2025.7.15
先ほど「地面を下に下に掘り下げていく」というお話がありましたが、地下は階層ごとにいろいろな世界が広がっていますよね。それぞれの世界はどのようにつくられていったのでしょうか。
まず階層ごとにテーマを決めて、ボクセルをつかった特徴的な遊びをつくっていきました。さらに、先ほども話に出た「マテリアル」も意識して氷や溶岩の階層があったらどうだろう、とか。あとは、はぎ取った岩でスケボーのようなことができるので、いかにもスケボーをしたくなるような丘の広がる階層をつくってみよう、とか。いずれもゲームの遊びの要素から決めていきました。
新しい階層に着くたびに驚きを感じてほしかったので、遊びの要素とも合わせて、この階層はこういうカラーリングで、こういう特徴をもつ場所で・・・と、階層ごとにバリエーションが出るように、世界全体のバランスを見ながらコンセプトアートに落とし込んでいきました。
コンセプトアートの中には、どこか初代のドンキーコングらしさというか、ニューヨークのブルックリンのような雰囲気が感じられるものもありますね。このあたりのデザインはどのようにして決めているのでしょうか。
もともと宮本さんの中でのドンキーコングの世界は、ニューヨークのイメージなんですよね。
最初に「ドンキーコングとは何ですか?」ということを深堀りしに訊きにいったときも、「初代ドンキーコングの鉄骨とはしごの色は、ニューヨークのネオン街からきてるんだよ」という話がありました。「ドンキーコング」のロゴの「O」にある星マークにも、アメリカのイメージがあったようです。
ですので「スーパードンキーコング」のようなワイルドさと、都会っぽさ、両方のイメージを持っているのが「ドンキーコング」だと思っています。
地下世界は地上とは異文明で、かつバラエティ豊かな世界にしたいと考えていました。「新しいドンキーコングの舞台をつくるぞ!」っていう意気込みも強かったので、シリーズ作を単純に踏襲することは考えずに、階層ごとに個性のある多様な世界になっています。
ただ、宮本さんの初代ドンキーコングのイメージをヒントにして、ネオンカラーを今作の象徴的な色としてアート全般に入れ込んでいったことで、新しさの中にも初代のゲーム画面の雰囲気を感じてもらえるのではないかと思います。ちなみにネオンカラーのピンクと水色は、初代のゲーム画面のハシゴや鉄骨の色をモチーフにしているんですよ。
音楽もそれに合わせて、新しい階層に来たら「こんな世界に来たんだぞ」とプレイヤーを引き込む役割を担えるようにつくっていきました。
このゲームは破壊のゲームではあるんですけど、探索をして長時間同じ階層に留まることもあるので、常にアクションの背中を押していくようなアップテンポの音楽ばかりだと疲れてしまいます。
そのため、パーカッションなどでグルーヴを出しつつも、それぞれの階層の雰囲気をより高める音楽をつくることにしました。
開発時の資料を少し拝見したのですが、サウンドについては、ゲーム全体をとおした「音楽のテンション」を設計されているんですね。
はい、進んでいくお話のテンションや階層ごとのにぎやかさも楽しさに影響するので。
この階層でこれぐらい盛り上げて、次の階層はガツンとこのくらい下げてシリアスで幻想的に・・・という全体のバランスも設計していきました。
そういう音楽の表現の幅の広さというのも、今作の特長のひとつになっているかもしれません。
これまでの「ドンキーコング」でも、ジャングルの陽気な雰囲気をベースにしながら、すごく幻想的な曲や、神秘的な曲も織り交ぜられていたので、そんなメリハリは今作でも引き継いでいると思います。
逆にメリハリをつけてもよいとなると、何でもできてしまいますよね。どんな音楽がいいのかということを探る試行錯誤の中で、これまでのシリーズ作の音楽を活かしてみようといったことは考えなかったのでしょうか。
シリーズ作にも有名なBGMがたくさんありますし、『バナンザ』の中にももちろんアレンジ曲をいろんなところで入れています。ただ、今回はまったく新しい「ドンキーコング」でもあるのでシリーズ作は一回忘れてゼロから考えてみよう、ということにもチャレンジしました。
そこにちょうど、「ドンキーコングが変身する」っていう仕様が入ることになり、変身中の曲を検討する必要が出てきました。
そんな時に変身した姿として、デザイナーからこのシマウマの絵が出てきまして。
これは・・・インパクト強いですね。
こんな感じでドンキーコングが変身するぞ!と(笑)。この絵を見たときも驚いたんですけど、実際にプログラムされて動いているものを見て、「ここまでやるなら、変身中の曲もガラッと変えてしまったほうがいいな」と思いました。
曲自体を変えるというのは実際は結構大きなことで、マリオのゲームでも、スターを取って無敵になるぐらいの大きな変化がないと、曲を変えるまではしないんですね。
でも、変身時間には制限があるということでしたし、変身することでプレイの感覚も大きく変わるので、それなら思い切り、曲を切り替えてみよう! と。曲が始まったらすぐに走り出したくなるようなものを、と考えていたら、ラテンやスパニッシュ調の曲に乗せて情熱的に走るシマウマの姿も思い浮かんだので。
・・・ラテンとシマウマ、何の関係もないんですけどね(笑)。
(笑)。
このシマウマの存在が、音楽がガラッと切り替わっていくきっかけになったとは思いもしませんでした。
そうなんです。それで「お、わりとうまく切り替えができた。ちょっと面白いかも」って思っていたら、元倉さんが・・・。
このタイミングで来たんですね?
・・・「ポリーン※11が出せるんじゃないか?」って(笑)。
(笑)。
※11「ドンキーコング」シリーズや「スーパーマリオ」シリーズに登場するキャラクター。『スーパーマリオ オデッセイ』では、都市の国「ニュードンク・シティ」の市長として登場し、主題歌「Jump Up, Super Star!」を歌っている。『ドンキーコング バナンザ』においては、日本語のキャラクターボイスをイブ優里安が担当。
もともと、ポリーンはプレイヤーが共感しやすい相手として登場させてみてはどうか、という話をしていました。
でも、話が出た段階では、ポリーンの存在をうまく今作ならではの仕様として落とし込めていなかったんです。
ちょうど、この変身の仕様ができてきたので、「ポリーンが歌う」と「バナンザ変身が起こる」ということを結びつければ新しいことができるんじゃないか?と思いまして・・・。「久保さん、動物の歌をつくれませんか?」って。
しかも、「バナンザ変身」の数だけいくつもいる、って(笑)。ただ、一回ちょっと振り切ってみようと、さっきのラテンやスパニッシュ調の曲に歌を入れてみたんです。
そうしたら、元は同じ曲なのに、何だかチームの反応が全然違ってポジティブで。それがすごく印象的でしたね。やっぱり声の力は大きいなと思いました。
あのとき、僕は久保さんに「できる」って言ってもらえるまで帰らないつもりでした(笑)。『オデッセイ』のときも、そうでしたよね。
ポリーンが登場することは、後になってから決まったことだったんですね。
ある程度、破壊で遊びの構築ができてからでした。ストーリーの中で、ドンキーコングのモチベーションはひたすら「バナナが好き」っていうことなんですけど、もうひとつ、プレイヤーが共感できるような要素があればなあ、というのもあって。
ポリーンに登場してもらうことで、彼女自身の成長や、一緒に冒険するドンキーコングの成長をプレイヤーの体験としてつくることができるのではないかと。なにより、歌の力で封印を解いたり、目的地までのルートを示してもらったり、いろいろな遊びの機能を入れることができたのが良かったです。
人間のキャラクターなので、話して説明する役割もできますし、初めて行く地下世界で、ポリーンが自由に感じたことをしゃべってくれるので、プレイヤーも感情移入できるし、一緒に冒険している感じも出ますよね。
今作はストーリーも楽しんでいただけるものになっていると思いますが、そこはやっぱりポリーンの存在が大きかったと思いますね。ドンキーコングだけだと、あそこまで喋るシーンは実現できないですし。
ドンキーコングたちも、敵対するキャラクターのヴォイドカンパニーの面々も、星の中心に行って、願いを叶えてもらうことを目指しています。
同じ地下に向かう動機でも、ドンキーコングはバナナを見つけるため、ポリーンは地上に帰るため、ヴォイドカンパニーは富を独り占めするため、と異なるモチベーションで対比ができています。
同じ「コング族」で敵対しているというところも、『バナンザ』としてユニークなものができた点じゃないかと思います。
ちなみに「おすそわけ通信」※12やJoy-Con 2 のおすそわけで遊ぶときは、1Pはドンキーコングを、2Pはポリーンを操作することになりますが、ポリーンは歌声で敵を攻撃します。
Switch 2 になったことでポリーンをマウス操作することもできるので、ぜひやってみてもらえたらと思います。
※12「ゲームチャットでおすそわけ通信」をする場合は、「Nintendo Switch Online」(有料)への加入が必要です。 ゲームチャットの利用条件については、こちらをご確認ください。
歌声でも大胆な破壊が行えるので、とりあえず破壊しているだけでも楽しめると思います。破壊し続けていれば、いずれ宝箱が出て、バナモンドや化石の地図も手に入ります。一風変わった協力プレイの感覚が味わえるので、ゲームに慣れていない方も気軽に楽しんでみていただけたらと思います。
ありがとうございます。ポリーンの活躍も気になりますし、頭をカラッポにしながらでも楽しめそうで安心しました。それでは最後になりますが、みなさんからひとことずついただけますか。
今作はあらゆるところを破壊して進めることができ、ドンキーコングの周囲の状況がつねに変化するので、サウンドもそれに追従したものになるようこだわっています。
ひらけた場所、洞窟の中など空間の広さを計測して、それに合わせて音量や残響を変化させたり。BGMも一曲の中でいくつかのトラックにわけて、ドンキーコングの周囲の状況や空間の広さで、相対的なバランスを変えたり。ボクセル技術を使ったゲームならではの音の体験になっていると思いますので、そんなところにもぜひ注目しながら遊んでみていただければと思います。
今作のドンキーコングは、表情豊かで豪快なアクションの、動かしていて楽しいドンキーコングになったと思います。ぜひ触って、体験してほしいです。
また、今作の舞台である地下の世界は、これまでのシリーズとは一味違った、美しくもヘンテコな世界なので、ドンキーコングたちと一緒に旅しながら、堪能してもらえればと思います。そして、さえぎるものはすべてブチ壊しちゃってください(笑)。
今作の敵やNPC(ノン・プレイアブル・キャラクター )まで「全部が壊れる」という仕組みは、突き抜けた『バナンザ』らしいポイントじゃないかと思います。
ただ物が壊れるだけじゃなく、そこにマテリアルの存在があることで「固くて壊れない」「ちくちくしている」とか、体験に広がりが出てきます。「この敵、爆弾の体だからはぎ取って利用してやれ!」とか、マテリアルから生まれるいろんな展開にも注目してもらえるといいなと思います。
今作ではゲームの進行で「ここは無視しても大丈夫」「ここのお話はとばしてもなんとかなる」というところにかなり幅をもたせています。
意図しない形でゲームが進んでしまうことを開発用語で「シーケンスブレイク」と呼んでいて、通常のゲーム開発だとそうならないようにあらかじめ制限することが多いんです。でも、今作はなにより破壊がテーマのゲームなので、とにかく自由に遊んでほしくて。本当は制限してしまうほうが、つくる側としてはラクなんですけどね(笑)。ぜひいろいろ試してみてください。
ビデオゲームの特長は、プレイヤーがインタラクションを起こせることだと思っています。今までの3Dマリオでも、そのインタラクションで遊びをつくってきました。今回、これまでにないくらいのインタラクションを、この『バナンザ』で実現できたと思います。何回遊んでも直感的に遊ぶことができる手触りにこだわったタイトルです。
初代『ドンキーコング』がなければ、任天堂は今の形とは少し違っていたかもしれない、と思って大事につくってきました。ドンキーコングというキャラクターは今までのシリーズの積み重ねに加え、映画、テーマパークと新しい舞台でも挑戦を続けています。
今回、いろいろな新しいことに挑戦した『ドンキーコング バナンザ』、自信を持ってお届けできるものになりましたので、ぜひ遊んでみてください!この先も、お客さまに楽しんでいただける「ドンキーコング」をお届けできたらと思っています。
新しいドンキーコングが、もちろんポリーンと一緒に、大地も敵も豪快に破壊していく物語が楽しみです。ありがとうございました。