コンテンツにスキップ

こぎつね座

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
こぎつね座
Vulpecula
Vulpecula
属格 Vulpeculae
略符 Vul
発音 発音: [vʌlˈpɛkjʊlə]、属格:/vʌlˈpɛkjʊliː/
象徴 キツネ
概略位置:赤経  18h 57m 06.5s -  21h 30m 38.9s[1]
概略位置:赤緯 +19.40° - +29.49°[1]
広さ 268平方度[2]55位
バイエル符号/
フラムスティード番号
を持つ恒星数
33
3.0等より明るい恒星数 0
最輝星 α Vul(4.45
メシエ天体 1
隣接する星座 はくちょう座
こと座
ヘルクレス座
や座
いるか座
ペガスス座
テンプレートを表示

こぎつね座(こぎつねざ、Vulpecula)は、現代の88星座の1つ。17世紀後半に考案された新しい星座で、キツネモチーフとされている[1][3]こと座ベガはくちょう座デネブわし座アルタイルからなる「夏の大三角」に囲まれるように位置しているが、4等星より明るい星がなく目立たない星座である。

主な天体

[編集]

この星座には4等より明るい星はないが、亜鈴状星雲コートハンガーなどアマチュア天文家の観測対象となる星雲星団がある。

恒星

[編集]

2022年4月現在、国際天文学連合 (IAU) によって3個の恒星に固有名が認証されている[4]

星団・星雲・銀河

[編集]
散開星団コートハンガー。
レモン山天文台の32インチ反射望遠鏡で撮影された惑星状星雲M27。
  • コリンダー399や座との境界近くに位置する散開星団。洋服掛けのような形に星が並んでいることから「コートハンガー (Coathanger[7])」や「AL SUFI's Cluster」「Brocchi's Cluster」の別名でも知られる[7]。肉眼でも見ることができる。
  • NGC 6885:散開星団。
  • M27:「亜鈴状星雲」や「ダンベル星雲」の別名で知られる惑星状星雲。双眼鏡でも満月の4分の1の大きさの楕円形に見える。その名の通りの鉄アレイ状に見るには、大口径の望遠鏡が必要である。

その他

[編集]

由来と歴史

[編集]
ヨハン・ボーデの『ウラノグラフィア』に描かれた Vulpecula と Anser。

この星座は、17世紀末にポーランドの天文学者ヨハネス・ヘヴェリウスによって考案された[3]。初出は、ヘヴェリウスの死後の1690年に妻Catherina Elisabetha Koopman Hevelius によって刊行された著書『Prodromus Astronomiae』に収められた星図『Firmamentum Sobiescianum』と1687年の日付が残る星表『Catalogus Stellarum』である。ただし、『Firmamentum Sobiescianum』ではAnser(ガチョウ)と Vulpecula(キツネ)という2つの独立した星座として扱われた[3][9]が、『Catalogus Stellarum』では Vulpecula cum Ansere(ガチョウをくわえたキツネ)という1つの星座とされるなど、星座とその名称に混乱が見られた[3]

1729年に刊行されたジョン・フラムスティードの星図『Atlas Coelestis』では Vulpec & Anser とされた[3]1845年フランシス・ベイリーが刊行した『British Association Catalogue』では、最輝星にギリシア文字のαが振られ、星座名は短縮されて Vulpecula とされた[3]

1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Vulpecula、略称は Vul と正式に定められた[10]。新しい星座のため星座にまつわる神話や伝承はない。

呼称と方言

[編集]

日本では、1879年(明治12年)にノーマン・ロッキャーの著書『Elements of Astronomy』を訳した『洛氏天文学』が刊行された際に「ウェルペキュラエトアンセル」と紹介された[11]。その後明治末期には「小狐」という訳語が充てられていたことが、1910年(明治43年)2月刊行の日本天文学会の会報『天文月報』第2巻11号に掲載された「星座名」という記事でうかがい知ることができる[12]。この訳名は、1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも「小狐(こきつね)」として引き継がれ[13]、1943年(昭和18年)刊行の第19冊まで継続して使われた[14]1944年(昭和19年)に天文学用語が改訂されると、その際に読みが「こぎつね」と改められた[15]。そして、戦後の1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[16]とした際に、Vulpecula の日本語の学名は「こぎつね」と定まり[17]、これ以降は「こぎつね」という学名が継続して用いられている。

1928年(昭和3年)に天文同好会[注 1]の編集により新光社から刊行された『天文年鑑』の第1号では「きつね」という呼称が使われた[18]。天文年鑑の編集に携わった天文同好会の山本一清は「最も妥当だと信ずる星座の名の一覧表」でも Vulpecula に対応する訳名を「きつね」としている[19]。また、1931年(昭和6年)3月に刊行された『天文年鑑』第4号では、星座名は Vulpecula cum Ansere、訳名は「小狐と鵞鳥」とされた[20]。以降、天文年鑑ではこの星座名と訳名が継続して用いられた[21]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ 現在の東亜天文学会

出典

[編集]
  1. ^ a b c The Constellations”. 国際天文学連合. 2023年1月16日閲覧。
  2. ^ 星座名・星座略符一覧(面積順)”. 国立天文台(NAOJ). 2023年1月1日閲覧。
  3. ^ a b c d e f Ridpath, Ian. “Vulpecula”. Star Tales. 2023年1月17日閲覧。
  4. ^ a b Mamajek, Eric E. (2022年4月4日). “IAU Catalog of Star Names (IAU-CSN)”. 国際天文学連合. 2023年1月17日閲覧。
  5. ^ "alp Vul". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月17日閲覧
  6. ^ 『ステラナビゲータ11』(11.0i)AstroArts。 
  7. ^ a b "Cl Collinder 399". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月17日閲覧
  8. ^ Hewish, A.; Bell, S. J.; Pilkington, J. D. H.; Scott, P. F.; Collins, R. A. (1968). “Observation of a Rapidly Pulsating Radio Source”. Nature (Springer Science and Business Media LLC) 217 (5130): 709-713. Bibcode1968Natur.217..709H. doi:10.1038/217709a0. ISSN 0028-0836. 
  9. ^ Ridpath, Ian. “Hevelius's depiction of Vulpecula”. Star Tales. 2023年1月17日閲覧。
  10. ^ Ridpath, Ian. “The IAU list of the 88 constellations and their abbreviations”. Star Tales. 2023年1月16日閲覧。
  11. ^ ジェー、ノルマン、ロックヤー 著、木村一歩内田正雄 編『洛氏天文学 上冊文部省、1879年3月、59頁https://dl.ndl.go.jp/pid/831055/1/37 
  12. ^ 星座名」『天文月報』第2巻第11号、1910年2月、11頁、ISSN 0374-2466 
  13. ^ 東京天文台 編『理科年表 第1冊丸善、1925年、61-64頁https://dl.ndl.go.jp/pid/977669/1/39 
  14. ^ 東京天文台 編『理科年表 第19冊丸善、1943年、B22-B23頁https://dl.ndl.go.jp/pid/1244806/1/48 
  15. ^ 学術研究会議 編「星座名」『天文術語集』1944年1月、10頁。doi:10.11501/1124236https://dl.ndl.go.jp/pid/1124236/1/9 
  16. ^ 『文部省学術用語集天文学編(増訂版)』(第1刷)日本学術振興会、1994年11月15日、316頁。ISBN 4-8181-9404-2 
  17. ^ 星座名」『天文月報』第45巻第10号、1952年10月、158頁、ISSN 0374-2466 
  18. ^ 天文同好会 編『天文年鑑』1号、新光社、1928年4月28日、4頁。doi:10.11501/1138361https://dl.ndl.go.jp/pid/1138361/1/7 
  19. ^ 山本一清天文用語に關する私見と主張 (1)」『天界』第14巻第162号、東亜天文学会、1934年3月、212-214頁、doi:10.11501/3219877ISSN 0287-6906 
  20. ^ 天文同好会 編『天文年鑑』4号、新光社、1931年3月30日、8頁。doi:10.11501/1138410https://dl.ndl.go.jp/pid/1138410/1/12 
  21. ^ 天文同好会 編『天文年鑑』10号、恒星社、1937年3月22日、8頁。doi:10.11501/1114748https://dl.ndl.go.jp/pid/1114748/1/12 

座標: 星図 20h 00m 00s, +25° 00′ 00″