つる (落語)
元は「絵根問」という噺の最後の部分だったが、4代目桂米團治が独立させてまとめたとされる。のちにガリ版印刷の『桂米團治口述 上方落語台本』[1]に記し、若手落語家の稽古本となった。前座噺として扱われることが多い。江戸落語では桂歌丸の口演が有名。
あらすじ
[編集]上方版
[編集]散髪屋で物知りの男の噂を聞きつけ、問答に来たアホの男。「南京虫は脚気になるか」「トンボはめばちこ(物貰い)を患うか」などを聞くが、常識的なことを聞けとたしなめられる。 それではと、散髪屋にあった掛軸の絵の鶴について尋ねると、昔は「首長鳥」と呼んでいたと聞かされ、重ねてなぜその後「つる」と呼ぶようになったかを尋ねる。
そこで、鶴が唐土(もろこし)から飛んで来た際、「雄が『つー』っと」、「雌が『るー』っと」飛んで来たために「つる」という名前になったと教えられる。この男が実は嘘だと言うのも聞かず仕舞いに、今仕入れたばかりの知識を町内に披露しに行くアホの男。
訪れた先で、いざ披露。「つる」の由来について半ば強引に教えるも、「雄が『つるー』っと」と言ってしまったために困り果てる。 一旦物知りの男のもとへ戻り、再びレクチャーしてもらう。 今度は「雄が『つー』っと来て『る』と止まった」と言ってしまったため、苦し紛れに「雌が黙って飛んで来よった」。
江戸版
[編集]暇つぶしに隠居の所へ来た八五郎。話をしていると、そのうち話題が散髪屋の床の間にあった鶴の掛け軸の事になり、八五郎は「『鶴は日本の名鳥だ』って奴がいたけど、ありゃ何で名鳥なんですか?」と質問。すると、隠居は「日本の名木に『松』がある。松に鶴は良く似合う」と説明した。つい花札を連想しながらも、何とか話を理解した八五郎が、次に質問したのが鶴の由来。
すると隠居は、鶴が唐土から飛んで来た際、「雄が『つー』っと」、「雌が『るー』っと」飛んで来たために「つる」という名前になったと説明。それをジョークだと見切った八五郎は、その話を他のところで披露し、引っかかった相手を笑ってやろうと隠居の所を飛び出した。
しかし、余りにも慌てていたせいで話の内容を忘れてしまい失敗。隠居の所へ戻り、もう一度話をしてもらって再び臨むがまた失敗してしまう。サゲは八五郎が泣いて終わる。結末は同じ。 サゲの泣き方を自然に演じられるかどうかが噺のポイントになる。
解説
[編集]・この噺は「物知りから教わった話を愚か者がマネして失敗する」タイプの典型例である。演者によっては、愚か者に捕まる町人が明らかに話を聴けるような状況ではないシチュエーションにする場合がある。例えば、「急用で急いでいる時に呼び止められる」、「模様替え失敗でタンスに押し潰されそうになっている」などがあり、この場合、愚か者の「今暇か?」という能天気なノリと町人の切羽詰まったノリとの温度差が笑いを生むようになる。 言い立ての部分はリズミカルに言わなければならない
・桂米朝は師である四代目米團治から、この噺は落語のエッセンスと話術の技法とがすべて凝縮されており、うまくやればどの噺も大抵こなせる。大ネタとよりもこんな簡単なネタほどむつかしいと教えられた。
結末は同じだが、この噺には物知りが教えた「珍説」を、主人公が頭から信じ込んで失敗するパターンと、ジョークだと理解した上で使おうとするパターンの二つがあり、どちらを使うかによって話の雰囲気はだいぶ変わってくる。
また、ウルトラマンフリークの柳家喬太郎によって、鶴の名の由来を「なぜ帰ってきたウルトラマンがウルトラマンジャックと呼ばれるようになったか」へ、下げを「なぜウルトラマンはシュワッチと叫んで飛ぶか」へアレンジした、曰く「やってる方だけが楽しい落語」が「柳家喬太郎・春風亭一之輔二人会」にて上演された。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ 桂米團治『四世桂米團治 寄席随筆』桂米朝 [編]、岩波書店、2007年。ISBN 9784000254588。