病身舞
病身舞(びょうしんまい、ピョンシンチュム、병신춤)(病身と別神(ビョルシン、별신)は違う)は、韓国慶尚南道密陽地方発祥の伝統舞踊で、ハンセン病患者、小人、身体障害者、背むしなど病身[1][2]の人々の様相を真似たものである。旧暦の7月中旬を作男の日(モスムナル、머슴날)と定め、作男達をもてなして、様々な踊りと土俗的な遊びをする。 その踊りの中に身体障害者や病人をまねた滑稽な踊りである「病身舞」がある。 タルチュム(仮面戯)で踊る場合もある[3]。
概要
[編集]大韓民国慶尚南道密陽に伝わる、死者の霊との交流を模した伝統的仮面戯では、「霊が入っている身体=病身」として表現される[4]。
李氏朝鮮中期以来伝わり、主に陰暦正月15日、端午、秋夕などの伝統祭日において、橋の下、森の中などで行われた。人数は10-15人くらいで、それぞれ俗に病身と呼ばれる障害を持つ二人ずつペアになっている夫婦として登場し、トゥンソ(朝鮮の笛)などの基本楽器以外に色々な気鳴楽器が用いられた。
時代が下るにつれ、李氏朝鮮の支配階級である両班や、両班と平民の中間管理職であった衙前(アジョン)などの下級官吏に対する風刺や非難の意味を込めたパロディーの側面も持つようになったとも言われている。日韓併合とともに、望ましくない風習であるとして集会取締令の対象の一つとして禁止され、日本の敗戦後に復活する。歌詞もあったというが、現在では伝わっていない。
女流演劇家の一人である孔玉振(コン オクチン、1931年 - 2012年 )が、一人舞台で病身舞を演じてから、マスコミを通じて韓国中に知られることとなり、大衆娯楽化した。
韓国国内から身体障害者に対する差別的な踊りではないかという批判がある[5]。
メディア・作品
[編集]- NHK人間講座-大好きな韓国-第四回「街角の言語」で、伝統の「病身舞」が紹介された。
- 李炳逸(イ ビョンイル)監督 兼 製作、イ ヨンジン 原作・脚本『嫁入りの日』(韓国映画)1956年 東亜映画社
悪口としての『病身』
[編集]朝鮮語で병신(病身)は「体に(身体・精神・知的)障害がある人」を意味するが、老若男女が日常に「ただの馬鹿、愚か者、間抜け」いう意味で使用する。障害者をそのまま병신(病身)と呼ぶこともあるが、基本的には相手を上位の立場・目線から用いる。
脚注
[編集]- ^ 身体の一部が不自由な身体障害者を指す言葉。しかし、悪口として、動作が鈍い、愚鈍、のろま、ぼんくら、うすのろの意味で使われる韓国の卑語。
- ^ “使ってはいけない韓国語の悪口 |”. www.konest.com. 2020年5月21日閲覧。
- ^ “民団新聞”. www.mindan.org. 2020年5月21日閲覧。
- ^ 野村伸一「朝鮮文化史における死者霊の供養」『慶應義塾大学日吉紀要. 言語・文化・コミュニケーション』第28巻、慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会、2002年4月、127-211頁、ISSN 09117229、CRID 1050845762324037248。
- ^ 이학준 (2001年2月23日). “‘병신춤 개그’ 장애인 비하냐 아니냐” (朝鮮語). 国民日報 2007年11月25日閲覧。
参考文献
[編集]- 黒田勝弘著『ボクが韓国離れできないわけ 愉快な韓国生活!!』(晩聲社、2008年、ISBN 978-4-89188-342-3)
- 呉晴著『朝鮮の年中行事』(朝鮮総督府、1931年)
- 『朝鮮』2月号(朝鮮総督府、1931年)
- 李杜鉉著『朝鮮芸能史』(東京大学出版会(東洋叢書)、1990年、ISBN 4130130366)
- 田耕旭, 野村伸一, 李美江『韓国仮面劇 : その歴史と原理』法政大学出版局〈韓国の学術と文化〉、2004年。ISBN 4588080180。 NCID BA69463360。CRID 1130282269800280704 。
- 徐淵昊著『韓國近代戯曲史研究』(高麗大學校民族文化研究所)(ハングル)
- 野村伸一「朝鮮の仮面戯1 : 死霊供養の戯として」『慶應義塾大学日吉紀要. 言語・文化・コミュニケーション』第31巻、慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会、2003年、25-66頁、ISSN 09117229、CRID 1050001337393901184。
- 野村伸一「朝鮮の仮面戯2 : 死霊供養の戯として 承前」『慶應義塾大学日吉紀要. 言語・文化・コミュニケーション』第32巻、慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会、2004年、73-184頁、ISSN 09117229、CRID 1050001337398355072。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 다시 무대선 공옥진(ハングル)また舞台に立つ孔玉振
- ^ “駐日韓国文化院 Korean Cultural Center”. www.koreanculture.jp. 2020年5月21日閲覧。