってるからな。

俺達は居候として大人しくしてなきゃならないのだ。



「アイツ、ガキの頃からああいう奴なんだよ。

俺と違ってキチキチしてるな。

まあ、役目には向いた性格だよ。」



『俺、親方の家の方がいいっす。』



「まあ、オマエもこっち側だよ。」



取り敢えず、首都周辺の土地の賃借権を買う事に決める。

名目は《氏族貢納用物品製造事業用地》である。

勿論、何を作るのかは決めていないし、何も作らない予感はある。

まあ、府中市場で何か買ってお茶を濁せばいいや。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『ワープ。』



戦争が始まったら地球に行けなくなる可能性があるので今のうちに顔を出しておく。

と言っても、杖を付いた状態は目立ち過ぎるので海外は自粛したい。

差し入れを持ってくれた村上翁の隣でオンライン商談。


ただ、趙が「どうしても見せたい物がある。」と懇願して来たので、泣く泣く香港行きを約束する。

その後、ドバイの橋本コージにも泣きつかれたので、ついでに遊びに行ってやる事とする。



「悪いことじゃないよ。

人間需要のあるうちが花だぞ。」



『まあ、求められる事自体はありがたいと思ってます。

村上さんの為にやっておく仕事はありますか?』



「うーーん。

色々頼もうと思ってはいたんだが…

今のオマエに負担を掛けたくないな。」



『ドバイと香港は顔出すの確定なので、ついでの買い物くらいでしたら。』



「あー、じゃあ24Kお願いしていい?

それもインゴット以外で。

チェーンネックレスが好ましい。」



『了解。

動画通話しながら買いましょうか?』



「スマンな。

甘えさせてくれ。

逆に俺が飛田にしてやれる事ってないか?」



『銀のインゴット…

そして黒胡椒、白砂糖…

巣鴨の倉庫に貯めておいて貰えませんか?』



「…程々にな。」



『先払いしておきますね。』



「ドルで渡されても実感湧かないわー。

ってか、このドル札は絶対に見つかるなよ。

絶対出所を追求されるから。」



『確かに怪しいですよねー。』



そんな雑談をしているうちにコール音が鳴る。



「流石に国際商人は忙しいよなあ(笑)」



『そんなのじゃないっすよ(笑)』



笑いながら表示を見る。

【多摩】

あれ、何だろう?



『あ、もしもし。』



  「もー、お兄さんひどーい♪」



『え?』



  「あー!!

  私のこと忘れてるでしょー!!」



何だ?

女?



  「一緒に飲みに行くって約束したじゃなーい。

  ずっと電源切ってるしさあ。

  結構傷付いてるんだゾ♪」



スピーカを入れているので、遣り取りを聞いている村上翁が真顔でこちらを見ている。

いや、心当たり…



『あ、ピンサロの人。』



  「ひっどーい!」



『あ、ゴメン。』



  「府中住みでしょ?

  家まで遊びに行っていい?」



『え?

いや、丁度上司が遊びに来てるんだよ。』



  「うっわー、社畜ww」



村上にアイコンタクト。



「俺帰ろうか?」



『いやいや、来てくれたばかりじゃないですか。

それにお酒を口にしたばっかりですし、運転やばいですよ。』



  「えー、お酒飲んでるんだー。

  私も飲むー。」



村上翁と急遽筆談。



《女は増やさないって言ったじゃねーか。》



《違うんですよ。

村上さんが連れて行ってくれたピンサロの子ですよ。》



《マジかー。

ゴメン。》



女がギャーギャー騒ぐので、やむなく遊びに来させる。

貴重品やらは、瀬戸内の孤島と巣鴨の倉庫に全て隠す。

参ったなー。

俺、戦争準備中なんだけどな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「反社の家だーww」



第一声がそれである。



『俺はカタギだよ。』



「えー、嘘ーww

カーテンの閉め方とか怪しいww」



まあな。

外から見えないように色々工夫してるからな。



「私ねー。

子供の頃、お父さんがヤクザの雑用させられてたのよ。

家で覚せい剤を小分けにしたりね。」



『なるほど、その雰囲気に似てると。』



「ピンと来ちゃった♪

お兄さん、すっごく悪い人♥」



残念ながら否めないな。



「そっちの人が上司さん?

ダンディって感じー。

どこかで会った事ありますー?」



「コイツと店に一緒に行ったから。」



「あー思い出したwww

ミャーちゃんにチップくれたオジサンだwww」



「よくそんな事覚えてるな。」



「女の子はおカネをくれる人の存在は覚えてるものなのだ。」



マジか。

今度から女にチップは絶対渡すまい。



『まだ、あの店で働いてるの?』



「えー、LINEしたじゃない。

潰れたって。」



『え?

あそこ結構繁盛してたでしょ。』



「オーナーが強盗タタキに入られて死んじゃったんだよ。

ほら、ニュースにもなってるでしょ。

闇バイト集団。」



『ああ、外国から反社が指示を出してるとか。』



「そう、それー。

ドバイとかマニラとかからバイターに指示出してるんだよ。

アタシの友達も受け子して逮捕されたしね。」



ピンサロ嬢のラァラ(本名)は職場が潰れた為、フラフラしているらしい。

多摩地方で働ける風俗店を探しているとのこと。



「カネがさー。

早めに要るのよ。

アタシも闇バイトになろうかな。」



『ちょ!

駄目だって、あんなの!!』



「だって物入りだし。」



『何か欲しいものでもあるのか?』



「えっとねえ。

赤ちゃん堕ろしたいの。」



『え?』



「前カレと別れてから2年以上誰ともヤッてないんだよ?

なのにつわりが来ちゃってさ。

フェラしかしてないのに不思議だと思わんww?」



『…。』



思わず村上翁と顔を合わせる。

多分、俺だわ。

なあ精子(息子)よ、オマエ飛びすぎだろ…



「ねえ、安い医者知らない?

3000円くらいで堕ろしたいのよww」



『…。』



「あーあ。

本当は赤ちゃん欲しいんだけどなー。

でもアタシ1人じゃ絶対に育てれんし。

ヒロヒコ君がパパだったら良かったのにww」



『あのさ、俺…

ちょっと特殊な体質でさ。』



  「よせ飛田。」



「ふぇ?」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ラァラ(本名)は程良く酔ったのか気持ち良さそうにイビキをかいている。



『スミマセン。』



「何について謝ってるんだ?」



『結果に対して。』



「別に謝る必要はないよ。

さっきも少子化のニュースやってただろ?

岸田の奴も国民に呼びかけてたじゃねーか。」



『俺、どうすればいいんですかね?』



「ミミちゃんと遠藤さんだけでいっぱいいっぱいだったもんな。

正妻さんも妊娠中なんだろ?」



『…っすね。』



「もうさー。

纏めて収容するしかないって。」



『…喧嘩とかするんでしょうか?

女ですし。』



「するだろ、女だし。」



『いやー、流石に社会通念上そういう養い方は良くないでしょ。』



「でもさー。

世の中にはヤリ逃げ野郎がわんさか居る訳だろ。

オマエみたいに真面目に考えてくれる奴が相手で女共は幸運だと思うぞ。

甲斐性もあるし。」



『突然の告白いいっすか?』



「えー、オマエの打ち明け話って心臓に悪いから嫌だよー。」



『俺、近く戦争に巻き込まれるっぽいんですよ。』



「正妻さんの話?」



『はい、正妻さんの実家が紛争地帯なんすよ。』



「マジかー。

戦争は良くないなあ。」



『全くです。

いつか戦争のない社会が訪れて欲しいですねえ。』



「何?

俺が後始末するの?」



『必ずしも死ぬと決まってる訳ではないんですが…

現に脚がこうなっちゃった訳ですしね。』



「オマエが死んだら…

俺、一気に老けるわ。」



『申し訳ないです。』



「本妻さん、避難させられないの?」



『父親がエラいさんなんですよ。』



「ああ、前にオマエを殴った人。」



『ええ。

やっぱり役職者の娘が真っ先に逃げるのも…』



「確かに良くはないよな。」



『どう転ぶか誰にも予想が付かない状態で…

俺も気が抜けないんです。』



「いや、ピンサロ嬢孕ませた奴に言われても…

ってか連れてったの俺だからなあ。

責任はあるよなあ。」



『沼袋、遠藤、ラァラ(本名)。

セットで頼みます。』



「マジかー。

この歳で保育園させられるとは思わんかったわー。」



一旦、便所でワープして瀬戸内の孤島へ。

宝箱ごと帰還。



『これ、代金です。』



「…うっわ、宝石箱。」



『ルビー以外のお値打ち宝石を保険として貯めていました。』



「うっわー、ガチのピンクダイヤあるじゃん。」



『ガチ過ぎてジェインさんに買取を断られたんですよ。

持つこと自体が深刻なリスクだって。』



「そんなものを俺に背負わせるなよー。

こんなモン、幾らくらいするの?」



『せいぜい30億くらいです。』



「そんなリスクを背負わせるかね、普通。」



『トンカチで砕いたらワンチャン1億ずつくらいになりませんかね?』



「億越えの換金とか勘弁してくれよー。」



台詞とは裏腹に村上翁は特に動じてない。

まあ、この男ならミルク代くらいには換えてしまうだろう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



結局、ラァラ(本名)も村上翁に丸投げ。

産もうが堕ろそうが自由。

俺が言い終わる前に「産むーww」とのこと。

何はともあれ、金輪際風俗店を用いない事を胸に誓う。

俺にとって妊婦×4は完全にキャパオーバーだ。



『ワープ。』



出費が増えそうなので香港の趙を尋ねる。

死ぬ前に一稼ぎしておきたいからな。



「飛田社長、その脚どうしたの!」



『ハイキング中に転んだんです。』



「そう?

重傷っぽく見えるけど。」



『それより見せたい物って?』



「ああ、西九龍の工房で面白いラピスラズリ製品を作らせてるんです。

是非、報告しておきたいと思ったんです。」



趙と共に高級タクシーで西九龍に向かう。



「西九龍文化地区は、香港の大規模な芸術開発地なんです。

美術館や劇場が固まっていて。

私も芸術家の卵を集めて色々作らせてます。」



『へー、凄いですね。』



趙が自慢気に披露するだけあって、結構立派な工房である。

機材も良いのが揃っている。

ジュエリー研磨の話題になったので中本のインスタを見せて売り込んでおく。



「ほう!

エヴァですか!

これは大きなブランドになりそうですな!」



『もし香港で何か催しをする事があれば、中本にも声を掛けてやって下さい。

趙社長の話も通しておきますので。』



そんな話をしながら工房の奥に進む。

大学生くらいの男女が大きな乳鉢を必死に動かしていて…

手元は限りなく蒼く…



『あ!』



「お分かりになりますか?

世界一高価な顔料ですよ!

勿論、バシール氏の許諾も得てます!」



本当は俺にも許可を取りたかったのだが、音信不通だったので事後承諾にしたとのこと。



「一流の画家に絵を描かせます。

テーマは地球!!」



『おお、壮大ですねえ。』



「バシール氏とも話し合ったのですが、アフガニスタン製のラピスラズリを売り込むには、まだブランディングが足りていないと思うのです。

まずはフラッグシップ的な建築や絵画などを大々的に発表し、それに付随する形でマーケットに提示するべきでしょう。」



結構真面目に考えてくれていたらしい。

この男、本業の金売買よりもアートの方への関心が強いらしい。



「飛田社長。

これは試作品ですが、社長から提供されたラピスラズリを粉末化したものです。」



『あ、綺麗ですね。』



「そうでしょう。

これこそ王侯の蒼ですよ!」



蓋を開けながら趙が俺にラピスラズリ粉末瓶を渡そうとする。

ただ、残念ながらお互いに鈍臭いのか、手渡す瞬間に姿勢が崩れた。



『あ。』



「あ。」



アホみたいな話だが頭からラピスラズリを被ってしまう。

趙は顔面蒼白となり、俺は文字通り蒼く染まる。



『ゴホッ! ゴホッ!』



「も、申し訳ありません!」



『いや、大丈夫です。

補償は後日しますので、本日は一旦中座させて下さい。』



趙がシャワーを勧めてくれるが、美大生が普段使ってる所為かとても汚い。

駄目だ、自宅にワープして浴びよう。



『ホテルで浴びます。

ゴホッ! ゴホッ!

後ほど、必ず連絡しますので!』



タクシー運転手に呆れられながら、西貢街遊楽場(古めかしい公園)の死角に潜り込み府中に飛ぶ。



『ゴホッ! ゴホッ!

早くシャワー浴びなきゃ。

ワープ!!』



だが、俺が着地したのは府中ではなく…

あ、そうか俺の自宅はもうこっちなんだ。



「ヒロヒコ!

どうしたの?

モンスター?」



『エヴァさん。

単なる染料だから安心して。

気持ち悪いからすぐに洗い流したい。』



「分かった。

すぐに用意するね。

あ、それと。

王国と合衆国、斥候部隊同士の交戦が発生したみたい。」



『そっか。

思ったより早かったね。』



「戦争を始めるのは簡単なのよ。

逆が難しいだけで。」



エヴァに手を引かれて鉢伏鉱山の入り口にある浴槽スペースに。

そして丁寧に洗い流して貰う。



「ケホッ、ケホッ。」



『エヴァさん大丈夫?』



「ヒロヒコの髪に溜まってた分を飲み込んじゃった。」



『あ、ゴメン。』



「気にしないで。

さあ、全部洗い流すわよ。」



『ありがとう。』



本当なら温かいシャワーで洗い流し、その後風呂に浸かりたかったのだが…

そう考えるのは、献身してくれているエヴァに対してあまりに失礼だろう。

その後、身体を念入りに乾かしてから地球に戻り趙に謝罪。



「飛田社長、大丈夫でした?」



『大丈夫大丈夫。

こちらこそ中座して申し訳ありませんでした。』



「石粉はお身体に障ります。

どうか慎重に対処なさって下さいね。」



『はっはっは、お気遣い恐縮です。

バシール氏曰く、【天輪クワルナフは王者の宝石】だそうですから。

案外運が向くかも知れませんよー(笑)』



「それなら私も被っておくべきでした(笑)」



『「あっはっはっは!」』



さて。

当初の予定とは異なるが、しばらくは鉢伏鉱山だな。



そして俺達の戦争が始まる。

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粉末ちはいえ、持ち込んじゃった
王国・合衆国軍「エヴァシリーズ…完成していたの⁉︎」 トビタくんの下流域の女性もう全員妊娠し始めて東京の出生率激上げなんじゃ ビットコインボーイは帰国諦めろw
手足を健康に保つ治癒と浄化の力でなんとか良くなると良いけれど。
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