【インタビュー】『Apex Legends』の開発者たちに聞いた──「バグやチート対策」「バランス調整」


これも「熱狂的なファン」が多い証拠か。

『Apex Legends』(以下『Apex』)のメタ環境・プレイ環境については、常日頃から熱心なファンたちが、様々な“フィードバック”をSNSで吐露している。

以前から、筆者はこれらのファンの声について「開発者はどう考えているのか?」を知りたいと思っていたが、ついにそのチャンスが訪れた。

札幌で開催の世界大会「Apex Legends Global Series Year 4: 2024 Championship」※1(以下、ALGS)で、開発者にインタビューできると知った。

※1  2025年1月29日から2月2日にかけて、北海道札幌市の大和ハウス プレミストドームにて開催された、バトルロイヤルゲーム『Apex Legends(以下、『Apex』)』の公式世界大会。ALGS史上最大規模となり、5日間で3万人を超える動員を記録した。

この機会に「バグやチート対策」「eスポーツとしてのバランス調整」など、気になることを聞いてみた。開発者たちは「ファンの声」にどれだけ耳を傾けているのだろうか。

開発者紹介

──本日はよろしくお願いします。まずは皆さんの担当分野について教えてください。

John Larson氏(以下、Larson):現在、Legends teamの一員として、サポートクラスのキャラクターの調整を担当しています。今回のALGSでもジブラルタルやニューキャッスルのピック率に表れているように、競技シーンにも大きく影響を与える重要な役割です。

また、シーズン20で実装した、レジェンドアップグレードシステムの開発も手がけました。

『Apex』には、シーズン7の頃から参画しています。当初はライブバランスデザイナーとして、パッチのホットフィックスや競技シーンでのメタ調整を担当し、その後、武器バランスの調整なども経験してきました。


▲レジェンドデザイナー John Larson氏。

Eric Canavese氏(以下、Canavese):私は13年以上のゲーム開発経験があり、シーズン1〜2の頃から約6年間『Apex』の開発に携わっています。

現在はリードBR(バトルロイヤル)デザイナーとして、バトルロイヤルのコアシステムや武器メタ、そしてバランス調整の指針となるデザイン哲学を担当しています。


▲リードBRデザイナー Eric Canavese氏。

Josh Mohan氏(以下、Mohan):私はRespawn社に入社して4年になります。『Apex』のローンチ直後に参画し、これまでナラティブからシステムデザインまで、様々な側面に携わってきました。

現在はバトルロイヤルのアソシエイトデザインディレクターとして、レジェンド、マップ、武器とシステムの3つのデザインチームを統括しています。

ゲーム業界では、アドベンチャーゲームやオープンワールド、ナラティブ重視のゲームなど、様々なジャンルの開発経験があります。その経験を活かして、メカニクスやバランスだけでなく、ファンタジーやストーリー、感情的な要素も大切にした開発を心がけています。


▲アソシエイト・デザイン・ディレクター Josh Mohan氏。

競合タイトルとの差別化について

──6周年を迎え、今後さらなる成長が期待される『Apex』ですが、今後他の競合タイトルとどのように差別化を図っていく予定ですか?

Larson氏:私たちは常に、プレイヤーの期待を超えるような体験を提供し続けることを目指しています。そのためには、単に既存のコンテンツを改善するだけでなく、これまでの『Apex』の枠を超えるような挑戦も必要だと考えています。

特に今年は、より積極的にゲーム体験の刷新に取り組んでいく予定です。もちろん、その過程では様々な課題に直面することもあるでしょう。しかし、世界中のプレイヤーの皆さんと共に、『Apex』をより良いゲームへと進化させていけることを、チーム一同、心から楽しみにしています。

Mohan氏:『Apex』は今後、最高の競争的シューターゲームを目指し、他のタイトルとの差別化を図っていきます。

そのために、これまでコアとなる要素に変更を加え、さらなるゲーム体験の向上に努めてきました。これらの変更の本質は、競技の結果がランダム性に左右されることを減らすことです。これは競争的、戦略的にプレイしたいプレイヤーのフラストレーションを軽減することにつながります。

ランダム性を完全になくすことは目指していませんが、プレイヤーにフラストレーションを与えるようなランダム性は排除したいと考えています。

例えば、ゲーム開始時の運の要素で、ゲームが始まる前にほとんど決着がついてしまうことがありますが、そういった種類のランダム性を排除したいと考えています。ただし、一定のランダム性は各マッチを動的なものにするために必要です。全てのマッチが同じようになってしまうのも極端すぎるので、そのバランスを取ることが重要です。

こういった改善は徐々に行われてきたので、過去5年間であまり変わっていないように思われるかもしれませんが、ローンチロイヤル*2 をプレイすると、現在のバージョンと比較できるため、違いがお分かりいただけるかと思います。

私たちは今後もバトルロイヤルの形式を変更し、最良のバージョンを探求し続けていく予定です。

※2 『Apex』リリース当初の仕様でバトルロイヤルが楽しめる期間限定モード。マップは初期のキングスキャニオンで、レイスやブラッドハウンドなど、計8人のレジェンドのみが使用可能。

バランス調整やチート対策について

──多くの『Apex』ファンが気になっているであろう、競技シーンを含めた今後のゲームバランスの方向性やチート対策についても教えてください。

Mohan氏:今年はアンチチートに特に力を入れており、最近大きな進展がありました。

例えば、最近『Apex』のLinux*3 プラットフォームを禁止しました。残念ながら一部のLinuxプレイヤーに影響が出ましたが、そもそもLinuxを使用していた大多数の人々は、アンチチートシステムを回避するために使用していたようです。

また、ランクマッチでのチーミング(プレイヤー同士の共謀)に関する対策も実施予定です。すでに実装した対策により、チーミングは大幅に減少しました。同様に、プレイヤーの行動を検知することでボット対策も行っています。

今後は、ゲームの合理化や簡素化についても検討していきます。過去5年間で多くのシステムを追加してきましたが、プレイヤーに過度な負担をかけないよう注意しなくてはならないと意識しています。

一方、コアとなる移動システムと射撃システムは維持すべき点として捉えています。これらは『Apex』を特別なものにしている要素であり、この基盤を維持しながら発展させていきたいと考えています。

※3 フィンランドのヘルシンキ大学に通っていたリーナス・トーバルズ氏によって1991年に開発されたオープンソースのオペレーティングシステム。

ファンからのフィードバックが「良い循環」を生み出す

──『Apex』の今後の展開について、どのような展望をお持ちでしょうか。

Canavese氏:私たちがファンの方々から受け取る情熱を、必ずゲームの形で還元していきたいと考えています。それは単なるコンテンツの追加だけでなく、プレイヤーの皆さんが誇りに思えるような質の高いゲーム体験の提供です。

実際に現地のイベントで、プレイヤーの方々と直接対話できる機会は非常に貴重です。リモートでの開発では感じることのできない、ゲームが持つ影響力を実感できます。

このようなプレイヤーと私たちの間での、フィードバックの循環が、より良いゲームを作るうえでの原動力となります。

Mohan氏:『Apex』の目標は、最高の競技シューティングゲームになることです。私たちには、それを実現するための独自の要素として、最高クラスの移動システムや、武器ごとの特性を活かした射撃メカニクスがすでにあります。これらの基本システムをベースに、シーズン20で導入したレジェンドアップグレードシステムのような、さらなるゲーム体験を向上させる施策を準備しています。

来年は各シーズン間でも、武器メタの調整やレジェンドの能力バランスなど、ゲームプレイに大きな影響を与える変更を積極的に実施していく予定です。例えば、次のシーズンで導入予定の「アーセナル*4」システムは、プレイヤーが練習したい武器を選んで使用できるようにすることで、ゲーム開始時の運要素を減らし、より戦略的な展開を可能にします。

また、競技シーンやコミュニティからのフィードバックに対して、パッチやホットフィックスによって素早く対応していきます。来年のアップデートでは、このような具体的な改善を通じて、よりバランスの取れた競技性の高いゲーム体験を提供していきますので、ぜひ期待していてください。

※4 シーズン24から追加された武器や弾薬が取り揃えられたワンストップショップ。マップ各所に配置された「アーセナルステーション」で欲しい武器や弾薬を作れるようになる。

ちなみに札幌でのALGSどうでしたか?

──本日はありがとうございました。ちなみに今回の札幌でのALGSの盛り上がりをご覧になって、どのような感想をお持ちでしょうか。

Larson氏:今回のイベントはEAとして過去最大規模のLANイベントとなりましたが、それ以上に印象的だったのは、日本における『Apex』の浸透度です。私が経験した中で、これほどまでにゲームへの情熱を目の当たりにしたことはありません。そのため、今後も定期的に日本でのイベント開催を実現できればと考えています。

日本のプレイヤーの方々の情熱は、開発チーム全体の大きな原動力となっています。私たちがここで体験した熱量を持ち帰り、チームメンバーと共有することで、より良いゲーム作りへのモチベーションが高まることと思います。

そして、今後ファンの皆様にもっと恩返しがしたいです。

Canavese氏:日本市場での反響には大変驚かされました。

在宅で開発作業をしていると、画面の向こう側にいるプレイヤーのことを忘れがちになります。しかし、実際に世界中のプレイヤーと出会えるイベントに参加すると、私たちの作るゲームが持つ影響力を実感できます。

タクシーの運転手さんが『Apex』プレイヤーだったり、レストランのウエイターさんと写真を撮らせていただいたり、ライブハウスで出会ったベーシストの方がブラッドハウンドのプレイヤーだったり。

至る所で『Apex』が人々の生活に溶け込んでいることを目の当たりにし、その規模に感動しています。

Mohan氏:今回のALGSは過去最大規模であり、日本のコミュニティの『Apex』と競技eスポーツに対する情熱を示していると思います。今日ここで多くのファン、選手、様々な方々に出会う機会がありましたが、前向きな雰囲気に圧倒されました。

皆さんが『Apex』への感謝を示してくださりましたが、私も今日ここにいる全てのプレイヤーに大きな感謝の気持ちを持っています。


[取材・文 :合同会社KijiLife(Ogawa Shota)]

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