持続可能な社会の実現へ「わくわくする」
東京五輪フェンシング男子エペ団体の金メダリスト、見延和靖(34)=ネクサス=が「折れ剣再生プロジェクト」の発起人となった。持続可能な社会の実現に、競技を通じて寄与しようという活動だ。フェンシングの剣が練習や試合で破損した場合、これまでは廃棄するしかなかったが、折れた剣を回収し、その金属を包丁やナイフ、メダルなどに再活用する計画。競技の認知向上や地域振興につなげることを目指す。見延は「スポーツ界、地域、社会に還元できると思うと、わくわくしている」と語った。(時事通信運動部 山下昭人)
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見延によると、1本3~5万円ほどする剣は消耗品で、長くても半年間、短ければ約1カ月で折れてしまうこともある。練習場には折れた剣が束になってゴミ箱に捨てられている光景がよく見られ、競技を始めたころから「どうにかできないものか」と感じていたという。
新たな取り組みは、スポーツを持続可能な社会実現のツールとして活用しようと昨年設立された「日本スポーツSDGs協会」の企画運営で実施した。日本フェンシング協会の協力を受けて折れた剣を集め、それらを見延の出身地、福井県越前市にある武生特殊鋼材が再利用品へと加工。同社が実際に包丁を試作したところ、硬度などの数値も使用可能な水準に仕上がった。
東京五輪で日本フェンシング史上初となる金メダルを手にし、所属先から報奨金1億円を贈られて話題となった見延は、道具へのこだわりや思い入れが強い選手としても知られている。試合前には、包丁を研ぐ作業で集中を高める。日常生活から試合時の視界を意識しようと、フェンシングのマスクをかぶった時と同じような網の目を施した特製メガネを着用する工夫を凝らしたこともあった。「フェンシングの職人」が目指す姿だ。
金メダルに輝いた後、スポーツが社会の人たちの支えや努力の上に成り立っていると改めて実感したという見延。「折れ剣」を起点に競技環境や社会とのつながりを感じられる今回の取り組みは、「まさに自分にできることではないかと考えた」という。武生特殊鋼材の河野通郎社長も「地元出身の見延選手からの熱い思いを何とか形にしたいと思った。弊社も地域に貢献させていただくチャンス」と全面的に協力した。
剣を自分好みの特徴に変えることも可能な海外のトップ選手とは異なり、国内で剣を生産していない日本の選手はフランスなどから輸入した道具を使用するしかない。「将来的には、自分たちが使用できる剣を作るところまで目指していけたら」と見延。「折れ剣」が地場産業を通してよみがえり、再び選手の手に戻ってくる未来の姿を思い描いた。
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日本スポーツSDGs協会 国連の持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みにスポーツをツールとして活用し、課題解決に貢献しようと2021年6月に一般社団法人として設立。SDGs活動の調査・研究やアスリートへの支援などを行う。折れ剣プロジェクトが協会第1弾の事業。鈴木朋彦代表理事。
見延 和靖(みのべ・かずやす) 福井県出身の34歳。福井・武生商高在学時にフェンシングを始め、法大入学後にエペに専念する。長いリーチとフットワークを生かしたスタイルで頭角を現し、2015年にエペ男子の日本勢で史上初のワールドカップ(W杯)優勝。16年リオデジャネイロ五輪は6位入賞。18~19年シーズンに日本勢初の年間世界ランキング1位の快挙を果たし、21年東京五輪の団体で金メダルを獲得した。個人戦はW杯通算3勝、グランプリ2勝を挙げている。
(2022年2月11日掲載)