本来の小売を実践するための新会社 社会に自分の態度を示す
「これからは、大企業をさらに成長させるだけでなく、新たなチャレンジを通じて小売業界への恩返しがしたいと考えています。まだ50代、プレーヤーとしてピッチに立っていたいのです」
2024年6月6日に新会社・Super Normalを設立したばかりの奥谷氏は、そう語る。「スーパーノーマル」とは、20年以上前、奥谷氏自身が良品計画時代に世界のプロダクトデザイナーとのモノづくりプロジェクト「World MUJI」の中で発した言葉だ。華美な装飾を施さず、「質の高い普通」を目指すデザインへの称賛が込められている。
「自ら発したものの、数年前まで忘れていました。思い出したきっかけは、コロナ禍における『ニューノーマル』の浸透です。2000年前後に始まったインターネットの普及や世界金融危機などを経て、資本主義から持続可能な社会へ向かう時代に生まれたこの概念には、新しい常識や価値観が社会に定着するという意味があります。改めて普通の大切さに気づかせてくれた言葉です」
現在、奥谷氏は事業会社での経験から得た知見を生かし、顧客時間で顧客体験設計の支援なども手掛けている。その中で新ビジネスを始めた理由について「もちろん、これまでに携わってきた仕事も楽しいが、より成長するためには、失敗しても良いから自らもコミットする事業づくり、ものづくりがしたかった」と語る。
同氏が新たなものづくりを行う上で重視するのが、「持続可能性」だ。具体的には、商売の基本である「三方良し」を体現するために、D2Cブランドの運営やものづくり・販売支援といった小売事業を展開する。それによって得られた利益の一部を、地方の文化財や中小企業、地球環境保護のために活用するという。
「通常は、事業規模が大きくなるにつれて売上至上主義となります。そうすると、売上を上げるために自社ブランドを開発するなど、小売視点でのものづくりが始まります。しかし、私は良い商品を正しく見つけて仕入れて売るのが本来の小売業だと思っています」
こうした考え方や態度を社会に示すのも、奥谷氏が新会社で果たしたい目的の一つだ。
「事業規模が一定のレベルまで成長してから、社会貢献を目指す企業は比較的多いです。一方で、立ち上げ時から三方良しをビジネスの根幹に組み込んでいるケースは、残念ながら日本では少ないと感じています。
今まで商売の世界で生きてきた人間として、オンラインチャネルを活用しながら本来あるべき小売業を行う。つまり、私が考える『スーパーノーマル』は、『質の高い普通』を生み出すデザインへの称賛から、これからの小売業が目指すべき世界観へつながっています。ある意味、企業やブランドというよりも商いを通した“活動”に近いと思っています」