井上尚弥と対戦のタパレスは「巧みなディフェンス、爆発力」 元世界王者岩佐亮佑さんに聞く

2023年12月18日11時30分

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 世界ボクシング評議会(WBC)、世界ボクシング機構(WBO)スーパーバンタム級統一王者の井上尚弥(大橋)は、史上2人目の2階級での主要4団体王座統一を懸け、世界ボクシング協会(WBA)、国際ボクシング連盟(IBF)統一王者のマーロン・タパレス(フィリピン)と12月26日に東京・有明アリーナで対戦する。
 タパレスは4月にWBA、IBF統一王者だったムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)を2―1の判定で破り、2本のベルトを奪ったサウスポー。アフマダリエフは、当時の2団体王者で7月に井上に敗れたスティーブン・フルトン(米国)に対抗できる力があると見られていただけに、「番狂わせ」と報じられた。
 タパレスが井上を撃破すれば、フィリピン選手では初の4団体統一王者となる。世界6階級制覇を果たした母国の英雄マニー・パッキャオや、世界5階級を制したノニト・ドネアでさえ成し遂げていない偉業とあって、本人のモチベーションは高い。
 タパレスの戦績は37勝(19KO)3敗。そのうちの1敗は、2019年12月7月にニューヨークで行われたIBF暫定王座決定戦で岩佐亮佑から喫している。
 タパレスの特徴は―。今年6月に現役引退を表明した岩佐さんに聞いた。(時事通信運動部 安岡朋彦) ◆タパレスのインタビューを読む

「技術の選手」

 力強いオーバーハンド、思い切り良く振るフック。豪快なパンチに目が行きがちだが、岩佐さんによると、タパレスは「技術の選手」だという。「タパレスはうまい。ディフェンスが強い。ディフェンスが強い中でも、爆発力とか瞬発力がある」と評する。

 日本での試合経験もあり、大森将平とは2度対戦。15年12月16日には、島津アリーナ京都で行われたWBOバンタム級指名挑戦者決定戦で大森から2回TKO勝ちを収めてる。1回にいきなり強烈な左オーバーハンドを浴びせるなど、このラウンドだけで3度のダウンを奪い、2回にも右フックで倒してレフェリーが試合を止めた。

 こうした豪快な勝ちっぷりからか、タパレスと言えば攻撃力のイメージが強い。井上も4団体王座統一戦が発表された会見で「タパレスの試合はそんなに見たことがなかったが、本当に、ごりごりのファイターという印象を持っていた」と明かしている。ただ、対戦相手としてタパレスを研究すると、そのイメージは変わるそうで「上体の柔らかさ、ディフェンスの良さ、思った以上に技術が高い選手だなという印象を受けた」と続けた。

 岩佐さんも、同じような経験をしている。試合が決まり、タパレスが長いラウンドを戦った試合を分析すると、強打以外の特長が目に止まった。「ファイターではない。技術、ディフェンスの選手」。実際にリングで拳を交えても、その印象は変わらなかった。間合いの取り方がうまく、特に頭部にはなかなか有効打が当たらない。あと少しのところで外されたり、当たってもうまくいなされたり。「感触がない」パンチが続き、つい前のめりになったところで飛んでくるカウンターが厄介だった。

独特のパンチ

 ただ、タパレスに対する印象が変わったとしても、強打への脅威を忘れてはいけない。

 井上は、タパレス戦で自身が圧倒的に優位とされていることを問われると「周りの方の評価以上に、本当に、危機感を感じている。パワーパンチがあるし、独特のタイミングで打ってくる」と語った。研究を怠らず、対策を立てているようだ。

 やはり左オーバーハンドには警戒が必要だろう。岩佐さんも「あれをもらっちゃいけないというのを徹底していた」と言う。フックも独特。一般的には肘を曲げて打つというセオリーがあるが、タパレスは遠くの物をつかむように腕を目いっぱい伸ばして振るため、身長が低くリーチも短い割には射程距離が長い。その軌道も独特で、パンチは見づらく、ワンテンポ遅れたタイミングで飛んでくるという。とはいえ、オーバーハンドやフックを警戒して懐に入れば左アッパーが待っている。「難しかった。結構考えさせられた」。対策に頭をひねった。

 タパレス戦での岩佐さんのプランは後半勝負。特に頭部のディフェンスが巧みなタパレスに対し、プレスをかけ、ボディーを有効に打って消耗させた。

 警戒していた左オーバーハンドはしっかり見えていた。8回に右フックを浴びて肝を冷やす場面もあったが、岩佐さんにとってタパレスは体の小さい下の階級から上がってきた選手。パンチの威力はさほど感じなかったという。狙い通りに後半にはタパレスに疲労の色が見え、パンチ力も落ちていった。「これだったらそんなに怖くない。もらっても大丈夫」。ペースをつかみ、決着は11回。相手が不用意に出した右ジャブに合わせた左のカウンターをあごにたたき込んで倒した。

ハートの強さ

 タパレスに自身の特長を尋ねると、テクニックでもパワーパンチでもなく、左胸を指さし「ハート」と即答した。自他共に認める精神面の強さも持ち合わせている。

 岩佐さんが鮮やかなKO勝ちを挙げた試合の中でも、タパレスがハートの強さを示した場面があった。3回にダウンを奪った時のこと。実際には岩佐さんの頭部が顔面に当たったバッティングだったが、タパレスは体勢が崩れながらも、ひるまずに右を振って応戦した。

 岩佐さんは、こう振り返る。「いつ何時でも隙を狙っているのは本能だろう。本能的なものは、やはり強い。ここだと思ったら、後先考えずに突っ込める気持ちもある。こちらが攻めていても(反撃の機会を)狙っているのがビリビリ伝わってきた。だから怖かった」

 井上は、違った角度からタパレスの精神的な強さを推察している。「ハングリー精神や、この試合を物にしてやろうという気持ちはものすごいと思う。フィリピン選手初の4団体統一というものもある。そういうところをすごくフィリピンの選手から感じることが多い。気が抜けない」

弱点克服し進化

 タパレスは岩佐さんに敗れた後、4戦全勝と勝ち続けている。20年11月の再起戦を白星で飾ると、21年にはトレーナーを代え、直近の試合で無敗の2団体王者アフマダリエフを破った。

 岩佐さんは「強くなったと思う。手数も増えている。僕と戦って、弱点が露呈した。スタミナ面に問題があったり、のらりくらりとした戦い方が良くなかったり。これじゃ勝てないんだというのを自覚して、その弱点を克服してきたのではないか」と分析する。ディフェンスの技術があるだけに「のらりくらり」戦うイメージだったタパレスが、アフマダリエフ戦では声を上げながらパンチを打つ「ガンガンいく」スタイルに変わっていた。ロープ際で攻め込まれても、構えた両拳を手前に引き「もっと打ってこい」と言わんばかりのジェスチャーを見せ、鬼気迫る表情で果敢にパンチを返す。「気合が入ってるな、と感じた」と岩佐さん。課題だったスタミナも改善されているようで、終盤も強いジャブを打っていた。戦いが積極的になったことに加え、かつてのタパレスとは顔つきが違ったことも印象的だった。

「圧倒的に井上選手が上」

 岩佐さんとの戦いを経てレベルアップし、アフマダリエフから金星を挙げたタパレスだが、それでも井上の壁は厚いと岩佐さんは考えている。「難しい。レベルの差はあると思う。体力的にも、パンチ力的にも、スピード的にも、圧倒的に井上選手が上回っている」。9割を超える確率で井上が勝つとみている。

 タパレスが勝つとすれば―。「一瞬の隙を突く、タパレスの動物的な勘というか、きらめきみたいなもの。タパレスの武器はそういうところ。タパレスは、どの体勢からでもパンチを当てるし、ダウンをしながらでも打ち込んでくる。あとは、チャンスだと思ったら後先を考えずに突っ込める爆発力。普通の人間だったら『これ以上いったらスタミナは大丈夫かな』と、ちょっと不安になったりとか、ブレーキがかかったりするところで、タパレスは突っ走れる」

 ボクサーは一度拳を交えた選手に対して特別な感情が生まれるという。現役引退を表明してから半年が経過した岩佐さんは「僕はタパレスを応援する。僕だけは応援するのを許してほしい」と柔らかな表情で語った。果敢にモンスターに挑戦する「戦友」の健闘を陰ながら期待している。 ◆タパレスのインタビューを読む

 岩佐 亮佑(いわさ・りょうすけ) 1989年12月26日生まれの33歳。千葉県柏市出身。中学時代にセレスジムでボクシングを始め、元WBAスーパーフライ級王者のセレス小林に師事。右利きだが、右投げ左打ちの野球選手イチローに憧れて左構えに。千葉・習志野高3年時に高校3冠。08年8月にプロデビューし、17年9月にIBFスーパーバンタム級タイトルマッチで小国以載を6回TKOで破って王座を獲得した。18年8月にTJ・ドヘニー(アイルランド)に0―3の判定で敗れて王座から陥落したが、19年12月にIBF同級暫定王座決定戦でタパレスを破り王座返り咲き。21年4月にIBF正規王者でWBAのタイトルも持つアフマダリエフに敗れた。戦績は28勝(18KO)5敗。本人は現役時代のベストバウトにタパレス戦を挙げる。

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